ゴールデンソルジャー

木村テニス

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「いくらだ?」

「え?」

「いくらで俺を雇う?」

「お、お金ですか?」

「それ以外に何がある」

「美しいお嬢さん。さっきから俺の事をちょいちょいシカトしてるけど俺の声聞こえてるよね? この冷血男は金でしか動かないしょうもない男だぞ。のくせに万年金欠男だ。頼むなら私に頼みなさい。この聖剣エクスカリバー様が君を助けてあげよう。だからちょっと俺を握ってくれないかな? 握った後に「硬くて逞しい(裏声)って俺の耳元で囁いてくれればいいから。あっ! 俺の耳ってどこにあるんだアイン? よくよく考えたら俺ってどうやって喋ってるんだ?」

「金に困っているのはお前のせいだろ。あとお前に耳なんて無い——」

「お、お金は今はありませんが必ず用意します! ですからお願いします! 皆を助けて下さい!」

 ハーミアの必死さに、僅かにも動揺を見せない少年——アイン——は瞑目した後に歩き出す。

「あ、あの」

「金が無いなら契約はできない」

 冷たくあしらうと何事も無いかのようにハーミアから離れていく。

「おいおいアインちゃん? ちょっと冷たいんでないかい?」

「金が無いなら助けない。何度痛い目にあった。決めた事だろ」

「まぁ、そうだけどよ~」

 アインと自称エクスカリバーの会話はハーミアの耳に張り付く。

 ――何故? どうして? 目の前で困っている人がいるのにこの人は助けないのか。

 アインの背を見詰めるハーミアは呆然とした。
 だがモンスターの唸り声で身を固くした後に、どうしようかと頭を捻り一つの案を思い付く。

「こ、これを担保にして下さい! それ相応の値段になるはずです! 必ずお金は用意しますので!」

 ハーミアは胸元から手繰り寄せたのは母から授けられたネックレス。
 派手な装飾は無いが大きな青光石アメールが存在を主張している。
 足を止め、しげしげネックレスを見るアインは考えた後に、ぶっきらぼうなまま言葉を告げた。

「仮契約としてその依頼を受けてやる」

 ――ごめんね。お母さん。

 ハーミアは震える手で、ネックレスをアイン渡すと仮の契約が行われた。



ーーー



 一行は崩落があった場所に向かう。
 案内は生物の感知を得意とするやかましい剣。 

「次を右だ! 反応は薄いが俺の索敵に引っかかるって事はまだ生きてるはずだぞ」

 剣が伝える情報に頷きながらハーミアは走る。
 アインは特段反応せずに走る。
 すみれ色の目が剣を見る。

 ――喋る剣。会話をする剣。

 理解はしたが納得はまだしかねている。
 多くを語らない少年の代わりとばかりに、よく喋る剣は自分を異世界からきた転生者と言っている。

「本来ならトラックに引かれて転生の予定だったんだけどな~家の中で英雄ごっこしてたら階段から落ちて転生だからさ。ちょっと異例なんだよ。テンプレ枠からはみ出しちゃってさ~、まぁ。三十代無職の部類では共通してるんだけどさ」

 などと、よく分からない事を言う剣にハーミアは苦笑いで対応している。
 アインは馴れたものなのだろう、全てを無視している。
 だが永遠と続く剣のマシンガントークを遮ったのはアインだ。

「あんたはどうしてここにいるんだ?」

 ハーミアはようやく状況を説明することができた。
 途中で「おい! 俺のエピソードゼロもしくはゼロから始まる異剣世界生活~ポロリもあるよ~の邪魔をするなよ」と邪魔が入ったのは言うまでも無い。

 ハーミアはこれまでの事を説明した。
 カルディナ遺跡に調査に赴いた事。
 その最中に床が崩落した事。
 そして獣や魔物に襲われ命からがら逃げ出した事。

「崩落か」

 ハーミアの説明を聞いたアインの感想はそれだけだった。

 それ以来口を閉ざす少年。
 代わりとばかりに話を始める剣。

 ハーミアには聞きたいことが山ほどあった。
 ここはどこなのか?
 何故遺跡の下に洞窟があるのか。
 何故剣が喋るのか?
 何故少年はここにいるのか?
 そして少年は何者なのか?

 だがそれは少年の発する雰囲気で聞けずにいた。

「アイン」

 突然に剣の声が鋭くなる。
 ああ。——と返答するとアインは走るのを止めハーミアをその場で待機させる。

「次の角を曲がると、おそらく例の場所だ。お嬢さんはどうする? ここで隠れているか?」

 剣の真剣な問いにハーミアは言葉を詰まらせる。悩んだ後に動向する事を願い出た。

 ハーミアは生存者達を少しでも早く手当てをしてあげようと思ったからだ。

 この場に残る。と言うだろうと予想していた自称エクスカリバーとアイン。
 一方は「ひゅ~」とわざとらしくその勇気を揶揄し、一方は無言のまま見つめたあと視線を反らす。

「あんたが死んだらこのネックレスは貰うからな」

 とだけ言い。聞こえるか聞こえないかの声量で「俺から離れるなよ」と付け足した。
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