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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編
7.永久を誓う昔話
しおりを挟むその昔、ラゴメラ村はシルヴァという一つの村しかなかった。
村には禽竜族という人族とは異なる種族が暮らしており、彼らは人族の文明の及ぶ事のない岩山でひっそりと生き永らえていたという。
そんな禽竜族の村は陸の孤島とでも言おうか、塔のように高く長く伸びた石の柱のような地のてっぺんに存在しており、まず人族には手が届かない場所だった。
しかしある時、そんな石塔の大地を発見した人族が居た。
その人族の名は、グランスタ・ラ・ゴメラス。植物学者であり、岩山に咲く珍しい高山植物を調べに来た年若い青年であった。
彼は崖の向こうに見えた肥沃な大地に感動し、なんとかその場所へ行けない物かと、日々山に登り何度も何度も研究し続けた。
禽竜族の住む地は、その時代の人族には辿り着く事が出来ない場所だったが、それでもグランスタは石塔の大地を絵に描写し続け、日々観察を怠らなかったという。
やがて、グランスタは禽竜族の存在に気付き、禽竜族もその植物学者に興味を示す者が現れて、徐々に彼らは人族との友好を深めて行った。
禽竜族もグランスタも友好的で人が良く、彼らはすぐに意気投合し、遂には人族であるグランスタを石塔の大地に招くほどにまでなっていたという。
グランスタも彼らに報い、人族の知恵を乞われるがままに与えた。
その結果、禽竜族の村は大いに栄え、また自然を愛するグランスタの手によって、村の植物はより生き生きと生育するようになった。
だが、グランスタが長く山に留まり、外から資材などを運び込む事によって、石塔の大地の対岸の崖には、ある変化が起こり出したのだ。
それは、他の人族達の流入である。
数十年の交流の末に老齢となっていたグランスタを手伝う為にやって来た助手や、彼らの行動に勘付いた人々が崖までやって来て、村を造り出したのだ。
最初は入植者達にも友好的だった禽竜族だったが、やがて彼らの中に自分達を金儲けの手段として見る悪人や、石塔の大地の植物を奪おうとする人族を見つけ、そんな悪人達と争う内に、彼らは人族と敵対するようになってしまった。
そして、禽竜族は人族の造った村を、地獄を意味する【テイデ】と呼び蔑むようになったのである。そんな暗澹たる時代は百年ほど続いたという。
けれども、そんな時代も恋人達には関係が無かった。
いつの頃からか、グランスタの孫にあたる青年と、禽竜族の中でも人族に好意的な家の娘が恋に堕ち、夜な夜なシルヴァで逢瀬を繰り返すようになったのである。
しかし禽竜族・人族双方の大人達はその逢瀬を許さず、二人は引き裂かれ家に閉じ込められてしまった。
だが、ある時彼らに味方する不思議な旅人が現れ……その旅人が彼らの願いを聞き届けて、大人達を説得し再び彼らの友情を復活させた後――
二人の愛が結びつけた友好として、一夜にしてこの深い谷に長く強固な石橋を作り上げたのである。
「――それ以来、あの石橋は異種族の二人を結びつけた旅人の象徴として、“永遠の愛の橋”と呼ばれているって訳だ。村も、テイデ側の人族と和解したって事で纏めて、俺達に良くしてくれたグランスタの名前に因んで“ラゴメラ”と呼ぶようになったのさ」
面倒臭がらずに教えてくれた親父さんに、俺はただただ頷いた。
「はえー……なんかロマンチックなお話しっすね……!」
村が二つに分かれているのも、地域ごとに名前が分かれているのも不思議だなと思ってたけど……そんな歴史が有っての事だったのか。
しかもかなりキュンキュンくるお話じゃないですか。
ロミオとジュリエットみたいな二人が悲劇に終わらないようにと助ける、魔法使いのような旅人! そして二人の愛が切欠で生まれる両陣営の和解!!
あー、俺やっぱり悲劇より大団円の方が好きだわ~。
物語の中なら悲劇でも良いけど、現実だったらやっぱりみんなが笑顔で終われる方が良いに決まってるよな。何にせよ、良い話だった。
旅人が謎過ぎるけど、こんなお話が現実に存在しているってのが、ファンタジーな世界の良い所なんだよな~ちくしょ~!
「ツカサ君ほんとこう言うの好きだねえ……」
「あったりまえだろ、男なら浪漫を求めるもんだ!!」
なあ親父さんと拳を振り上げて問いかけると、相手は苦笑しながら腕を組んだ。
「浪漫ちっくは判らんが、まあ浪漫は有るよな。村の奴らもよ、あの石橋のご利益にあやかろうってんで、あすこで告白したりする奴も多いんだぜ」
「ムゥ……良い話だ……」
あれ、クロウこういう話も結構好きなの?
ブラックはこう言う他人の話とかに全く興味を示さないので、聞いてもシラーッとしているが、クロウは何だか感慨深げにうんうんと頷いている。
もしかしてクロウも浪漫好き? 好きなの? 語り合っても引かれない?
「クロウもこういう話好き?」
「ああ、好ましいな。特に異種族同士が幸せに結ばれるという所が良い」
「だよな~! 二人が救われて、そこから村全体も変わる所が燃えるわ!」
ゲームでもこういう展開って結構あるけど、問題が一気に解決した時に村人達に感謝されまくるのが堪らないんだよなー!
旅人も実に満足だっただろうなあと思っていると、親父さんは何故か俺とクロウを交互に見やって、何だか嬉しそうに目を細めて頷いた。
「うんうん、そうだよな。お前さん達には身に沁みる話だったろう」
「え?」
「中年の夫と幼な妻ってだけでも一般人じゃ大変だったろうに、そのうえ異種族同士だもんなァ。俺にはその気持ち分かるぜ」
「わー! 違いますぅううう!!」
ああああここでもシアンさんの勘違い情報が広まってしまっていた……って兵士達と交流が有るんだから当然かチクショー!
違います夫婦じゃないんです、と言おうとすると――唐突に背後から強く体を引かれて、俺は何かに背中からぶつかった。
「おい、間違えて貰ったら困る。ツカサ君の恋人は僕だ。そこの駄熊じゃない」
ぎゅっと何かに押し付けられて……自分が、腕の中に囚われているんだと判る。誰に抱き寄せられたのかなんて事はもう、解り切った事だった。
思わず息が引っ込んでしまう俺を抱いたまま、ブラックは親父さんに不機嫌満点な声をぶつけながら、俺の顎を軽く掴んだ。
「今度間違えたら、その羽毛を全部引き千切って谷に落とす」
「――ッ!! こ、こらブラック! ごっ、あ、あの、ごめんなさい親父さん……!」
ブラックの容赦ない底冷えのする台詞に、思わず俺は親父さんに謝る。
だが相手は怒る事も無く、くつくつと肩を揺らして笑った。
「ああ、悪かった。恋人を他の奴のモンだって言われりゃ、そら怒るわな。しかし、随分と愛されてんなぁ、ツカサ君よ」
「う、あ、あの……すみません……」
「気にすんな。そういうのは俺も嫌いじゃねえからよ。だがまあ……人族と俺ら禽竜族は、物の捉え方が違う可能性も有る。しかし悪意が有るワケじゃねえからよ、もし違う事が有れば遠慮なく言ってやってくれ」
おお……粗野な中年とは言え、本当にまともな親父さんだ……。
これでブラック達と同年代……いや、どっちかっていうと親父さんの方がまともな大人って奴なんだよな……大人の余裕、大事にしたい……。
「ツカサ君、なんか失礼な事思ってない?」
「お、思ってない思ってない! えっと、あの、貴重なお話ありがとうございました! 俺達今から畑のある方に行ってみるんで、明日よろしくお願いします!」
「おうよ、まかせとけ」
慌てて話を切り上げて親父さんに挨拶すると、俺は自分を抱えたままのブラックに「行くぞ」と急かし、その場を離れた。
親父さんが言うには、村人達はみんな昼まで寝ているのが普通らしく、朝のこの時間に起きているのは、親父さんと畑や家畜の管理当番くらいらしい。
なので畑に居る奴に交渉すれば良いとの事だったので、畑へと向かう。
どうもこの村は収穫物を村単位で管理していて、個人で何かを育てているって事は無いらしい。小さい敷地だから、一まとめにして分け合っているのかな。
もしくは外敵がいないし農作物も適当にしてても育つから、畑の様子をあんまり気にしてないだけなのかも。
ブラックの腕からやっと逃れて、家屋が並ぶ道を西の方へと歩いて行くと……段々と家が少なくなっていき、道の向こうに段々畑が見えてきた。
畑には様々な野菜が実っていて、そのどれもが無防備に放置されている。
草むしりをしている女性の禽竜族に聞いてみると、やはりここには外敵がおらず、適当にやっても野菜が育つから、みな放置気味で育てているとの答えが返ってきた。
畑に関しても草むしりが当番制である程度で、野菜は村の者なら必要になれば勝手に持って行って良いらしい。
もちろん、俺達も持って行って構わない……と、禽竜族のお姉さん(鳥類ぽくてもやっぱり巨乳は巨乳でドキドキした)は言ってくれたが、しかし俺達は住人ではないので、当番の人が居る時にだけ分けて貰う事にしておいた。
野菜がいつもあるって言っても、やっぱ黙って持ってくのはちょっとな……。
というわけで、俺は改めて当番のお姉さんに話し、いくつかの野菜を貰うと、今日は味を試すためにいったん家へと戻る事にした。
牧畜エリアも行きたかったけど、そっちはまた後だな。
もうお昼になるし、ブラック達も散歩に飽きて来たみたいだし。こういう時はトラブルを起こす前に素直に戻るに限る。という訳で、俺は家の前で警備してくれているナサリオさんに声を掛けた。
「ナサリオさん、ただいま」
「おかえりなさいませ。雑貨店はいかがでしたか?」
「うん。ナサリオさんのお蔭で、親父さん達にすんなり頼めたよ。それと、畑からはお野菜を分けて貰えるようになった」
ありがとう、と言うと、またもやナサリオさんは甲冑をガチャンと動かして、大仰に動くと兜頭をがしゃがしゃと右に左に動かした。
「あっ、あ、あの、きょきょ恐悦至極にございます……っ!」
「ツカサ君やっぱコイツ危ないって。危ない奴だって」
「何が危ないんだよ。兜が落ちそうってこと? それよりナサリオさん、お昼はどうするんですか?」
「あ、あの、交代まであと二刻ほど時間がありますので、その後ですね」
「そうなんですか……」
だったら、お裾分けするのも良いかもな。
自分達を守ってくれてるんだから、それくらいの事はやんないと。
婆ちゃんだって蔵の補修の時には大工さん達にお昼食べさせたり、おやつをあげたりって色々お世話してたんだもん。そういうのが普通なんだよな!
よし、じゃあ今日はちょっと大目にメシを作るか……なんて思っていると。
「つーかーさーくーん……?」
「え?」
ブラックの声が背後で聞こえて、とうとつに脇に手を入れられ抱え上げられる。
思わず「うひゃはぁ!」とか言う変な声が出てしまったが、その時にはもう俺は家の中に担ぎ込まれていて……背後から、ガチャリと鍵が締まる音が聞こえた。
あっ、クロウの奴、鍵締めやがったな。
「おい、ちょっと、話の途中なのに何を……っ」
する……と、怒ろうとして……俺は、振り返ったブラックの顔に絶句した。
「あれほど男を誘うなって言ったのに、まーた誘ったね……?」
見上げる顔は、影のかかった真顔。
どう見ても怒っているようにしか見えない顔だった。
……あれ、これもしかして……俺また何かやっちゃいました?
って言うか誘うって、誘うって何を。誰を。
まさかナサリオさんの事?!
嘘だろアレで誘ったって事になるのはちょっと行き過ぎじゃない!?
「ちょ、ま、待ってよ! アレで誘った感じになるの!?」
「相手がそう思ったらもう誘った事になるんだよツカサ君……」
「ツカサ、気が緩んだな。気が緩むのは、一番いけないことだぞ」
目の据わったブラックの横から、ひょいとクロウが顔を出してくる。
こうなったらもう、何をされるかなんて決まり切っていて。
「ツカサ君……わかってるよね……?」
ああ、はい。お仕置きですよね……ははは……はぁ……。
あの……お仕置きはもう良いんだけどさ、何がどう男を誘ったのかくらいはちゃんと教えて下さいよ。頼むから。
→
※というわけで、次回ご注意ください(´^ω^`)
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