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大叫釜ギオンバッハ、遥か奈落の烈水編
暗闇の集い
薄暗い、礼拝堂のような装飾を施された食堂。
かつては多くの者を迎える為に用意された華燭の卓も、今となっては薄暗く陰鬱な影ばかりに染まっている。
その生気も感じられない部屋には、食事を楽しむために集ったわけではない者達が、礼儀も知らぬようにそれぞれ好む席に座っていた。
「……それにしても、本当にあの場所に『神炎晶』が埋まっていたとは驚きだ」
どこかおどけたような声で言う、テーブルに足を乗せて末席に座る影。
その言葉に、少し離れた場所に座るほっそりとした影が声を低めて息を吐く。
「それ自体は、城主様が仰っていた通りだっただろう。むしろ、コイツが手を広げ過ぎたせいで【世界協定】に見つかってしまったのは大きな痛手ではないのか?」
辛辣な言葉だったが、それを含み笑いが遮り、若い男の声が続ける。
「フフ……別に気にする事ではないでしょう。どうせ、我々の“成すべきこと”を他の者が止められるはずもない。でしょう? それより……私には、彼が【黒曜の使者】と対峙して動揺している方が気になるのですがねえ」
「…………誰が動揺してるって?」
どこか嘲笑うような嫌な声に対して、低く成熟した男の声が呟く。
苛立ちを隠しもしないその声の主は暗がりの中で広い肩を動かし、嘲って来た声の方を鋭い視線で睨みつける。だが、その空色の瞳の殺意などものともしない若い声の主――――ローブを被った何某かは、にやりと口を歪めた。
「だって、そうでしょう? 帰って来てからの貴方は殺意に満ち満ちている。普段は何も関心が無いような風だったのに……」
「チッ……なんとでも言え」
「…………城主様の命令があれば、あの場で始末していても良かったのですが」
誰かにとっては、聞き覚えのある声。
だが、その丁寧で真意を見せない男の声に、この場の支配者が在るべき席に座った大きな影は身じろぎ一つせず否定する。
そうして、この場の誰よりも畏怖を感じさせる音で言葉を発した。
『……今は、目立つ行動は取るな。モルドール、お前はよくやってくれた。他の者も、我々の目的の為によくやってくれている』
「勿体なきお言葉……」
ほっそりとした影が、頭を下げる。
だが、他の者達は特に動く事も無く、またローブを被った何某かが口を開いた。
「しかし城主様、この男は何か望みがあるようですが」
『……なんだ、言って見ろ』
静かな声とは裏腹に、強い視線が舌打ちをした先程の声の主を射抜く。
数秒、沈黙が流れたが――――相手は、忌々しげに吐き出した。
「では……城主様、俺……いや、私に……あの【黒曜の使者】を……
殺す許可を、いただきたい」
強い、あまりにも憎しみに満ちた声。
だがその声をすぐに否定する者はその場にはおらず、再び沈黙が下りる。
けれどもその静けさは、離れた場所に座っていた影によって破られた。
「なっ……何故殺すというんだ!! 【黒曜の使者】は我々にとっても重要な、今後鍵ともなる存在のはずだろう! それに、彼は殺したとしても……」
「死なん。それは知っている。だがそれでも、殺さないと気が済まねえんだよ。死なないのなら、遠慮なく殺したほうが良いだろうが。持ち運びも楽になるぜ。……それともなにか? お前は、まだあのメスガキの師匠面してんのか」
裏切り者の癖に、と、男が吐き捨てる。
その声に対して――――影は、何も言い返せなかった。
『……争うな。今は言い合いをしている場合ではない。……確かに、一度殺した方が楽にはなろう。そのまま死んでくれれば、なおのこと良い』
「じょっ、城主様……っ」
『…………お前には酷な事だが、あのような危険な存在は潰しておかねばならない。我々はあのような存在を頼らずとも天を穿つ存在……あれは、必要ない』
「っ……」
何も言い返せず、影は闇に埋没する。
その様を見て、苛立ちを隠さなかった声がようやく笑った。
「ククッ……ハ……ハハハッ……これがアイツの……ざまあねえな……! まあ……俺を騙しやがったんだ、今度はテメェが騙されて死ねばいい……」
そう言いながら、席から勢いよく立ち上がり声は高らかに笑う。
半ば狂ったかのような、その大きな笑い声を聞きながら――――この場を支配している“城主”の声は、暗がりから男に問いかけた。
『アシュテッド……では、あの【黒曜の使者】の討伐はお前に任せよう。モルドールは、もう従わずともよい。……お前はお前の信念の目指すがままに進むが良い』
静かに呟く声は、その声量に反して部屋の隅々まで届く。
威厳に満ち畏れ敬う事を余儀なくされるような低く重い声は、その場にいた全ての存在を同時に起立させ、頭を垂れさせた。
――――彼らの“忠誠”を誓う姿だけは、他意も無い。
それを理解している城主と呼ばれた一際大きな影は、強く彼らに告げた。
『……我ら、蘇りし【アルスノートリア】……虹の女神イスゼルの願いを果たし、聖なる力を持つ者として……邪悪な七星【グリモア】を必ず滅する……』
例え弟子であろうと。知った者であろうと。
共に汗を流したものであろうとも。
『さきほどの言葉、己が命と心得よ。……決して違えることならぬぞ。
――――【藍瑞】の支配者、セレスト・アシュテッド』
この場を支配する“城主”の冷たい声。
だが、それを聞いていた影は――――空色の瞳に禍々しい殺意を灯したセレストの表情は……これ以上ないほどに、激情の光を孕んでいた。
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