6 / 26
6
しおりを挟む
「いくらだ?」
「え?」
「いくらで俺を雇う?」
「お、お金ですか?」
「それ以外に何がある」
「美しいお嬢さん。さっきから俺の事をちょいちょいシカトしてるけど俺の声聞こえてるよね? この冷血男は金でしか動かないしょうもない男だぞ。のくせに万年金欠男だ。頼むなら私に頼みなさい。この聖剣エクスカリバー様が君を助けてあげよう。だからちょっと俺を握ってくれないかな? 握った後に「硬くて逞しい(裏声)って俺の耳元で囁いてくれればいいから。あっ! 俺の耳ってどこにあるんだアイン? よくよく考えたら俺ってどうやって喋ってるんだ?」
「金に困っているのはお前のせいだろ。あとお前に耳なんて無い——」
「お、お金は今はありませんが必ず用意します! ですからお願いします! 皆を助けて下さい!」
ハーミアの必死さに、僅かにも動揺を見せない少年——アイン——は瞑目した後に歩き出す。
「あ、あの」
「金が無いなら契約はできない」
冷たくあしらうと何事も無いかのようにハーミアから離れていく。
「おいおいアインちゃん? ちょっと冷たいんでないかい?」
「金が無いなら助けない。何度痛い目にあった。決めた事だろ」
「まぁ、そうだけどよ~」
アインと自称エクスカリバーの会話はハーミアの耳に張り付く。
――何故? どうして? 目の前で困っている人がいるのにこの人は助けないのか。
アインの背を見詰めるハーミアは呆然とした。
だがモンスターの唸り声で身を固くした後に、どうしようかと頭を捻り一つの案を思い付く。
「こ、これを担保にして下さい! それ相応の値段になるはずです! 必ずお金は用意しますので!」
ハーミアは胸元から手繰り寄せたのは母から授けられたネックレス。
派手な装飾は無いが大きな青光石が存在を主張している。
足を止め、しげしげネックレスを見るアインは考えた後に、ぶっきらぼうなまま言葉を告げた。
「仮契約としてその依頼を受けてやる」
――ごめんね。お母さん。
ハーミアは震える手で、ネックレスをアイン渡すと仮の契約が行われた。
ーーー
一行は崩落があった場所に向かう。
案内は生物の感知を得意とするやかましい剣。
「次を右だ! 反応は薄いが俺の索敵に引っかかるって事はまだ生きてるはずだぞ」
剣が伝える情報に頷きながらハーミアは走る。
アインは特段反応せずに走る。
すみれ色の目が剣を見る。
――喋る剣。会話をする剣。
理解はしたが納得はまだしかねている。
多くを語らない少年の代わりとばかりに、よく喋る剣は自分を異世界からきた転生者と言っている。
「本来ならトラックに引かれて転生の予定だったんだけどな~家の中で英雄ごっこしてたら階段から落ちて転生だからさ。ちょっと異例なんだよ。テンプレ枠からはみ出しちゃってさ~、まぁ。三十代無職の部類では共通してるんだけどさ」
などと、よく分からない事を言う剣にハーミアは苦笑いで対応している。
アインは馴れたものなのだろう、全てを無視している。
だが永遠と続く剣のマシンガントークを遮ったのはアインだ。
「あんたはどうしてここにいるんだ?」
ハーミアはようやく状況を説明することができた。
途中で「おい! 俺のエピソードゼロもしくはゼロから始まる異剣世界生活~ポロリもあるよ~の邪魔をするなよ」と邪魔が入ったのは言うまでも無い。
ハーミアはこれまでの事を説明した。
カルディナ遺跡に調査に赴いた事。
その最中に床が崩落した事。
そして獣や魔物に襲われ命からがら逃げ出した事。
「崩落か」
ハーミアの説明を聞いたアインの感想はそれだけだった。
それ以来口を閉ざす少年。
代わりとばかりに話を始める剣。
ハーミアには聞きたいことが山ほどあった。
ここはどこなのか?
何故遺跡の下に洞窟があるのか。
何故剣が喋るのか?
何故少年はここにいるのか?
そして少年は何者なのか?
だがそれは少年の発する雰囲気で聞けずにいた。
「アイン」
突然に剣の声が鋭くなる。
ああ。——と返答するとアインは走るのを止めハーミアをその場で待機させる。
「次の角を曲がると、おそらく例の場所だ。お嬢さんはどうする? ここで隠れているか?」
剣の真剣な問いにハーミアは言葉を詰まらせる。悩んだ後に動向する事を願い出た。
ハーミアは生存者達を少しでも早く手当てをしてあげようと思ったからだ。
この場に残る。と言うだろうと予想していた自称エクスカリバーとアイン。
一方は「ひゅ~」とわざとらしくその勇気を揶揄し、一方は無言のまま見つめたあと視線を反らす。
「あんたが死んだらこのネックレスは貰うからな」
とだけ言い。聞こえるか聞こえないかの声量で「俺から離れるなよ」と付け足した。
「え?」
「いくらで俺を雇う?」
「お、お金ですか?」
「それ以外に何がある」
「美しいお嬢さん。さっきから俺の事をちょいちょいシカトしてるけど俺の声聞こえてるよね? この冷血男は金でしか動かないしょうもない男だぞ。のくせに万年金欠男だ。頼むなら私に頼みなさい。この聖剣エクスカリバー様が君を助けてあげよう。だからちょっと俺を握ってくれないかな? 握った後に「硬くて逞しい(裏声)って俺の耳元で囁いてくれればいいから。あっ! 俺の耳ってどこにあるんだアイン? よくよく考えたら俺ってどうやって喋ってるんだ?」
「金に困っているのはお前のせいだろ。あとお前に耳なんて無い——」
「お、お金は今はありませんが必ず用意します! ですからお願いします! 皆を助けて下さい!」
ハーミアの必死さに、僅かにも動揺を見せない少年——アイン——は瞑目した後に歩き出す。
「あ、あの」
「金が無いなら契約はできない」
冷たくあしらうと何事も無いかのようにハーミアから離れていく。
「おいおいアインちゃん? ちょっと冷たいんでないかい?」
「金が無いなら助けない。何度痛い目にあった。決めた事だろ」
「まぁ、そうだけどよ~」
アインと自称エクスカリバーの会話はハーミアの耳に張り付く。
――何故? どうして? 目の前で困っている人がいるのにこの人は助けないのか。
アインの背を見詰めるハーミアは呆然とした。
だがモンスターの唸り声で身を固くした後に、どうしようかと頭を捻り一つの案を思い付く。
「こ、これを担保にして下さい! それ相応の値段になるはずです! 必ずお金は用意しますので!」
ハーミアは胸元から手繰り寄せたのは母から授けられたネックレス。
派手な装飾は無いが大きな青光石が存在を主張している。
足を止め、しげしげネックレスを見るアインは考えた後に、ぶっきらぼうなまま言葉を告げた。
「仮契約としてその依頼を受けてやる」
――ごめんね。お母さん。
ハーミアは震える手で、ネックレスをアイン渡すと仮の契約が行われた。
ーーー
一行は崩落があった場所に向かう。
案内は生物の感知を得意とするやかましい剣。
「次を右だ! 反応は薄いが俺の索敵に引っかかるって事はまだ生きてるはずだぞ」
剣が伝える情報に頷きながらハーミアは走る。
アインは特段反応せずに走る。
すみれ色の目が剣を見る。
――喋る剣。会話をする剣。
理解はしたが納得はまだしかねている。
多くを語らない少年の代わりとばかりに、よく喋る剣は自分を異世界からきた転生者と言っている。
「本来ならトラックに引かれて転生の予定だったんだけどな~家の中で英雄ごっこしてたら階段から落ちて転生だからさ。ちょっと異例なんだよ。テンプレ枠からはみ出しちゃってさ~、まぁ。三十代無職の部類では共通してるんだけどさ」
などと、よく分からない事を言う剣にハーミアは苦笑いで対応している。
アインは馴れたものなのだろう、全てを無視している。
だが永遠と続く剣のマシンガントークを遮ったのはアインだ。
「あんたはどうしてここにいるんだ?」
ハーミアはようやく状況を説明することができた。
途中で「おい! 俺のエピソードゼロもしくはゼロから始まる異剣世界生活~ポロリもあるよ~の邪魔をするなよ」と邪魔が入ったのは言うまでも無い。
ハーミアはこれまでの事を説明した。
カルディナ遺跡に調査に赴いた事。
その最中に床が崩落した事。
そして獣や魔物に襲われ命からがら逃げ出した事。
「崩落か」
ハーミアの説明を聞いたアインの感想はそれだけだった。
それ以来口を閉ざす少年。
代わりとばかりに話を始める剣。
ハーミアには聞きたいことが山ほどあった。
ここはどこなのか?
何故遺跡の下に洞窟があるのか。
何故剣が喋るのか?
何故少年はここにいるのか?
そして少年は何者なのか?
だがそれは少年の発する雰囲気で聞けずにいた。
「アイン」
突然に剣の声が鋭くなる。
ああ。——と返答するとアインは走るのを止めハーミアをその場で待機させる。
「次の角を曲がると、おそらく例の場所だ。お嬢さんはどうする? ここで隠れているか?」
剣の真剣な問いにハーミアは言葉を詰まらせる。悩んだ後に動向する事を願い出た。
ハーミアは生存者達を少しでも早く手当てをしてあげようと思ったからだ。
この場に残る。と言うだろうと予想していた自称エクスカリバーとアイン。
一方は「ひゅ~」とわざとらしくその勇気を揶揄し、一方は無言のまま見つめたあと視線を反らす。
「あんたが死んだらこのネックレスは貰うからな」
とだけ言い。聞こえるか聞こえないかの声量で「俺から離れるなよ」と付け足した。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる