異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
394 / 1,124
慈雨泉山アーグネス、雨音に啼く石の唄編

23.押され弱いと結局そうなる

しおりを挟む
 
 
   ◆



「そろそろ慈雨街道を抜けるねえ」

 アグネスさんが遊びに来てくれた小屋町【アレトゥーサ】を後にして二日。
 あの過去の栄光が見えた大きな廃墟の町とは違う、少し朽ち始めた湿り気のある小さな集落の廃墟を渡り歩きながら、俺達は今も黙々と道を進んでいた。

 雨の降る範囲は彼女の領域であるものの、やはりアグネスさんにとっても線引きと言うものはあるようで、あの日の朝「きっと人を連れて来るからね」と約束して別れてからは、彼女の気配はとんと感じなくなってしまっている。
 俺としては少し……いや正直物凄く寂しかったが、ヘタに別れを長引かせて彼女に期待と不安を倍増させるよりも、この方が良かったのだろう。

 アグネスさんは俺の提案に凄く喜んではくれたけど、彼女だって繁盛していた頃の【アレトゥーサ】で他の人に俺と同じような約束をされたのかも知れないし、その約束を信じて待ち続けた事も有った可能性があるもんな。

 ……そんな事は無かったと思いたいけど、それでも「全面的に楽しみにしていたらいけない」という心のストッパーは掛かっているはずだ。彼女は帰らない人達を長い間恋しがっていたんだから、俺達の提案だって素直に喜んで待ち続けようとは思えなかっただろう。

 むしろ、喜んではいけないと自分を戒めているかも。
 だってアグネスさんってホントに水のように澄んだ心をしてるから……。

 純粋で他人にあれほど優しいからこそ、過度に期待をしてはいけないと悲しむ心を抑え込んでそうだよな。世の中には、人を恨みたくないからって理由で消極的な考えをしてしまう人だっているし……俺のダチにも、そういうヤツがいるしな。

 だから、アグネスさんもこれ以上俺達と仲良くなるのが辛くて、慈雨街道の終盤にまでは追いかけて来なかったんだろう。

 そんなアグネスさんの控え目で切なすぎる綺麗な心を思うと俺はもう、こんな男で良ければと身を投げ出してしまいたい思いだったが、それを考えていると何故か横のオッサンが凄い顔をするので言葉にするのはやめておいた。

 いや、俺、正直言うとチート主人公みたいに美しかったり可愛かったりする妖精さんに同行して貰えるなら、喜んで歓迎したんですけどね。
 アグネスさんさえ望んでくれれば、何とかして一緒に旅をしようとすら思ってたんだけども……まあそんな展開は無かったので仕方ない。……というか、アグネスさんも多分あの場所を離れたくないんだろうしな。

 人が来なくなってどんなに寂しくなってしまっても、それでもあの場所に居たのは、多分……もう帰って来ないだろう“あの子”を、待ち続けているからだ。
 急にどこかへ消えてしまった、自分の育ての親とも一番の友達とも言える存在を、アグネスさんはずっとあの場所で待ち続けようと決心しているんだろう。

 …………だから、誰にも「連れて行って」なんて言わなかったのかな。

 彼女ほど人に優しい妖精なら、きっと誰かが「一緒に行こう」と誘ったはずだ。
 それでも彼女はあの場所に居たんだから……きっと、そうなんだよな。

 だったら俺は、涙を呑んで少しでも彼女が心安らぐお手伝いをしたい。慈雨泉山の水源を清らかに保って来た功労者でもあるんだから、ちょっとくらい王様にお願いを訊いて貰っても構わないはずだ。

 こういう時に、王族にコネがあるって良いよな。
 ふふふ……とりあえず、すんなり手紙を届けて貰うために、次の大きな街で、この右腕に隠した【庇護の腕輪】を使わせて貰うか……。ライクネスの王様は会うたびに俺をおちょくるので嫌いだが、利用できるモンは使わせて貰おう。

「ねえツカサ君ったら! まーたあの水女のこと考えてたでしょ!!」
「わあっ目の前に顔!! い、いやまあ……そりゃ考えるだろ。この慈雨街道にいつ戻って来られるかもわからないんだし……てか水女じゃないだろ泉の妖精だろ」

 真っ赤なうねうね髪と菫色の眼が至近距離にあったので、つい驚いてしまった。
 でも真剣に考えてたんだから仕方が無いだろう。俺はよこしまな事を考えていたんじゃないぞ。ちょっと考えてたかもしれない。うん、それは置いといて。

 ともかく、心配になるのは当然だろうと相手を見やると、ブラックは不機嫌そうな顔を隠しもしないで口をタコのように尖らせた。

「どーでもいいよそんなこと。それより早く【慈雨街道】を出よ!」
「出よって、お前なあ……もう抜けそうって言ったってまだ先だろ……?」

 昨日今日と堅実に街道を進んできたが、森が鬱蒼としすぎていて道の先は小雨と木々しか見えず代わり映えがしなかったはずだ。
 今だって、しとしと小雨の音が耳に聞こえているし、少し遠くの崖下には川が流れる渓谷が有って微かに音が聞こえ続けている。本当にそろそろ終わるのだろうか。

 今度は俺が訝しげに顔を見やると、ブラックは得意げな顔になって目を細めつつ、じゃあと人差し指を一本立てた。

「今日中に【慈雨街道】を抜けたら、僕の言った事が正しいってことで……久しぶりにお日様の下でセックスしようね!」
「ハァッ!?」
「だってツカサ君、僕の言うコト信じてくれないんでしょ~?」
「いや、し、信じないとは言ってないじゃん! つーかお前、俺今薬を飲んでんだからそういうのは控えようなってなったはずだろ!?」

 とんでもない事を言われて思わず大きな声を出してしまうが、お日様の下でセ……い、いや、その……そういうのするとか、驚いて当然だろ普通!
 何回もやっただろって言われるだろうけど、俺はヤなんだよ外でえっちするなんて恥ずかしいし見られるかも知れないし絶対にイヤだ!
 何度ヤッても断固拒否なんだよっ!

 つーか、マジで今は薬が効いているかどうか試してるんだし、頼むからそこは協力して欲しい。アドニスが折角俺のために処方してくれたんだしさ……。
 にしてもあの【抑制薬】は……なんか、効き目は別にして凄く良い薬だ。

 だって見た目は宝石みたいに透明感のある飴玉だし、いろんな色があって瓶の中に詰められていると普通に大玉のキャンディみたいだし……何より、食べると本当に飴玉でウマい。味は全部べっこうアメなんだけど、それでも心身ともに疲弊している俺としてはガツンとくる甘味が嬉しい。
 なんか子供扱いされているような気もするが、それでも俺には良い薬なのだ。

 そんな薬をくれたんだから、しっかり試して報告しておかないと。
 アドニスへの手紙にアグネスさんの事を書くつもりなんだから、主題の方もしっかり報告できるようにしておかないとな。

 ……まあ、アドニスのことだから、同族であり自分と同じく人族に友好的な大妖精を無碍にはしないと思うけど……アイツ俺の頼み方次第では嫌味を言うからな……。
 優しいんだか厳しいんだか判らないヤツだけど、でも俺の事を信頼してくれているのだけは分かるから、こっちだってその信頼に応えないとな。
 なので、薬の効能を試している今は滅多な事は出来ないのである。

 ――――だってのに、俺の前と横にいるオッサン二人はというと。

「あのクソ眼鏡への報告なんて適当に『効きました』だけでいーじゃんか~! ね~、薬が効いてるかも確かめなきゃなんだから、セックスしようよぉ~ね~」
「そうだぞツカサ。試験というものは、あらゆる方向から試すのだろう。ならオレ達
がツカサを敢えて喰うのも試験というのではないか?」
「こ、こんちくしょう、真面目な顔してとんでもない提案しやがって……」

 しかも二人して結局えっちする事しか考えてねえ。

 あのな、俺いま疲れてるんだからな。薬のせいなのかお前らのヤンチャの効能が切れて来て「異常な元気状態」が切れてて、足にすげえ勢いで乳酸が溜まってるんだからな!? もうふくらはぎパンパンなんだから俺は!
 今日抜けられたとしても、そのままの勢いでケツを掘られたら死ぬぞ俺は。

 その事を歩きながら必死に説明すると、ブラックは二度目の子供っぽい不満げな顔を見せて、後頭部で手を組んだ。

「ちぇーっ。じゃあ街でいっかぁ……でもその前に、ツカサ君の顔やおなかに僕の精液を掛けても大丈夫かも確認しないとね!」
「まだ言うかお前……」
「だって毎日出来ないんだから、せめて出して掛けるくらいは良いじゃない! 本当は毎日どころかずっとツカサ君のナカに入ってたいのに、そういうワケにもいかない状況だし、ツカサ君はアッチの世界にも帰らなきゃいけないしさ……」
「う……」

 それを言われると……ちょっと、困る。
 いや、えっちをしたいワケではないんだが、しかしブラックにとって“そういう行為”は恋人として切っても切り離せないワケで……俺もそのことは重々承知しているから、こうやって詰られると何も言えなくなってしまうのだ。

 でも、俺にだって都合が有るしなあ。
 ブラックもそれを理解してて、こっちの事情を汲んでくれているから詰るくらいで結局我慢してくれてるんだけども……。

「ツカサが疲れているなら、オレも我慢するぞ」
「クロウ……」

 そうだよな、クロウも腹いっぱい食べたいのを我慢してくれているワケだし……。
 だったら、その……外に出す、くらいは……。

「ツカサくぅん……外に出すのもダメ? 僕のペニス慰めてくれないのぉ……?」

 またブラックが近寄って来て、鼻がくっつくくらい近くに顔を寄せてくる。
 わざとらしく目をウルウルさせているのも分かっているのに、ブラックに至近距離でこうやって懇願されると、ロクでもない事を言われているのに、どうしてだかブラックに強く出られなくなってしまって。

「そ、そういう言い方するなってば……」
「ダメ……?」

 だ、だから近付くな、抱きついてくるなってば……!
 なんでアンタは大人げなくそういう事が出来るんだよっ。そ、そんなことして、俺が「良いですよ」なんて言うと思っているのか。甘くなると思ってやってんのか。
 そう思われているなら、ちょっと許す気持ちが薄くなってくるんだが……。

「ツカサ……」
「ツカサくぅん……」
「わっ、わぁあっも、ばっばか近付いてくんなっ……んぷっ、き、キス……っ」

 キスして来るな、と、言いたかったのに、口を塞がれて何も言えなくなる。
 抱きしめられてそのまま持ち上げられると、俺はブラックに縋るしかなくなってしまい足を浮かせたまま息を止めるしかなくなる。

「っふ、んん……つかひゃく……」
「んっ……んむ、ぅ……んん……っ!」

 ちくちくして痛痒い感触だけならいいのに、唇に合わさった自分の物とは違う弾力と生暖かさが生々しく思えて、俺の体温を上げて行く。
 それだけでもぞくぞくして、頭がぼうっとしてくるのに、今度はクロウが俺の手を取りねっとりと舌を這わせてきて。そんな、こと……されたら……――――

「ね……つかひゃくん……い、いいよね……僕のぺにふ……い、いっひゃいなぐひゃめてくれふよれ……?」
「ツカサ、オレにもたっぷりと食わせてくれ……」

 手から、キスされてるところから、ゾクゾクした感覚が伝わって来て、おなかの奥がぎゅうっとなって熱くなってくる。こ、このままだと、やばい。
 何でヤバいんだっけ。ああでもこのままじゃダメだ。
 どうしてこうなってるんだっけ、えっと、ええと……。

「うんって言って? ツカサ君……」
「ツカサ……」

 低くて、お腹の奥が痺れるような大人の声。
 両方の耳を塞ぐように至近距離で囁かれると、もう、どうしようもなくて。
 つい俺は……頷いてしまっていた。













※【庇護の腕輪】
 大陸で最も古く、最も権力を持つ国【ライクネス王国】の国王が直々に命じ作らせる「国王に庇護されている証」の腕輪。基本的に側近や【勇者】といった限られた存在にしか与えられないものだが、王が「与えるに足るもの」と認めた場合に稀にそれ以外の人物にも贈られる。金色だが、実は金ではない特殊な金属が材料。
 表面に彫り込まれた紋様によって兵士達はその装着者の身分を即時に判断できるようになっており、腕輪の内側に刻まれた特殊な文言を見れば装着者の名や身分の詳しい説明が分かるようになっている。
  手続きなしで王族に謁見出来たり検査なしで国境を越えられたりと凄い力を持つが、ツカサはあまり目立ちたくないので必要な時以外には使用しない。
 当然ツカサにとっては「女性を助ける」場合は「必要な時」になる。

 
しおりを挟む
感想 1,249

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

処理中です...