異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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豊穣都市ゾリオンヘリア、手を伸ばす闇に金の声編

25.格差は己の物差しが決める1

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「陛下、このたびは我ら貴族の為に祝宴を催していただき、我ら一同陛下の限りないお心遣いに感謝いたしております」

 ぼんやりと薄暗い部屋で、上座に就くローレンスさんへ周囲の席の貴族達が一礼を見せる。さすが貴族だけあってその動きは優雅だったが、長いテーブルの下座で侍従さん達と一緒にその光景を見ている俺達は、居心地が悪いったらなかった。

 いや、俺達じゃないかも。侍従さん達は自分の勤めているお城だし、この横長だか縦長だかの豪勢な食堂だって何度も出入りしているんだろうけど、慣れない格好の俺達はどうしたって緊張してしまい、ぼーっと突っ立っているしかない。

 ブラックとクロウは別に緊張していないんだろうけど、でも俺はさすがに貴族と王様がまとまっている所で力を抜いたり出来ないワケで……あれっ、もしかして緊張してガチガチなのって俺だけ?

 ああこんな時に緊張してしまう小市民な自分が憎い。
 でも、そんな緊張も今の自分の格好を考えてみれば、無暗に恥ずかしがる余裕もなくなるので良かったのかも知れない。
 だって、今の俺達の格好って……いつもとは違うんだし……。

「――――陛下、不躾で申し訳ありませんが……食事を頂く前に、そこに律儀に整列してくれている者達を紹介して頂けないでしょうか」

 テーブルの向こう側は案外遠くて、あまり貴族たちの顔は分からない。
 だが、彼らがこちらをじっと見ているのは確かに分かって、俺は手を握り締める。
 何か粗相をしたら色んな意味でヤバい……なんて思うと、どれだけ虚勢を張ろうと思っても体は固くなってどうしようもなくなってしまった。

 う、ううう、やっぱ権力はコワイ。
 チートもので貴族とかになるヤツあるけど、みんなよく堂々と出来るよな……。男として情けない気もするけど、俺はどうにもそういうの無理みたいだわ……。
 だって敬語とかあやふやだし、チート能力だって華麗に使いこなしてるぜとは言えないし。やっぱ普通の人間が異世界に来てもこうなるよな、トホホ。
 不敬罪のことを考えると、ついこうなっちゃうよ。

 相変わらず主人公適性の無い自分に少々落ちこんでいると、ガタンと椅子を立つ音が聞こえた。ハッとして視線を下から戻すと、ローレンスさん……いや、国主卿が俺達の方へと歩いて来るのが見える。

 フランクな王様だからか、最高位にいる人間が率先して行動することに、誰も何とも思っていないようだ。こういう所はローレンスさんの強みだよな。
 というか、貴族達が近寄ってくるパターンじゃなくてよかった……と思いながら、俺は改めて姿勢を正した。

「ここにいる二人が、今回の主役だ。こちらの薬師殿は皆存じているかと思う」

 そう言いながら、ローレンスさんは俺達のすぐ近くで止まる。
 俺の左隣にはアドニスがいるが、コイツは素の状態だ。まあ、あの【絶望の水底】には関係ない奴だから別に変装しなくてもいいんだけど……なんか楽そうで羨ましい。
 身じろぎも出来ずに突っ立っていると、貴族の男連中の誰かが声を発した。

「とすると、そちらの……ええと……その子が……我らの初代国主卿を……?」

 なんか凄く「何かを言い辛そうな声」だな。
 ……うん、まあ……仕方ない。普段なら怒る所だが、普段の姿から化粧などをして「変装」した面々と比べると……俺は非常に地味だからな……。

「ああそうだ。たまには控え目な国父様というのも面白かろう。……だが、彼の魅力は表面的な美とは違った所にある」
「つまり、演技が素晴らしいと?」
「それはどうかな。……まあ、祝宴の日を楽しみにしていてくれ」

 貴族の問いに、ローレンスさんは何だか要領を得ない台詞で答える。
 これじゃ納得しないんじゃないかと思ったのだが、しかしやっぱり目上の者の言葉に関しては何も指摘できないのか、貴族達は表面上は納得したみたいだった。

 とは言え、俺に対しての視線は途切れない。
 まあ、傍目から見てもブラック達より地味だから、奇異の目で見られるのは分かる。

 俺だって自分の変装はどうかと思ってるんだもの。ブラック達が小奇麗にして、眼鏡で瞳の色を変えたりしてるのと比べて、俺はほぼ変わってないんだもの。
 俺の綺麗な部分は、服と金髪のカツラぐらいだもの。
 そりゃまあなんだあの地味な奴って思われますよねー!

 はははは……はぁ。
 でも地味でもしょうがないじゃないか。だって俺は美形でも何でもないんだから。
 女の子にモテたいと言っても、そもそもの素材が……うん、いや、やめよう。自分を卑下し過ぎてはいけない。しかし普段の俺ってば何故か、つい女の子にモテて漫画みたいな展開がしたいと無意識に考えちゃうんだよな……自分の事は度外視で。
 つーか、隣には男女問わずメスっ子にモテモテなオッサン二人がいるのにな。

 そう思うと、普段の俺は自分を過大評価しているというか、少々ナルシスト気味に見ている気がして恥ずかしいやら情けないやらなのだが、それはともかく。

 気を取り直して、ブラックやクロウ、侍従さん達などの他の演者も丁寧に紹介するローレンスさんを見ながら、俺は改めて変装したブラック達を見て息を吐いた。

 ……はぁ。
 やっぱコイツらは何やっても格好よく見えるからズルいよなぁ。

「眼鏡だし、首も太くてガッチリしてるし……」

 つい口の中で小さく呟いてしまうが、誰にも聞こえていなかったようでホッとする。
 羨ましいと言うと嫉妬の炎が燃え上がってしまうので言いたくないが、しかしやはり二人を見ていると誰よりも別格に見えて、俺は無意識に拳を握ってしまった。

 だって、ブラックも黒髪のカツラを被っているのに全然変に思えないし、前から所持していた目の色を変える丸眼鏡だってかなり似合っている。
 それでいて澄ました顔をして立っているんだから、これがもうどっかの有能な執事みたいでイラッとするのだ。何でお前はちょっと変えただけでサマになってんだよ。

 そこが美形と俺みたいなのの違いなのかと絶望したくなったが、まあでもコイツが美形なのは嫌と言うほど判っているし、我慢出来る。
 でも、そこに同じように澄ました変装のクロウが加わると、俺はイケメンへの敵意を剥き出しにして飛び掛かりたくなるのだ。
 でも、こんな格差を身近で見せつけられたらそうもなる。

「そこの褐色の肌の彼は……素晴らしい体格ですね」
「ええ、それでいて顔立ちも単性で……そこの黒髪の彼と同じで、脇役だなんて勿体ない……!」
「しかし、映える悪役と言うのも普段と違う趣向で、素晴らしいではないですか」

 貴族達は次々に賛美の言葉を口にして、そうだそうだと頷き合う。
 俺の時とはえらい違いだと落ちこみそうになったが、しかし実際にブラックの向こう側で静かに立っているクロウを見れば、貴族達の言葉に同意するしかなかった。

「そこのアマイア役の彼が猛々しく陰のある美しさなら、占い師を演ずる彼は異国の肌を持つ神秘的で怜悧な美しさですわね」

 いつもならクロウの方が「猛々しい」と言われるのに、こう言われる。
 しかしそれも当然の事だった。

 普段はボサボサのボリュームいっぱいの髪をしているのに、今のクロウは耳を隠すために髪を撫ぜつけてオールバックにし、髪の毛を後ろで括っている。

 いつもは後ろ髪の長い部分だけをポニーテールのようにして縛っているので、ボサついた髪は乱雑に広がっているのだが……今のクロウの姿は、そうではない。
 ちょっと髪を整えて綺麗にしただけで、野生のケモノな通常の姿など思いもよらぬ、紳士然とした大人に大変貌を遂げていた。

 太く凛々しい黒眉は目と近くてキリッとした印象を与えるし、上背が有って体格が誰よりも良いせいか、堂々とした正装がイヤに似合っている。
 現に、ローレンスさんが偽名でクロウを紹介した時に、メスらしきご婦人達が「ホウ」とウットリした溜息を吐いたほどだ。ブラックの時も同じ感じだったけど、クロウの人気の方が何故か凄い。これがオリエンタルな魅力というヤツか。

 ともかく、金髪のヅラを被って変な化粧された俺よりよっぽど好感触だ。
 ちくしょうなんか死にたくなってきた。

 でも、ローレンスさんが「ツカサ君の場合はあまり弄らない方がいいね」とか言ったから仕方ないんだ。まあヅラ被った時点で似合わなかったから、これ以上弄ると更にヤバい事になるって思ったんだろうけど……。

 でもなあ、俺も自分の変装がイイとは思えないからなあ。

「はぁ……」

 誰にも気づかれないように、ローレンスさんの台詞の合間に少しだけ息を吐く。
 己の姿を顧みると、やっぱり俺は恥ずかしさを覚えずにはいられなかった。

 だって、鏡で見た時の俺はあんまり直視したくない姿だったんだもの。
 …………変装と言っても、俺はただ自分の髪に似たような金髪のカツラを被ってるだけで、他は特に変わっていない。……いや、なんか化粧とか言って目の縁とか頬に赤い何かを塗られた気がするが、俺はあんなオバケは見ていない。
 ともかく、自分で見ても「ヘン」なのだ。

 そんなヤツが準主役なんだから、そりゃお貴族様達も「えぇ……?」てなるだろう。
 ローレンスさんは簡単ながらも一人一人を紹介してくれているが、その人達と俺の時との反応がまるで違うのが悲しさを更に誘ってしまう。

 みなさん役者をやるだけあって、どんな姿形でも綺麗だなと思える人達ばっかりだもんな。腹が出てるひょうきんそうな侍従さんだって、俺より格好いい。
 自分に自信が無いからだろと言われるとぐうの音も出ないが、しかし実力が有って自信がある人と比べたら、俺がショボいのはどうしようもなかった。

 うう、これ以上やると自分で自分を潰しそうだから、早く終わって欲しい。
 もうネガティブになっちゃだめだ……と必死に自制していると、やっと全員の紹介が終わったようで、ローレンスさんは再び俺の横に戻ってきた。

「では、これから主演の方々と共に、食事をしよう。彼らは旅芸人の一座だから、何か聞きたい事が有れば聞くと良いよ」

 そう言って、ローレンスさんはニッコリと笑う。
 ……忘れそうになっていたが、そういや化粧してる時にそんな事を言われたな。
 俺達が混ざっていても不思議に思われないように、ローレンスさんが街を探索している時に見つけた逸材って事にして貰ってるんだっけ。

 それもこれも犯人を見つける為に仕方のない事なのだが……なんか自分の変装に落ちこんでる時間がアホみたいだな。
 そんな事よりも重要視しなければいけない事があったんだ。
 アホな事を考えてないで、しっかり「設定」を守らないと。

「さあ君達、それぞれの名前のプレートがある席に座ってくれ」
「感謝いたします」

 ブラックが深々と綺麗なお辞儀をするのに倣って、俺とクロウも腰を折る。
 これもまた「演技」と考えると、俺の体は再び固くなってしまいそうだったが――――今回ばかりはヘマは出来ないと己を奮い立たせ、歩き出したブラックに続いた。

 だ、大丈夫。
 こういう事は何度かあった。
 舞台じゃないんだし、言葉に気を付けて喋ればいいんだから大丈夫。

 どんなに情けなくたって、こういう時は自分を信じるしかないんだ。
 ぶっつけ本番だけど、まずはこの場を乗り切らなければ。










※修正は後程(`・ω・´)

 
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