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神殿都市アーゲイア、甲花捧ぐは寂睡の使徒編
矛盾する要素2
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地下に眠っているであろう巨人の躯を調査する……と言っても、やはりそれは神殿の真上に建っている館の主に了解を取らねばならない。
そもそも俺達の役目は「花が効果を失っている原因を調査する事」であって、このアーゲイアの成り立ちの真相を探るためではない。
見れば見るほど、気付けば気付くほど、言い知れない違和感が湧いて来てしまったとしても、それを解決したい欲求に駆られて好き勝手するワケにはいかないのだ。
物語なら、こういう時は了承とか許可とか二の次でガンガン突き進んで、イベントもガンガン起こっちゃって真実突き止めて戦闘してハッピーエンドなんだろうけど、現実は物語みたいに簡単にはいかない。
仕事を請け負った責任ってのもあるし、だいたいここは他人の家だ。
しかも、俺達は「王様から派遣された」という重い枷を嵌められている。ここで迂闊に勝手な行動をして何か破壊でもしたら、どうなるか分かったもんじゃない。
なので、色んな疑問は有ったが……俺達はとりあえず“自分の仕事”を全うする事を第一に考えるしかなかった。
…………だって、後々変な事になったら嫌じゃん。俺は嫌だぞ。失敗して後で色々難癖つけられるのは。
だから、今はとりあえず病状が深刻なクレオプスを数株採取し、先ほど見つけた妙に大きい石造りの風呂……らしきものがある部屋で、実験を行う事にした。
上に登って部屋で実験しても良かったんだけど、毒煙とかが出て部屋から漏れでもしたら、大変な事になるからな。その点、地下なら滅多な事にならないから安心だ。
まあブラックはともかく、俺は滅多な事になるんだけどね!
……なんで俺の“死なない能力”って、与えられる痛みとか苦しみはカバーしてくれないんだろうか……。不死身と言っても毎回苦しかったら意味ないよマジで。
死なないだけありがたいってんならそうなんだけどさあ。
――それはともかく、巨人の神殿に相応しい風呂場で俺達は実験を始めた。
白い壁にひっついている小学校のプールのようにデカい石の風呂桶は、実験するにはありがたい代物だ。その中に入って実験すれば、何かヤバい液体が出来ても、床に流さずに済む。何か有ったら俺が水の曜術で水を出して中和できるしな。
そんなわけで、まず俺は細切れにして貰ったクレオプスの欠片を使い、昨日作っておいた様々な回復薬に漬け込んでみる事にした。
濃度は俺のさじ加減なので、段階的な違いが有るとは言い難いが、それでも少しは回復量の違いが有るはずだ。厨房で作った適当な回復薬から順に俺特製の薬が最後になるようにして、病気のクレオプスの欠片を入れた薬をしばし置く。
これで何か目に見える変化が有れば良かったのだが、特にそんな気配は無い。
仕方ないので、一時間ほど薬に漬けた欠片をブラックに食べて貰う事にした。
……なんか物凄い事を言っている気がするが、これしか毒が復活してるか否かを見極める方法が無かったんだからしょうがない。
平気とは言え毒草を積極的に食わすなんてと思いつつも、ブラックに甘えて食して貰ったのだが、やはり適当に作った回復薬に漬けたクレオプスには変化が見られないようだった。ブラックは毒に耐性が有ると言っても、毒に鈍感になっているワケでは無いらしく、危険かそうで無いか判断できる程度には感覚が有る……らしいのだが、そのブラックの感覚でも、適当な方のクレオプスは何も変わっていないらしかった。
やはり回復薬は効果が無かったのだろうか。俺の勘違いだったのかな。
そう思うと、夢で見た事を素直に信じちゃった自分自身が恥ずかしくなる。
でも異世界だし、前にもこう言う感じの事が有ったけどその時は夢が的中してたし、だから今回もそうかなって思ったわけで……うう、でも良く考えたら夢を信じちゃうって凄く恥ずかしくないか。なんかガキみたいじゃんこんなの。
そのせいで、ブラックにも余計な手間を掛けさせちまったんだぞ。
荒唐無稽な事でも実行して確かめなきゃってのは解ってるけど、失敗したらやっぱ恥ずかしいよ。それとこれとは全く別だ。人に迷惑をかけての失敗だったら、尚更。
これで俺特製の回復薬に漬けたヤツまで効果ナシだったなら、もうブラックの顔を見る事も出来なさそうだった。
そんな俺に、ブラックは「気にする事ないよ」なんて言ってくれたけど、そう言われると余計に自分の安直さに恥じ入ってしまう。
いつもだったらからかってくるのに、こんな時ばっかり優しい相手を狡いと思ってしまう自分の意地っ張りな心も、ままならなくてもう床でのた打ち回りたかった。
しかし、そんな俺にも少しくらいは幸運ってのが残っていたようで。
「…………んん?」
俺特製の回復薬から採り出した花弁を口に含んだブラックは、少し怪訝そうに表情を歪めながらモゴモゴと咀嚼する。
どうしたんだろうと心配になりながら見上げていると、ブラックは顎を撫でつつ「何だこれは」と言わんばかりに首を傾げた。
「ど、どうしたブラック。やっぱダメだった……?」
心配になって問いかけた俺に、ブラックは「うーん」と唸りながら口を動かした。
「いや……これは…………毒って言うか……」
「な、なに、効果もなかったってこと?」
ドキドキしてきて情けない声が出てしまったが、ブラックはそれを気にせず、片方の口角をぐっと引き締めて奥歯で花を噛み締めているようだった。
な、なんでそんな事するんだ。今までそんな風に確かめたコト無いぞ。
噛んですぐペッてするくらいだったのに、今回だけ妙に長くないか。
まさか変な毒にでもなったんじゃないか。
心配になって、食い入るように相手の顔を見つめていると、俺の様子に気付いたのか、ブラックはにっこりと笑って俺を抱き締めた。
そして――――
「んぐぅっ!?」
何を思ったか、ブラックは強引に俺にキスして来やがっ……
ってちょっ、おい、お前っ! 離せばかなにやってんだ!
突然の事に対応できず離れようとするが、ブラックは俺の後頭部を捕まえてさらに深く唇を合わせようとして来る。引き締めて触れさせまいとするが、口なんてそもそも軟弱な器官だ。ブラックのカサついた唇に簡単に食まれて、太い指で顎を無理矢理下へ引かれ歯列の壁が少し開いてしまう。
と、その瞬間、口の中に生温い液体と共に何かが滑り込んできた。
舌ではない。薄くてすべすべしてて、これ……これ、は……もしかして花!?
「んぐううう!? っぶはっばっゲホッ、ゴホゴホッ! なにしてんだおめー!」
「ツカサ君落ち着いて。この前とは違うでしょ?」
「ぐげっ……ぐえ?」
舌に貼り付いた花弁を引き剥がそうとしていたので、変な声が出てしまう。
しかし俺を抱き締めたままで面白そうに見つめて来るブラックは、嘘をついている感じではない。ちょっと躊躇ったけど……俺は、舌に乗っている花弁を上手く移動し軽く噛んでみた。すると。
「んんっ……!? えっ……あれ……!?」
なんか、頭がすうっとしてくる。目も冴えて、視界が広くなったみたいだ。
……そう言えば、さっきよりも周囲が良く見える気がする。俺には薄暗いばかりで、少し先すらよく見えなかったはずなんだが……。
つーか変だぞ、この前強引に喰わされた時はかなり苦しかったのに!
「へへ、びっくりした?」
悪戯っぽく笑って見下ろしてくる相手に、俺は目を瞬かせつつ頷いた。
「ぜ、全然ヤバくないけど……これなに? ブラックが何かしたのか?」
ブラックってもしかして毒を和らげる唾液か何か持ってるのか?
訳が分からずに眉根を寄せていると、何故か相手はクスクス笑った。
「ふふ、僕じゃないよ。ツカサ君がやったんじゃないか」
「え……」
俺がやった?
っていうかお前また心読んだ? なんで? 何で読めるの?
「ツカサ君が顔に出やすいんだってばぁ。それはともかく、最後のはツカサ君特製の回復薬だったでしょ。ツカサ君の薬のお蔭で、花が無毒化されたんだよ」
「へー……ってそれじゃ駄目じゃん! 依頼は毒草を復活させる事なのに!!」
「またもや矛盾だねえ。ツカサ君の回復薬が凄すぎて浄化されちゃったのかな」
普通ならそれは良い事なんだろうけど、でも今はそうじゃないんだよぉ……。
やっぱり俺の夢を間違いだったんだろうかとガッカリしていると、ブラックが俺を深く抱き寄せて、何をするかと思ったら慰めるように頭を撫でて来た。
おいコラだからソレやめろって!
「はーなーせー!」
「んもー、せっかく慰めてるのにぃ……。まあ今回はツカサ君の夢とは関係なかったみたいだけどさ、でもツカサ君の薬で花が浄化できるのが判ったのは凄いよ。もしかしたら、クレオプスの毒に侵されている奴もこれで治っちゃうかも」
「いやでも直で毒にあたる人なんて誰もいないじゃん……秘匿された花なんだぞ」
「それを言ったらオシマイだけども」
じゃあ下手に慰めるんじゃないよ。お前絶対撫でたかっただけだろ。
やめろとブラックを引き剥がし、俺は改めて花弁を噛む。
……ううむ、やはり毒っぽさはない。むしろ、花弁がほのかに甘くて美味しい。
俺にとっては甘味は嬉しいけど、そうじゃないんだよなぁ……。
「はぁ……今回は一株ムダにしちゃったなぁ……。仕方ない、次の手を考えるか」
「もうそろそろ夕方だし、地上に戻ろっか。巨人の事もあるしね」
「うん……」
自分の予想が外れたのもガッカリだけど、俺の薬が逆に浄化してしまったってのがまた辛い。俺は逆の事を依頼されてここに来たってのに。
失意のままに中の薬を処理して片付け、俺はションボリしながら領主の館に戻る。芳しい報告も出来てないってのに、この状態で今大変な事になっているネストルさんと夕食を一緒にするのは気が重い。
ガッカリさせてしまわないかなと更に憂鬱になりつつ、俺とブラックはいつものように地下へ降りる階段が隠れるのをじっと待ちつつ、ロビーでたむろしていると――客室に行くためのドアから、執事さんが出てきた。
俺達の部屋が有る方向から出て来るなんて珍しいなと思っていると、相手は俺達を見つけてどこかホッとしたように表情を緩めながら、すぐに近付いてきた。
「ああ、探しましたよ! 御二方、どうか早く食堂へ!」
「えっ……な、なにかあったんですか?」
何だろう、またネガティブな報告なんじゃなかろうな。
思わず弱った顔を見せてしまった俺に、執事は少し興奮した様子で促した。
「とにかくお早く、さあ、さあ!」
「……一体どういう風の吹き回しだ?」
怪訝そうに顔を歪めるブラックだったが、相手はそんな声すら聞こえていないほどに興奮しているのか、俺達を半ば強引に食堂へと連行した。
→
※ちょっと遅れて申し訳ないです(´;ω;`)ウッ
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