佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

御結頂戴

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番外 ジャズを嗜む喫茶とは?

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 喫茶グレイブスは、ジャズ喫茶だ。

 しかし、和祁かずきにはその「ジャズ喫茶」というものがどういう店なのかいまいち解らない。昨日は丸一日店を開けていても客が来なかったし、和祁はと言うと初日の仕事は掃除と準備・後片付けしかする事が無かった。

 確かに店内にはジャズ……のような曲がほんのりと流れているが、和祁はジャズがどういう音楽なのか解らないので、聞き間違っているかも知れない。
 今日も開店して一時間、相変わらず客が来ないが、この店は大丈夫なのだろうか。もしやジャズとは暇という意味が有るのかと勘繰ってしまう。

(つーかそもそも、なんでジャズ喫茶なんだ? なんか理由が有るのかな)

 この人外だらけの世界で珍しい喫茶店を開くのだから、何か意味があるのではないだろうか。丈牙じょうがは見た目だけなら和祁と同じ「人間」にしか見えないし、今のところ尻尾や角なんかも見当たらない。
 丈牙自身も、その辺りは黙して語らなかった。

 ――――知りたい。何故、この店をこんな場所で開いているのか。

 そう思うと好奇心の虫がうずいて来て、ついに和祁はカウンターの中でカップを拭いている丈牙に声をかけてしまった。

「あの……丈牙さん……」
「店では店長と呼ぶように」
「て、店長……あの、そもそもの話、ジャズ喫茶ってなんなんですかね?」

 窓際のかごの中ですぴすぴと寝音を立てている黒猫……速来はやきを見ながら言うと、丈牙は「なんだそんな事か」とでも言わんばかりに眉を上げて肩を竦めた。

「なんだ、今の若い奴はジャズ喫茶も知らないのか」
「いや、人間の世界ではほとんど見かけないんで、知らなくて当然かと……」
「ああそうか……ジャズ喫茶が流行ってたのはもう数十年前だったか……」
「そんな昔なんスか」

 そりゃ知らんわと眉根を顰める和祁。
 まるで丈牙が悪いとでも言わんばかりの顔をする和祁に、何か失敗したかのように沈痛な面持ちで顔を覆う丈牙だったが、それならば説明せねば仕方がないと、何かに疲れたかのような声で説明しだした。

「ジャズ喫茶というのは、平たく言えば客にジャズを聞かせるための喫茶店だ。それくらいは解るな?」
「はい」

 ジャズと言う音楽のジャンルは知っているので、とりあえず頷く。
 そんな和祁に丈牙は胡乱うろんな目を向けたが、まあいいかと続けた。

「昭和の頃は、良い音響でジャズを聞くための場所だったり、反骨精神の溜まり場だったりしたが……今は普通に喫茶店として使ったり、雰囲気を楽しむためという奴も増えているな。人によっては外国のレコード……ええと、曲をリクエストしたりという事もあるが、今では趣味人しか寄らん喫茶店になっている所も珍しくない」
「まあ……入りにくいですもんね……。俺なら、入った途端追い出されそうだし」

 この店がもし人間の世界にあったとしても、学生の自分には敷居が高いように思えて、まず入ろうとは思わないだろう。
 しかも良い音響だのなんだのと言われると、余計に気軽に入ってはいけない所なのだと敬遠してしまうに違いない。だが、丈牙はそんな事は無いと首を振った。

「今は、一見さんお断りなんて事はないぞ。ジャズの初心者にも丁寧に教える店主がほとんどだからな。それに、佐世保のジャズ喫茶は、米軍さんや外国人が普通にガヤガヤやる中で曲を流すのが普通だったんだ。礼儀がどうとか、リクエストありきたりだとかしちめんどくさい事は言わん。そんな奴は気取り屋か露悪趣味なだけだ」

 その言葉に少々臆した和祁だったが、丈牙が言うには「この店にはそんな無粋な客は来ない」との事だったので、安心して言葉を返した。

「じゃあ、俺みたいなのでも入って良いんですか?」
「ああ、高校生だって遠慮しなくていい。文句を言ったり必要以上に騒ぎ立てたりしなけりゃそれでいいんだ。そんな事は、普通の喫茶店だってそうだろう?」

 普通の喫茶店、と言われても、日本全国にあるチェーン店にしか入った事が無いのでよく解らないのだが、あれと同じというのなら理解出来る。
 要するに、店でしか食べられない料理を楽しみに行くのと同じという事だろう。

 ジャズ喫茶は、料理やコーヒーだけでなく、曲を楽しみに行く場所なのだ。

 高級な料理店だと誰もが静かにするというし、ジャズ喫茶もそう言うお店だったのかもしれない。丈牙の話を聞く限りでは、コーヒーなどもこだわっているせいで高いらしいので、やはり喫茶店とはちょっとお高くて大人な店なのだと和祁は感じた。

(この店はなんでかメニュー表に値段が書いてないけど、店長に聞いた所によると俺達の世界では『コーヒー一杯八百円』とかすげー値段すんだもんな……。やっぱ大人の店なんだな、喫茶店ってのは……)

 一品の値段の高低で高級な場所だと思い込んでしまった和祢だったが、まだ高校生になったばかりの少年ならばそう思っても仕方のない事だった。

「なんにせよ……値段的には、俺にはおいそれと入れない所なんですね」
「まあ……そこは仕方ないな。だが、ジャズは良いものだぞ。……そうだ、初心者にお勧めの、町で良く聞くジャズを教えてやろう。帰った時に物知りだと自慢出来るぞ!」
「え、えええ……」

 遠慮しますと言いたいが、教えてやろうそうしようと目を輝かせて立ち上がる店長に、平店員がはっきり言える訳も無く。
 その日は、みっちりとジャズ講座を開かれてしまったのだった。



 後に、ジャズ喫茶はほとんどの店主がジャズが好きで店を開くのだと聞かされたが……丸一日ジャズについて延々と語られたせいで、和祁は頭がパンクして喫茶店の説明しか覚えられず、ジャズの曲は結局二三曲しか頭に入らなかった。

 何故丈牙が「この人外の世界で、ジャズ喫茶などと言う珍しい店を始めたのか」はよく解らないが、どうやら丈牙はジャズが心の底から好きらしい。
 それだけは、嫌と言うほど理解出来た和祁であった。










 
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