佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

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ジャズの面影とたこ焼き屋

7.盛り場の一匹狼1

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 強引に霊体となった和祁かずきと神奈、そして丈牙がひきいる妖怪二人の合計五人は、地下商店街の通路のすみにひっそりと存在する【時限門】から、今まさに過去の世界へと渡航していた。

 過去への道のりは現世へと変える時と何ら変わりは無く、不可思議に煌めくトンネルのような空間を浮かびながら流されていく。
 ただ、今回はいつもと違ってその空間が少し霞みがかったような色に見える気がしているのだが……――

「過去にさかのぼるのは容易ではない。少し道を間違えれば、二度と元の時間には戻って来れないからな。僕から離れないように」
「は、はい」

 大人らしい事を言って、丈牙は和祁達を振り返る。
 いつものワイシャツとベストとスラックスという格好のせいか、この空間にはミスマッチなように感じてしまってどうも違和感を感じてしまう。
 速来はやき宗源火そうげんび、それに半透明の神奈を見ている分にはなんとなくしっくりくるのだが、普通の格好が変に思えるとは本当に不思議だ。

(なんか変な方向に慣らされちゃってるのかな、俺……)

 妖怪の世界で目を疑う事ばかり目撃しているせいで、おかしくないことまで妙だと思ってしまっているのかも知れない。
 だが、それも仕方のない事だと和祁は思った。
 何故なら、まさか過去にまで渡る事が出来るなんて考えもしなかったのだから。

 ――――【時限門】に入れば、時をさかのぼる事が出来る。
 その効果自体は和祁も知っていたが、しかし、神奈達が行きたいと望む過去にまでさかのぼれるようになるとは和祁も思っていなかった。

 まあ、そこまで説明されて無かったから、と言えばそれまでなのだが、和祁にとって必要なことなら丈牙が説明しただろうし、知らない方が良い事も有る。
 だとすれば、和祁がこのことを知らされていないのにも理由があるのだろうが。

(まあ、俺は異界に来てまだ一か月も経ってないもんな……。色々と知らない事があっても仕方は無いと思うけど)

 なにせ、自分はただのバイトだ。
 いつか話してくれるかも知れないが、丈牙の性格を考えると確信は持てない。

(色々良くはして貰ってるけど……実際のところ、店長と俺の関係ってバイトと雇い主でしかないからなあ)

 速来は間違いなくいつも一緒の大事な相棒と言えるが、丈牙に関しては良く解らない。仲間と言うものでもないし、保護者というのも今となっては微妙だ。
 人にばかり働かせてぐうたらしている中年のどこが保護者なのだろうか。

「……お、そろそろだね。諸君、しっかりと付いて来るように」

 丈牙はそう言って、体を下方に傾け始める。
 和祁達も同じように動くと、すぐに体が引っ張られて下へ降り始めた。

 段々と視界が薄暗くなり、一番真下に光が見えて来た。

「あ…………――――」

 光の中に、体が吸いこまれていく。
 眩い光に思わず目をつぶる、と――――――

「もういいよ。目を開けてご覧」

 丈牙にそう言われて、恐る恐るまぶたを開く。
 すると、目の前には。

「う、わ……」

 真っ黒に沈んだ生々しい色のコンクリートに、背の低い建物の群れ。
 もう薄暗い時間だというのに街灯は恐ろしく頼りない明かりを灯し、そして、周囲の景色は――自分達が居た場所とはまるで違うものになっていた。

「ここは……」
「昭和六十年くらいの頃の佐世保だ。もうだいぶ静かになって来た頃だな」

 そう言いながら、丈牙は今見える風景を説明する。

 白と青に塗り分けられた平屋の不思議な鉄道駅に、広い道路の向こう側にはバスの待合所ではなく公園が広がっている。
 そこには見慣れないみすぼらしい服を着た人が寝転んでおり、公園の向こう側の風景も見た事のない建物が多かった。

「パチンコ屋に……レストラン?」
「レンタカー屋さんとかマンションとか一つもないのね……」
「当たり前だ。ここらへんは本来なら住むより来る場所だからな。今はもうほとんどが潰れてしまったが、昔は駅前も夜には賑やかな場所だったんだぜ」

 そう言いながら風景を眺める丈牙の眼差しは、少し寂しげに思えた。
 もしかしたら、この風景を知っていたのかも知れない。
 だが、丈牙はすぐに気を取り直して「ついて来い」と歩き出した。

「どこに行くんですか?」
「山県町……夜も人の絶えない繁華街だ。建物自体はほとんど違うが、道のりは戦後からまるで変っちゃいないから安心しろ」
「へえ……」

 周囲にはぽっかりと開いた土地なども有って、ここが佐世保とはまるで思えないのだが、しかし丈牙が言うのであればそうなのだろう。
 しかし戦後からと断言できるのはどういうことか。
 まさかその頃から生きている訳では無かろうに。

「いつも思うが、あいつのトシはいくつなのだ?」

 今まで黙ってついて来ていた速来も、さすがに丈牙の事を訝しむ。
 さもありなん。この場に居る全員がそう思っているのだから。

「大人には間違いないと思うけど……」
「私にも解らんな……丈牙殿には神奈の祖母と同じような巨大な祓いの力を感じるが、しかし何か違うような気もするし……」
「ゲンさんでも解らないんだ……」

 神奈の様子では、宗源火は人を見定めるのが上手いらしい。
 だがそのぎょろりとした一つ目も、丈牙にはからっきしだったようだ。

「……本当に何者なのかしらね……貴方のとこの店長さん」

 霊体状態になってふよふよと浮き上がりながら、神奈は訝しげに目の前の背中を見やる。和祁はさもありなんと思ったが、それに答えられるほど丈牙の事を知っている訳でも無かったので、曖昧に笑う事しか出来なかった。

(俺も店長が何者なのか聞きたい……。俺達には『体が足かせになるから霊体になれ』って言ったのに、自分は生身で行動してるんだもんな……)

 生身で門を抜けるなんて、一体どういう人間なのか未だに解らない。
 訝しみつつも、現代の様子と少しだけ重なる所のある道程を歩き、佐世保の繁華街とも言える山県町へと向かう。
 その間に、古めかしい服装の人々とすれ違ったが……やはり、現実味が無い。
 【異界】よりも、自分の世界と微妙に相違のある過去の世界のほうが、違和感が強く感じられるとは驚きである。

(ちょっとだけ自分の時代と通じる部分があるから、妙に思えるのかな……)

 街灯が有っても薄暗い世界に、今とは違う大人っぽい服装をした人々ばかりの歩道。車は四角い輪郭のものが多く、建物ですら今よりも背丈が低く明かりがぼんやりとしている。何より……今ではあまり見かけない「ネオンサイン」という、派手な色をしてビカビカとひかる看板が、妙な異国感を感じさせた。

「ああ、ここだ。ほら、あの夜店通りの細長い公園は見覚えがあるだろう?」

 そう言いながら、丈牙は目の前を指さす。
 ――そこには確かに、一直線に続く通りの中央に伸びた細長いタイルの道が有り、“公園”と呼ぶには少々異質な休息所があったが――そこもまた、今とは少し違い、酔っ払いが座り込んだり妖艶な美女が誰かを待って立ち竦んでいた。

「う……ちょ、ちょっと……入り辛いかも……」
「さあ、行くぞ。この街のどこかにお前らの言うタコ焼き屋台があるんだ。早く見つけないと移動してしまうかもしれんぞ」

 そう言われると行かない訳には行かないのだが、大人ばかりの場所に踏み込むのは、高校一年生の和祁と神奈にはあまりにも躊躇われた。

(う、うう……大人の世界ってちょっと……緊張するな……)

 酒の香りが漂い、ネオンに滲む場所。
 そんな場所が、自分がいつも通行している街の過去の姿だと言われると、余計に知ってはいけない世界を知ってしまったような気がして、和祁は妙にドキドキしてしまった。











※次も木曜更新です、ゆっくりですみません…(;´Д`)
 
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