異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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酔現嫌夢サプロアリコン、束の間揺蕩う憩いの村編

  苦楽

 
 
「美味いか?」

 まるで叱られる前の子供のように、恐る恐る問いかけてくる幼さが色濃く残る表情。
 今しがた頬張った肉は、無論そこまで良い質の肉ではない。肉屋の腕が未熟なら肉の味は値段以下の味にもなっただろう。

 だが、そんなことは些細な問題だ。

「んん! とっても美味しいよツカサ君っ!」

 下半身を刺激する無自覚な表情に“いつもの調子”で返すと、ツカサはあからさまにホッとしたような顔をして、すぐ嬉しそうに微笑む。
 その笑顔を見ながら肉を噛み締めると、ツカサが手ずから焼いてくれた肉の味がじんわりと口の中に広がり、彼の細やかな心遣いによる“すぱいす”とやらの味が食欲をそそった。

「そっか……! へへ、今日はいっぱい食えよなっ。ロクもだぞ?」
「キュー!」

 最愛と豪語してやまない守護獣の相棒への気遣いも忘れず贈り、小さな背中はいそいそと小さな調理場に戻って行く。
 その心から楽しそうな後ろ姿を見つめながら、ブラックは口の中の肉を噛んだ。

(臭み消しの野草をすりこんだり、塩胡椒だけじゃなくオービルまで使って肉の味を丁寧に美味いと思えるまで調えるなんて……どこの一流料理人かなぁ、きみは)

 いつも思う事だが、ツカサの美食への努力は本当に特異であり凄まじい。
 普通、料理が生業の仕事でもなければ、こうまで食材を細かく扱わないし、街に住む者ですら「調味料」というものを多種に渡り扱う事は無いのだ。
 それは、多国籍な料理が並ぶ【ハーモニック連合国】であっても同様だ。

 例え“すぱいす”を使ったとしても、それは限定的で「一家の伝統」のように守られており、他の調味料を試すような冒険はしない。

 他の国ならもっと酷くて、自宅で摂取する食事など質素……いや素朴なものだ。
 出してくる料理自体、外食のものより数段みすぼらしいものになる。
 例えば、雑穀交じりのパサついた浅黒いパンと、素材の味に任せたスープ。夕食に肉を食べるものの、それはレストランで出るような上等な肉とは言えない。

 村ともなれば、更に酷くなる。名物として料理が広まっているような場所なら満足な食事も出てくるだろうが、そういう名物が有る村や都市は街道沿いがほとんどだ。
 街の住民でも常食しない柔らかな白パンや、素朴でも砂糖がたっぷり入った菓子がどれほど貴重かは言うまでもないだろう。
 これが、普通の人間のいつもの食事なのだ。

 冒険者だって、実入りのない時は同じような――――いや、それより悲惨だ。

 カチカチになったパンをそこらへんの野草で間に合わせた塩スープに浸し、ただ腹が膨れればいいのだと自分に言い聞かせながら喰らう。
 正直な話、食事の質は奴隷とそう変わらない時も有る。
 だがそれ以上にもっと酷い食事も世の中には存在するのだ。

(…………)

 調理場に放置され硬く乾燥しただけのはずが、わざと汚水に浸されカビたせいで噛むことすら体が拒否する古すぎたパン。適当に花瓶から注がれたのだろう嘔吐しても無理はない腐った水。肉という名前で下げ渡されるのは、ロクに焼いてもいない血生臭い切れ端。

 窓の結露を舐める方がよほどマシだと思えるほどの悪意と殺意を煮詰めた「たべもの」が、この世には存在する。
 だが、ツカサはそんな致死の料理など考えもつかないのだろう。

 いつも。いつも、いつも、自分のために「美味しい料理」を振る舞おうとしてくれるのだ。

(僕のために……僕が喜ぶようにって、こんなに手をかけてくれる)

 それがどれだけ嬉しい事なのか、稀有な事なのか、ツカサはきっと知らないだろう。
 だが、だからこそ彼の純粋な善意と好意による料理が嬉しくてたまらないのだ。

(今日の肉だって、色々と用意して絶対に美味しくなるように工夫してくれるし……。本当に、ツカサ君ってば甲斐甲斐しいんだから……)

 そう思いながら噛み締める肉は、過去の苦汁を凌駕する旨味と愛に満ちている。
 肉の味だけではない、薬草の爽やかな香りとオービルの濃厚で肉汁と混じりあう風味が口の中に広がり、いつも以上に肉に対する食欲を増してくれた。

 これほどまでに肉を次から次へ口に運びたいと思う欲求が湧くのは、ツカサが愛情を込めて作ってくれる肉料理だけだ。
 そう思うと、満足感と同時に下半身に甘い痺れが走るようだった。

「ん~、本当にツカサ君たら料理上手なんだから~。この“すぱいす”ってのは、本当に良いねえ。ツカサ君の愛情がもっと感じられちゃうよぉ」
「キュー!」

 さすがに食事中に興奮するのは白い目で見られそうなので自制しつつ、気を逸らすように大きな声でツカサに聞こえるように満足の声を上げると、無邪気なツカサの相棒も嬉しげな鳴き声を出して尻尾と羽をパタパタと動かす。

 そんなブラック達の声が聞こえたのか、ツカサはキッチンで肉を焼きながら、薄い白煙の向こうで照れくさそうにしながら「も、もう、アンタらお世辞ばっかり言うんだから……」と満更でもない笑顔になっている。
 まるで、自分達が喜ぶ事こそが自分の喜びとでも言っているかのように。

(ほんと……ツカサ君ったら、そういう所がずるいんだよ……)

 普段は「人前でほいほい好きだというな」とか「抱きつくな」と愛情を示すのを拒否する癖に、その内心は誰よりもブラックが幸せになる事を願っている。
 食べる時、寝る時、一緒に歩く時。
 どんな時だって、自分の顔を見上げてあどけない顔で真意を探ろうとしてくれるのだ。

 何も憂いが無いように、笑顔でいられるように、と。

 ――――今まで、そんなふうに自分の心を熱心に見つめてくれる人がいただろうか。

(いないな。顔か体、恋に恋して僕の事なんてどうでもいい奴らばっかりだ。……誰かに顔を見つめられる時は、欲望か殺意かそれ以外か……。なんにせよ、僕が幸せであればいいとは思っていないのが殆どだったろうな……)

 シアンや、過去の仲間達。
 彼らは別だが、それでも彼らには「他に大事な物」があった。

 「みんなが幸せ」であればいい。その中でブラックが平気な顔をしていれば「他の大事な人」に顔を向けられる。結局、その「大事」は「他の誰かよりも劣る」ものだった。
 無論、それは当たり前だ。そのことを非難する気も今更だだをこねるつもりもない。
 ブラックとて、心の底ではツカサ以外の有象無象など、どこで死のうが生きようがどうでもいいと思っているのだから。

 だが、だからこそ。そんな「当たり前」に諦めを持っていたからこそ――――

 ツカサが今、こんなにも自分の事を考えてくれているのが、嬉しかったのだ。

(肉なんてさ、ツカサ君が焼いてくれさえすれば生焼けだって喜んで食べたよ。一生懸命に僕が食べる料理を作ってくれるだけで嬉しい。僕のためなら、なんだってよかったんだ)

 そんなにヤワな体ではない。ブラックのために作ってくれるのであれば、ブラックの為にと思って料理を作ってくれるのなら、黒焦げの料理だってかまわなかった。
 カビの生えたパンでも、毒の水でも、生臭い切れ端でも構わない。愛情を持って、自分に何かを与えようとしてくれているなら、躊躇いなく口に運べたのだ。

 なのに、ツカサはいつも手間をかけて、美味い料理を作ってくれる。
 ブラックがかつて想像した「愛」や「おもいやり」以上の無垢な愛情を持って、己に出来る精一杯の力で「憂い」を失くそうとしてくれている。

 その思いを感じられることが、どれほど得難く嬉しい事なのか。

 きっと、愛に溢れたツカサは知らないだろう。

「ほら、今度は野菜でくるっと包んでみたんだ。肉ばっかりじゃ飽きるだろ?」

 お酒に合えばいいんだけど、と細かい気遣いを見せながら、ツカサは何皿めかもう数えるのも面倒臭い皿を差し出す。
 机の上に皿は無いが、今日食べた肉は銀貨一枚じゃ留まらないだろう。

 もとより貪欲に何もかも燃やし尽くしてしまう腹だ。獣人に負けるような胃は持ち合わせていない。だが、料理をし通しのツカサはそろそろ疲れたのではないだろうか。
 そう思ったのだが、ツカサは疲れをみせず微笑んでいる。

 ――苦労なんてしていない。そんな声が聞こえてくるような、満足げな表情だった。

(……そう言えば……あいつらが、昔言ってたな……)

 ブラック以外に「一番大切な人」がいる仲間が、ヒトの穏やかな機微など何も分からない頃の未熟な自分に教えてくれたこと。それが何故か、自然と記憶から浮上した。


 ――――ブラック。ヒトって言うのはね……自分がつらい状況でも、大事な人が憂いのない笑顔でいてくれるなら、それでいいって思えるものなの。それは、ナトラ教における一番に大事な……「愛」という感情のなせる、美しい心の在り方なのよ。


 そう言ってほほ笑んだ彼女の笑顔は……女に、メスに嫌悪の感情を覚えていた自分の心に、何故かすとんと落ちていつまでも心の奥に転がっていたように思う。

 愛。
 あの時は理解できなかったが、今なら解る。

「ツカサ君が教えてくれたんだよなぁ……」
「え、なに? 俺がどうかした?」

 新しい料理を提供し終えたばかりのツカサは、すぐ隣に立ったままだ。
 その幼さを色濃く残す可愛らしい姿に、ブラックは笑顔を返した。

「んーん、なんでもない! ツカサ君が作ってくれた料理が大好きってことっ」

 ニコニコと笑いながら褒めると、ツカサは照れて俯いてしまう。
 本当に分かりやすくて可愛らしい恋人だ。

(ふふ……ツカサ君たら、また僕の顔を見てカッコイイとか思っちゃってるんだから……。そういう分かりやすい顔をするから、僕も我慢できなくなっちゃうんだよ?)

 ツカサは美醜にあまりこだわりがないようだが、しかし美形の顔は美形とちゃんと認識しているし、その中でも特に、特別に、ブラックの顔に弱いらしい。
 真面目な顔だけでなく、緩んだ笑顔ですらこうして照れて目を逸らしてしまう。

 それもまた恋慕というか自分勝手な感情なのだろうが、それでもブラックはツカサからその感情を向けられているのが心地いいと感じる。
 ツカサになら、どれほど欲情されても嬉しいとしか思えなかった。
 まあ無論、自分もそんなツカサにさきほどから下半身が刺激されてしまっているのだが。

(ああ~……ツカサ君可愛い~……っ。なにその顔、もう完全にメスじゃん。僕に首ったけでオスのニオイ感じちゃってお腹の奥きゅんきゅんさせてる完全屈服したメス丸出し……)

 ツカサ自身は気付く事もないだろう。
 だが、ブラックとの濃厚なセックスを繰り返しメスとして躾けられた体と雰囲気は、見る者が見れば不意に色気として視覚に襲い掛かってくる。

 ブラックの顔に照れるツカサの顔は、オスを煽る初心なメスの顔でしかなかった。

 自分の事を「異世界のオスだ」と豪語してやまない自分が、恋人に対してメス丸出しの顔を見せていると知ったら、どういう顔をするのだろう。
 恥ずかしがり涙を浮かべるのか、それとも顔を真っ赤にして可愛らしく怒るのか。

 どちらにせよ、食欲で満足していた自分の体からむらむらとした欲がわき出てくる。
 想像しただけで正直欲望がはちきれそうだった。

(……ツカサ君は、僕が娼彦しょうげんに自分の過去を重ねて傷付いたと思ってるんだろうけど……僕は、アイツを見て過去の自分が殺したいほど憎かった気持ちを思い出しただけで、全然傷付いていないんだよ。なのにこんな、ぼ、僕のことを想って、お酒まで買ってくれて、今も肉で元気付けようって頑張って肉を焼いてくれて……っ)

 確かに今日、調子に乗った娼彦しょうげんと出会ったことで嫌な記憶を思い出した。
 だがそれだけで暴れ回るほど、感情の制御が出来ないわけではない。ブラックとて、遠い過去を思い出しても耐える胆力は持っているつもりだ。

 今回だって、表情には出ていないつもりだった。
 それなのにツカサはほんの少しの違和感を深い愛情で感じ取り、ブラックの心の傷を少しでも軽くしようと献身的に世話を焼いてくれたのだ。

 そんな風に、尽されて。可愛い姿を見せられて勃起しないオスなどいない。
 例え過去の事があろうと、今ツカサに欲情している自分は止められなかった。いや、今の自分だからこそ、過去など関係なくツカサに愛を囁くことが出来るのだ。

「な……なんだよ人をジロジロ見て……」

 こちらの凝視に気が付いたのか、ツカサは照れながら小さな唇を少し不満げに窄める。
 そんなことをして、吸い付かれないとでも思っているのだろうか。いくら自分の魅力に自覚が無いと言っても、煽るのも大概にして欲しい。

(あ~……どうしよ、お腹が満足したら今度は性欲が我慢できなくなってきちゃった)

 ツカサの愛で腹が膨れたせいか、今日は勃起を堪えるのも一苦労だ。
 そう考えて、ブラックは「いや、待てよ」と発想を転換した。

(っていうか、ツカサ君が僕を満腹にして僕を煽ったんだから……やっぱり、このムラムラはツカサ君が責任を取ってくれないとダメだよねえ?)

 そう。悪いのは自分ではない。
 こんな男と知っていて恋人になり惚れこんでいるツカサが悪いのだ。

 自覚が無いにしても、煽るだけ煽って後は放置なんて許されない。
 やはり、責任はきっちり取って貰わねば。内心でニヤリといやらしい笑みを浮かべながら、ブラックは自分の立場を今一度振り返り、一瞬でツカサを絡め取る算段を立てた。

「ねえツカサ君……」
「な、なんだよ」

 ツカサがすぐ“弱くなってしまう”顔は、当に知り尽くしている。
 即座に甘えたような情けない顔つきになると、ブラックは隣に立っていたツカサの腕を掴み、自分の方へと引き寄せた。

「ここのお風呂さ、二人で一緒に入れるくらい浴槽が広いんだって」
「う……」
「……一緒に入ろ……? だめ……?」

 いつもよりちょっと正直に言いすぎた気がするが、自分も思ったより興奮しているのだろうか。だが、嫌な気分ではない。愛するツカサを堪能したいと思う感情は、いくら膨れ上がっても気分を悪くさせるようなものではなかった。

 そんな自分の姿を見て、ツカサは顔を真っ赤にする。
 きっと、風呂でいやらしい事をされるのではないかと想像したのだろう。

 もちろん大当たりだが、それを言うと一緒にお風呂に入ってくれなくなるので言わない。

 ただ目を潤ませて見上げるブラックに、ツカサは美味しそうな赤面顔を見せながら、細かく震えてぐるぐると考え込んでいるようだった。
 この「考え込みすぎて無防備になっている姿」が、一層欲をそそる。

 握った手の素肌や柔らかくすべすべしていて、思わず唇を這わせたくなる。
 その小さな口も、ふにふにした頬もたまらない。ゆったりしたシャツに隠された、男としては未成熟なままの中性的な体つきも、むっちりとした肉感的な太腿や丸い尻も想像するともうたまらない。彼が感じる場所全てに舌を這わせて快楽で泣き喚かせる想像をすると、下半身は最早隠す術もないほどにズボンを突き上げてしまっていた。

 だが、その猛りはテーブルの下だ。
 今はただ、ツカサには効果覿面の「おねだり顔」で、目を潤ませて返事を待つ。

 そんな自分に、ツカサはゆるゆると視線を戻したが――――泣きそうな顔で更に顔を赤くしながら慌てて顔を逸らし、なんとか口から言葉を零した。

「し……仕方ないな……っ。きゅ、ち、違う。きょ、今日! 今日、だけだからな……」

 あまりに動揺し過ぎて、「きょ」ではなく「きゅ」と言ってしまったのか。
 バカだ。バカだが、可愛い。可愛らしくて、愛しくて、早く犯し尽してめちゃめちゃにしたくてたまらない。ブラックの為にその身すら差し出そうとしてしまう健気で純粋な愛に、もう素直な分身は汁すら滲ませかけている。

 それもこれも、全部ツカサのせいだ。
 ツカサが可愛すぎるから。
 ツカサが自分を愛しているとその全身で語りかけてくるから。
 ブラックの全てを受け入れて許してしまうから。

 だから、こんなにも自分は――――過去とはまるで違う、本当の自分でいられる。

「ふっ、ふへ……ぅへへ……っ! げ、言質とった、とったからねええっ」
「だからそういうキモおじみたいな言い方するなってば!! ばか!!」

 罵倒にすらなっていない可愛らしい罵りに股間が痺れるが、まだ隠したい。
 ブラックは「わーい!」と子供のように甘えた声で喜びながら、ツカサの腕を引いてぎゅっと抱きしめたのだった。












※月報のアレで遅くなったのですが
 それはそれとして寝すぎました…土日の睡眠恐ろしい…
 今回も遅くなって申し訳ない_| ̄|○

 次もブラックおじさん視点です
 いちゃいちゃえちえちは続く( ˘ω˘ )フフ…

 
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