異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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神殿都市アーゲイア、甲花捧ぐは寂睡の使徒編

15.見せるも見せまいとするも

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 何が何だか分からないけど、執事の様子からしてヤバい事態にはなってないと言うことだろうか。良い事が起きたなら喜ばしいけど、俺達が呼ばれる理由はなんだ。
 まさかネストルさんの父親が快復した……なんてことはないよな。

 あの弱ったクレオプスが毒性を失った事を考えたら、もしかすると俺の特性回復薬は呪いにも効果が有るのかも知れないと思ってしまうが、そう考えるのは早計だ。
 今回は毒性の薄い花を使ったからだけかも知れないし、他の濃度の薬では全く効果が無かった事を考えると、すぐに「そうだ」とは断定出来ない。

 それに……もしかしたら、あの作用は「浄化」じゃないかも知れないし……。

 ……そう。そこが問題なんだよなあ……。
 俺達にとって良い作用をしたからと言って、それが良いとは限らないんだ。
 だから、楽観視する訳にはいかない……ってちょっと待てよ、それだと俺の回復薬のせいでネストルさんのお父さんの病気が悪化したりでもしたら……。

 ………………せ、切腹……? 切腹になる……?

 一瞬物凄く怖いコトを考えてしまったが、いざ食堂に訪れてみるとまったくそんな恐ろしい雰囲気では無く、それどころかネストルさんは涙ぐみながら俺の手をにぎってブンブンと握手あくしゅをして来る有様ありさまだった。

 彼いわく、俺の回復薬を飲ませた途端に少し容体ようだいが落ち着いたらしく、お父さん……つまり、このアーゲイアの領主さんは起き上がれるくらいになったらしい。
 それで、ネストルさん達は大喜びだったと言うワケで……いや、大丈夫かなこれ。

 体調が回復したのは俺らとしても嬉しいけど、でも本当に回復したのかな。さっきのクレオプスの結果が結果だっただけに、なんだか素直に喜べず身構えてしまう。
 それに、さっきから悪寒がゾクゾクと背中を這いずり上がって来るし。
 いや、それは、背後で「僕のツカサ君に触るな」と迷惑な殺意オーラを出しているブラックのせいかもしれないが。

 それはともかくとして、ネストルさんは喜んでくれたけど、俺としては物凄くお父さんの容体が心配だ。せめて、本当に気分が良くなったのかを問いかけようと思ったのだが……なんと、容体を聞くどころか俺達は面会する事になってしまった。

 いやいや面会って。大丈夫かな、色々……。
 やっぱり切腹とかになりかねないのでは。いやここは西洋風なんだからギロチンか首吊りかも知れない……などと思いつつも、今まで行く事の出来なかった領主の館の二階へと通されやけに豪奢ごうしゃな廊下の奥にある寝室へ案内される。

 背後のブラックは俺とネストルさんが手を繋いでいる事に不機嫌だし俺はギロチンが怖いしで戦々恐々としていたが、執事とネストルさんは俺達の様子になどかまわず、領主がいると言う寝室の扉を躊躇ちゅうちょなく開いてしまった。

 あーっ、あっー! 待って下さいまだ心の準備がっ!!

「お父様、ツカサさんを呼んできました!」

 ネストルさん、そんな子供のままの貴方を出さないで! とんでもない事になった時の事を考えると、もう俺ここから逃げ出したくなってたまらないんですけどおお!
 頼むから純粋無垢な姿を見せないでくれと内心顔をおおいつつ、地獄の扉が開かれたような気持でドアの向こうを恐る恐るのぞく。と。

「…………え……」

 品のいい飴色の調度品がシンプルに置かれた部屋の壁際に、中が透けるほど薄いレースのような天蓋が付いたベッドが置かれている。
 そこには、なんだか思っていた姿と違う人が上半身を起こして座っていた。

「ああ、連れて来てくれたのか。ネストル、すまないね」

 天蓋に覆われたベッドの中で、人影が身じろぐ。
 その声は大人の男性と言う事は分かるものの、酷くか細い。声音からして優しい人だと言う事は分かるのだが、明らかに元気とはがたかった。
 俺の背後に居るオッサンと比べると、心配にならずにはいられない感じだ。

「さあお二人とも、どうぞこちらへ」

 思わず言葉を失ってしまった俺とブラックを、執事が半ば強引に進ませる。
 近付いていいのだろうかと思ったが、誰も止めなかったので俺達はベッドの傍まで近付く事を許されてしまった。い、いいのかな本当に。

 何だか妙な事になったぞとドキドキしていると……執事さんが、天蓋の紐を引いてたくし上げた。すると、目の前にネストルさんの父親の姿が鮮明に――――

「っ……!」

 ――――危ない。思わず「えっ」と言ってしまいそうになって、口をつぐんだ。
 だって、俺達の目の前に姿を現したネストルさんのお父さんは……

 瞳と、鼻の下だけにしか穴が無い真っ白な仮面をつけて、手を覆うほどの長いそでが付いた奇妙な服を着ていたのだから。

「……驚かれたでしょう。こんな格好でお会いする事をお許しください」

 か細い声で言うこの領地の主である相手に、俺は慌てて首を振る。

「い、いえ、あの……ご病気とうかがいましたので、息苦しくないのかなと……」
「ふふ……優しい方ですね。ですが、遠慮せずとも良いのですよ。実際、私はとても奇妙な姿をしていますからね。ですが、この仮面を取れば……きっと、今よりも貴方がたを怖がらせてしまうでしょう。触れて感染するやまいではありませんが、見えないのなら見えないに越した事はありませんから」

 確かに、アレルギーになった人のようにブツブツが出来たりするのは、見慣れない人には驚きの姿に見えるかもしれない。この世界なら尚更だよな。
 俺の世界では、アレルギーだとそう言う症状になる人もいるって分かってるから、驚くよりも先に心配する事が出来るけど……この世界にはそんな知識なんてないし。

 知らないやまいは、やっぱり怖い物でしかない。
 それを領主さんも知っているから、仮面をつけたのだろう。
 ネストルさんが何も言わない所を見ても、彼は自分の子供と会う時だってこの姿でいるに違いない。それを思うと、何だか子供に対しての思いに胸が苦しくなった。

 肌がただれたような痩せこけた姿を見せ続けるか、それとも奇妙と言われようが仮面で病状を隠して、子供に悪化していく姿を隠し続けるのか。
 後者を選んで欺瞞ぎまんになったとしても、俺は彼を責める事は出来なかった。
 俺だって、苦しみながら弱って行く姿を好きな人には見せたくないと思うから。

 ……うん。そうだよな。相手は弱った姿を見せたくないんだ。
 だったら俺達も変に心配しちゃいけない。
 ネストルさんが喜んでいるんだから、今後病状がどうなるかおびえるんじゃなくて、彼の前でだけでも「父親は元気になった」って思わせないと。

 そう思いを切り替え、俺は気合を入れると相手に話しかけた。

「あの……俺の回復薬で少し体調が良くなったと聞いているのですが……それは本当でしょうか。何か苦しい所とか、具合が良くない所は有りませんか」

 うかがうように問いかけると、相手はくすくすと笑って長いそでを振った。
 手の先まで覆われていてよくわからないけど、袖の中の腕は厚いようだ。肩の細さからやせ細っているように見えたけど、そこまで酷くは無いのかな……。
 でも、首なんて筋が見えるほどせてるし、長く伸びてしまった栗色の髪も、つやを失っていてぺっとりしている。どう見ても長らく病床びょうしょうにいた人という感じだった。

 やっぱり良くなってないんじゃなかろうか。
 思わず顔を歪めてしまった俺に、領主さんはゆるく首を振った。

「いえ、むしろ今までの苦しさが嘘のようにやわらいでおります。これも貴方が調合して下さった薬のお蔭です。あれは……どういう薬なのでしょうか」
「どういうって……普通の回復薬ですが……」
「えっ……」

 驚いたように相手の仮面がこちらを見つめる。
 石膏像の目にきりを刺して穴を通したみたいな小さな穴しかないもんだから、相手の目の動きや表情は全く見えないけど……でも、意味が無いから小さいんだろうな。
 だって彼の病気は、盲目にもなる呪いなんだから。

 そう思うとまた心にグッと苦しさが生まれたが、こらえて俺は続けた。

丁寧ていねいには作りましたが、普通の回復薬ですよ。それは本当です」
「そう、ですか……」

 少し考えるような素振りをして、彼は再び俺を見た。

「申し訳ないのですが……代金は言い値でお支払いしますので、あともう二本、調合しては頂けないでしょうか」
「そ、それは構いませんが……」

 急にどうしたんだろう。
 思わず頷いてしまうと、相手は少し嬉しそうに声を上げた。

「ああ、ありがとうございます……! これで、これでやっと……」

 そう言いながら、ふと、相手は止まる。
 どうしたんだろうかと俺達が目を見張ると、領主さんは軽く笑い声を漏らした。

「はは……少しはしゃいでしまいましたね。いえ、もう少し飲む事が出来れば、この子とも散歩が出来るようになるのではないかと……」

 そう言いながら、領主さんは袖でほおこする。
 首くらいしか相手の病状が分からないけど、でも、もし彼の願いが叶うとしたら……俺で良かったら、力になりたい。
 息子の事を思う父親を助けないワケにはいかなかった。

「解りました。でも……その前に、確かめておきたい事が有ります」

 そう言うと、領主さんは何もかも承知しているかのように深く頷いた。

「ネストル、執事と一緒に下で待っていなさい」
「お、お父様」
「やるべき事は、まだたくさん残っているはずです」

 少し厳しい口調で言うと、ネストルさんはしかられたかのようにうつむいたが、やがて自分のするべきことに納得したのか部屋から退出した。
 本当に出来たお子さんだよネストルさん……。

「…………さて、それでは……私の現在の状況をお見せしましょう。……ツカサさんは、それを確認なさりたいのでしょう」
「……はい。よろしくお願いします」

 もし俺の薬が彼にとって「薬」なら、俺は喜んで調合したい。
 だけどそうじゃなくて……毒ともなりえるのなら、手は貸せない。これ以上「元気の前借り」をさせるなんて、絶対にイヤだ。
 領主さんもそれを理解しているから、俺の言いたい事を理解してくれたんだろう。

 そんな俺の思いを肯定するかのように、彼はこちらを向いて座り直すと、長いそでを器用に動かしながら――――己の仮面を取り払った。













※ちょっと遅れてしまって申し訳ないです(´;ω;`)
 あとあんまりブラックが出てなくてすみません…_| ̄|○

 
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