佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

御結頂戴

文字の大きさ
43 / 66
迷惑な客と幻のデザート

17.嬉しいお礼と嬉しくないお礼がある

しおりを挟む
 
※ちょっと短いです





 
 
(ああ、なんか……人の為に物を作るって、いいもんだな……)

 例えそれが必要に迫られての事だったとしても、これほど喜んで貰えるのなら、これ以上に嬉しい事は無い。
 思えばこの店でのウェイターも【異界】に留まる以上はやって貰わねばという事ではじめさせられたバイトだったが、今となっては感謝したいくらいだ。
 例え閑古鳥の店であっても、

「これほどの物を作ってくれたのだから、それ相応の対価を払わねばなるまいな」
「イエース! オフコースデース!」
「おら達もお礼したいだ!」

 山の主が言うのに、サーティンと山童達は手を振り上げて賛同する。
 あまりの勢いに思わずポカンとしてしまうが、しかしそんな和祁を余所に三組は次々に話を進めて行く。

「山の領域を一つやるか」
「とーちゃんそれじゃ世話係断念した意味ねえだよ! やっぱ蜂蜜がいいだ!」
「いえいえ、ここは私がスピリチュアルマジックで……」
「米英の妖術なんぞ信用できるか! ここはやはりワシの力で……」

 なんだか話がごちゃついて来た。
 和祁は別段何が欲しいという訳でも無かったのだが、こうも言い争いをされると流石に申し訳なくなってくる。こんな事になるのなら、対価など貰わない方が良いのではなかろうか。そう思い始めた和祁を、丈牙が肩を掴んで制止した。

「何かを貰えば何かを返す。それが妖怪の掟だ。相手が返すに値すると判断したのなら、それは受け取らなければならないよ」
「そ、そんな……」
「ちょうど良いじゃないか。この際だし、あの事を頼めばいい」
「え?」

 和祁が丈牙を見上げると、相手は任せろとばかりにウインクをする。
 そんな漫画みたいな事をする大人など初めて見た。目を丸して絶句する和祁に構わず、丈牙はもう勝手に会話に割って入ってしまっていた。

「じゃあ、和祁にとって一番為になる事を手伝ってくれませんか」
「え?」
「うぬ?」

 丈牙の言葉に争いを止めて振り向く三組に、提案した本人はにっこりと笑う。

「和祁が早く自分の家に帰れるように、修理中の【時限門】を稼働させる為の仕事を手伝って貰えませんか?」
「ア……そうか、カズキクンは家に帰れずに困っているのでしたネ……!」
「なるほど、そういう事情が有ったのか。妖怪の暮らす地に人間が一人だけと言うのも不思議に思っておったが……」
「カズキ、家に帰えれねえのか?」

 大人たちの話に、山童達が不安そうな顔で和祁を見つめて来る。

「カズキにーちゃん寂しい」
「おうち帰れないの悲しいよお」
「お手伝いするー」
「するー!」

 小さな山童達も事情が解って同情したのか、和祁を元気付けるかのようにぴょんぴょんと飛び跳ねながら口々に言う。
 一気に意見がまとまったようだったが、何故かその事を素直に喜ぶ事が出来ず、和祁は笑おうとするのに上手く笑えなかった。

(あれ、なんでだろ……)

 自分の事なのに、よくわからない。
 戸惑っていると、サーティンと山の主がそれぞれ和祁の手を取ってニコリと笑った。

「私、トライブに腕利きのカーペンター知ってマース! 私も本職ではないデスが、映像の技術ありマス、役立ってみせマスヨ!」
「ワシも多少、樹木に関する知恵が有る。よいものを食わせてくれた礼と……ワシに恥をかかせぬように気配りをしてくれた恩も少しは返さぬとな」
「オラ達も手伝うぞ!」

 優しい言葉に、また心が疼く。
 しかし、その感情がどんな物なのか和祁には解らず、ただ頷く事しかなかった。











 また明日来ると言って帰って行った山の主とサーティン達を見送り、和祁は今日も変わらず休憩室で夜を迎えた。
 いつものように丈牙も消えてしまっていて、店はひっそりと静まり返っていた。

 夕食も終え、あとは眠るだけだ。
 六畳半ほどの部屋に布団を敷いて、床に就いた和祁だったが……なんだか電気を消すのが惜しくなって、ただその場で寝転がっていた。

 そんな様子を不思議に思ったのか、速来はとたとたと小さな音を立てながら和祁の目の前にやって来て、ちょこんと座りこむ。
 こちらを覗きこむ顔は、不思議そうな表情を浮かべているようだ。
 猫の顔にも表情が有るのだなとぼんやり思っていると、速来が口を開いた。

「カズキ、何故眠らない?」

 問われて、考える。

「……何でだろうな……」

 何故か、眠れない。いや、眠りたくなかった。
 目を閉じたいという衝動は有るのに、しかしそれでも自分の心は「眠るな」と命令を出してきて、眠気を受け入れられずにいる。
 自分でも何故そんな事になるのかが理解出来なかった。

 しかし、速来は猫の目を丸くして……和祁に言葉を放つ。

「眠りたくないのか?」

 ――そう。思えば、その通りだった。
 和祁は、眠りたくない。いや、眠るのが酷く怖かったのだ。

 何故なら眠ってしまえば明日が来るから。
 起き続けてもどうにもならないとは解っていても、眠りに負けて意識を失い大事な時間が消えてしまう事が我慢ならなかったのだ。

「…………そう、だな。眠りたくないのかも」

 どうしてそう思うのかなんて、自分でも判らなかったが。

「家に、帰りたくないのか?」
「え……」
「カズキ、少しも嬉しそうじゃない。人間は家が一番好きなのではないのか。なのに、カズキはここに居る方が嬉しそうに見えるぞ」
「………………」

 速来にそう言われて、言葉を失う。

(ここに居る方が……嬉しい…………)

 それが何故なのか、自分が一番よく知っているだろう。
 だが、それを深く考えてしまえば自分がどれだけわがままな人間なのかも解ってしまう。……本当は、この場所が自分のいるべき場所ではない。自分の事を心配しているだろう母親たちの事を考えると、帰るべきだと解っているのに。

「……なあ、速来。俺さ、この世界に強引に連れられて来た時は凄く驚いたけどさ、でも……俺、お前には感謝してるんだぜ」

 そう言うと、速来は目を瞬かせて首を傾げていたが……何を思ったのか、布団にもぞもぞと入り込んできて、和祁の胸元から首を出した。

「なんだかよく解らんが、俺もカズキと居て楽しいぞ。でも、お前が落ち込んでいると、鼻が渇くし耳が気持ち悪い。あまり落ち込むな」

 なんだかよく解らない内に守り守られの関係になってしまったが、しかし、それでも速来はこちらの事を大事に思ってくれている。
 その事に急に泣きたくなって……和祁は、ふわふわとした長い毛の黒猫を抱き締めた。

「ありがとな、速来……」

 今はそれしか言えないが、とても感謝している。
 速来は、和祁の様子をじっと見つめていたが……小さく猫の声で泣いて、和祁の腕の中に落ち着いたのだった。










 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...