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しおりを挟む「大混戦ですね」
「あぁ」
目的地はもう目と鼻の先という場所で一行は状況を見据える。
見たままの感想のハーミアにアインが答える。
ヨシオは黙秘したままである。
入り口前は遠くからでも大混戦が見て取れた。
緑色の群れは止む事なく襲い、ソルジャーと生徒は迎撃する。
「ハーミア様! 危ないのでブティカの後ろに隠れてください」
「ありがとうブティカさん。でも様付けはせずに普通に呼んでください」
「尊し! ハーミア様尊し! いえ下賎な私程度が呼び捨てなど恐れ多い。ハーミア様こそ、私などにはさん付けをせず、豚とお呼び下さい!」
「いや、何で? じゃあブティカと呼ぶので私のこともハーミアと——」
「ふぎゅっ! ツッコミスキルの高さ! 新たな一面! 結果尊し!」
ブティカが悶えながら叫ぶ。
メガネ三つ編みの少女は実に良いキャラであった。
「黒の剣士よ。どう見る?」
「どうもこうも、アンタと同じ意見だ」
「やはりそうか。となると見晴らしの良い場所かの?」
「だろうな。あの岩場か——」
「あっちの小山か。ふむ」
ガロクとアインの会話を側で聞くハーミアには何一つ理解ができないでいた。
ブティカに二人の会話が分かったのか聞こうとしたが、ふぎゅ、ふぎゅと悶えるばかりで話にならない。
アインが顎で指した場所は、村から離れた遠い岩場である。大小様々な岩で積み重なりそれなりの高さとなっている。
ガロクが視線を送るのは小高いう山である。
山というほど立派なものではないので、せいぜいが小山といった印象となる。
「あの、二人は何を話していたのですが?」
「ふむ。どうにもゴブリンの動きが妙なのでな」
ハーミアの問いにガロクが答えた。
狼の鋭い眼光がゴブリンの大群を捉える。同じようにアインも見ていた。
ゴブリンの動き? ハーミアはその言葉を念頭に置きゴブリンの大群を見据える。
そこで、ある事に気付いた。
いや、気付いたというよりは終始感じていた懸念を口にする。
「——連携している」
ハーミアの言葉にアインは微笑む。
「ハミィちゃん流石だぜ! あのゴブリンどもは前衛、後衛、均衡、回復でそれぞれ役割をこなしながら戦ってるんだよ。ゴブリンは基本バカだからな、獲物目掛けて真っすぐ向かってしかこない。なのに今村を襲っているやつらは連携している。ゴブリンにそんな知識ないはずなのによ、どうにも妙だぜ」
「む? 黒の剣士よ。今お主が喋ったのか?」
「おっさん! 俺だよ、俺、聖剣エクスカリバーたる俺様が喋ってるんだよ」
「なんと!」
ガロクは興味深いと言い、繁々とヨシオを見る。
ブティカも同様に悶えるのを止め、ヨシオを眺める。
「喋る剣なんて初めて見ました! 凄いです! どういう原理となっているのでしょうか? それに、ハーミア様とお知り合いなのですか剣の方?」
「まぁな! ハミィちゃんと俺は固い絆で結ばれたマブダチだぜ! なぁハミィちゃん?」
「えぇ。ヨシオさんと私はあの窮地を力を合わせて脱出した友です!」
「ふぎゅ! 広さ! 交友関係の広さ! 新たな一面尊し! 魅力が止まらない!」
「うん。ハミィちゃん。うっすら気付いてたけどよ、俺、このブティカって娘。スゲー苦手だわ」
ブティカの奇行にヨシオのテンションが明らかに下がっている。
「我が祖国でも喋る剣など聞いたこともない。面妖な」
「ハミィちゃん。この狼の人、すっごい近いからどうにかしてくれない?」
ハーミアはヨシオの焦る様子可笑しく笑っていると、——良い加減にしろとアインが一喝する。
「お前ら、今はゴブリンの対応が先決だ」
「アインさん、ごめんなさい」
「ふむ。確かに黒の剣士の言うとおりだ。すまない」
「うぅ。すみません。ブティカ反省します」
「え? この流れ俺も怒られてるの? アイン? 俺被害者みたいなもんだよ」
「うるさい。黙っていろ」
納得いかない。と愚痴りながらもヨシオは黙る。
「ゴブリン達が連携するとは到底考えにくい。あいつらの知能の低さであの戦闘スタイルは無理だ。という事は——」
「——誰かが指揮している、となると。さっきアインさんとガロクさんが言ってた、岩場や小山にゴブリンを指揮している者がいる。という事でしょうか?」
アインの言葉をハーミアが紡ぐ。アインの表情は綻び、返答する。
「その通りだ」
「ふむ。中々に気骨がある娘だな。ハーミアと呼んでも構わないか?」
「ふぎゅぎゅ~! 名探偵ハーミア様ここに誕生です。真実はいつもハーミア様です~」
「うん。俺やっぱりこの娘苦手だわ。真実はいつもハーミア様ってどういう事?」
ガロクにはもちろんと答え。ブティカとヨシオには苦笑を返す。
一瞬緩んだ空気だが、直ぐにアインの言葉で張り詰めた雰囲気へと戻る。
「連携の練度は高い。どんな奴が指揮しているのかは全く謎だ。あの騎士団達は油断したんだろうな。そこにゴブリンの高度な戦術返り討ちにあう。場所も悪かったのだろう、奴らの住処の本拠地を襲いに行き、おそらく大量の罠に掛かったのだろう。それと協力者もいたはずだ」
「ふむ。同意見だな。このままではいずれ均衡は破られ、ゴブリンどもの蹂躙が始まるだろう。時間も限られている。早めに勝ち鬨を上げねば取り返しのつかない事になる」
アインの言葉にガロクが続く。
連携を止め、巻き返せばこの戦は勝利で収める事ができる。
「じゃあ、指揮者はどちらにいるのでしょうか?」
ハーミアの声にアインとガロクが難色示す。
岩場か小山かで決めかねているようだ。
一秒でも早く連携を止め、形勢逆転を狙うなら選択は間違えられない。
二手に分かれる案もあるが、指揮者の周りには当然のように護衛のゴブリン達もいるだろう。
そうなると戦力を割くのは得策ではない。
このメンツのまま攻めるのが最善手である。
だが、一団で攻めてもし、指揮者がいなかったら、その時間はおおきな損失といえる。
アインとガロクはそれが分かっていた故に、行動に移せずにいた。
「あっち、だ。あっちから黒い波動を感じる」
誰しもが彼を見た。
ヨシオに至っては、誰だよお前! と声を荒げていた。
「あなた、大丈夫ですか?」
ハーミアが声を掛けた相手はゴブリンに襲われかけていた男子生徒。
彼はいまだ震える指先を向け、振り絞るように声を出す。
「だ、大丈夫で、す。凄く怖かったけど、た、助けてくれてありがとう」
酷くやつれた少年だった。
髪や服には泥がつき、みすぼらしさが際立っている。
死の恐怖はいまだに彼を縛り付けている。
その姿はあの日の——ダンジョンで死にかけた自分に重なり——ハーミアは沈痛な面持ちになる。
「話は、聞こえていました、僕は感知系のスキルがあるので、あなた達の言う指揮者はあの岩場の方にいるはずです。あ、案内するします。助けてくれた恩を返させてください」
「ふむ。この者の瞳からは嘘を感じない。信じる価値はあると思うが、皆どうだ」
ガロクの声に皆が肯定し岩場を視認する。
ゴブリンを指揮する者の正体確かめに、その場を掛けた。
アインのみ、眉根を潜めた状態で首を傾げた後、走り出した。
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