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謡弦村アルフェイオ、陽虹を招くは漆黒の王編
1.道に迷った哀れな転移者
かつて、たった一人のために閉じられた道が有った。
全てを捨て追った者、拒むために追った者、その二つを繋ぐ者。
道は戦いの場とも繋ぐ場ともなり、そして終わる場になった。
そう、終わり。
道は、二つの世界の全ての意志を持って閉ざされることになったのだ。
もう二度と、その二つの世界が繋がる事のないように。
もう二度と――――二人が出会う事のないように、と……。
「あっ、あれ!? ここどこ!?」
ブレザー姿で学生鞄を持ったまま、俺は周囲をキョロキョロと見渡す。
さっきまで顔見知りの悪友達と語らい別れて、神社の鳥居から『道』を通って順当に“ここ”に帰ってきたつもりなのに……到着したのは、見たこともない場所だった。
「え……えっと……まさか……やっぱり転移システムが不調だった……?」
見渡すかぎりに広がるのは、鬱蒼と茂る森だ。
木々の葉は青々として瑞々しい感じだが、もう既に夕方に成りかけている時分ではその色もじきに沈んでしまうだろう。
他に何かないかと首を動かすが、ヤケにデカい紫&白のまだら模様な実をつけた蔓が絡んだ木か、石ころが散乱する草ぼうぼうの地面しか見えない。空気は澄んでいるけど、空を見上げても重なり合った枝が邪魔をして、まったく空が見えなかった。
要するに、ここがどこだか見当もつかないってコトで……。
「……や、ヤバ…………これ、早く帰らないとヤバいぞ……」
神社のある静かな住宅街とはかけ離れた、澄んだ空気の不可思議な森。
だけど、実を言うと俺は……このような森に、何度か遭遇した事がある。
その経験もあって、ヤバいと悟ったのだ。
どれくらいヤバいかと言うと、このまま夜になるとモンスターが出て来て喰われるくらいにヤバい。装備も何も無い状態じゃ完全に詰んでいる。後衛の俺では、一人でデカいモンスターを倒す事なんて到底出来なかった。
…………うん、世迷言ではない。トチ狂っている訳でもない。
さっきから変な事を言っていると自分でも思うが、残念ながらこれは事実だ。
ここは住宅街ではない。ましてや普通の森でも無い。
俺は、今いるこの世界が……異世界だと、既に理解しているんだ。
だから、こうも焦っているわけで……ああ一人で何を自問自答してるんだか。さっさと森から出なければ。多分、この紫と白のまだら模様をしたデカ果物は、植物型のモンスターだ。触らなければ安全だが、コイツが居ると言うコトは、ここは俺が前回滞在した街とあまり離れていないはず。
幸い、俺にはこの状況を打破できる能力がある。だけど、ソレを使うと制服が凄く汚れるし、最悪の場合破れて大惨事になりかねなかった。
となると……やっぱり、自力で歩いて森を脱出するしかないワケで。
「ぐ、ぐうぅ……ごちゃごちゃ言ってても仕方ない、とにかく森を抜けなきゃ……」
こんな事を考えている間にも、どんどん日は沈んでいく。
この世界は夜になればなるほど凶暴なモンスターが現れるのだ。それ故に、こんな暗い森の中を一人で野宿というのもいただけない。モンスターの中には焚火を目印にしてやってくる怖い人型の奴なんてのも存在するからな。
だから、俺みたいな万年運動音痴の後衛では、陣を張る事すらも出来ないのだ。
早いとこ森を抜けなければいけなかった。
「はぁ……しかし、なんでこう俺ってば、毎回毎回脱出するのに面倒臭い場所に出て来ちゃうのかな……」
一番最初もかなり危険な森の中だったけど、二度目も三度目も「元いた場所」より少し離れていたり、迷子になるような路地裏だったりして、とんでもなく面倒だった。毎回探しに来てくれる“アイツ”には迷惑をかけっぱなしだ。
でも……正直、どこにいても探しに来てくれるアイツには、感謝していた。
「…………」
――どこに居ても、どんなに離れた場所に落ちても、君を見つけてあげる。
そんな気恥ずかしい事を言いながら、人懐っこく微笑む顔。そのだらしない表情を脳裏に思い浮かべると、こっちまで何だか恥ずかしくなってしまう。
もう、何度も言われ慣れているはずなのに……思い出すたびに、胸がドキドキしてしまって仕方なかった。
でも、それは変な事じゃ無い……はずだ。
だって俺は……そいつと、ずっと一緒に居るって決めたんだから。
「…………迎えに来てくれるまでは、一人で頑張らないとな」
素肌の胸に触れる“大事な物”をシャツの上からぎゅっと握りしめ、俺は日が暮れてしまう前に森を出ようと、必死に歩を進めた。
俺をいつも見つけてくれる相手に、なるべく迷惑を掛けないように。
……しかしこの森、存外見通しは良かったようで、少し暗くなってくると行くべき道が自然と森の木々の隙間の向こうに現れてくれた。
「おっ…………」
植物型のモンスター達が、蔓にぶら下がってケタケタと笑う先。
暗い森を外側から照らすようにして、光が広がっている。まるで、トンネルから外の世界を見ている時のようだ。
夜に近くなったから、きっとあの平らな森の外ではいち早く「あれ」が始まったに違いない。こういう時異世界は便利だと思いながら、俺は森を抜けた。
「はぁ……っ。本当、何回見ても凄いよなぁ……この光景……」
森から抜けて目の前に広がったのは――――見渡す限りの大草原。
少し先には横一線に走る大きな道路が有って、舗装されていない地面剥き出しの道が右にも左にも遠く遠く伸びている。
草原を突っ切る、この世界の国道みたいなものだ。
あとは、何もない。
気持ちのいい、微かに花の香りのする新緑の風が草原を渡って、草原をざわざわと揺らして流れていくだけ。この時間帯になると、人通りは滅多にない。
そんな風の音だけが流れる世界に……地面から湧き上がる、数えきれないほどの金色の光の粒子がちらちらと揺れて空へと舞い上がっていくのだ。
……いつみても、幻想的だ。
この世界でなければ見る事の出来ない、夜の不可思議な光景。
最初はぎょっとしてしまうかも知れないが、これがこの異世界の「普通」だ。
この光は、世界を構成する力の一つであるとされる【大地の気】と呼ばれる不思議な力で、昼は目に見えないけど夜はこうして姿を現してくれるんだよな。
俺が今いる大陸では、西の国の方がこうして豊かな生命の光を見る事が出来る。
何度も何度も見てるけど、本当この国……ライクネスの夜の草原は絶景だ。
草原を輝かせるほどの膨大な光は、最早道に街灯などいらないほどだった。
「でもま、ここまで【大地の気】があるって事は……少なくともここは【ライクネス王国】で間違いないって事だよな。じゃあ、それほど街と離れてないのかも」
前回、俺はライクネス王国にあるとある街の宿屋にいた。
そこから“俺の世界”に帰ったんだ。
……となると……まあ、どっちかに歩いて行けば道しるべに出会うだろう。
道沿いにゆっくりと歩きながら、俺は今までの事を指折り数えて確認した。
「えーと……一度目はかなり離れた場所で、二度目がニアピン。三度目が路地裏で、四度目がココ……。うーん……一度目より離れてたら、さすがにヤバいかなぁ」
そうは言うが、俺にはどうにも出来ない。
……実は、この不可思議な異世界に転移して来たのは、偶然ではない。
先程も言ったように俺は何度もここに訪れており、既に仲間も獲得してパーティーも組んでおり、今はそのパーティーで気ままな旅をしているのだ。
俺を迎えに来てくれる「アイツ」と言うのも、旅の仲間だったりする。
とは言え、今のような気楽な旅が出来るようになるまでには、紆余曲折あり陰謀や冒険アリの、辛く苦しい長い長い旅が有ったのだが……まあそんな事を自分に説明してもどうなるワケでもない。
自分で反芻するには恥ずかしい事も色々あるしなぁ、と、素肌に触れる“大切な物”を無意識にギュウッと握る。ともかく、俺はあれだ、この世界でたくさん冒険して、強い敵も倒して、いつも読んでる小説の最強チート主人公達のように、バンバン活躍して俺つえーしたわけだな! うん!
そうして多大なる功績を治めた俺は、この世界と俺の世界を自由に行き来出来る【転移システム】を神様っぽくない神様に作って貰い、今は、その【転移システム】を初めて稼働させながら調整している真っ最中ってワケ。
だから俺はここが異世界だと知っているし、こんな風に迷子になっているのだ。
よし簡単。俺ってば説明上手。
アイツが居たら「頭が悪そうな説明だなぁ」とか言われそうだけど、実際俺は頭を働かせるのが得意ではないので、放っておいて欲しいと思う。
迎えに来てくれるのは良いけど、一々棘のあることを言うんだよなあ、あの中年。
そう言う所はちっとも変わんないや、などと不満を漏らしていると。
「…………お?」
何かが遠くからこちらに走って来る。
あれは……馬車だ。
この世界では時々見かける、一本角を生やし蹄に獣の爪を持った青毛の美しい馬が引く幌馬車が、こちらに物凄い勢いで近付いて来る。
あれは【争馬種】という種類のモンスター【ディオメデ】だ。元々野生の馬だったので家畜用として飼い慣らして日が浅く、今はまだ一般的ではないんだよな。
だから、早馬として庶民あこがれの馬となっているんだっけ。
しかし……何故あんな必死に走っているんだろう。
蹴られたら嫌だなと思い、回避するために草原の中に入って突っ立っていると――馬車が凄まじい速度でこちらに向かって来て、唐突に止まった。
ぎゃあ、砂煙! 砂煙がすごい!!
「ちょっ、きっ、君、なに一人でぼーっとしてるんだい! こんな所に一人でいたら危ないよ、早く乗りな!?」
そう言いながら、砂煙の中で誰かが俺を馬車へ引っ張り上げる。
今の声は……あれっ、ちょっと待って、俺なんで馬車に乗ってんの?
「はいよー!!」
バシン、と鞭の音がして、またもや馬車が豪速で走り出す。
「あばばばばばばばばっばびっばっうばばば」
ちょっ、は、早い、馬車が飛び跳ねてる、痛い、衝撃を和らげてくれるサスペンションが無いからケツが痛い!
なにこれどうなってんの、どういうこと!?
「くっそぉ……これじゃ間に合わないなぁ……!」
なんだか辛うじてお姉さんの声が聞こえる。
あれっ、お姉さん? もしかして俺ってばお姉さんと相乗りしちゃってる?
その予感に思わずドキッと期待に胸が高鳴ってしまうが、すぐに爆速尻叩き地獄に落とされた俺は、アバアバ言いながら馬車に掴まっている事しか出来なかった。
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