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深まる秋
ライアン
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点滴三日目。今日で終わると思うと朝から気分が良かった。
昨日エリーに失敗されたところは昨日よりも酷いアザになっていて、ビリーは朝に「痺れたりはしてない?」って心配そうだった。
それでも病院に行くとまたエリーが「ごめんね、今日も練習させて。」って言って部屋に入って来た。そして、私の腕のアザを見て、「本当にごめん。痛そうだから今日は左腕にしようか?」って言った。
この日はビリーとアダムと3人で来て、2人に見られている事で昨日より更に緊張したのかまた何回も失敗して、私も痛くてちょっと涙が出た。それでもビリーとアダムは手伝わないで最後までエリーにやらせた。アドバイスをしながら。4回目でやっと成功して、エリーが部屋を出て行った後にビリーは「カエもよく耐えたね。」って笑いながらちょっとハグしてくれた。点滴中に翻訳の仕事をしようとパソコンを持って来たのに、ビリー達が仕事に戻った後に結局それで疲れて少し寝てしまって、目が覚めたのはビリーとアダムがおやつにクリームが入ったワッフルを買ってきた時だった。ビリーは点滴を抜いてくれて「どう?気分は大丈夫?」って言った。
「うん。腕が痛いけど。」そう言って腕を見るとまた大きな内出血になりそうな感じになっていて、私は苦笑いした。
「カエはエリーが立派な看護師になる手伝いをしたんだよ。俺もビリーも最初はあんなだったよね?懐かしいな。」アダムは言った。
「俺はもうちょっと上手かったけど。ーーワッフル食べて。ご褒美に買ってきた。」ビリーが言った。
私たちはワッフルを食べて、それから私は思い出して言った。
「あ、アダム、ターニャ達が来週の金曜日がいいって言ってたよ。ビール奢ってもらうの。どう?」私は聞いた。
「ああ、了解。ちょうどいいかも。木曜日当直だから金曜日は休みだし。どこに行く?」アダムが聞いた。
「あのベストウエスタンの近くにあるイタリアンは?ほら、昔よく行ったーー。」ビリーが言った。
「うん、いいね。しばらく行ってないし。決まり。」アダムが言った。
「もう電話番号とか分かってるでしょ?後で場所を知らせてあげて。みんな楽しみにしてるって言ってたから。」
「怒ってなかった?」アダムが聞いた。
「全然。ジェイミーもケビンも、かっこよかったって言ってたよ。ビリーのことを一番に考えてるっていうかーー何だか知らないけど漏らすほどかっこよくて惚れたとかケビンが言ってた。」私がそう言ったらアダムは「何それ。」って言いながら笑った。
「私がみんなにいっぱい迷惑かけたから、私もお金出すよ。飲みに行く時の。」私は言った。
「本当?大丈夫?」アダムが言った。
「カエはアダムが思ってるより自分のお金持ってるし、株とかもやってるみたいで結構隠してると思う。だよね?」ビリーは聞いた。
「やだ、なんで株の事知ってるの?話したことないのに。」
「ごめん。逃亡中に、ほら、ジェイミー達の連絡先のデータとかがないかと思って一回パソコン見た。パスワードも知ってたし。そしたら、ふとどんなHPを見てるのか興味が出てーーちょっとブックマークの翻訳機能使って見たら証券会社のHPとかで「へえー」って思って。」ビリーが平然と言って私はちょっと怒った。
「ビリー!勝手に見ないで!」って。アダムは私たちを見ながら笑ってた。
「ーーでも、一回パソコン取りに来たよね?そういえば。無くなってた気がした。」ビリーが言った。
「うん。仕事しなきゃないのを思い出して、洗面用具とか洋服とかと一緒に取りに戻った。土曜日の午前中に。すんごい散らかってた。」私は笑いながら言った。
「俺が片付けたんだよ。日曜日に泊まりに行った時に。シンクも皿とコップでいっぱいだし、虫が湧きそうなくらい汚かったから。ーーじゃあ、それで決まりだね。俺とカエがみんなに奢ってあげる。」アダムが言った。
ビリー達がまた仕事に戻って私は少し仕事をした。順調に進みそうな感触があって、安心した。
ライアンと会う約束をしていたのはメルボルンの中心部にある老舗のアイリッシュパブで、私たちは病院からトラムで行った。私は一応その日は黒いカットソーに茶色のジャンパースカートを着ていて、化粧直しも病院でしてきた。ビリーは青いストライプのシャツと黒いチノパンを履いていて、とても似合ってた。
「ビリーは青が似合うよね。」私は言った。
「そう?何が似合うか分からないからいつも目の色に合わせて青系を買う気がしてる。」
「何着てもかっこいいよ。腹が立つほど。」
私たちが笑いながらパブに入るとーーお店は混んでいたけど、一人の中肉中背の男性が立ち上がって手を振った。こんなことを言ったら失礼なのかよく分からないけれど、「ハリー・ポッター」の映画に出てくるネビルにちょっと似た人の良さそうでちょっと気弱そうな人。この人がライアンで、隣にいた奥さんはグウィネス・パルトロウみたいな感じの地味な美人さんだった。
「ビリー!久しぶり!!」ってライアンは嬉しそうにビリーにハグをしていた。「何?その足は。」ライアンはちょっと心配そうに言った。
「ごめん、ちょっとケガしてて。久しぶりに会えて嬉しいな。10年ぶりくらい?」ビリーが聞いた。
「うん、そうだね。紹介するよ、妻のテスだよ。実はまだ新婚でーー半年前に結婚したんけど。」ライアンがそう言ってビリーは笑顔でテスと握手をした。
「俺も紹介するよ。楓ーーみんなカエって呼ぶけどーー。日本人だけど英語は出来るから気を使わなくて大丈夫だよ。」ビリーは私に笑いかけた。
「初めまして。」私もそう言って微笑んでライアンとテスに挨拶をした。
「ライアンは変わってないね?昔のまま老けこんだ感じで。」ビリーは言った。
「ああ、その失礼なことをサラッと言うところも昔と一緒だね。ビリーは「少年」から「男性」になった感じはあるけど、その目と笑った時の顔は変わらないものだね。昔からみんなが振り向くほどカッコよくて。ほら、あの店員も見てるよ。」ライアンは笑いながら目配せした。
私は振り向いて「やだ、本当だ。」って言った。
ビリーは振り向きはしなかったけど照れて「嫌だな。昨日行ったレストランでも、隣のテーブルのお婆さんの視線をずっと感じて居心地が微妙だったし。」って言った。
ライアンは笑って「注目されたくないところも昔と変わらないな。何食べる?飲み物は?」って聞いた。ライアン達の前にはもうビールのジョッキがあった。
「じゃあハーフパイントだけ飲もうかな。食べ物は適当でいいよ。」ビリーは言った。
「じゃあ、私が買ってくるね。」私はそう言ってハーフパイントのエールビールをさっきビリーを見ていた店員さんから2つ買って、フィッシュ&チップスとかラムのグリルとかサラダとかを適当に注文した。
ビリーは久しぶりのパブのビールが「美味しい。」って嬉しそうだった。「一カ月前に大きな発作起こして入院して以来ビール飲んでなかったんだよ。」ってライアンに言って。
「まだ喘息なんだ?」ライアンが少し心配そうに言った。
「うん。ずっと良かったんだけどーーあの、ライアンに最後に会ったあたりから薬もやめてた。でも、ここ一年くらいまた苦しんでる。昔からだけど、薬が効かない時があって。」
「ああ。昔みたいな感じか。かわいそうに。」ボビーは頷いた。
「シドニーに帰った時にたまたまボビーから、ネリーの事を聞いたよ。本当にーー気の毒だった。」ビリーは言った。
「ああ、俺が20歳の時だった。まあ、いつどうなるか分からないような状態だったけど、毎日会いに行ってた、たった一人の妹だったからショックで。」
「お父さんとお母さんは元気?」ビリーは聞いた。
「うん。俺が素敵な女性と結婚して喜んでる。ビリー達は?結婚したの?」
「ううん、婚約中。まだカエが学校に行ったりしてるから、タイミングを計ってるっていうか。」
「大学生?」ライアンは私に聞いた。
「ううん、翻訳の仕事をしたくて今翻訳科で勉強してるの。」私は言った。
「へえ、すごいな。ビリーは、ノエルが言ってたけど、医者になったんだって?俺と遊んでたあたりは警察官とか言ってたのに。」
「うん。まあね。」ビリーは笑って「ライアンはジェットスターだって?昔はプロレスラー志望だったよね?」って言った。
テスはライアンの横で爆笑してた。
「ビリー、そういう恥ずかしい事をいきなり言うなよ。なんか、懐かしいな。昔の事を思い出してきた。」
「テスもジェットスターなの?」ビリーは聞いた。
「うん、地上職だけどね。」テスは言った。
そこにお料理が来て、私達は食事をした。そして、急にライアンが思い出したように話し始めた。
「覚えてる?最初に俺がビリーと話をした時、ネリーとビリーのベッドの間にはいつもカーテンが引かれていて、まだICUからうつってきたばかりで体調が悪かったんだと思うけど、苦しそうな咳と呼吸音だけが聞こえて「どんな子が入院しているんだろう」って俺はずっと興味を持ってた。ネリーの横でマンガを読んだりしていると、ボビーが回診に来たりして、ビリーはいつも「苦しいからもう生きているのが嫌になる」ような事をいつも言ってボビーを困らせていて、俺は話すことも動くこともできないで機械につながれたままの妹を見ながら「何を贅沢な事を言ってるんだ」って思ってた。子供ながらにちょっと怒ってた。でも、付き添ってたお父さんとノエルの年齢からすると、俺と同じくらいの男の子なのかなって思って、ある日誰もいない時にカーテンを覗いてみた。ちょっと文句を言ってやろうかと思って。」
「うんーー覚えてる。」ビリーはそう言ってビールを一口飲んだ。「まだ酸素マスクが必要でいろいろ機械にも繋がれていてちょっと見られたくない姿を同年代の子に見られたような気がして、俺は結構冷たくあしらった。だよね?」ビリーは言った。
「うん。最初は「何か用?」みたいな冷ややかな感じで、俺は返事に困ったけど、ビリーのあの時の姿を見たらかわいそうで一気に怒りが消えた。そして、自分が食べようと思って買ってきていたゼリーをビリーにあげたんだよ。そしたら、全然食べる気もなかっただろうけど、笑顔になって「ありがとう。」って言ってくれた。話をしてみると結構人懐っこくていい奴だなって思って。」ライアンが言うとビリーは思い出すように何度も頷いてた。
「父はともかく、ノエルは、お見舞いに来ても俺の前で見せびらかすようにお菓子を食べたり、なんかお気に入りの看護師がどうのこうの言うだけで全然そういう気遣いがなかったから、ちょっと嬉しかった。ほんの少しの優しさで、生きていることも悪くないって思わせてくれた。見ず知らずの他人にそんな事ができるんだ、って思って。ほら、弱ってる時はちょっとした優しさでも嬉しく感じるものだからね。」ビリーは懐かしそうに言った。
「ノエルが好きだった看護師はヘレンだよ。覚えてる?あの時、ノエルは16歳くらい?確かに、病院には毎日来てたけどビリーのところにはほぼ挨拶だけに来て、後はずっとナースステーションに張り付いててーー。で、俺は見た。ノエルは、確かビリーが退院する直前だったと思うけど、ヘレンとコソコソしながら倉庫みたいな部屋から時間差で出てきたんだよ。絶対、あれはーーほら、あの後だったと思う。」
「やだ!なんて話!」私はビールを吹きそうになった。
「マジで?」ビリーは大笑いした。「知らなかった!だって、ヘレンって確かあの当時40代くらいの、なんていうか相当な年上で・・・・、信じられない。ーーでも、いいネタになった。今度からかってやろうと思う。」
それからメルボルンの観光名所の話とか、家族の話とかビリーとライアンは楽しそうに話していた。
「また今度シドニーに来る時は連絡してよ。」ライアンは帰り際にそう言って「カエも、またね。」って言ってくれた。
「今度、この間アダムとやったような秘密話をさせてノエルを吐かせてやらないと。あの、子供の時の人形の件の恨みを晴らすいい機会だし。」ビリーは帰り道、楽しそうに言った。
「ビリーは時々小悪魔になるよね。」私は笑いながら言った。
「カエも協力してよ。俺たちは話さないでノエルだけが恥ずかしい話をするように、何か考えないと。」
「もちろん。」私は笑った。
昨日エリーに失敗されたところは昨日よりも酷いアザになっていて、ビリーは朝に「痺れたりはしてない?」って心配そうだった。
それでも病院に行くとまたエリーが「ごめんね、今日も練習させて。」って言って部屋に入って来た。そして、私の腕のアザを見て、「本当にごめん。痛そうだから今日は左腕にしようか?」って言った。
この日はビリーとアダムと3人で来て、2人に見られている事で昨日より更に緊張したのかまた何回も失敗して、私も痛くてちょっと涙が出た。それでもビリーとアダムは手伝わないで最後までエリーにやらせた。アドバイスをしながら。4回目でやっと成功して、エリーが部屋を出て行った後にビリーは「カエもよく耐えたね。」って笑いながらちょっとハグしてくれた。点滴中に翻訳の仕事をしようとパソコンを持って来たのに、ビリー達が仕事に戻った後に結局それで疲れて少し寝てしまって、目が覚めたのはビリーとアダムがおやつにクリームが入ったワッフルを買ってきた時だった。ビリーは点滴を抜いてくれて「どう?気分は大丈夫?」って言った。
「うん。腕が痛いけど。」そう言って腕を見るとまた大きな内出血になりそうな感じになっていて、私は苦笑いした。
「カエはエリーが立派な看護師になる手伝いをしたんだよ。俺もビリーも最初はあんなだったよね?懐かしいな。」アダムは言った。
「俺はもうちょっと上手かったけど。ーーワッフル食べて。ご褒美に買ってきた。」ビリーが言った。
私たちはワッフルを食べて、それから私は思い出して言った。
「あ、アダム、ターニャ達が来週の金曜日がいいって言ってたよ。ビール奢ってもらうの。どう?」私は聞いた。
「ああ、了解。ちょうどいいかも。木曜日当直だから金曜日は休みだし。どこに行く?」アダムが聞いた。
「あのベストウエスタンの近くにあるイタリアンは?ほら、昔よく行ったーー。」ビリーが言った。
「うん、いいね。しばらく行ってないし。決まり。」アダムが言った。
「もう電話番号とか分かってるでしょ?後で場所を知らせてあげて。みんな楽しみにしてるって言ってたから。」
「怒ってなかった?」アダムが聞いた。
「全然。ジェイミーもケビンも、かっこよかったって言ってたよ。ビリーのことを一番に考えてるっていうかーー何だか知らないけど漏らすほどかっこよくて惚れたとかケビンが言ってた。」私がそう言ったらアダムは「何それ。」って言いながら笑った。
「私がみんなにいっぱい迷惑かけたから、私もお金出すよ。飲みに行く時の。」私は言った。
「本当?大丈夫?」アダムが言った。
「カエはアダムが思ってるより自分のお金持ってるし、株とかもやってるみたいで結構隠してると思う。だよね?」ビリーは聞いた。
「やだ、なんで株の事知ってるの?話したことないのに。」
「ごめん。逃亡中に、ほら、ジェイミー達の連絡先のデータとかがないかと思って一回パソコン見た。パスワードも知ってたし。そしたら、ふとどんなHPを見てるのか興味が出てーーちょっとブックマークの翻訳機能使って見たら証券会社のHPとかで「へえー」って思って。」ビリーが平然と言って私はちょっと怒った。
「ビリー!勝手に見ないで!」って。アダムは私たちを見ながら笑ってた。
「ーーでも、一回パソコン取りに来たよね?そういえば。無くなってた気がした。」ビリーが言った。
「うん。仕事しなきゃないのを思い出して、洗面用具とか洋服とかと一緒に取りに戻った。土曜日の午前中に。すんごい散らかってた。」私は笑いながら言った。
「俺が片付けたんだよ。日曜日に泊まりに行った時に。シンクも皿とコップでいっぱいだし、虫が湧きそうなくらい汚かったから。ーーじゃあ、それで決まりだね。俺とカエがみんなに奢ってあげる。」アダムが言った。
ビリー達がまた仕事に戻って私は少し仕事をした。順調に進みそうな感触があって、安心した。
ライアンと会う約束をしていたのはメルボルンの中心部にある老舗のアイリッシュパブで、私たちは病院からトラムで行った。私は一応その日は黒いカットソーに茶色のジャンパースカートを着ていて、化粧直しも病院でしてきた。ビリーは青いストライプのシャツと黒いチノパンを履いていて、とても似合ってた。
「ビリーは青が似合うよね。」私は言った。
「そう?何が似合うか分からないからいつも目の色に合わせて青系を買う気がしてる。」
「何着てもかっこいいよ。腹が立つほど。」
私たちが笑いながらパブに入るとーーお店は混んでいたけど、一人の中肉中背の男性が立ち上がって手を振った。こんなことを言ったら失礼なのかよく分からないけれど、「ハリー・ポッター」の映画に出てくるネビルにちょっと似た人の良さそうでちょっと気弱そうな人。この人がライアンで、隣にいた奥さんはグウィネス・パルトロウみたいな感じの地味な美人さんだった。
「ビリー!久しぶり!!」ってライアンは嬉しそうにビリーにハグをしていた。「何?その足は。」ライアンはちょっと心配そうに言った。
「ごめん、ちょっとケガしてて。久しぶりに会えて嬉しいな。10年ぶりくらい?」ビリーが聞いた。
「うん、そうだね。紹介するよ、妻のテスだよ。実はまだ新婚でーー半年前に結婚したんけど。」ライアンがそう言ってビリーは笑顔でテスと握手をした。
「俺も紹介するよ。楓ーーみんなカエって呼ぶけどーー。日本人だけど英語は出来るから気を使わなくて大丈夫だよ。」ビリーは私に笑いかけた。
「初めまして。」私もそう言って微笑んでライアンとテスに挨拶をした。
「ライアンは変わってないね?昔のまま老けこんだ感じで。」ビリーは言った。
「ああ、その失礼なことをサラッと言うところも昔と一緒だね。ビリーは「少年」から「男性」になった感じはあるけど、その目と笑った時の顔は変わらないものだね。昔からみんなが振り向くほどカッコよくて。ほら、あの店員も見てるよ。」ライアンは笑いながら目配せした。
私は振り向いて「やだ、本当だ。」って言った。
ビリーは振り向きはしなかったけど照れて「嫌だな。昨日行ったレストランでも、隣のテーブルのお婆さんの視線をずっと感じて居心地が微妙だったし。」って言った。
ライアンは笑って「注目されたくないところも昔と変わらないな。何食べる?飲み物は?」って聞いた。ライアン達の前にはもうビールのジョッキがあった。
「じゃあハーフパイントだけ飲もうかな。食べ物は適当でいいよ。」ビリーは言った。
「じゃあ、私が買ってくるね。」私はそう言ってハーフパイントのエールビールをさっきビリーを見ていた店員さんから2つ買って、フィッシュ&チップスとかラムのグリルとかサラダとかを適当に注文した。
ビリーは久しぶりのパブのビールが「美味しい。」って嬉しそうだった。「一カ月前に大きな発作起こして入院して以来ビール飲んでなかったんだよ。」ってライアンに言って。
「まだ喘息なんだ?」ライアンが少し心配そうに言った。
「うん。ずっと良かったんだけどーーあの、ライアンに最後に会ったあたりから薬もやめてた。でも、ここ一年くらいまた苦しんでる。昔からだけど、薬が効かない時があって。」
「ああ。昔みたいな感じか。かわいそうに。」ボビーは頷いた。
「シドニーに帰った時にたまたまボビーから、ネリーの事を聞いたよ。本当にーー気の毒だった。」ビリーは言った。
「ああ、俺が20歳の時だった。まあ、いつどうなるか分からないような状態だったけど、毎日会いに行ってた、たった一人の妹だったからショックで。」
「お父さんとお母さんは元気?」ビリーは聞いた。
「うん。俺が素敵な女性と結婚して喜んでる。ビリー達は?結婚したの?」
「ううん、婚約中。まだカエが学校に行ったりしてるから、タイミングを計ってるっていうか。」
「大学生?」ライアンは私に聞いた。
「ううん、翻訳の仕事をしたくて今翻訳科で勉強してるの。」私は言った。
「へえ、すごいな。ビリーは、ノエルが言ってたけど、医者になったんだって?俺と遊んでたあたりは警察官とか言ってたのに。」
「うん。まあね。」ビリーは笑って「ライアンはジェットスターだって?昔はプロレスラー志望だったよね?」って言った。
テスはライアンの横で爆笑してた。
「ビリー、そういう恥ずかしい事をいきなり言うなよ。なんか、懐かしいな。昔の事を思い出してきた。」
「テスもジェットスターなの?」ビリーは聞いた。
「うん、地上職だけどね。」テスは言った。
そこにお料理が来て、私達は食事をした。そして、急にライアンが思い出したように話し始めた。
「覚えてる?最初に俺がビリーと話をした時、ネリーとビリーのベッドの間にはいつもカーテンが引かれていて、まだICUからうつってきたばかりで体調が悪かったんだと思うけど、苦しそうな咳と呼吸音だけが聞こえて「どんな子が入院しているんだろう」って俺はずっと興味を持ってた。ネリーの横でマンガを読んだりしていると、ボビーが回診に来たりして、ビリーはいつも「苦しいからもう生きているのが嫌になる」ような事をいつも言ってボビーを困らせていて、俺は話すことも動くこともできないで機械につながれたままの妹を見ながら「何を贅沢な事を言ってるんだ」って思ってた。子供ながらにちょっと怒ってた。でも、付き添ってたお父さんとノエルの年齢からすると、俺と同じくらいの男の子なのかなって思って、ある日誰もいない時にカーテンを覗いてみた。ちょっと文句を言ってやろうかと思って。」
「うんーー覚えてる。」ビリーはそう言ってビールを一口飲んだ。「まだ酸素マスクが必要でいろいろ機械にも繋がれていてちょっと見られたくない姿を同年代の子に見られたような気がして、俺は結構冷たくあしらった。だよね?」ビリーは言った。
「うん。最初は「何か用?」みたいな冷ややかな感じで、俺は返事に困ったけど、ビリーのあの時の姿を見たらかわいそうで一気に怒りが消えた。そして、自分が食べようと思って買ってきていたゼリーをビリーにあげたんだよ。そしたら、全然食べる気もなかっただろうけど、笑顔になって「ありがとう。」って言ってくれた。話をしてみると結構人懐っこくていい奴だなって思って。」ライアンが言うとビリーは思い出すように何度も頷いてた。
「父はともかく、ノエルは、お見舞いに来ても俺の前で見せびらかすようにお菓子を食べたり、なんかお気に入りの看護師がどうのこうの言うだけで全然そういう気遣いがなかったから、ちょっと嬉しかった。ほんの少しの優しさで、生きていることも悪くないって思わせてくれた。見ず知らずの他人にそんな事ができるんだ、って思って。ほら、弱ってる時はちょっとした優しさでも嬉しく感じるものだからね。」ビリーは懐かしそうに言った。
「ノエルが好きだった看護師はヘレンだよ。覚えてる?あの時、ノエルは16歳くらい?確かに、病院には毎日来てたけどビリーのところにはほぼ挨拶だけに来て、後はずっとナースステーションに張り付いててーー。で、俺は見た。ノエルは、確かビリーが退院する直前だったと思うけど、ヘレンとコソコソしながら倉庫みたいな部屋から時間差で出てきたんだよ。絶対、あれはーーほら、あの後だったと思う。」
「やだ!なんて話!」私はビールを吹きそうになった。
「マジで?」ビリーは大笑いした。「知らなかった!だって、ヘレンって確かあの当時40代くらいの、なんていうか相当な年上で・・・・、信じられない。ーーでも、いいネタになった。今度からかってやろうと思う。」
それからメルボルンの観光名所の話とか、家族の話とかビリーとライアンは楽しそうに話していた。
「また今度シドニーに来る時は連絡してよ。」ライアンは帰り際にそう言って「カエも、またね。」って言ってくれた。
「今度、この間アダムとやったような秘密話をさせてノエルを吐かせてやらないと。あの、子供の時の人形の件の恨みを晴らすいい機会だし。」ビリーは帰り道、楽しそうに言った。
「ビリーは時々小悪魔になるよね。」私は笑いながら言った。
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「もちろん。」私は笑った。
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