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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
55.敵側の内情って見えにくいよね1
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大変な事態になってしまった。
ナニが大変かと言うと……蚊帳の外だった俺達が、またもや事件の当事者になってしまったからだ。そりゃもう、全く考えもしなかった展開によって。
勿体ぶるのも何なのでハッキリ言うと、あの監視台から煙を見つけて秘密の部屋に行ってみると、そこにはなんと縄でぐるぐる巻きにされたエネさんが居たのである。
そう、色気のない簀巻きみたいな縛り方をされたエネさんが……。
にしても、ご対面した時は本当に彼女を直視できなかった。
顔を煤だらけにしながら、俺達に「早くこの縄を解け」と殺意の籠った目で睨んで来たエネさんの表情は今でも忘れられない。死ぬかと思った。いや、エネさんも死ぬかと思ったから睨んだと思うんだが、多分あの顔は「私が大変な時に外でイチャつきやがって死ねリア充」の表情だったと思う。見覚えがあるんだ俺は。
まあそりゃそうだよな、知らぬこととは言え、俺達はエネさんのすぐ近くでエンゲージしてたんだし、なんならブラックがおっぱじめようとしてたワケで……いかん死にたくなってきた。落ち着け俺。正気を保つんだ。
とにかく、やっとのことでエネさんを発見できた俺達は、すぐにバリーウッドさんに報告し、彼女が落ち着いてから話を聞く事になった。
「まったく……人が拘束されて何日も監禁されているというのに、外で頭が腐りそうなほどの浮ついた会話をするものですから、思わず手が出てしまいましたよ」
狭い応接室に、不機嫌な声が響く。
部屋の中央で向かい合うソファの片方には、俺達三人組。そしてもう一方のソファには、バリーウッドさんと一人の美女が座っていた。
長い耳が麗しい、夢の金髪碧眼巨乳エルフを体現したかのような麗しい姿。そんな美女が、チクチクとした言葉を発しながら湯気の立つカップを口に運んでいた。
そう、彼女はエネさん。
俺達のみならず神族全員が捜していた、シアンさんの部下だった。
……うーむ、それにしても、いつみても本当完璧なエルフさんだ……。
その姿に思わずぽーっと見惚れてしまったが、しかし彼女は今弱っているし、俺達に怒っているのだ。そう、エネさんの気配すら解らずに、呑気にイチャコラしていた俺達に。……ああぁ……返す返すも恥ずかしい……え、エネさんに、エネさんにあの一部始終を聞かれていたんだと思うと、ああもう、あああ……。
「すみません……」
「いやツカサ君謝る必要ないから。完全に独身女の嫉妬だから」
ブラックうるさい。シャラップ!
エネさんは心身ともに衰弱しているんだから、そういう事実無根の悪口はやめろ!
それに監禁されている時は心細かっただろうし……あれっ、ツンツン美女がそんな状況で心細くなってたなんて物凄く萌え……じゃなくて。今だって体力回復のために暖かいスープを啜っていらっしゃるのに、そんな言い方は無いだろう。
弱ってる女子にはいつもより五倍優しくしろって婆ちゃんが言ってたんだからな!
「エネさん本当すみません……」
「ああいえ、ツカサ様は何も悪くありませんのでお気になさらず。全ては状況を考えず理性も教養の欠片すらも無い行動ばかりをする子供脳の老い枯れ中年が悪いのだと私も理解しておりますので」
「殺す、本当こいつ殺す」
「あーもー!!」
「ツカサ、どーどー」
頼むから話が進まない喧嘩をするのは止めてくれ。
クロウと一緒に無理矢理にブラックの口を塞ぎながら落ち着かせると、タイミングを見計らってバリーウッドさんが話を切り出してくれた。
「いやまさか、あんな所にエネがおったとは……しかしおかしいのう……あの部屋は儂が調べたのだが……」
どういう事だったのかのう、と隣のエネさんに聞くと、彼女はカップを置いた。
「無理も有りません。私はずっとあの部屋に監禁されていたのですが、一度外に出されて、それから再びあの場所に連れ戻されたのです。……クロッコの手によって」
「えっ……それって……」
まさか、俺達がクロッコの正体を見破った後の事なのか?
俺だけでなくブラックまでもが一気に緊張してエネさんを見やると、彼女はコホンと小さな咳を一つ零して、それから事の顛末を話しだした。
――エネさんが“ギアルギンの行方”を追って得た情報を届ける為に、このディルムへと戻って来た日。シアンさんに報告をする為に王宮に入ると、その途端に白い煙が満ち始めたのだと言う。それを見て、エネさんはほんの一瞬隙を作ってしまった。
そんなに日常的に警戒しているのか……と思ったが、それはともかく。
エネさんはその一瞬の隙を突かれて、何が起こったのかを確認するヒマもなく……気付いたら、あのアスカーの秘密の部屋に監禁されていたのだと言う。
それで、そこで出会ったのがなんと……――
「そこで、出会ったのが…………レッド・グランヴォール・ブックスでした」
「――――!?」
レッド、て……あのレッド?!
ギアルギンの側に付いている、ブラックと同じ“導きの鍵の一族”の次期統主であるレッドだってのか。でも何で。どうしてこんな所に。
というかどうやってここに……あっ。
「もしかして、ギアルギン……いや、クロッコが……?」
アイツが“移送”の特技を使って、レッドを引き込んだのか。
俺達から事前にクロッコ=ギアルギンであると説明されていたエネさんは、俺の言外の言葉にコクリと小さく頷いた。……この事実を話した時も思ったが、エネさんは本当に冷静だ。
他の人達は「そんな馬鹿な」と言わんばかりの表情で、クロッコが悪い奴だって事が信じられない様子だったのに、彼女はそれをすんなり受け止めている。まあ、エネさんはギアルギンの事を知っているし、他の神族達には「謀叛者」という暈した言い方しかしてないから……納得の具合が違うのかも知れないけど。
いや、もしかしたら、エネさんは監禁生活の中で何かを知ったのかも知れない。
そんな俺の予想を裏付けるように、エネさんは口を開いた。
「レッド……様に、聞きました……。私達が追いかけていた憎き犯人は、我々の同族であると。……そして私は……クロッコに、直接会いましたから」
「そうか……だからすんなり先程の話を受け入れたのだな。……冷静に記憶しているのも、大変な事だっただろう」
優しく問いかけるバリーウッドさんに、エネさんは数秒の間を置いて答えた。
「いえ…………薄々、勘付いておりましたので……」
「と、いうと」
クロウの言葉に、エネさんは目を伏せた。
「あの男は、昔から……いえ、正式にシアン様の部下となって下地へと降りる任務を与えられてから、私には少しおかしいように見えていました。……普通の神族なら、下地の知識が有ろうとも大陸に降りる事を嫌がる物です。しかしクロッコの奴めは、嫌がるどころか落ち着かない様子でした。私がシアン様の側仕えとして働いている時、あの男は伝令係をしていましたが……伝令時の行動を記した報告日誌を確認していた時も、どこか首を傾げるような所が多かったのです」
「移動距離が異常だとか……」
「それもありますが、計算してみたら空白の時間が少しずつあったり、何故か特定の場所に向かう時は連泊の申請をして来たり……とにかく、今までの伝令係には無い事ばかりでした。それに何より、あの男は…………同じ神族だと言うのに、いつからか得体が知れない男のように思えて……だから私は、妙だと思っていたんです」
「しかし同族であるという思いから、それもうやむやにしていた、と」
バリーウッドさんの言葉に、エネさんは悔しそうな顔をして瞼を閉じた。
まるで、全てが自分の責任だとでも言うように。
「気付いていたのに、私は同族が罪を犯すはずがないと信じ込んで、クロッコの疑惑を見逃してしまっていました……。本当に恥ずかしいことです……」
「無理もない。我々は、この浮島と共に生まれた太古の昔から、同族を裏切る事などただの一度もなかった。死による裏切りは有れど、それは戦と言う不幸に因るもので……血で繋がった神族達を謀ることなど今まで有り得なかったのだ。純粋に同族を信じる心は誰にも責められる事ではない。……お前はよく頑張ったぞ、エネ」
そう言いながら、バリーウッドさんはエネさんの頭をぽんと優しく叩く。
すると――エネさんは、頬を薄らと赤くし、泣きそうに顔を歪めて……その表情を気付かれたくないとでも言うように俯き、内から来る衝動に耐えているようだった。
そんなエネさんにバリーウッドさんは何も言わず、ただ優しい笑顔を浮かべながら頭を撫でるだけで。その姿はまるで父娘のようにも見えて、何だか微笑ましかった。
「……ありがとうございます、バリーウッド様」
「構わんよ。エネは昔も今も変わらず儂の可愛い娘だ。甘えたい時は甘えなさい」
「っ……も、もう大丈夫です……」
あらやだ赤面しちゃって、エネさん可愛い。
いつもはクールで毒舌なエネさんも、お父さんには敵わないんですね解ります!
あ~やだ~そういうのすっごい可愛いんですけどキュンと来ちゃうんですけどー!
「ツカサ君……」
「あーっとそれで!? レッドとクロッコがどんなお話を!?」
地獄の底から聞こえてくる声みたいなデスボイスを横から放り投げて来るブラックを必死に見ないようにしながら、俺はエネさんに話を促す。
エネさんも俺の言葉を助け船だと思ったのか、軽く首を振っていつもの調子を取り戻すと、息を大きく擦って再び話し出してくれた。
「私が聞いた話は……にわかに信じがたい事ばかりでした」
→
※すんませんちょっと区切ります(;^ω^)
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