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巡礼路デリシア街道、神には至らぬ神の道編
8.寄らずの森で寄り来たり1
しおりを挟む街道と聞くと、でっかい道が一本途切れずにずわーっと終点まで続いているように思ってしまうのだが、やはりそれなりに脇道は有るようで。
デリシア街道も、その話に漏れず途中途中で細い道に分かれていた。
「まあ、ライクネス王国やアコール卿国はモンスターのランクが低いからねぇ。そういう風土だから、街道からかなり離れた所にも村があるんだよ。たまに、獣道にしか見えないようなのも有るけど、だいたい人が作った道と考えていいだろうね」
のどかな草原の大路を歩きつつ言うブラックに、珍しくクロウが首をかしげる。
「街道を荒らすモンスターなど滅多にいないのに獣道なのか」
「まあそりゃそうなんだが、貧しい村は道から自分達のとこまで道路を整備したり、草を定期的に刈ったりとかの整備は難しいからな。街道と同じようにモンスター避けの曜具を設置するにしても、かなりの金が掛かるし」
「なるほど、だから悪路にしておくしかないのか」
クロウも獣人族だけど、やっぱ人型の種族だから獣道は「悪路」なんだ……。
なんかこう、てっきり、獣モードの姿でも平気で走ると思ってたから、道に対して何か思う所があるとかまるで考えなかったな。
……獣人族は年寄りになるとガチの獣姿でいる事の方が多くなるらしいけど、それまではやっぱり人型のままの方が多いんだろうか。どうも獣人族ってのは、ケモ度が高い方の半獣人みたいな姿は無いみたいだしなぁ。
うーむ、この世界の人種は俺が知っているモノと少々違うのでややこしい。
でもまあ、知らないから楽しいって事も有るけどな。
そんなことに感心しつつも、俺達は順調に道を進み――――昼前には、突っ切って行こうと話していた森の前に辿り着いていた。
「おお……なんかでっかそうな森だな……」
小高くなった丘から見る少し先の道は、大きく広がった森の中に消えている。
遠くの方に再び草原が見えるが、ここを歩くと考えると確実に二日は掛かるだろう事は容易に想像が出来た。そのくらい、とにかく大きな森だったのだ。
でもまあ、常春の国のライクネスだから森は暗い所も無く、黄緑色の元気な葉っぱが生い茂っているような森なので、怖さはないかな。
もしかしたら、襲ってくるようなモンスターがいるのかも知れないけど、この感じだったら怖くは無いかな……暗い森だと周囲が見え無さそうで不安だけども。
ともかく、そう警戒する事も無いだろう。
まあブラックとクロウは最初から警戒のケの字もしてないんだけどな。
……く、くそう、俺だっていつかは強者と呼ばれるようになってやる。
「アレが地図にあった“寄らずの森”とかいう森だね」
「ムゥ、特に危険なニオイは感じられないな。相変わらず詰まらん道だ」
「おいおいクロウったら戦闘民族みたいなコトを……でも、そう言うって事は、普通に歩いても大丈夫なんだな?」
一瞬安心しかけてツッコんでしまったが、良く考えたらコイツらの「つまらん敵」は、俺にとっては大変な敵かも知れなかったりするんだよな。
俺がアホみたいに歩き回っても大丈夫だって意味で「つまらん」なのか、それとも「ブラック達から見ればザコだが、俺では軽く死ぬレベルのモンスター」しかいないので「つまらん」なのか、どっちか凄く怪しい。
悔しいのであまり言いたくないが、二人と俺じゃ月とスッポンどころか龍とミミズぐらいの差があるので、正直コイツらの敵に向けるモノサシは信用出来んのだ。
本当に大丈夫だろうなと胡乱な目でブラックを見やると、相手は欧米人ばりに肩をクイッと軽く上げて眉を動かした。
「ま、残念だけどランク1にも満たないモンスターばっかりみたいだね。それくらいならツカサ君でも大丈夫だから、安心してよ」
「ぐ、ぐぬぬ……」
なにが俺でも安心なんだ。
く、こ、こう見えても俺だって木の曜術は多少扱えるようになって来たんだぞ。
この世界のランク1は結構な力量のモンスターだと知っているが、それくらいなら俺だって何とか戦えるんだからな。必殺技だって使えるんだからな!!
森の中なら俺の【メッサー・ブラット】っていう、葉っぱを刃にして風の力で相手に吹き付ける術だって存分に使えるし、とにかく俺だって色々出来るんだ。
さ、最近は人が多い場所だったり相手が人間だったりしたから、俺の攻撃系の術は少々扱い辛くて封印していたけど……ここでならやれるはず。
俺が練習したい【術式機械弓】は使えないだろうけど、それでもやれる。
この俺も冒険者の端くれだと言う事を、なんとか見せつけねば。
よし、今度モンスターが来たら俺がいの一番に相手をしてやろう。
ふふふ、やっと異世界冒険らしくなってきたじゃないか。これから俺のチート無双が始まる感じなんだな。こうなったら絶対活躍してやるぜ!
…………とその前に……。
「ブラック、あの森の周囲に人っていそう?」
訊くと、相手は【索敵】の術を発したようで一瞬金色の光を周囲に放ったが、しかし何かが釣れた様子も無かったのか、残念そうに頷いた。
「盗賊らしきヤツもいないみたいだね~。村もまだかなり遠いみたいだ。森の途中にあるのか、それとも森を抜けた道の先にあるのかは分からないけど……まあ、楽には通れそうだから、警戒はソコソコな感じで良いんじゃないかな」
「そ、そっか……じゃあ……出してもいいかな……?」
「ムゥ?」
ブラック達が首を傾げてこちらを見やるが、俺は「まあ見てろ」と手で制すと、バッグの中に入れていた小さな茶巾袋から宝珠を一つ取り出した。
それは、熟れた桃のような色をした、ビー玉くらいの大きさの綺麗な玉。
俺は迷いなくその宝珠を握り、大地の気を籠める。
と――――目の前にボウンと白い煙が現れて、その煙の中から薄桃色のわたあめのような姿が三つ飛び出してきた。
「クゥ~!」
「クゥックゥウ」
「クゥー!」
その長い耳に恥じぬ跳躍力でぴょんぴょんと俺の腕の中に飛んできたのは、そう、俺の素晴らしくて可愛いお友達の一種、ペコリアちゃん達であった。
う~ん久しぶりだけどやっぱり可愛い!
「御無沙汰しててごめんなぁ~! 元気にしてたか? ボスペコちゃんは?」
ペコリア達の親分的存在である、三倍以上もデカいわたあめウサちゃんの事を聞くと、ペコリア達はそれぞれに「クゥックゥッ」と鳴きながら、身振り手振りで「おやぶんも元気です」とジェスチャーしてくれる。
俺が契約したのは一応ボスペコちゃんという扱いなのだが、ペコリアは一グループで召喚珠一個という扱いなのか、基本的には普通のペコリアが出て来てくれるんだよな。まあそれはともかく、本当にペコリアも久しぶりだ。
ハーモニック連合国の港町でロクショウと一緒に出て来てくれた時以来だが、そのことを詰らずに俺に懐いてくれるなんて素直に嬉しい。ううっ、感動で泣いちゃう。
ラクシズでは流石に一般人が多過ぎて出してあげられなかったけど、人が少ない道でなら沢山いちゃいちゃ出来ちゃうぞ。
いや、この街道を歩いている間は、思うぞんぶん一緒に遊ぶんだ。
なんたってペコリアはじめ俺の召喚獣……いやこの世界で言う「守護獣」は、俺にとっては最高に可愛くて大好きなお友達なんだからな!
「クゥ~っ」
「クゥクゥ」
「えへへ……ふ、ふひ、可愛いなぁあ」
「またツカサ君が気持ち悪い声だしてる……」
「平素のお前といい勝負だなブラック」
何か背後でゴッとかいう鈍い音が聞こえたけど、俺は今ペコリアちゃん達とのお鼻同士を擦り合せて挨拶だとかもふもふだとかで忙しいんだ。
はぁあ~天国じゃぁ、ここは天国じゃぁあ~……。
動物のモフモフって、どうしてこんなに人を癒してくれるんだろうか……オッサンの濃い体毛とはえらい違いだな本当……。
久しぶりだったこともあってか、ペコリアのモフ毛があまりにも気持ち良過ぎて、数分ぐらいモフモフと堪能してしまったが、そんな場合では無かったな。
俺達は旅を急ぐ身なのだから、立ち止まっている暇はないんだ。……だがまあ、旅には休息も必要だし、まあいいか。
ともかく今は、ペコリア達と触れ合うのだ。
やっと人目を憚らずモンスターを召喚できる場所に来たってのに、このチャンスを逃してたまりますかってんだよ。
「しばらく人に会わない道らしいから、一緒に歩こう。ご飯も一緒に食べようなぁ」
「クゥ~!」
「クゥッ、クゥクゥッ」
「ククゥ!」
完全に俺の都合で呼び出してしまったが、ペコリア達は俺の料理やお菓子をかなり気に入ってくれているらしくて、素直に喜んでくれる。
地面に降ろしたら、三匹で嬉しそうにぴょんぴょん跳ねまわっていた。
は、はぁあ、可愛い……っ!
だけどこの子達ったら、人に従う「守護獣」の使命を自ら全うしようとしてくれているのか、俺の言葉に対して「ペコリア達は守るよ!」とばかりに、俺の前で小さな前足をシュッシュとシャドーボクシングさせて、強さをアピールするんだコレが!
こんな……こんなに可愛いのに、モンスターとして俺を守ろうと言う使命感を燃やしているなんて、未だかつてこんな可愛くて頼もしい召喚獣がいただろうか!?
くぅっ……!
俺の最高の相棒のロクショウと言い、どうしてこの世界の可愛いお友達は可愛いと言うだけにとどまらず、強くて良い子ばかりなんだろうか……っ。
俺に協力してくれる人族以外の種族の子達は、本当に良い子ばっかだなぁ。
うう、俺はこんなに可愛くて頼もしいモンスターとばかり友達になれて、そこだけはホントに恵まれてるぜ……っ!
「ツカサ君もう行くよぉ?」
「ムゥ……ペコリアを愛でるだけで日が暮れてしまうぞ」
ハッ。そ、そうだった。今は旅の途中だったんだっけかな。
こうしちゃいられない。ペコリア達の為にも早く森の中で水場を見つけて、みんなに美味しい夕食を振る舞ってやらねばな。
「よーしじゃあ“寄らずの森”目指してれっつらごー!」
「クゥー!」
さあついて来いものどもよ、と先行した俺を四足歩行で追い抜いて、ペコリア達も俺の真似をするように二本足で立ってペタペタと歩く。
ああもうっ、先頭からして可愛すぎてもう俺たまらんのですけど!!
「ハァ……ツカサ君たら、モンスター召喚したらすぐコレなんだよなぁ……」
「まあ、ツカサのペコリアは他のペコリアより随分強いから、任せておけばいい」
「捕食される最底辺のモンスターに守られてるのかぁ……」
コラッ、後ろで色々うるさいぞお前ら!
この最高に可愛いペコリアの姿を見ても反応しないなんて、これだからオッサンは仕方ないな。「可愛い」は最強なんだぞ。最底辺など人の付けた基準じゃないか。
例え腕っ節が弱くても、ペコリアは俺にとって最高のモンスターの一種なんだ。
だってもうほら、振り返ってこっちを見て来る姿だけでも、こんなに可愛い……。
「うう、は、鼻血が出そう……たまらんん……ッ」
「コレでよく人のコト変態とか罵れるよなぁ」
「ムゥ……異世界人は小さい生き物をみると皆こうなるのか?」
それはどうか分からないけど、たぶん似たような奴はたくさんいると思います。
可愛いってのは本当に正義だな。うむ。
人は可愛いには弱い物で、それは時に怖いと言う感情をも凌駕するのだ。
つまり、怖さより可愛さ。人は可愛いによって支配されているのである。
ああペコリアばんざい、可愛い生き物バンザイ。
「クゥ?」
「えへへ、何でもないよ~。さて、今日の夕飯は何にするかな」
ブラック達が満足できるようなモノはもちろんだけど、ペコリア達も喜んでくれるような美味しい料理を作ってやらないとな。
とりあえず……早めに小川でも見つけて、どんな材料が森に在るか調べておきたいんだが……日が暮れるまでに水場が見つかるだろうか。
まあそれも、ペコリア達が居てくれたらどうにかなるだろう。
クロウだって水のにおいを嗅ぎ分けられるし、そう難しい事でも無いよな。
ブラックも何だかんだ文句を言いながらも、ちゃんと見張ってくれるし……。
……こうしてブラック達がしてくれる事を顧みると、本当にありがたいなと思う。俺一人じゃ水も探せないだろうし、見張りなんて我慢が続かないもんな。ブラックとクロウが居てくれるから、俺はここまで安心して旅が出来るんだ。
それはきっと、ライクネスが安全だからってことじゃなくて……二人が一緒にいてくれるからなんだろう。
なら……うん、今日のメシは、頑張ろうかな。
…………べ、別にそういうんじゃないんだけど、なんかその、しみじみ考えると、ブラックとクロウにも何かしてあげたいなと思ったと言うか……ま、まあ日頃からのお礼の気持ちだよな!
こういう旅は一人じゃ立ち行かないんだ。
ブラック達が居てくれるから、危険は無い。安心して俺も出来る事をしよう。
そう思うと旅の道もだいぶ楽観できるようになって、無意識に浮かれた口笛を吹きながら、木漏れ日で明るい森の中に突入した。
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