ゴールデンソルジャー

木村テニス

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「どうして、ここに?」

「やぁ、ハーミア君。ここに現れるなんて予想外だね。優秀過ぎるのも考えものだね」

 ハーミアは動揺し周囲を見渡す。
 爆発の余波で生まれた煙はもうどこにもない。

 まず目に付いたのはガロクである。
 祈祷師のゴブリンの自爆に巻き込まれた男は、軽度の火傷のみであり、二刀を構え、ブティカを守っている。
 ブティカはガロクの後ろで風魔法を生成していたようで、彼女の周りが淡い緑色の光を発している。
 煙を風で消しさった事が想定される。
 サマラの姿が見当たらない。爆発の衝撃でどこかに飛ばされてしまったのだろうか?

 中央にはアインがヨシオを抜き、だらりと構える。
 対峙する相手は——。

「先生? どうしてここにいるのですか?」

「うん。この場では適切な言葉ですね」

 アインの対峙する相手は、ハーミアの質問に答えた後、法衣を翻し合唱する。
 覗く肌は緑色。合掌する指は三本。
 無機質な両生類の目。
 蛙族のリーマ教員はハーミアに微笑むが、その笑顔はそうにも不自然さが見て取れる。

「先生が、ゴブリンを操っていた指揮者なんですか?」

「なるほど。大方の自体はのみ込んでいるようですね——」

「ごちゃごちゃ煩い蛙だ」

 ハーミアは恐る恐る質問し、リーマが答える。
 それすらも煩わしいとばかりにアインの一閃がリーマを捉える、だがヨシオの刃が触れた瞬間に陽炎のようにぼやけ、スルリとそのまま横薙ぎに振るわれた。

「物騒なお方だ。仏の力で貴方という人間を正しく導いてあげたいところだ」

「ふん。ゴブリンの指揮をする事が仏の本懐だとでも言うのか? とんだ生臭坊主だな」

 アインはどこか余裕のある笑みでリーマから距離を取る。
 リーマの体は実態がないように、それこそ煙のように揺らぎ出す。
 幻影である。
 何かの魔法で幻を作り出しているのだろう。

「黒の剣士よ! そいつが今回のゴブリンの親玉なのか?」

「リーマ先生! どうして? 本当にそうなのですか? ブティカは信じられません!」

 ガロクの言葉にアインは一瞥を送る。それは、何かの合図のようであり、ガロクは頷き二刀を握りしめる。

 ブティカの問いにリーマは、さも残念そうな声色で答える。

「ブティカ君。君には分からないだろうけど。これは壮大な計画に基づいた行動なのだよ、ある場所に赴くための——君には、いや、君たちには分からないだろうがね。その場所に行けるのであれば——そう、そこに行ければ、何もかもが上手く行くのです——」

 それからリーマはどこか自分に酔った言い回しで——ある場所に行ければ、行きさえすれば、全てが覆される——とう不明瞭な言い回しを永遠と繰り返した。

 ハーミアはアインを見る。
 敵の弁舌を許すほどこの男は甘くない。だがどうしてか動かない。
 何かの意図があると察する。

「——え? ア、インさん?」

 ハーミアの視線に気付いたのかアインが振り向くと、黒い瞳がはっきりと自分を捉えている事に気付いた。
 アインはただ見られている事に気付いて見返したのだろうか? いや、違う。この男は戦闘の場でそんな愚劣はしない、前回のダンジョンで、命を賭した場でそれは証明されている。
 であれば何か意図があるはず。

 ハーミアは瞬時に考えを巡らせる。
 ゴブリンの指揮者、ダンジョンのボス部屋のようなこの空間。リーマの話。そしてゴブリンを指揮するその理由——大きなすみれ色の目は見開かれ、驚異の集中力でそれらを思案する。
 体感でいえば一時間ほどたったであろうか、だが実際にはほんの一分程の出来事である。 
 知恵熱を出すほどに考え出したハーミアの額には汗が張り付く。

「最果てのダンジョン」

 導き出した答えを呟く。
 リーマの目が見開く。
 アインは薄く微笑み、それが正解である事を示した。
 
 ガロクとブティカは聞きなれない単語に、互いに顔を見合わせ首を傾げる。

「ハーミア君。どうして、最果てのダンジョンを知っている——」

「リーマ先生こそ、どうして最果てのダンジョンを知っているのですか?」

 互いの出方を伺うように、二人は睨み合う。
 僅かに膠着状態が続くが嘲笑がそれを破る。

「アインさん?」

 アインの嘲笑うような笑いにハーミアは戸惑う。
 ハーミアだけではなくリーマも戸惑う。
 もちろんガロクとブティカも戸惑いを見せるが、それらを気にせずに黒の剣士は、ある場所を指差す。

「そら、役者が揃ったぞ——ヨシオ。今日はよく眠れそうだ」

「ひゅ~! この戦闘狂め! だが嫌いじゃないぞアイン」

 アインが指差す場所にはサマラがいた。
 爆発の余波に巻き込まれたのだろうか、対角の壁際まで移動し横倒れになっていた。

 呻いている事から生きているのが分かるがどうにも、様子がおかしい。
 サマラの体が発光している。光はどんどんと強くなると、広い空間を多い尽くす程であった。
 光はやがて螺旋をとなり、一人の人物をこの場に呼び寄せる。否、自ら赴いたという表現が正しい。

「ん? なんだこの状況は?」

 白金色の髪と高級な鎧。
 高圧的な態度で周囲を見渡した後に、異空間と化した螺旋の出入り口から踏み出し地に足をつける。

 クリス・アンシュタイナーは舌打ちし声を荒げた。

「お前らの顔は見たことがあるぞ、まさか貴様らがダンジョンマスターだとでも言うのか?」

 ハーミアの目は見開き、アインは狡猾な笑みを貼り付け言葉紡ぐ。

「おい蛙。所詮はお前も駒の一つに過ぎなかったという訳だ、帝国というのはそういう国だ。人の願いや犠牲は皇帝らの前では塵芥も同然だ」

「そんな、で、では。私の願いは、最果てのダンジョンを見つければ帝国に叶えてもらう、我が宗派の自由化は——」

「一個人の願いなど聞く訳がないだろうが、この阿呆め。貴様はダンジョンマスターをおびき出す餌に過ぎす、お前がダンジョンマスターを呼び寄せる事ができない場合はあそこの白金男の消される段取り。といった所か——」

 瞬時にして剣が襲いかかる。
 それはクリス・アンシュタイナーの剣である。
 受け止めたのはヨシオの刃。アインがリーマに向けられた剣の軌道を防いだ形になる。

「ほう。俺の剣を受けきるとは、やるな!」

 クリスは値踏みするように黒の剣士を見据え次の攻撃を繰り出す。

「この状況は、よくは分からんが——この場にいる全員を殺せば俺の任務は完了としよう」

「高圧的だな白金小僧。だが——」

 ヨシオを翻すと同時に距離とるアインは「嫌いじゃない」と呟きクリスとの戦闘を開始する。

 数秒二人の戦いを見ているだけでも分かることがある。
 アインとクリスの戦闘スタイルは真逆といえた。
 ――
 いつものように泥臭く、あるもの全てを利用して攻撃をしかけるアインは勝利を欲するハイエナといえる。
 クリスの剣は華麗である。優雅である。一手一手には気品のような気高さがある。

 そんな二人の戦闘だからこそ見るもの全てを魅了した。
 ハーミアは混乱を忘れて見入ってしまう。
 ガロクも、ブティカもである。
 拷問を受けていた男も、犯されていた女もである。

 そして両者の攻防は拮抗していた。
 故に、強者同士の殺し合いは美しさが見出されていた。
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