異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編

21.気付いて貰えない恥じらいは切ない

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「……よし、ここで手当てをしよう」

 そう言いながらラスターが連れて来てくれたのは、妙な石像の真下だった。

 周囲は草むらになっているが、よく見ると地面には劣化して割れた石畳が見え隠れしている。恐らく、ここは通路から行ける場所の一つで、これも神殿の中では「みるべき物」の内の一つだったのだろう。だけど、見上げるデカい石像はちょっと異様な姿をしていた。

 これは……頭から角を生やした馬頭の男……かな。
 頭からツノというと、いつも俺やブラックを助けてくれている争馬そうば種という馬的なモンスターである藍鉄あいてつが思い浮かぶが、しかし藍鉄よりもだいぶんいかつい。
 殺傷力の高そうなまたやりを持っているが、動きだしたりしないだろうな。

 少々ビクついてしまった俺だったが、それを読み取ってしまったらしいラスターは、俺が何かを言う前に「仕掛けは無いから安心しろ」と答えてくれた。
 ぐ、ぐうう、さとられてしまって恥ずかしい。

 だけど、そんな感情にかまけている場合ではない。
 あんな危険なモンスターがいると分かったのなら、ブラック達にも早く知らせねばなるまい。……まあ、ブラック達が俺みたいなポカをするとは思わないけど……ともかく、危険な事をは共有しておかなきゃ。これから先また罠があるかも知れないし。

 そうと決まったらぐずぐずしてはいられない。一刻も早く服をとりかえねば。
 ふふふ、俺って奴は用意が良いんだ。以前にもこんなことが有ったから、俺も学習して服の替えをちゃんと用意しておいたんだぜ!
 情けなくも有るが、しかし実際にこうなったら俺もたいしたもんだろう。むしろ、褒められても良いぐらいだ……とはちょっと言い過ぎだが、俺ってば偉いよな?

 用意があったおかげで服の事は心配しなくて済むし、なにより、すぐに処置出来て早くブラック達に連絡も取れるんだから。
 ……そもそも最初から失敗するな、というのは心にダメージが来るので、ちょっとご遠慮願いたい所ではあるが、それは今は置いておこう。うん。

 そうと決まればさっさと着替えだとベルトを引っこ抜いたのだが、それにラスターが「待った」をかけた。どうも、一気にズボンを引き摺り下ろして怪我が悪化しないかを心配しているらしい。うーん……確かに痛いのやイヤかも……。
 治る傷とは言え、出来るだけ精神力はぎたくないよな。
 でも、だったらどうすりゃいいんだ。

「脱がなきゃ回復薬もかけらんないぞ……」
「そうは言うが、お前の肌の損傷はなかなかの酷さなんだぞ。そのままズボンを強引に降ろしてしまったら、傷が悪化しかねん」

 ラスターはそう言うけど、俺そんな繊細せんさいじゃないんだけどなあ。
 いかつい像の横で草花に塗れながら服を脱ぐのだって、繊細な奴だったら出来ないのでは。しかし四の五の言ってられない。
 アホな事をした俺が言うのもなんだが、薬を掛けるのなら多少傷に触れるとはいえ躊躇ためらう必要などないのではなかろうか。

「でも、俺自己治癒能力有るし、限りある回復薬も使うんだしさ……こんなところでグズグズ……」
「何故お前はそう自分に投げやりなんだ! ええいもう良い、俺がやる!」
「おっ、おぉ!?」
「キュゥウ~」

 何を怒ったのか、ラスターは眉を釣り上げると腰に付けた小さなポーチからナイフを取り出して俺の前にひざまずいた。
 そうして、何をするのかと思ったら……俺のズボンの破れてヒラヒラしていた所をつかみ、軽く引っ張って剥がして良いか確認し始めた。そうして、大丈夫そうな所からゆっくりと俺のズボンをナイフで引き裂いて行く。
 なるほど、この方法が有ったか。

「動くんじゃないぞ」
「うん……なんかゴメン……」
「謝るな! 良いからじっとしていろ」

 何だか妙に語気が荒いが、怒ってるんだろうか。
 やっぱそうだよな、こんな手間かけさせてるんだし……せめて俺は動かずにいて、ラスターのやりやすいようにしてやらなければ。
 幸い自己治癒能力のおかげか多少痛く無くなって来たし、これならてるぞ。

 そんな事を思っていると、ラスターのナイフがズボンの上の方に上がって来た。
 ブチブチと繊維せんいが切れる音がする。俺のズボンは少しお高めの冒険者用のズボンなので、耐久性もお墨付きなのだが……こういう時は中々裂けずに苦労するな。

 ラスターも、俺の肌をナイフで切らないように集中して緊張しまくってるし、それならいっそ自分から軽くズボンを引き剥がした方がいいだろうか。

「ラスター、ズボンちょっと浮かせようか?」
「いっ……良いから、気にするな……」

 何だか顔が赤いような気がするが、そんなに大変なんだろうか。
 そんな事を思っていると、ラスターのナイフが足の付け根を過ぎて、やっとズボンのベルトを止める部分にまで到達してぶちんと布を切った。
 癒着も無かったようで、片方の足からズボンの布がはらりと離れて行く。

 それを見て、ラスターが両目を丸くしたような気がしたが、すぐに顔をうつむけてもう片方へと手を伸ばしてしまったので、確かめる事が出来なかった。
 そんなに緊張してるのか……本当に悪い事してるなぁ……。他で何とか挽回しないと、これじゃラスターにも愛想かされちまう。

 ゆっくりとナイフがもう一つの足の上を通り、そうして……やっとズボンから俺の足が解放された。すでに支えが無くなっていた後方は落ちてしまい、前も遅れて地面へと落ちる。だが、下着が有るので問題ない。
 さすがにはしの方は溶解液の侵攻に耐え切れず、少々破れたみたいになってしまっているが、股間は無事だからまだ使えるな。
 ズボンのように液体が染み込んだわけではないので、大丈夫だろう。

 あとは、シャツも替えないとな……などと思って、ふとラスターを見やると――――何故か相手は俺から少し離れて、こちらに背中を向けていた。

「な、なに、どした? もしかして溶解液に手をやられたのか?」
「いや、そ……そうじゃない。とにかく、早く着替えろ……っ」

 なんか苦しそうだけど本当に大丈夫かな。
 ロクと顔を見合わせるが、ロクも何だかよく分からないようで首をかしげていた。
 うーむ、まあとにかく着替えを済ませよう。

 俺はバッグの中から【スクナビ・ナッツ】の入った金属ケースを取り出して、ソラマメほどの大きさの金属の豆のような物を一つ地面に放った。
 瞬間、ボウンと音がして、俺の前にデカい木箱がドスンと現れる。
 この【スクナビ・ナッツ】という曜具ようぐ(魔道具のようなもの)は、物を縮める事が出来る【スクナビ】という曜術を使って作られたもので、こうして物を収納できる。

 と言っても、一種類の品物しか入れられなかったり容量制限があったり、とチート能力で良くあるインベントリとか無限収納とは比べ物にならないコンパクトなお道具なのだが、しかしこれは人から貰った物なので俺は大事にしている。
 まあ、こうやって木箱に入れて普段使わない物を入れ込んでいる……とかいう少しバグ技を使ったような事をしているので、大事にしているのか微妙だが。

 ともかく、この中に俺は着替えやら寝袋やらといった、普段使わない者を収納しているのだ。早速箱を開けて、俺はその中から替えのシャツを取り出し、次にズボンを漁った……のだが……。

「あ、あれ……あれ……っ?」
「どうした」
「いや、えっと……その……」
「なんだそんなにどもって。はっきり言え」

 そう言われるが、その……何と言うか、言い難い。
 俺は木箱をそっと閉じると、気まずく顔を歪めつつ、ラスターに振り返った。

「……ズボン、ないです」
「は!?」
「ズボンちょっと高いから、節約してたんでした……」
「おまっ……お、お前なあ!」

 いつもは余裕綽々なラスターが、顔を真っ赤にして俺を指さしている。
 こんな事を今言うのもなんだが、ラスターがこんなにあわててるの初めて見たぞ。
 でも当然だよな。だって俺このままだとシャツとベストとパンツ一丁で探索しないといけなくなるんだし……いやなんだその変態ルック。ヤバイぞ。そりゃラスターも俺の格好に慌ててつっこむわ。

「同行者が変態みたいな格好になってゴメン……」
「そういう問題じゃないだろう! っ……し、仕方ない……っ」

 何かこらえるようにそう言うと、ラスターは脱ぎ捨てた俺のシャツを無事な部分だけナイフで引き裂いて、器用に広い布を作った。それだけではない。下着を隠す腰布を作り、ついでにひざから下を守る布の脛当すねあてを作ってくれたではないか。

 これは凄い……まあ、下着はギリギリ隠れる程度ていどになっちまったが、脛当すねあては凄くありがたいぞ。素足よりずっとマシだもんな。それに、こういう草場だとどうしても膝下ひざしたに草がりついて切れちまうこともあるし。
 あれっ、案外ラスターってサバイバルスキル高くない?

「凄いなお前! ありがとな!」

 なんだかすっかり感心してしまって素直におれいを言うと、頬に赤みが残ったままのラスターは、何故か表情を歪め「う、うむ……」と言ってまた顔をそむけてしまった。
 いつもの自画自賛ラスターらしくない行動だ。
 ……そんなに変だろうか、俺の格好……。いや、そりゃ情けないけどさ。

「と、ともかくだ……早くあちらに連絡を取ろう。あんな罠が有った以上、このまま連絡もせずに進むわけにはいかない」
「でも、伝令穴がどこにあるかわかんないんだよな……」
「それはもう心配ない。穴はここに有ったからな」
「え?」

 どういう事だろうかとラスターを見やると、相手は横顔でチラリとこちらを見て、あの馬頭の謎の石像に近付いた。
 そうして、その像の下の台座を何やら探っている。すると、台座の側面が音を立て動き、そこからあのラッパのような形のモノが現れたではないか。
 ということは、コレが伝令穴の目印だったのか……。

「こういった広間のような場所では、石造と言った目立つ物に伝令穴が隠されているようだな。壁画の間では、そういった目を引く物を置く事が出来ないから、ああして壁に隠していたんだろう」
「へー……。じゃあ、単純に遺跡のナゾトキみたいなもんじゃなかったのか」
「部外者が勝手に弄らないように、気を使っていたのかも知れないな」

 ゲームだと謎解きの一部だしあんまり深い事は考えてなかったんだけど、隠そうとする理由にも色々あるんだな。
 だけど、ラスターが言うように法則性があるというのなら、これからの伝令穴を探す作業も楽になるかも知れない。ほんと、ナルシストってだけじゃないのが凄いっていうか、イラつくっていうか……。

 しかしそこにイラッと来ても、今の俺は恩を受けた身なので何も言えない。
 せいぜいブラック達を怒らせないようにする事しか出来そうになかった。

 ……アホな事で罠にはまって服を失った挙句あげく、こんな変な格好でいると知られたら、まーたとんでもなく怒るだろうからなぁ……。
 まあ、それかバカにされるかのどっちかだろうけども。はあ……。














 
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