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謡弦村アルフェイオ、陽虹を招くは漆黒の王編
2.独断専行すると後が怖い
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そもそもの話、この馬車はどこに向かっているのか。
「はぁ……は……はおぇっ、おげっ」
「あっ、ご、ごめんよ。早馬は山鯨馬とは全然違うし、酔っちまうよな……。でも、もうすぐ山小屋に着くから、それまでもう少し辛抱してくれよ」
幌馬車の端でえづく俺に、先程から背中を向けたままの女性……らしき人が、元気付けるように声をかけてくれる。それは嬉しいんだけど……ここは一体どこなのか。
見た所、この場所は国道たる草原の大きな広い道からずいぶんと外れている。
馬車がやっとすれ違えるほどの狭い道に、周囲は草がまばらになり石ころが目立ち始めたような感じだ。少しずつ登っているが……もしかしてこれは、山を登っているのだろうか。そう言えば、空気がさっきよりもだいぶん冷たい。
ブレザーの俺にはちょっと寒く感じるのだが、そう言えば何か薄ら霧がかってるな。【大地の気】がぷかぷか浮かび上がってるから遠くまで見渡せるけど、それでもこの場所がどのへんなのかよく把握出来ない。
草が少なくて徐々に岩地……ってことは、やっぱり山なのかな。
「うぷっ……」
吐きそうになりながらも四つん這いで動き、幌馬車の昇降口から後方を見やる。
背後の道は霧で霞んで見えなくなってしまっているが、やはり緩やかな傾斜があるように見えた。……でも、ここが高地だとすると……帰るの大変なんじゃ……。
う、うう、アイツと出会うのが遅れると何だか悪い事になりそうな予感がする。
こうなったら、現在地を聞いてここから街を目指さないと……。
「あっ、見えてきたぞ!」
「うぶぇっ!?」
うごっ、い、いけねえ、驚いて一瞬込み上げてくるところだった。
慌てて御者台の方に移動して、お姉さんらしき人の背から前方を覗く、と……霧の向こう側に少し小高い場所があって……そこに、ぽつんと小屋が立っていた。
あれは……山小屋? でもなんだってこんな殺風景な所に。
よく解らなくてジッと見つめていると、馬車は速度を更に緩めて山小屋につけた。
「さ、とりあえず中に。山の夜は冷えるから」
そう言いながら、やっとこっちを振り向いてくれたのは……なんと、野性味と言うか泥臭さは有るけど勝気で男勝りな感じの格好いいお姉さんではないか!
あっああっやっぱりお姉さんだったっ! 高山地っぽいカラフルなセーターみたいなチョッキを着て、ロシア帽みたいな形の色鮮やかな模様が縫い込まれた帽子のせいで、男か女か測りかねていたが……やはり正体はボインなお姉さん!!
まさかのお姉さんとドライブデートなんて、嬉し過ぎる……! すっかり吐き気がふっとんでしまったじゃないか!
へ、へへへ……二次元美少女のエロ画像をこよなく愛するオタクな俺ではあるが、やはり美女とお近づきになるのはやぶさかではない。
何だかよく分からない内に連れて来られてしまったが、お姉さんと一緒なら山小屋でも馬小屋でもどこでも参りましょうとも!!
……てな事を思いながら、ガッチリと皮で防御された男物のようなズボンを穿いたお姉さんのあとに続いて、山小屋に近付く。
そういえばお姉さんは帯剣しているが、もしかして女戦士なんだろうか。
寒冷地っぽい部族の女戦士ボインお姉さん……は、はぁあ……たまらん……!
異世界ってのはこういうファンタジーな出会いがあるから辞められないわ。
あっちの世界じゃエロオタ呼ばわりで遠巻きに見られている通称「エロ猿」の俺も、こうして美女と行動できるんだからなフハハハハ。
「おい、みんな無事か!」
男勝りな喋り方のお姉さんは、山小屋のドアをちょっと乱暴に開く。
すると、開いた瞬間に「わあっ」と声がして、四人の子供が飛び出てきた。
そうして、彼らは何かに怯えたようにお姉さんに抱き着く。小屋の中は何も無く、火も焚いていないような有様だ。ここで、子供達四人ずっと待ってたのか……?
「アー姉ぇえ」
「うえぇえっ、暗いよぉっ寒かったよぉ」
「…………」
「おせーんだよバカ姉!」
一人だけ凄くヤンチャな坊やがいるが、でも四人ともしっかりお姉さんに抱き着いて離れないので、彼らは相当親しい間柄なんだろう。
でも……なんでこんな場所に子供だけで四人も?
「みんな、無事なようだな……良かった……。今日は霧が濃い。この小屋で朝を待つ事にしよう。さあ、火を焚いてやるから入って。ええと……」
そう言いながら、お姉さんは俺の方を見る。そう言えば名前も言ってなかったな。
「俺はツカサ。潜祇 司って名前です。お姉さんは……」
「あはは、アタシの事をそんな風に呼んでくれるのかい? ただのアレイスで良いよ。まあ……色々話もあるが、小屋に入って温まろう」
言われるがままに子供達と一緒に入り、俺は小屋の扉を閉めた。途端、アレイスと言うお姉さんは懐から小さなランプを取り出し、ねじを緩め中の石に水を落とす。すると、石が煌々と発光し始めた。あれは【水琅石】だ。水に触れると発光する石で、水を垂らし続けると最後には蒸発しちゃうファンタジー素材なんだよな。
この世界では、ちょっとお金が有ればこのランプを買えるんだけど……でも、村人や一般的な街の人達だと、勿体ないからって【水琅石】より安い蝋燭を使う。
【水琅石】のランプを持ち歩いているのは、昼夜問わず探索をする冒険者か、夜に仕事を行うような人達だけだ。……ということは、アレイスさんも何かの仕事人なのかな。不思議に思いつつも、中央に囲炉裏のような四角い窪みがある少し高くなったところに靴を脱いで上がる。
「おや、ツカサはポートスの礼儀を知ってるんだねえ」
「珍しい」
「よそものなのに珍しいねえ」
「……うん」
「変な格好してるのにおっかしいでやんの」
やんちゃな坊やシャラップ! まあでもこの服装じゃ仕方ないか……。
でも「ポートスの礼儀」ってなんだろう?
囲炉裏に残っていた小さな炭に、火打ち石を何度も撃って火を点けようと頑張っているアレイスさんを見ながら、俺は首を傾げる。
「ポートスの礼儀って?」
一番近くに居た、三つ編みを二つぶらさげた可愛い女の子に問いかけると、その子は目を泳がせてもじもじしながら、やんちゃな坊やの後ろに隠れた。
でも、真面目な性格なのか答えてくれる。
「あ……あのね、ポートスは私達の一族だよ……」
「ま、平原人じゃあ知らなくたって当然だよなあ! 平らなとこばっかり歩いて頭がボヨンボヨンになっちまってる奴らだし!」
「こらレドル! ごめんね、コイツちょっと生意気でさ……」
そう言って謝る素敵なアレイスさんに、俺は構わないと手を振った。
「いえいえ、男同士だし、このくらいの言い合い慣れてますよ」
つーか平原人とか言われましても、俺異世界人だからよく解んないし。
それより、お姉さんとしてしっかり叱るアレイスさん、素敵です……!
でも、さっきから火打石が仕事してないみたいで困ってるな。これは俺の出番ではないのかな。ふふ、もしかしてこれって良い所を見せるチャンスでは!?
「アレイスさん、もし良かったら俺が火を点けましょうか?」
「えっ? キミも火打石持ってるのかい?」
「いえ……そうじゃなくて……」
俺は囲炉裏に近付いて、いくつか残ってる炭を中央に集め両手で覆った。
そうして、集中して……。
「どうかこの僅かばかりの命に、炎を与えたまえ――【フレイム】……」
誰かに願うように、小さく呟いた瞬間。
小さな炭に炎が宿り、赤々と燃え始めた。
「わあっ! ひ、火だよアー姉!」
「手から火が出た……」
「っ……!」
「なっ、なっ、お、お前、まさか……ヨージュツシとかいう奴か!?」
レドルというヤンチャ坊やにそう言われて、俺は頷く。
「と言っても……炎の曜術は、この初歩中の初歩の【フレイム】しか使えないけどな。俺の本職は、木と水を操る【日の曜術師】だ」
そう言うと……背後から、何かを二つ落とすような音がした。
何事かと咄嗟に振り替えると、そこには石を落とした格好のままで瞠目して固まるアレイスさんが居て。どうしたんだろうかと目を瞬かせると、彼女が凄いスピードで俺に近付いて来て、ぎゅっと手を握って来た。
えっ、えっ!?
なにこれ春ですか俺にも遂に春到来ですか!?
待って待って俺にはもう婚約者がいやいっそハーレムだけど嫁に来ないか!
「良かった……こんな所で偶然【曜術師】に出会えるなんてっ! た、頼む、お礼は何でもする、だから頼む、明日アタシ達の村に――――アルフェイオに来て、アタシ達を助けてくれ……!」
ん?
今なんでもするって言った?
…………なんてネットで良く見る言葉が頭をかすめたが、涙ぐみつつ俺を見つめるお姉さんに、そんな外道な事など言えない。
俺は一瞬躊躇ったが……気が付けば、とんでもない事を言ってしまっていた。
「俺に出来る事が有るかは解りませんが……とにかく、連れて行ってください!」
自分でも、状況を考えずによく言ってしまったなと思う。
でも、健全な青少年ならこの状況は仕方がないんと思うんだ。
その時の俺の頭の中には、お姉さんに格好良い所を見せたいと言う男らしい思いと、あわよくばえっちな事にならないかなと言う期待と、女性に頼まれたら断れないというスケベ精神の三つしかなかったんだ。
魅力的な女性に迫られたら、そりゃあ頷かずにはいられないでしょ男なら!
……しかし良く考えたら、ここでアレイスさん達に付いて行ったら“アイツ”にどんな酷い目に遭わされるか判ったもんじゃなかったのだが……おっぱ……ゴホン、魅力的な女性が大好きな俺は、アレイスさんの嬉しそうな顔を見て、そんな懸念など全部吹き飛んでしまっていたのだった。
だ……だって仕方ないじゃない。
俺はオタクとして二次元美少女のえっちな画像も大好きだけど、ファンタジー世界の女子も大好きなんだから!
……………。
あ、後でどうなるか怖すぎるけど、今は想像しないようにしておこう……。
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