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しおりを挟む「しかし、あいつの顔——」
しんみりとした空気となっていたが、ふと思い出し、アインは肩を揺らし笑いを堪える。
口臭男の一悶着がよほどツボに入ったのだろう。
「久方振りに笑った。ハミィ。お礼をさせてくれ」
笑っただけの礼ではない。
人として大事な感情を思い出させてくれた事も含まれているが、それを言うと、ハーミアとヨシオがニヤニヤとした雰囲気で、とやかく言われそうなので敢えて黙る。
アインは胸元から大粒の光る石を取り出す。
七色の光を放つ石を繁々と見るハミィは、それがどんな物か理解した瞬間に跳ね上がる。
「こ、こ、こっ、これってもしかして! 黄泉がえりですか?」
「半日前までなら、黄泉の国から連れ戻すことができる」
「じゃあ、これを使えば、アーリーとグレック、それに皆を生き返らせる事が——」
アインは顎を引き工程する。
黄泉より現世に死者を引き戻す伝説級の魔法具をぞんざいにハミィに渡すとアインは背を向ける。
背中には派手な剣のヨシオが別れの言葉を告げた。
「じゃあなハミィちゃん。俺らはもう行くわ! めっちゃ楽しかったぜ! それに本当にありがとな! ハミィちゃんみたいな真っ当な人間は俺らになんか関わっちゃダメだ。それでも縁があったらまた会おうぜ」
「ちょっと待ってください! そんな突然。せめてお礼をさせてください!」
「お礼ならもう受け取っている。あの男の無様な姿とこれだ」
アインの手にはアメールが施されたネックレスが握られていた。
ハーミアが右往左往しているうちにアインは立ち去っていった。
アインを追いかける前に、やるべき事をしてからと決め、急ぎ黄泉がえりを地面に置き死者の復活を祈る。
七色に光る石は極彩色の光を更に強めた後に砕け、塵になって消えていく。
ハーミアの祈りに応えるように、遺跡入り口付近全体が一度だけ強く光る。
「アーミー! グレック! 皆!」
「え? ハミィ? どうしたの急に抱きついてきて、って何で泣いてっ——あれ? ここの床って、あれ? ねぇ——グレック、私たち今まで何してたっけ?」
「何言ってるんだアーミー。寝ぼけているのか? 今日は遺跡調査の三日目で、朝から——えっと、何をしていたんだっけ? 何だか記憶が曖昧だな?」
アーミーは猫によく似た顔に疑問を貼り付けながら、泣きながら抱きつくハーミアをなだめる。
そんな二人を見るグレックは何か気の利いた事を喋ろうとするが、それよりも自身の記憶が曖昧な事に眉根をひそめ、口を噤む。
入り口付近には、崩落で亡くなった人。獣、モンスターに食われた人、全ての人が黄泉がえりを果たしている。
全員記憶が曖昧となっている為、何が起きたのか、自分たちが一度死んだ事すら忘れている。
「そ、そうだ! アインさんにお礼を!」
一頻り泣き終えたハーミアはアーミーの胸から離れ遺跡の外へと向かう。
外は日の光が傾き世界を茜色に染めていた。
辺りには当然アインの姿は無い。
周囲を探すが見つけることは出来なかった。
あまりにも唐突な別れであり、どこか夢を見ているような感覚に陥る。
いっそあの出来事が全て夢だったら——。
ダンジョン。
レギオンス大帝国の秘密。
喋る剣。
少年の過去。
ハーミアにとっては全ての情報を正確に捉えきれていない。
故に夢、幻だったらと思ってしまったのだ。
だが、茜色に染まる視界で母からの贈り物である、青光石がついたネックレスが胸元に無いのも事実である。
胸に手を当てると動悸が早くなっているのが分かる。
世界の秘密を知ってしまった高揚なのか、動揺なのかはハーミア自身も分かっていない。
今はただただ、アインが去っていったであろう方角を見つめる事が、この胸の高鳴りを抑える唯一の手段であった。
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