206 / 527
失望と支え
情報網
しおりを挟む
「しくじった」のは次の日の水曜日だった。まさか、こんなに簡単にビリーの耳に入るとは思わなくて、私も油断していた。っていうか、みんな口が軽くて参っちゃう。特にスティーブンが。
でも、私自身も、もう隠し通すことが出来なくなっていて限界だったんだと思う。
朝ごはんもまたバナナを食べていたら、ビリーは鼻をかみながら心配そうに「カエ、お腹は痛いの?それとも気持ち悪いの?どんな感じなの?ーー昨日の夜は結構元気そうだったのに。」って言った。
「うんーーちょっと痛いっていうか?自分でもよく分からない。」私はそんな風に適当に誤魔化して、さすがにビリーも不審そうな目で私を見つめた。
「便秘か何か?」ビリーはちょっと笑いながら言った。
「違うよ。本当に治ってきてるし大丈夫だから。今日はクラリッサとランチだから、いっぱい食べてきたいのもあるし、案外バナナだけで十分だったりするし。」
「そう?結構いつもちゃんと食べてるからーーまあ、いいや。何かあるならちゃんと言ってね。ーー仕事行ってくる。」
ビリーが出勤すると私はクラリッサとのランチを乗り切るために歯痛が始まって以来初めて鎮痛剤を飲んだ。
薬の効果はすごいもので、午前中学校では全くと言っていいほど気にならなかった。
クラリッサと待ち合わせをしたのは前にライルに連れて行ったもらったエリザベス・ストリートにあるハンバーガー屋さん。ハンバーガーならば食べやすいかなって思ったから。
クラリッサは私を見ると明るい笑顔で手を振って「やっと二人きりで会えた!嬉しい!」って言ってくれた。
「ほら、ライル達がいてももちろん楽しいけど、たまには女同士で話したいと思わない?」って。
私も「そうだよね!」ってーー。
「ビリーは今日は仕事?」クラリッサは聞いた。
「うん、クラリッサはーー忙しいんだって?ライルが言ってたけど。」私は言った。
「うん、まあ、勤務時間は決まってるからいいんだけど、ほら、救急だから次から次へと患者さんが運ばれてくるし休んでる暇もないくらいで。」
「私も実はあそこの救急センターに何回かお世話になったことあるんだよ。」私は言った。
「え、そうなの?」クラリッサは興味深そうに聞いた。
「うん、最初にビリーに助けられた時はもちろんだし、後はーー交通事故の時かな、ほら、クラリッサがアダムの手当てした時?あの時、私が同乗していてーーちょっと肋骨折ったりして運ばれたりしたから。」
「そうだったんだ?知らなかった。みんなが「アダムス先生の関係者だ」っていう話はしてたけど。ーー大変だったね。あの時はラーソン先生も本当にかわいそうで、結構痛がってたから。」クラリッサは言った。
「うんーーしばらく落ち込んでたからね。」私は頷いた。「ねえ、クラリッサとライルの出会いは?大学の時のクリケットチームっていうのは聞いたけど。」
「ああ、そうなの。」クラリッサは笑った。クラリッサは本当によく笑って、笑顔がとても優しくて、私は既にクラリッサが大好きになっていた。「ライルは高校の時からクリケットをやっていて、とても上手なのよ。それで、私は大学の時に初めてプレーし始めて、よく男子の練習を見に行ってたの。友達とね。最初はプレーのコツを学ぶための勉強会みたいな感じだったんだけど、だんだんライルのプレーに惹かれ始めてーーそれで私からデートに誘ったのが始まりなの。スポーツ系なのに優しいのも魅力的で、優しいのにリードしてくれるっていうかちゃんと正しい道に導いてくれる人柄もいいなって思って。」
「へえ?そうなんだ。確かにーーいつも正論を言ってくれる気がする。それに、ちゃんと約束は守ってくれるし、口も堅いし私もかなり信頼しちゃってるかもしれない。」私は笑った。
「どんどん頼ってあげて。喜んでるから。ーービリーはどんな人?あの笑顔なら優しくないはずはないよね?ライルも「とてもいい人だ」って言ってるし、病院でも、本当にビリーは人気者で、この前同僚に「例のアダムス先生と飲んだ。」って自慢しちゃった。」
「まあ、優しくてーーちょっとシャイな所もあって、かわいい所もあって。ーーでも精神的にもしっかりしてて、いつも頼りになる感じ?ライルと同じでリードしてくれるって言うか。まあ、年上だからかもしれないけど。」
「この前ご両親が来たんだって?その時も、ライルはビリー達の役に立てて良かった、って喜んでいたし、なんかね、ビリーのことも相当好きなんだと思うよ。髪型もビリーみたいにしようかなって言って今ちょっと伸ばしてるの、気がついてた?」
「やだ、知らなかった!」
クラリッサは頷いてーー「今まではセットも面倒だしって言ってずっと丸刈りに近いような感じだったのに、ちょっと毛先をカールさせて立ててみたいって言い出して。笑っちゃうけど、あと、「ビリーがいい匂いがする」って言って今度引越しの時にアフターシェーブローションとか何を使ってるのか見てくるって言ってて。」
私は笑った。「どうかな?何回か「何使ってるの?」って聞かれてたのは見たことあるけど、教えているのは見たことないから秘密かもしれない。私もよく分からないし。」私は言った。
鎮痛剤が切れてきたのかまた奥の歯茎が痛み始めていてーー食べ終わった後で良かった、って思った。
「ライルが言ってたけど、語学学校でバイトしてるの?」
「うん、そうなの、受付とか入学手続きとかそういう事務なんだけど。学校卒業したら、翻訳とその仕事と半々くらいにしようかなって思ってる。翻訳の方に力を入れるかもしれない。」私は言った。
「外国語を喋れるのって憧れちゃうな。私なんかスペイン系なのに全然スペイン語も話せないし、見掛け倒しっていうかーー分かる?」クラリッサは苦笑いした。
「ライルの知識はすごいよね?私、これから学校の方の卒論を書かないといけなくて、助けてもらおうかと思ってたの。言語学のこと書きたいから。」
「ああ、喜ぶと思うよ。私が全然そういう話に乗ってこないのを時々不満そうに言ってるから。ライルだって私が医療の話をしても全然興味なさそうだからお互い様なのにね。ビリーとカエは共通の趣味とかあるの?」
「うーん、何かな?読書とか旅行とか、かな。ビリーも今は仕事でいっぱいいっぱいって感じだから、本当の趣味を見つける時間がなさそうでかわいそうっていうか。」私は言った。
「ああ、そうだよね。若手のうちは忙しいだろうから。」クラリッサは頷いた。「あ、今日バイトって言ってたけど時間大丈夫?」
私は時計を見て、「あ、やだ、そろそろ行かなきゃ。ごめんね、今度もっとゆっくり飲んだりしようよ。」って言った。「引越し準備は進んでるの?」
「うん、ほんの少しずつだけどね。」
「私たちも手伝いにいくから!ビリーは置き物状態かもしれないけど。」私たちは一緒に笑った。
「じゃあ、またね!」
クラリッサと別れた後、また鎮痛剤を飲もうか迷ったけどやめた。夕食の前に飲む方がいいと思ったから。でも、結果的にはこれが失敗だった。鎮痛剤が切れてくると同時にどんどん痛みが増してきたように感じられたから。
もう限界かなと思うと不安でたまらなくなってーー無意識にボーッとパソコンを見ながら耳の下をさすっていたらスティーブンに見られた。
「どうかしたの?元気もなさそうだけど。」って。
「あー、別に。大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけ。」私は笑ってごまかした。
「本当に?来てからずっと顎に手を当ててるよ。歯でも痛い?」
「あー・・・、実はそうなの。もう一週間くらいなんだけど、だんだん酷くなってきちゃって。歯医者に行くべきかな。大嫌いなんだけど。」私は苦笑いした。
「好きな人なんて誰もいないよ。」スティーブンは笑って「待ってても良くなることはないからね。我慢しないで予約取った方がいいんじゃない?」って言った。
「スティーブンは、親知らずとかまだある?」私は聞いた。
「いや、二本は抜いたかな。抜いた方がいいって言われて、高校を卒業した後に。かなり痛くて腫れたりして大変だった。何、そのあたりが痛いの?」
私は頷いた。「もう、本当嫌になっちゃう。考えるだけで心臓がドキドキしてくるし。」
「ビリーは何て言ってるの?まさかーー」スティーブンは私の顔を見て言葉を切った。
「ーーまだ知らない。喋ったら絶対に歯医者に引っ張って連れて行かれるから。ちょっとーー今どうしようか考えていたところ。ビリーも鼻風邪がなかなか治らないし、面倒かけないで一人で行ってみようかなって思ったり、でもーー怖くて思い切れなくて。」
スティーブンは「大丈夫だから勇気をだして行っておいで。怖いのは分かるけど、行けばさえ解決するんだから。」って言ってくれた。
この日は結局痛みが気になって仕事もする気分じゃなくて、ずっとどうしようか考えてた。
痛みは限界だけど、どうしても歯医者に行きたくない。どうしようかって。しばらく鎮痛剤を飲むのがいいのかもしれない、って思って、帰りに薬局によって薬を買って行こうって思った。それからーーまた今日の夜ご飯はどうしようって考えた。もうマッシュポテトはビリーも飽きたかもしれないしーー朝のバナナの件もそうだけど、そろそろ柔らかくないものを作らないと今度はお腹の検査するとか言い出しそうだし、って悩んで。
そんな事を考えいるうちに学校が終わって、私が電停へ向かって歩いていたらスティーブンが追いかけてきてーー
「カエ、また明後日ね!」って言った。
「あれ、今日は車じゃないの?」私は聞いた。
「今日はアダムと飲みに行くんだよ。最近時々行ってて。」
「ああ、そうなんだ?知らなかった。楽しんできてね。」私は言った。
この日、スティーブンが会話の内容をアダムにチクって、そこからビリーの耳に入るとは思いもしなかった。
女の人は噂好きで一人が話始めると根も歯もない話がどんどん広まっていくことがあるのは知ってるけど、まさか男同士で、しかも1日で広まるとはって感じ。
帰宅してから、私はビリーが帰宅する前に鎮痛剤を急いで飲んで、結局トマトソースのペンネを作った。
意図的に茹ですぎたペンネを。鎮痛剤を飲んだらだいぶ痛みは良くなったけど、朝ほどではなくて、だんだん効かなくなっていくのかなっていう恐怖を感じた。
ビリーは帰ってきてペンネを一口食べると「なんかーー茹ですぎじゃない?」って笑った。
「あー、ごめん。ちょっと学校の課題の事でアシュリーと電話してたら茹ですぎちゃって。」私はまた嘘をついて誤魔化した。「ビリーの鼻はどう?」
「まあまあ。今日はそんなにかまなくても良かった。クラリッサとのランチはどうだったの?」
「楽しかったよ。ビリーとライルの噂話で盛り上がってきた。」私は笑った。
「何それ。」ビリーも笑った。
「ライル達はもう、少しずつ荷物を運び始めてるんだって。私たちも少しずつ片付けたりしないといけないかな。」
「そうだね。来週あたり引越しの手配もしようと思ってた。箱も用意しないと。あとちょっと家具とかも見に行こうよ。休みの時に。ベッドをキングサイズにしたい。カエの寝相が悪くていつも隅に追いやられるから。まあ、他にもいろいろ見たいし。」
「うん、そうだね。」
その夜ライルから田中さんの仕事のメールが入っていた。
「ビリーには話せた?大変なら納期は伸ばせるから連絡してね。」って。
ため息しか出なかった。引越し前で楽しいはずの時なのに、って。やっぱり諦めて歯医者に行かないとって思った。家具選びもしたいし、美味しい食事もしたいし。
でもーーまたビリーに怒られると思うと勇気がなかなか出なかった。嘘をついた期間が長すぎたから。
でも、私自身も、もう隠し通すことが出来なくなっていて限界だったんだと思う。
朝ごはんもまたバナナを食べていたら、ビリーは鼻をかみながら心配そうに「カエ、お腹は痛いの?それとも気持ち悪いの?どんな感じなの?ーー昨日の夜は結構元気そうだったのに。」って言った。
「うんーーちょっと痛いっていうか?自分でもよく分からない。」私はそんな風に適当に誤魔化して、さすがにビリーも不審そうな目で私を見つめた。
「便秘か何か?」ビリーはちょっと笑いながら言った。
「違うよ。本当に治ってきてるし大丈夫だから。今日はクラリッサとランチだから、いっぱい食べてきたいのもあるし、案外バナナだけで十分だったりするし。」
「そう?結構いつもちゃんと食べてるからーーまあ、いいや。何かあるならちゃんと言ってね。ーー仕事行ってくる。」
ビリーが出勤すると私はクラリッサとのランチを乗り切るために歯痛が始まって以来初めて鎮痛剤を飲んだ。
薬の効果はすごいもので、午前中学校では全くと言っていいほど気にならなかった。
クラリッサと待ち合わせをしたのは前にライルに連れて行ったもらったエリザベス・ストリートにあるハンバーガー屋さん。ハンバーガーならば食べやすいかなって思ったから。
クラリッサは私を見ると明るい笑顔で手を振って「やっと二人きりで会えた!嬉しい!」って言ってくれた。
「ほら、ライル達がいてももちろん楽しいけど、たまには女同士で話したいと思わない?」って。
私も「そうだよね!」ってーー。
「ビリーは今日は仕事?」クラリッサは聞いた。
「うん、クラリッサはーー忙しいんだって?ライルが言ってたけど。」私は言った。
「うん、まあ、勤務時間は決まってるからいいんだけど、ほら、救急だから次から次へと患者さんが運ばれてくるし休んでる暇もないくらいで。」
「私も実はあそこの救急センターに何回かお世話になったことあるんだよ。」私は言った。
「え、そうなの?」クラリッサは興味深そうに聞いた。
「うん、最初にビリーに助けられた時はもちろんだし、後はーー交通事故の時かな、ほら、クラリッサがアダムの手当てした時?あの時、私が同乗していてーーちょっと肋骨折ったりして運ばれたりしたから。」
「そうだったんだ?知らなかった。みんなが「アダムス先生の関係者だ」っていう話はしてたけど。ーー大変だったね。あの時はラーソン先生も本当にかわいそうで、結構痛がってたから。」クラリッサは言った。
「うんーーしばらく落ち込んでたからね。」私は頷いた。「ねえ、クラリッサとライルの出会いは?大学の時のクリケットチームっていうのは聞いたけど。」
「ああ、そうなの。」クラリッサは笑った。クラリッサは本当によく笑って、笑顔がとても優しくて、私は既にクラリッサが大好きになっていた。「ライルは高校の時からクリケットをやっていて、とても上手なのよ。それで、私は大学の時に初めてプレーし始めて、よく男子の練習を見に行ってたの。友達とね。最初はプレーのコツを学ぶための勉強会みたいな感じだったんだけど、だんだんライルのプレーに惹かれ始めてーーそれで私からデートに誘ったのが始まりなの。スポーツ系なのに優しいのも魅力的で、優しいのにリードしてくれるっていうかちゃんと正しい道に導いてくれる人柄もいいなって思って。」
「へえ?そうなんだ。確かにーーいつも正論を言ってくれる気がする。それに、ちゃんと約束は守ってくれるし、口も堅いし私もかなり信頼しちゃってるかもしれない。」私は笑った。
「どんどん頼ってあげて。喜んでるから。ーービリーはどんな人?あの笑顔なら優しくないはずはないよね?ライルも「とてもいい人だ」って言ってるし、病院でも、本当にビリーは人気者で、この前同僚に「例のアダムス先生と飲んだ。」って自慢しちゃった。」
「まあ、優しくてーーちょっとシャイな所もあって、かわいい所もあって。ーーでも精神的にもしっかりしてて、いつも頼りになる感じ?ライルと同じでリードしてくれるって言うか。まあ、年上だからかもしれないけど。」
「この前ご両親が来たんだって?その時も、ライルはビリー達の役に立てて良かった、って喜んでいたし、なんかね、ビリーのことも相当好きなんだと思うよ。髪型もビリーみたいにしようかなって言って今ちょっと伸ばしてるの、気がついてた?」
「やだ、知らなかった!」
クラリッサは頷いてーー「今まではセットも面倒だしって言ってずっと丸刈りに近いような感じだったのに、ちょっと毛先をカールさせて立ててみたいって言い出して。笑っちゃうけど、あと、「ビリーがいい匂いがする」って言って今度引越しの時にアフターシェーブローションとか何を使ってるのか見てくるって言ってて。」
私は笑った。「どうかな?何回か「何使ってるの?」って聞かれてたのは見たことあるけど、教えているのは見たことないから秘密かもしれない。私もよく分からないし。」私は言った。
鎮痛剤が切れてきたのかまた奥の歯茎が痛み始めていてーー食べ終わった後で良かった、って思った。
「ライルが言ってたけど、語学学校でバイトしてるの?」
「うん、そうなの、受付とか入学手続きとかそういう事務なんだけど。学校卒業したら、翻訳とその仕事と半々くらいにしようかなって思ってる。翻訳の方に力を入れるかもしれない。」私は言った。
「外国語を喋れるのって憧れちゃうな。私なんかスペイン系なのに全然スペイン語も話せないし、見掛け倒しっていうかーー分かる?」クラリッサは苦笑いした。
「ライルの知識はすごいよね?私、これから学校の方の卒論を書かないといけなくて、助けてもらおうかと思ってたの。言語学のこと書きたいから。」
「ああ、喜ぶと思うよ。私が全然そういう話に乗ってこないのを時々不満そうに言ってるから。ライルだって私が医療の話をしても全然興味なさそうだからお互い様なのにね。ビリーとカエは共通の趣味とかあるの?」
「うーん、何かな?読書とか旅行とか、かな。ビリーも今は仕事でいっぱいいっぱいって感じだから、本当の趣味を見つける時間がなさそうでかわいそうっていうか。」私は言った。
「ああ、そうだよね。若手のうちは忙しいだろうから。」クラリッサは頷いた。「あ、今日バイトって言ってたけど時間大丈夫?」
私は時計を見て、「あ、やだ、そろそろ行かなきゃ。ごめんね、今度もっとゆっくり飲んだりしようよ。」って言った。「引越し準備は進んでるの?」
「うん、ほんの少しずつだけどね。」
「私たちも手伝いにいくから!ビリーは置き物状態かもしれないけど。」私たちは一緒に笑った。
「じゃあ、またね!」
クラリッサと別れた後、また鎮痛剤を飲もうか迷ったけどやめた。夕食の前に飲む方がいいと思ったから。でも、結果的にはこれが失敗だった。鎮痛剤が切れてくると同時にどんどん痛みが増してきたように感じられたから。
もう限界かなと思うと不安でたまらなくなってーー無意識にボーッとパソコンを見ながら耳の下をさすっていたらスティーブンに見られた。
「どうかしたの?元気もなさそうだけど。」って。
「あー、別に。大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけ。」私は笑ってごまかした。
「本当に?来てからずっと顎に手を当ててるよ。歯でも痛い?」
「あー・・・、実はそうなの。もう一週間くらいなんだけど、だんだん酷くなってきちゃって。歯医者に行くべきかな。大嫌いなんだけど。」私は苦笑いした。
「好きな人なんて誰もいないよ。」スティーブンは笑って「待ってても良くなることはないからね。我慢しないで予約取った方がいいんじゃない?」って言った。
「スティーブンは、親知らずとかまだある?」私は聞いた。
「いや、二本は抜いたかな。抜いた方がいいって言われて、高校を卒業した後に。かなり痛くて腫れたりして大変だった。何、そのあたりが痛いの?」
私は頷いた。「もう、本当嫌になっちゃう。考えるだけで心臓がドキドキしてくるし。」
「ビリーは何て言ってるの?まさかーー」スティーブンは私の顔を見て言葉を切った。
「ーーまだ知らない。喋ったら絶対に歯医者に引っ張って連れて行かれるから。ちょっとーー今どうしようか考えていたところ。ビリーも鼻風邪がなかなか治らないし、面倒かけないで一人で行ってみようかなって思ったり、でもーー怖くて思い切れなくて。」
スティーブンは「大丈夫だから勇気をだして行っておいで。怖いのは分かるけど、行けばさえ解決するんだから。」って言ってくれた。
この日は結局痛みが気になって仕事もする気分じゃなくて、ずっとどうしようか考えてた。
痛みは限界だけど、どうしても歯医者に行きたくない。どうしようかって。しばらく鎮痛剤を飲むのがいいのかもしれない、って思って、帰りに薬局によって薬を買って行こうって思った。それからーーまた今日の夜ご飯はどうしようって考えた。もうマッシュポテトはビリーも飽きたかもしれないしーー朝のバナナの件もそうだけど、そろそろ柔らかくないものを作らないと今度はお腹の検査するとか言い出しそうだし、って悩んで。
そんな事を考えいるうちに学校が終わって、私が電停へ向かって歩いていたらスティーブンが追いかけてきてーー
「カエ、また明後日ね!」って言った。
「あれ、今日は車じゃないの?」私は聞いた。
「今日はアダムと飲みに行くんだよ。最近時々行ってて。」
「ああ、そうなんだ?知らなかった。楽しんできてね。」私は言った。
この日、スティーブンが会話の内容をアダムにチクって、そこからビリーの耳に入るとは思いもしなかった。
女の人は噂好きで一人が話始めると根も歯もない話がどんどん広まっていくことがあるのは知ってるけど、まさか男同士で、しかも1日で広まるとはって感じ。
帰宅してから、私はビリーが帰宅する前に鎮痛剤を急いで飲んで、結局トマトソースのペンネを作った。
意図的に茹ですぎたペンネを。鎮痛剤を飲んだらだいぶ痛みは良くなったけど、朝ほどではなくて、だんだん効かなくなっていくのかなっていう恐怖を感じた。
ビリーは帰ってきてペンネを一口食べると「なんかーー茹ですぎじゃない?」って笑った。
「あー、ごめん。ちょっと学校の課題の事でアシュリーと電話してたら茹ですぎちゃって。」私はまた嘘をついて誤魔化した。「ビリーの鼻はどう?」
「まあまあ。今日はそんなにかまなくても良かった。クラリッサとのランチはどうだったの?」
「楽しかったよ。ビリーとライルの噂話で盛り上がってきた。」私は笑った。
「何それ。」ビリーも笑った。
「ライル達はもう、少しずつ荷物を運び始めてるんだって。私たちも少しずつ片付けたりしないといけないかな。」
「そうだね。来週あたり引越しの手配もしようと思ってた。箱も用意しないと。あとちょっと家具とかも見に行こうよ。休みの時に。ベッドをキングサイズにしたい。カエの寝相が悪くていつも隅に追いやられるから。まあ、他にもいろいろ見たいし。」
「うん、そうだね。」
その夜ライルから田中さんの仕事のメールが入っていた。
「ビリーには話せた?大変なら納期は伸ばせるから連絡してね。」って。
ため息しか出なかった。引越し前で楽しいはずの時なのに、って。やっぱり諦めて歯医者に行かないとって思った。家具選びもしたいし、美味しい食事もしたいし。
でもーーまたビリーに怒られると思うと勇気がなかなか出なかった。嘘をついた期間が長すぎたから。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる