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神殿都市アーゲイア、甲花捧ぐは寂睡の使徒編
14.矛盾する要素1
しおりを挟むそういえば、神殿を探索するのはこれが初めてだ。
まだここに来て一週間も経っていないが、良く考えたらこの地下神殿の事なんてちっとも気にしてなかったような気がする。
いや、古代の遺跡とは言え個人所有の敷地だから、下手に動かないようにしようと思ってただけなんだけども……にしても、勝手に探索して良いんだろうか。
一応二人きりで神殿に入る許可は貰ってたけど……うむ……うん……?
「なんでここ【神殿】って言うんだっけ?」
根本的な話を思い出して、隣で一緒に歩くブラックの顔を見上げると、相手は少々呆れたように眉を上げて口角を下げた。
「ホント今更だねえ……ツカサ君たら覚えてないの? 最初にあのガキが『ここには昔、巨神を祀る神殿が有った』とか言ってただろ」
「そう言えば……。あれ、でも、そしたらネストルさん達は巨人が元々崇められてたのを知ってるってことにならない?」
大人五人で囲んでも収まりきらぬほどの巨大な柱が延々と立ち並ぶ、薄暗い神殿。仰ぎ見ても天井すら高すぎて闇に埋没してしまっているせいか、白だけで塗り固められた神殿の中は、闇や影があると余計に不気味に見えてしまう。
……その……それが正直、ちょっと怖くて、思わずほんの、本当にほんの少しだけブラックの傍に近付きながら問いかけた俺に、ブラックはニヤリと笑った。
「ツカサ君、ちょっと違うよ。あのガキが僕らに教えたのは『遥か昔、英雄が“巨神”とされて祀り上げられた神殿があった』という話で、僕達が見た“巨人”とは違う」
「え?」
「その英雄の“巨神”が祀られていた神殿は、何故だか取り壊されて領主の館になっていて……この“巨人の壁画が有る”地下神殿は、残されているんだ」
それって…………どゆこと?
……いやイカン、思考停止するな。もうちょっと良く考えよう。
ええと、ネストルさんが教えてくれたのは、巨神となった英雄が祀られた神殿の話で……その神殿の地下に、アーゴスって百眼の巨人が眠ってるって事だったよな。
それで、巨人は昔ココを支配していたけど、英雄に倒されて、だけど地下神殿には巨人が昔の人達と仲良くしてるような壁画が残されていて……ええ? あれぇ?
「ぶ、ブラック……あの……俺、変なコト言ってるかも知れないんだけど……」
「ツカサ君のヘンは今更じゃない」
「うぐぐ……い、いやあの……なんか、おかしくない……? だって、ここが英雄の神殿だったら……倒した巨人の壁画とか、あんなとこに描かないし……それに、呪いも掛けられてんだから、その……なんか変……だよな?」
ああ自分でも考えがまとまらない。
でも、考えて見れば見るほど変で納得いかなくて、頭が熱暴走しちまうんだ。
真実が判らない限り答えの出ない疑問だってのは解ってるけど、でも、明確な言葉でその「分からない理由」を伝えるのが難しい。勉強でもそうなんだよな……。
わかんないんだけど、まずどこがわからないのかが上手く言えないんだよ。
だって俺の中には答えが無いんだ。「ここが解らない」なんて言えたら、その人は最早半分解ってるんだよ。そんな頭の良いこと俺は無理だ。
ああもうチクショウ、なんだって俺はこう頭が悪いんだよ。
もうやんなっちゃって眉を顰めると、ブラックは俺の頭をポンポンと叩いた。おいコラやめろ、俺は撫でてポッとなるヒロインじゃねえ。上機嫌でやるな。
思わず立ち止まってオッサンのゴツい手を振り払ったが、相手は俺の態度など気にもせずに笑ったまま肩を軽く竦めてみせた。
「そこが変だなって解ってたら大丈夫大丈夫。ツカサ君が感じてる違和感は間違いじゃないよ。……まあ要するに、道理が合わないのさ」
「どーり」
アホな物言いをしてしまったが、道理か。
思わずグッと口を引きしめると、ブラックは嬉しそうに目を細めて俺にキ……おっ、おい! なにキスしてんだよお前っ、話の途中だろうが!
一気に顔に熱が上がって言葉を失うが、ブラックは上機嫌なまま俺を抱き締めようと腕を広げて来る。反射的に一歩退こうとしたが、足の長い相手に勝てるはずも無く腕にガッチリ捕らわれてしまった。
ち、ちくしょう、好き勝手しやがって……。
まあでも……別に……だ、誰も居ないし……まあ……。
「つまりね、この件は噛み合わない所が有るのさ。もし巨人が完全な悪党なら、あの壁画と“呪い”が矛盾する。もしここが英雄の神殿なら、巨人が善人のように描かれている壁画と、そしてそれが見えないという“呪い”が矛盾する。それに“呪い”が本当に巨人が齎す物であれば……それが『自分が死んだあとに作られたはずの神殿』に作用している事が矛盾するんだ」
「ええ、と……つまり……どれか一つだけでも『これが真実だ』と認定したら、他の要素が変になっちゃうってこと……?」
大人しく腕に収まっている俺を見下ろしながら、ブラックは緩んだ顔で頷いた。
ああ、意地悪な猫みたいな笑みだ。でも、菫色の目が合う度に心臓が変にドキドキして来て、目をそらさずにいられなくなる。
だけどブラックは片手で俺の顎を捕えると、頬や額にキスし始めた。
無精髭がチクチクして痛い。額にされると怖くて目を閉じてしまうが、それを幸いとブラックは俺にどんどん顔を擦り付けて来る。イデデデ。
こ、これじゃ話が進まん。あのっ俺もう少しちゃんと教えて貰いたいんですけど!
なんとか話を元に戻そうとしてブラックの体を押し戻すが、それくらいで退くようなら俺も捕らわれていない訳で。
同じ男だと言うのに、腕力の差が有り過ぎてどうにも出来なかった。
「ああもうっ、は、話っ、はなしむぐっ、んんんっ、っはっ、はぁあ……話っ。話が進まないだろ!」
ばかっ、はなしてる途中でキスすんな! ばかバカスケベ!!
くそう余計に頭が回らなくなる、なんでコイツは一々話の腰を折ってくるんだよ。真面目に話そうと思ってる俺までバカみてーじゃねーかこのー!
「んん~、ツカサ君のいけずぅ。もう少しイチャイチャしたって良いじゃないかぁ。ここには僕とツカサ君以外誰も居ないんだよ?」
「それはそうだけど話! いつまで経っても調査できないだろ!」
いい加減にしろと怒ると、ブラックは渋々話を戻した。……抱き着いたままだが。
「とにかく、色々矛盾してるって事は確かだよ。だから、その矛盾のどれか一つでもこの神殿でハッキリさせられることが出来ればいいなって思ったんだよ」
「探索して、他の壁画が出てくるとか……?」
「そういうこと。さ、そうと解ったら調べてみようよ! ね~っ」
言いながら、ブラックは抱えた俺を少し浮かせて歩き出した……っておい、まさかこのままで探索するとか言わないよな!?
「おっ、おい待てよ! 俺も歩くってば!」
「大丈夫大丈夫、ツカサ君疲れたでしょ? 僕が連れてってあげるから!」
「うううううう」
頑張って抜け出そうとしたが、しかしブラックは俺を離そうとしない。
こうなってしまったら、もう駄目だ。
歩き疲れる心配が無いんだからいいじゃないか。そう自分を騙しながら、俺は人形のように抱えられたままで、神殿を探索するハメになったのだった。
――――あれから一時間ほど経っただろうか。
神殿のいたる所を探った俺達は、再びあの“クレオプスと壁画のある部屋”に向かいながら、今日見た物を深刻に考えて腕を組んでいた。
いや別にカップルみたいに二人で腕を組んでたわけじゃないぞ。
二人して悩むように腕を組みつつ同じポーズで歩いているってだけだ。
何故そんな事になっているかと言うと……神殿の他の場所で見つけたものが、俺達にとっては不可解だったからだ。
「まさか、あんなに見つかるとはね……矛盾の塊が……」
そう言いつつ、ブラックは首を傾げて「ワケが分からない」と顔を顰めている。
俺もまったくそのとおりだった。
だって……四つほどあった他の部屋を見て見つけたのは、おおよそ「巨神の英雄」に捧げられたものとは思えない物ばかりだったのだから。
「一個はデカすぎるベッド、もう一個はデカすぎる質素な岩づくりの風呂で……えっと……それに、壁画の部屋が二つ……」
「壁画は相変わらず優しい巨人の壁画だったねえ……」
まったく、どういうことなのか分からない。
「巨神」として祀り上げられただろう英雄の影も形も無く、それに、まるで巨大な何かが暮らすための設備のような物があるなんて……。
英雄って普通サイズだったんだよな、ネストルさんが普通のサイズだし。
いや待てよ、もしかしたら元々はでっかかったのかも。普通の人族との混血が進むうちに、巨人としての姿よりも人族としての姿で生まれる子が増えて行ったって感じでもおかしくないよな。
しかしそれだって変だ。英雄も元々は巨人だったんなら、その末裔であるネストルさん達だって英雄の姿形を伝承とかで知ってるだろうし……。
ううむ……なんだかもう、何が何だかよく解らなくなってきた。
「ねえツカサ君」
「ん?」
不意に呼ばれて振り返ると、ブラックは少し真剣な顔をしていた。
どうしたんだろうと見上げると……相手は何故か嫌そうに眉を歪める。
「……もう一回、あの花の下って見ることが出来る?」
「別に構わないけど……なんで?」
「いや……あの時、ツカサ君は何者かが反応したのを感じたんだろう? だったらさ、もう一度突けば……いや、やっぱり危険かな……」
確かに、斃したはずの巨人かも知れない相手をつついて、もしもそいつが目覚めてしまったら……なんて考えると接触するのは危険だ。
けれど、そうしたいブラックの気持ちは理解出来た。
……だって、直接訊けるものなら聞きたいぐらい、不可解だったんだから。
「…………ネストルさん達に直接訊いたりとか……」
「教えてくれるだろうかねえ」
「うーん……でも、一度ダメモトで言った方がよくないか? 勝手に色々やって変な事態になったら、責任を取らされるのは俺達だし……」
こう言う場合って、ヘンに相手を刺激して巨人が目覚めたりするんだよな。
俺は怪獣映画にも詳しいんだ。
だから、下手に危険な事はしない方が良いとブラックに言うと、相手は驚いたような顔で眉を上げて俺を見た。
「ツカサ君って、結構冷静だよね」
「けっこーは余計だ!!」
ふざけんなと怒るが、その声も今は不気味に神殿の中にこだまするだけだった。
→
※ちょっと短めで申し訳ない(´・ω・`)
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