ビリーと私のオーストラリアDiary

Kaede

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人とのつながり

ダムの決壊

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日曜日、ビリーは仕事で、私は掃除や洗濯の家事を済ませた後で一日中翻訳の仕事をした。
なんとなくダルい1日で、前の日みたいに、急に立ったりするとめまいがあって調子が悪い1日だった。疲れがでてるのかな、って思ったけど仕事を終わらせないといけなかったから頑張った。
その日の夕食は前の日の牛肉の残りを使ったビーフシチューにした。市場ではバゲットも買っていて、涼しくなってきたこの季節にはぴったりだと思ったから。
ビリーは夕方に帰ってくると「明日から朝はトラムで通勤することにした。」って言った。
「本当?大丈夫なの?」私は聞いた。
「うんーー昨日カエと出かけてちょっと自信がついたっていうか、いつまでもアダムに甘えてるわけにもいかないって思って。筋力もつけたいし。それにほら、。」ビリーは笑った。
「まあね。無理しないでね。」
「カエは?体調はどう?なんかーー顔色が悪い気がする。」
「うーん、なんかダルいっていうか、立つとふらつく。でも、大丈夫だから心配しないで。」私は言った。
「うん、続くようなら一回血液検査してみないと。」ビリーはそう言って近寄ると、私のまぶたの裏を見た。「うーん、白いな。貧血気味かな?この前のはもちろん知ってるけど、日本にいる時にはあった?」
「あった。高校の時と大学の時だけど。多分疲れが溜まるとなるのかな。高校の時は病院の先生にそう言われた。」
「お母さんに診てもらったんじゃないんだ?」ビリーはちょっと笑った。
「うん。心配かけたくなくて、自分で学校の近くの内科に行ったんだよ。」
ビリーはちょっと笑って「カエとお母さんはちょっと変な関係だよね?カエが遠慮してるっていうか。お母さんの側だとカエは緊張していそうな気がする。親子なんだから、どんな姿でも見せればいいのにって思うけど。」
「ビリーだってそうでしょ?入院してもグウェンには知らせたがらないし。」私は笑った。
「まあ、ほら、昔たくさん心配かけたのが自分でも分かってるから、これ以上の心配はさせたくないっていうか。カエは、明日はバイト?」
「ううん。」
「じゃあ、学校が終わったら病院においで。調べてあげるから。後でもいいかと思ったけど、俺も木曜日出張だから早い方がいいと思って。」ビリーは言った。
「分かった。」
その夜はビリーが食事の後片付けをしてくれて、私は翻訳の仕事の仕上げをした。前回貧血になった時みたいに、パソコンのスクリーンを眺めていると目の前が真っ白になるような感覚があって、ちょっとキツかった。それでもーーライルにファイルを送信して、それからすぐに寝た。

次の日、ビリーはトラムで出勤するためにいつもよりちょっと早めに家を出た。電停まで行くのにも時間がかかるからって。
一晩ゆっくり休んだせいか体調は回復気味でーー顔色は確かに悪かったけど、身体が昨日より軽いのが自分でも分かった。学校で授業を受けて、アシュリーとランチして、は順調だった。でも、ビリーの病院に行くためにトラムに乗ってーー揺れのせいかだんだん気持ち悪くなってきて、めまいがしてきて、電停で降りた途端フラッときて膝から崩れ落ちた。
膝を派手に擦りむいたような感覚があって強い痛みが走ったけど、座り込んだままなかなか動くことができなくてーーそしたら一緒に降りた中年の女性が「大丈夫?」って助けてくれた。
私は頷いて「そこの病院に行きたかったんだけどーー」って言った。
「ほら、掴まって。連れて行ってあげるから。」ってその人は私を立たせて連れて行ってくれた。また少しずつめまいは治まってきていたけど、なんかふわふわとしていて、私は内科まで連れて行ってもらった。
その日は受付にはエリーがいて、私は「ビリーはいる?」って聞いた。
エリーは私の顔を見て心配そうに「呼んでくるからーーそこの休憩室で待ってて。」って部屋を指し示してくれた。私は女性にお礼を言って、その部屋のイスに座って待った。この時気がついたけど、膝からは血が流れ出ていて思っていた以上に大きな擦り傷が出来ていて、それを見るとまためまいがした。私はテーブルに伏せてビリーを待った。
10分くらいして来たビリーは、「カエ、大丈夫?」って言った。スクラブ姿で首には聴診器をかけて、松葉杖姿でーー顔はうっすら安心させるように微笑んでいてーーまた家にいる時とは違うビリーを見た気がした。
「うん、大丈夫だよ。今来る時に電停でフラッときて、この膝ーー」
私の膝を見てビリーは「ああ、かわいそうに。待ってて。今アダムに注射と救急キットもって来てもらうから。」って言ってメールをした。
そして聴診器を当てて、休憩室にあった血圧計で血圧を測ってくれた。
「うーん、ちょっと低いかな。低血圧もあるんじゃない?」ビリーはつぶやいて心配そうに私を見た。
「ビリーは本当にお医者さんなんだね。」私は言った。
ビリーは笑って「まあね。」って言った。
「大丈夫だから、心配しないで。前ほど酷くないし、休めば良くなるから。」
ビリーは私の両手を手にとって、「ずっとカエに負担かけてたからーー悪かったなって思ってる。」って言った。
そこにノックがあって、アダムが入ってきて「ダムがしちゃった?」って言った。
私は笑って「少しだけね。」って言った。
ビリーは「何それ。」って笑って、「カエ、血液検査しよう。」って言って採血してくれた。
「俺たちみんな気づかないうちに疲れが溜まってるんじゃない?って話をこの前したんだよ。ほら、ビリーが寝込んでた時かな。」アダムが言った。
「ああ、そういうこと?ーーごめん。」ビリーは言った。
「別にいいよ。大事な人のためになら人は何だってするのが当たり前だと思うし、全然負担にも思わないから。何か手伝う?」アダムは言った。
「ああ、じゃあこの膝手当てしてあげてベッドに寝かせてくれる?点滴持ってくる。ちょっと休ませないと。」ビリーはゆっくり立ち上がって、部屋を出ていった。
「あー、派手に擦りむいたね。ちょっと痛いよ。」アダムはちょっと笑って流れ出た血を拭き取って消毒してくれた。
「トラム降りた途端にめまいがしてーー膝から崩れ落ちちゃった。」私は痛みで顔をしかめた。
「ごめん、ちょっと我慢して。」アダムはそう言いながら大きな絆創膏を貼ってくれて「ーーでも、頭打ったりしなくて良かった。ビリーは朝からそれを心配してた。またあまりしつこいとカエを怒らせるから黙ってたって言ってたけど、気が気じゃない感じで何回も電話しようとしたり、「学校まで迎えに行こうかな」って言ったり。「俺が迎えに行く?」って言ったら「もうちょっと待ってみる。」って言ってて。お昼食べた?」
「うん、食べた。」
「じゃあ、ベッドで寝てて。一回仕事に戻って、後でチョコレート持って来てあげる。」アダムは笑った。
「アダムはチョコレートを常備してるんだね?」私は聞いた。
「カエの影響だよ。嫌な事があるとロッカーに行って一個食べるんだよ。そうすると少し幸せな気分になれるから。」
アダムは私を立たせてベッドまで行くのに支えてくれた。
「ありがとう、アダム。」
「うん。」
そこにビリーが「鉄分の点滴持ってきた。」って戻って来て「痛いよ。」って言って刺してくれてーー「一緒にいたいけど、仕事に戻らなきゃ。また来るから、ゆっくり寝てて。」って言って私の額にキスをして出て行った。
その後、私は夢を見て長い時間寝ていた。砂浜をひたすら走る夢で、やっとゴールが見えたって思ったら、目の前に落とし穴があって落ちる夢。やっと地面に手が届いたらまた穴が深くなって地中の底まで落ちてーーそこで目が覚めた。
部屋の時計は午後4時を指していて、点滴の針はもう抜かれていてーーベッドの隣にはアダムが座っていて、私の顔を真顔でじーっと見てた。
「何見てるの?やだ。」私は起き上がりながら言った。
アダムはちょっと笑って「ーーいや、夢でも見てた?顔と手足が動いていて面白いなって思って見てた。」って言った。
私は恥ずかしくてちょっと顔が赤くなるのを感じた。
「うん。ーーちょっと怖い夢見てた。どのくらいそこに座ってた?」
「30分くらいかな。ちょっと時間できたからチョコレート持ってきたら寝てたから、起こすまででもないかなって思って。食べる?」
「うん。」私はチョコレートを一粒食べて、テーブルにあった水を飲んだ。
「どう?気分は。血液検査は異常なしって言ってたよ。」
「だいぶいいかな。なんか、すっきりして視界が開けた感じ。」
「良かった。」アダムは笑って「今、ビリーはリハビリに行ってた。さっき一回来たんだけど、カエが寝てるのを見てUターンして行った。戻ってきたら、車で送るよ。」
「ごめんね、いつもありがとう。」
「今日、実はマッチングアプリで出会った人と夕食に行くんだよ。ちょっと巻き込まれて登録したから、本当乗り気じゃないんだけど、何事も経験だとも思うし、まあ試してみるかって思って。でもちょっと後悔してる。」
「やだ!本当に?」私はつい大きな声が出た。
アダムは頷いてーー「うん。多分1回会って終わるからあまり興奮しないで。」
「やだ、話を聞かなきゃ!夕食に来れる?」
「ああ、いいよ。じゃあ、なにかテイクアウトでも買ってく。」
「分かった。すごい、楽しみ!」私は言った。
ーーそう言ったと同時にちょっと寂しさを感じている自分にも気がついたけど。アダムが幸せになって欲しいと思うと同時に感じたのは、変な例えかもしれないけど仲の良かった兄弟が養子にでもいっちゃうような気持ち。もう会えないわけじゃないのに離れ離れになるような。このマッチングは見事に失敗してしまうんだけど、私はアダムがどれだけ私にとって大事な人になっていたかをこの時改めて実感した。
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