ゴールデンソルジャー

木村テニス

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 何度かの昼夜の交代で月日はカルディナ遺跡出発の日に至った。
 ハーミアは万全の準備をし両親と抱擁した後に家を出る。

 制服では無く、動きやすいパンツスタイルに大きなバックパックを背負い街中を歩くハーミア。
 少々野暮ったく見えるはずだが、その姿ですら彼女は美しく。
 すれ違う異性の視線を釘付けにしているようだ。

 集合場所に着くとカルディナ遺跡調査班は大体の面子が揃っていた。
 調査班、討伐班合わせて三十名。加えて候補生五名。計三十五名でカルディナ遺跡へと向かう。

 どうやら候補生はハーミアだけでは無かったようだ。
 キョロキョロと辺りを見渡していると。「ハミィ」と、少し鼻に掛かる男の声。

「やっぱりハミィも選ばれたんだな。優秀な奴に声をかけてるって理事長が言ってたから」

 愛称で呼ばれたハーミアは男の名を呼ぶ。

「グレック」

 ハーミアは少しばかり顔に緊張を張り付け、一歩足が後ろにゆっくりと下がる。
 どうにもこのグレックが苦手なようだ。

「優秀なハミィの事だから当然今回の選抜には選ばれると思っていたよ。調査班だよね? 俺は討伐班だから君の安全は俺が保証しよう。獣だろうがモンスターだろうがどんな危険からも君を守ってみせる」

「あはは、ありがとう。グレック」

 グレックと呼ばれた男は高い背に、異性が好む顔をしている。

「なに。礼にはおよばんさ。俺は君の笑顔を守りたいだけだからね。それにもし君を守り通す事ができたら、あの返事。もう一度考えてもらえなっ――」

 グレックは言葉を詰まらせる。頭を叩かれたからだ。

「ちょっとグレック! ハミィが困ってるじゃない! こんな場所で口説くのやめなさいよ」

「アーリー!」

 ハーミアほっと胸を撫で下ろしながら彼女の名を呼ぶ。
 アーリーは褐色の肌に赤色の癖毛がよく似合う、山猫を連想させる少女だ。

「アーリーも参加なんだね? ありがたや~」

 ハーミアはおどけるようにアーリーに手を合わせ拝みだす。

「拝まない!」

 ハーミアの頬を軽くつまみぐいぐいと動かすアーリー。

 グラディナの兵士・騎士課の二人はハーミアと違い武装している。

 グレックとアーリーは軽装鎧に身を包み腰には立派な片手剣が下げられている。
 アーミーの指が離れるとハーミアは喋りだした。

「私だけじゃなかったんだね。アーミー達がいるなら安心だね?」

「まっ、私らは体の良い荷物持ちだよ。戦闘の殆どは正規の兵士・騎士が担当するみたいだし。先に選抜に選ばれたハミィの次いでに、こいつらも実戦経験させとくか。位のノリで決まったみたいだし」

「でも周りが大人ばっかりだったから安心だよ」

 三人か会話をしていると笛音が響く。
 もう間もなく出発らしく、各自持ち場に戻るようにとの伝令が伝えられた。

「じゃあまたねアーミー。グレック」
「ハミィ、向こうで夕食を一緒に――」
「グレック行くよ!」

 アーミーとグレックが立ち去った後にハミィも持ち場へと移動していった。
 カルディナ遺跡に着く三日間は特に大きなトラブルも無く順調に進んだ。

 街道に現れた獣を隙の無い連携で片付けていく兵士・騎士達。
 ハーミアは朝、昼、夜には食事の準備を手伝い、後は馬車の中で文献を読んで三日間を過ごした。

 カルディナ遺跡に到着し準備を終えると。調査班は一斉に動きだしす。
 調査班が三、四名の班を五つ作りそれに付随して討伐班は護衛する。
 ハーミアが所属した班の護衛にはアーミーやグレックもおり。三人は目配せをした後に軽く微笑み合う。

 岩と砂利で作られた大きな建造物にも見えるカルディナ遺跡で、夢のような時間をハーミアは過ごした。



 調査三日目。



 カルディナ遺跡の入り口は広く三十五名全員が収まっても余裕がある程だ。
 ハーミアは嬉々とした表情をしているが数分後にはその顔が絶望に変わる。

 遺跡内に集合後。一行は本日の工程をそれぞれの班長から聞いていた。
 そうした初日、二日目と同じ様に決まった工程をしている途中で、大きな地響きが遺跡を揺らした。
 揺れが長くあまりにも激しいので、全員が立っていられずその場にしゃがみこむ。


 一向に揺れが収まらず皆が不信に思い始めた時——床が崩落した。


 派手な音が三十五名の鼓膜を襲う。息もつかせぬまま全員は瓦礫と共に下へ下へと落下していった。

 カルディナ遺跡入り口の床は抜けた為、そこにはただただ闇のみが広がっていた。
 目を凝らしても底は見えず、凝らし続けると何かが吸いとられそうな深淵は黒く暗かった。
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