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謡弦村アルフェイオ、陽虹を招くは漆黒の王編
8.誤解を解くのは難しい
◆
――――いや、あのね、ツカサ君。
誤解しないでほしいんだけど、僕別に盗賊の仲間になった訳じゃ無いからね?
って言うか、ツカサ君が悪いんだよ!
こんな所まで攫われるから、僕もツカサ君を追いかける途中で盗賊どもとひょんな事から知り合って、用心棒に雇われちゃったんだからね!?
だから僕わるくないもん!
ツカサ君がこんなややこしい辺鄙な寒村までやって来てるのが悪いんだもん!
え? だからって悪人と徒党を組む事は無いだろうって?
ツカサ君なのに難しい言葉よく知ってるねえ、あっ、いたたっごめんごめんって。
許して~。ねっ、僕ツカサ君の恋人だよ? 婚約者だよ? ねっ、ねっ!
ツカサ君のいけずぅ。はいはい続けますよ説明しますよ。
……で、さっきも言ったけど僕は別に盗賊に組してる訳じゃ無いよ。
あくまでも途中で雇われただけ。別に協力なんかしてないよ。あーもちろん村人も襲ってないってば! 信用無いなぁ……ぐすん。
それにさ、付いて来たのだってアイツらが『霧の壁』の簡単な渡り方を知ってるって言うから、ツカサ君を連れ戻すのに都合がいいなって思って……。
え? 挿れたまま喋るなバカって?
うーんもう仕方ないなぁ、じゃあ続きはあの盗賊どもの巣であいつらをぶっ殺した後ゆっくりと…………あっチクショウ、もう負けたのかクソッタレどもめ!
えっ? なに、僕も逃げろって?
なんでさぁ! せっかく会えたのにぃ!
あーもうクソ、夜中にまた来るよ、来るからね! ああハイハイ僕一人で!
……とまあ、これが数日ぶりに再会した恋人のオッサンの弁である。
控え目に言ってもクズっていうかお前本当一発殴らせろ。避けるな絶対にグーパンで一発殴らせろってレベルだが、残念ながら俺はこのゲスなオッサンにおケツの処女どころか婚約の約束まで交わしてしまった身なので口を噤むしかない。
っていうか殴ろうとしてもあのオッサン強すぎて殴れない。ムカツク……。
じゃなくて。
感情はひとまず置いといてアイツ……ブラックの話を総合すると、まあ言っている事は理解出来なくもない。要するに、俺を探すために行きがかり上で盗賊を利用したと言うだけで、悪党と手を結んだわけではないのだ。
ブラックは、ただ、俺を探すために悪気も無く盗賊に付いて来ただけ。
最初から村人を襲う気も協力する気も無かったのである。
……悪党を利用する……なんて、頭のねじが一本外れたブラックらしいが、しかしアイツの外道具合を知らない人からすれば、ブラックのやっている事は普通に悪行にしか見えないだろう。俺だって何やってんだお前と思ったしな。
この村の人達も、悪党に組しただけで烈火のごとく怒るよなぁ……。
なので、俺は誰か……盗賊じゃない奴が来たっぽいのを感じ取って、一旦ブラックの事を逃す事にしたのだ。やってる行動はめちゃくちゃだが、その……アイツが俺の都合なんて考えずにやらしい事をするのはいつもの事だし、メチャクチャなのはもう日常茶飯事って言うか……まあそれでも、最後の一線だけは越えない奴だってのは俺も確信できるから……でなくて、それは置いといて!
とにかく、悪党どもの群れの中に上手く潜り込んだ仲間がいるなら、これを使わぬ手は無いだろう。上手くすれば、あいつらがどうやってこの村を知り、何故襲おうと思ったのかを把握できるかもしれない。しかし、ここでブラックが捕まってしまうと、二度と信用して貰えないだろう。用心棒なのに捕まるなんてただのアホだ。
いくら盗賊でも、そんな奴を再び仲間とは認めないだろう。
だから、俺はブラックを一度逃がす事にしたのである。
幸い、ブラックは俺より何倍も頭が良い。真面目な時は大人だし冷静だし博識だ。
なので、すぐに俺の意図を察知してくれたようで、「おい盗んでいる場合か、早く逃げろ」と馬を盗む役目の盗賊にさりげなく逃走を促し、村人とそれなりに戦った後、馬を一頭奪って颯爽と逃げて行ったのである。
さすがは歴戦の冒険者。演技も立ち振る舞いも堂に入っている。完璧な悪役っぷりと言えよう。馬を奪ったのは完全にブラフだと俺も分かっているし、ブラックは必ず盗賊を上手く言いくるめてくれるから、ディオメデを酷く扱ったりはしないはずだ。
だから、そこは安心していたんだが……俺は、肝心な事を一つ忘れていた。
「ツカサ……大丈夫か……? 温かい茶だ。胃が受け付けなくても飲むんだぞ」
「あの男達に……おお、なんといたわしい……っ」
「…………お前……その……すまなかった……一人にしなければ……」
…………あの、大丈夫です。みなさん警戒に戻って下さい。
布でこんなに包まずとも暖は取れてます。むしろ熱いッス。というかアレはたったの一回だし、俺は大丈夫だし、本当気にしなくて良いです、それにコレやったの俺のツレなんで大丈夫なんですって!
そう、言いたい。言いたいがこの状況でそんな事など言えなかった。
アレイスさんは泣きそうな目をして俺を労わってくれるし、オサバアも俺がナニをされたか知ってさっきからオイオイと泣いているし、厩舎に一番乗りしてブラックと戦ったギルナダは……す、凄く良心の呵責を感じているのか、俺の姿をチラッと見てはめっちゃ落ち込むのを繰り返してるしぃいい……っ!
「あ、あの、こんなの平気ですから……大丈夫です、それより村の復興を……」
「ツカサが酷い目に遭わされたのに放っておけるかよ! クソッ、あいつらめ……馬が奪えないからって腹いせにツカサにこんな事を……!」
「こうなってはもう戦じゃ。我々の大恩人を傷付けられて黙ってはおれまい!」
「アー姉、オラにも手伝わしてくれ! オラもう我慢なんねえ!!」
ギルナダ、素だとちょっと田舎弁になるんだね。いやそうじゃなく。
待て待て待ってくれ、話が飛躍しすぎてる、どんだけ優しく純粋なんですか貴方達は落ち着いて下さい俺最初から大丈夫って言ってるでしょ!!
しかし、俺のためにここまで純粋に怒ってくれるのは、素直に嬉しい。
それと同時に、心苦しくも有るのだが……あっ、そうだ、こういう時に良い方便があるじゃないか。何で俺は自分の事もすっかり忘れていたんだろう。
俺は何とかアレイスさん達を宥めると、布で巻かれてモコついたまま、三人に言い聞かせるようにしっかりとした口調で説明した。
「あの、俺は冒険者ですから、こんなのへっちゃらなんです! モンスターと戦って腕を切り落とされるのより全然平気ですから、本当に気にしないで下さい」
「しかし……」
「それに、俺だって、ただこんな事されたワケじゃないんですよ」
「ん……?」
オサバアが、またもや垂れた瞼を少し上げて俺を見て来る。
混乱しているとは言っても、やはり村の長だ。その臨機応変な態度に少し恐ろしい物を感じたが、俺は構わずに続けた。
「盗賊達に、ちょっとした仕掛けをしました。もしかしたら、今回連れ去られた一頭は無事に取り戻せるかもしれません」
「ほ、本当か!?」
身を乗り出して俺に顔を近付けて来るアレイスさんに、俺はぎこちなく頷く。
う、ううんやっぱり美人さんだ……いやデレデレしている場合ではない。
必死に顔を整えながら、俺は続けた。
「まだ確約はできませんが……上手く行けば、盗賊どもを一網打尽に出来るかもしれません。だから……今は俺の事よりも、警備をしに行ってください」
俺だって、伊達に冒険者をやってるんじゃありませんよ。
……などとガラにもなく格好いいことを言ってみたら、アレイスさんとオサバアは目を丸くして、俺の言葉にすっかり感じ入ってしまったらしく、やけに意気揚々と外へ駈け出してしまった。
なんだかよく解らんが、とりあえず俺から意識が逸れてくれたのならよし。
「…………ツカサ、その……本当に、平気なのか?」
おお、そういえばギルナダがまだ居たんだっけ。
せっかく仲良くなってくれたのに、ギルナダには変なとこ見せちまったなぁ……。
な、なんつうか、それを考えると物凄い恥ずかしいっつうか、出来ればすぐ忘れて欲しいんだけど……でも見たくない物を見たのはギルナダも一緒だよな……。
俺だって、同じ野郎の事後姿とか絶対見たくないよ……マジの強姦とかだったら、なんと言って声を掛けたらいいのかすら解らないし。
幸い俺はそうではないが、ギルナダ的には今そういう感じなんだろうな……。
なんか物凄く申し訳ない。ごめんよ、俺は本当に大丈夫なんだよう。
「あの……なんつうか、ごめんなギルナダ……」
「何故お前があやまる!!」
「いや、だって、馬を守れなかったし、俺ってばあんな姿見せたし……」
「そ、それはオラの責任だ! メスにしか見えないお前に番をさせたのはオラだっ! まさか、だからってメスと間違えて襲うバカモノが居るなんて……」
ギルナダ、頼むからあんまりメスメス言わないで。
この世界じゃ変な性の区別があるのは重々知ってるけど、今はあんまりメスにしか見えないとか言われたくない。俺は普通に男だからね、この世界で“メス”でも、元々オスでしかない男だからね!?
ああでもそんな事を言っても、この世界の事しか知らないギルナダには、俺が組み敷かれる存在……メスに見えるようで、ひたすら悔やんで頭を抱えている。
というか、ギルナダってば今まで俺の事をオスだと思ってくれていたのか。それはそれでちょっと嬉しいな。やっぱり普通の人が見れば俺はオスなんじゃん。
なんか俺に対して物凄く信頼してくれてるみたいだし……だったら、ギルナダには少し協力して貰っても良いんじゃないだろうか。
いくらブラックが熟練の冒険者だと言っても、不測の事態が起こるかも知れない。だとすると、装備なしの俺だけでは戦力的に大いに不安だ。
だけど、こちら側にもう一人ぐらい協力者がいてくれたら、安心して事を進められるのではないだろうか。ギルナダは村の外の事に興味があるし、何より俺の事をなんとも思ってない。だったら、ブラックも許してくれるかも。
そうとなったら、早速ギルナダに協力して貰えるか聞いてみようではないか。
「ギルナダ、本当気にしなくて良いって。……それよりさ、盗賊達の事なんだけど……実は、アンタに協力して欲しい事があって」
「なっ、なんだ!? オラに出来る事ならなんだってやるど!」
ああまた田舎っぽく……どこの方言だコレ。
いやしかしそうまで言ってくれるならありがたい。とりあえず強姦の事はうやむやにしつつ、俺はあちら側にスパイを送り込んだ事を説明し、盗賊の内部情報を取って貰って来るので、情報が揃ったら捕縛作戦に参加して欲しいと頼んだ。
すると案の定、ギルナダは村人的純粋さと俺への良心の呵責で、二つ返事の了承をしてくれた。……強姦(っぽく見える姿)で釣ったようで非常に気分が悪いんだが、アレは何でもない、こちらの不手際でむしろ申し訳ないと頭を下げるたびにギルナダも恐縮していくのでどうしようもない。
一か八かで「仲間がやった」と明かしてみたが、それでも誤解は解けなかった。
……そらまあ、あんな酷い事をする仲間が居るはずがないと普通の人は思うだろうけども……でも実際そうなんだから仕方ないじゃないかー!!
こうなったら、もうそのまま行くしかない。
――――というワケで、俺はとりあえずギルナダに村の被害の状況を調べて貰って来る事にして、夜中にもう一度戻ってくるブラックを待つ事にしたのだった。
そして、約束の夜。
「…………」
小部屋を貸して貰って仮眠をとるフリをしていた俺は、周囲にギルナダ達が居ない事を確認して、部屋の窓からそっと外へ抜け出した。
幸い、今はみんな盗賊対策の会議で集まっているようで、俺の様子を気にしている人はいないようだ。当然、俺から頼まれごとをしているギルナダも会議に参加して、今も情報を集めてくれていた。
……やはり利用しているようで胸が痛むが、こればかりはどうしようもない
いや、そう思うのなら早く解決してしまえば良いのだ。
そんな事を思いつつ、俺は人に見つからないようにコソコソと村の頂上を目指し、坂をあがった。ちょっと大変だが、オサバアの家より上には民家は無いので安心だ。
「ふぅ……ふ……し、しかし……なんだって頂上なんだろ……。そりゃ、人気とかは無さげだけどさぁ……っ」
たしかに、上には何もない。頂上の一つ前の段に古い見張り小屋があるくらいで、そこさえ気を付けてしまえば、もう恐れるものは存在しなかった。だけど、何故民家がないんだろう。恐らくディオメデ達の為であろう草だけが広がる空き地を見ながら登り切ると、そこには……思っても見ない物が静かに鎮座していた。
「これは…………えっと……ステージ……?」
広く、平らな頂上。
その中央には、白い石材で作られた穢れ一つない綺麗な円形のステージが有り、背後には七つの白い柱が半円を囲うように静かに立ち竦んでいた。
その七つの柱の中央部分には、何かの社が造られている。このステージは、その社に踊りか戦いか……とにかく武芸を奉納するためのものなのかもしれない。
まあ戦士がいるくらいだし、そういうのが有っても不思議じゃないよな。
そっか、上の方に家が無かったのは、この社に敬意を表してなのか。
妙に感心しながらステージの周りを回っていると……社の奥の方から、ザッザッと何かが登ってくるような音が聞こえた。
「……?」
なんだろうかと近付こうとしたが、その前に何かが飛び上がって来た。
思わず驚いて声が出そうになったが、なんとか口を塞いで出て来たモノを見やる。
するとそこには、すこし不機嫌そうにしてマントを払っているブラックが居た。
「ブラック!」
駆け寄る俺に、相手はむっとした顔のままで近付いて来る。
何でそんな顔をしているのかと思ったら、急に抱き着いて来た。
わぷっ。く、苦しい、ぎゅうぎゅう抱き締めるな、お前怪力だから痛いんだって!
頼むからもう少し力を緩めろと腕を叩くが、ブラックはそんな俺の頼みなんぞ無視して、俺の頭に顔を擦りつけて懐いて来た。
「んんん……! ツカサ君、僕もうやだ、僕あいつら斬り殺したいんだけど!」
「開口一番でなに言ってんのお前は!」
一体何が有ったんだと顔を上げると、ちょっとヒゲが濃くなって更に盗賊めいた顔になってしまったブラックは口を尖らせる。
そうして、今までの事をまくし立てて来た。
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