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こぎつね望む露の花 (この章だけ喫茶要素少なめです)
8.独楽勝負、決着
しおりを挟む「ぎんぺ、かつえす!!」
気合を入れて独楽を両手で持つ銀平に、蔵子は余裕の表情で笑いながら、さらりと自分の髪を手の甲で撫でる。
「ふんっ、大した自信ですわね? 人化の術も使えない鈍ぎつねにワタクシのコマを弾き飛ばせるのかしら?」
「うぅう~~! ぎんぺ、どんぎつねじゃないえす~~!!」
黒い足で地団太を踏みながらきゅうっと顔を顰めて怒る銀平に、和祁は慌てて冷静になるように声をかけた。このままでは怒りに囚われて負けてしまう。
「お、落ち着いて銀平! ちゃんと練習したから大丈夫だって!」
「あう……う、うう、そうえした! ぎんぺ、がんばいあす!!」
和祁の声に今まで一生懸命に練習して来た事を思い出したのか、銀平は落ち着きを取り戻し、小さな二本足でしっかりと立つと蔵子をキッと睨んだ。
「あら……覚悟はしてきたようですわね。ではよろしくて!?」
「あい! ぎんぺ勝ったら、くらこは、あやあるれす!」
「ふっ……その狐らしい思い上がり、わたくしが叩き潰してあげますわ!」
……和祁が考える狸の妖怪と言うのは、お気楽でお人好しで騙されやすいという、憎めない存在だったのだが……どうも、年月を経るごとに狸の妖怪達にも変化が起こっていたらしい。
彼女が“一般的な狸妖怪”という訳ではないのだろうが、しかしはやり落胆は禁じえなかった。昔話で見たような、腹鼓を打つ狸にはもう会えないのかも知れない。
(いや、まあ、女の子が腹鼓を打つのはちょっと駄目だと思うけども……)
そんな事を考えている和祁の目の前では、既に先攻はどちらにするかを決める話し合いが行われている。これは蔵子が自信満々で先攻を宣言し、銀平が後攻――蔵子の回した佐世保独楽に自分の独楽をぶつける方となった。
「よし、二人とも用意は良かとね?」
「あい!」
「よろしくてよ」
「では――佐世保異界を司る主……“還珠守乃縣主”の名に於いて、この妖狐イナマキが正当なる決闘の審判を執り行う! 両者、構え!」
銀平と蔵子が、それぞれ独楽を投げる体制を取る。
イナマキは双方が準備を整えたのを見やって――両者の間に手刀を降ろした。
「初めッ!」
凛々しい声に、先攻の蔵子が動く。綺麗に体を捻り独特の姿勢で独楽を握った蔵子は、勢いよく独楽を放った。
「うおっ!」
「あのおんなこども、やる」
速来の言葉に、思わず声を出してしまった和祁も頷く。
銀平に勝負を挑んだだけあって、蔵子の独楽は勢いよく回っている。何か独特なオーラまで見えるような気さえ――
「あれ……? お、俺、目がおかしくなったのかな、なんかコマの周りにモヤモヤとしてキラキラしたものが見えるんだけど……」
「和祁、それが妖術の気。あのおんなこども、コマに術かけて強くしてる」
「そ、そんなのアリ!?」
「妖怪戦うとき、それ普通」
思わず驚いてしまったが、まあ人間のようにただ独楽をぶつけ合うだけで妖怪達が満足するわけも無いだろう。
今更ながらに銀平は大丈夫なのかと振り返ったが……それは杞憂だった。
「いくえす……!」
銀平が独楽を両手で挟んで、目を閉じながら何事かを呟く。
すると銀平の背後からゆらゆらと陽炎が立ち上がって来て、色を纏い、ある一定の形に姿を変えだした。
「なっ、なんですのそれ!?」
驚く蔵子を余所に、銀平はなむなむと呟きながら、己の気で練り上げた陽炎をしっかりと作り上げた。その形は――人の手。そう、銀平は己の気を練り上げて、二本の人間の手を作り出したのである。
これが、和祁が思い付き丈牙が修行させた、銀平の新たな技であった。
「やった、上手く行ったな銀平……!」
和祁が「生き霊は分割された魂の一部」という話を覚えていたのが幸いだった。
丈牙が言うには、妖怪や人外は人間とは違い魔法にも似た「妖術」という力を使うための力が内在しているらしく、それを充分に練り、教わった術として放出したり、本能から来る意思を練って外へ出す事で、様々な現象を引き起こせるらしい。
それゆえ、彼等は「霊体」という物に関しては全くの手つかずで、知識はあってもそれに関する考察などを行うことは滅多になかった。
自分達の力よりも数段劣る効果のソレを、学ぼうとは思わなかったのである。
だが、和祁は人間であるが故に妖術を扱う力は無く、丈牙も和祁を生き霊にして現世に戻す事しか出来なかった。そのため、生き霊に関する事を説明したのだが、その説明は生き霊体験を経た和祁にとってはまさに学ぶべき事だったのだ。
――そして和祁は、異界や妖怪の事に関しては全くの門外漢だ。
“霊体”と“気”が厳密に言えば異なる事も、知らなかった。
だからこそ「生霊は練度を上げれば物を掴める」というおかしな話を覚えており、銀平の「気を練る事が出来る」という項目にそれを絡める事が出来たのである。
「練」ると言うのなら、生き霊と同じ原理だろうと思って。
結果、それは大成功だった。
「なっ、なんなの、なんですのよそれー!!」
「ぎんぺの、にゅーすきうの“ふたうれろーろー”れす!」
うろたえる蔵子に、銀平は強い声でそう発し独楽を上に放り投げた。
刹那、銀平の体から立ち上る陽炎に繋がれた腕は両手で独楽をキャッチして、銀平の腕に巻かれていた縄を取りしっかりと独楽に巻き始めた。
「くっ、う、うぅ……!」
当初のもくろみが外れ、蔵子がたぬきの耳を徐々に伏せ始める。
しかし、銀平はそれを見て慢心する事も無く、しっかりと独楽を持った自分の使役する腕に号令をかけた。
「いけーーー!」
腕がぐっと振りかぶり、独楽に青い色の陽炎を纏わせる。
縄にまでその炎が伝導したと思った刹那――銀平の操る腕が、勢いよく縄を引いて独楽を射出した。
「なっ……!?」
蔵子の絶句する声をかき消すように、青い炎をまとった独楽は回転しながら一気に待ち受けていた蔵子の独楽にぶちあたる。
刹那、金属を思い切り打ち合わせたような音がして、蔵子の独楽が揺らいだ。
「そっ、そんな! わたくしのコマが!」
「負けないえすううう!」
銀平の稲穂色の毛並みが一斉に逆立ち、尻尾が何倍にも膨れ上がる。
ふつふつと何かが沸騰する音が聞こえると同時に、銀平がまとっていた陽炎が独楽と同じ透明な青に染まり、周囲にいくつもの青い狐火が現れ出した。
その姿は、最早可愛らしい子ぎつねの銀平ではない。
牙を剥き出し眉間に皺を刻んだ、立派な狐の妖怪であった。
「ひっ……!」
銀平の剣幕に、思わず蔵子は意気を失くす。
その、刹那。
「――――!!」
ぱぁん、と風船がはじけたような音がして――――
蔵子の方の独楽が、真っ二つに割れて互い違いの方向に吹き飛ばされた。
「あ……あぁ……」
蔵子が、絶望的な表情で己の独楽を見比べ、そうして銀平の独楽を見やる。
いまだに青い炎を纏い回り続ける銀平の独楽を。
……もはや、決闘の続行は不可能だった。
「それまで! この決闘……蔵子の独楽の大破により、勝者は銀平とする!」
イナマキが再び二人の間に再び手刀を入れ、審判としての決定を下す。
蔵子もその決定を覆す事は出来なかったようで、たぬきの耳を伏せて、尻尾を力なく萎れさせたのだった。
「は、はぁあ、ぎ、ぎんぺ、勝ったえす……?」
全身の毛を逆立てていた銀平は、もそもそと毛を宥めながらイナマキを見やる。
すると、イナマキは美しい微笑みを見せ、銀平の頭を優しく撫でた。
「良うやったね、銀平。“二腕灯籠”……凄い術ば身につけたもんたい。あたしの弟子としても、鼻ん高っかばい!」
「え、えへ、えへへ……! あいあとごじゃあす、おししょさま! かじゅきしゃん、はやきしゃ! しょうぶは、ぎんぺが勝ちあしたー!」
二腕灯籠を治めていつもの可愛らしい子ぎつねに戻った銀平は、てとてとと小さな二本足で一生懸命に走って来て、和祁の腹に思い切り飛びつく。
ふかふかの尻尾を犬のように振り回しながら目を細めて喜ぶ子ぎつねに、和祁も嬉しくなって笑いながら頭を撫でてやった。
「頑張ったな~、銀平!」
「あい!」
「良い戦いだった、ギンペは強い戦士だ」
「えへ、えへへ……」
和祁がふかふかの銀平を抱き上げると、両手が自由になった銀平は黒い前足で照れたように自分の顔をふにふにと揉んで寄せる。
その仕草がまた可愛くて和んでいると、速来が今しがた思い出したように、肩の上から和祁に問いかけて来た。
「ところでカズキ、にゅーすきるとはなんだ」
「…………え、エヘ……いや、アニメとか漫画でよく言うよねって思って……」
「マンガ? アニメ?」
「う……し、知らなかったか……。ごめん……」
昨今のアニメでは新しい技を覚えるとスキルだのなんだのと言っているし、妖怪の世界でも少しは異世界っぽい雰囲気に浸ってもいいではないか。
そうは思うが、和風の妖怪が「にゅーすきる」は確かに変かも知れない。
(やっぱもうちょっと和風で攻めるべきだったかな……)
そういう事ではないのだが、真剣にそちらの方面を考えている和祁に、いきなり鋭い声がぶつかってきた。
「きぃいいい! 認めませんわっ、認めませんわぁああ! お米のとこの鈍ギツネのクセして、こんな術っ、絶対、絶対わたくし認めませんんんぅぅあぁあああん」
後半が変な泣き声になったと思ったら、蔵子は先ほどまでのお嬢様らしいツンケンした様子は何処へやらで、子供らしく地面に背を付け手足をじたばたと動かしダダをこねまくっていた。恐らく、あれが蔵子の素なのだろう。
「こら蔵子、勝負ばきちんとして負けたっちゃけん、そこはちゃんと認めんと!」
「やですやですわやですわああああ! こんなの認めません私が年下の銀平に負けるなんてええええええ! ……ハッ、そうですわ!」
先程までギャンギャンと泣き喚いていたというのに、何かを思いついたのか蔵子はぴょんと起き上がり、真っ赤な顔で鼻を啜りながらこちらを指さしてきた。
「ふっ、ふふふふ……! まだ勝負は付いてませんことよ、銀平!」
「はえ」
「あなたそう言えば、前から“露の花”を欲しがっていましたわよね? そのお花……わたくし達の住処にありましてよ!」
その言葉に、銀平の耳がぴんと立った。
「ほ、ほんろえすか……!?」
目を丸くして口を開く銀平に、蔵子は不敵な笑みで笑って頷く。
「ええ、分けてあげてもよろしくってよ。でも……ただであげる訳には行きません。花を渡すために、試練を受けて貰いますわよ!」
「……試験……?」
何が何だかわからないが、どうして急にそんな提案をして来たのだろうか。
怪訝そうに顔を歪める和祁と速来だったが、蔵子は二人の様子など気にせず、仁王立ちで勝ち誇ったように微笑んでいた。
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