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聖獣王国ベーマス、暗雲を食む巨獣の王編
10.衝動買いは8割後悔する
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まだ詳しく知らない種族が暮らす、南国の市場……となるともちろん、俺が知らない素敵な食べ物がワンサカあるわけで。
特にこのベーマスは、生食が出来るモノがとにかく多かった。
丸いバナナみたいな褪せた赤色の果物(これがマルムーサというらしい)に、星形が特徴的なスターフルーツ……かと思ったら中身は無い、焼いて食べるタマネギのような味の果物。水に浸す事で苦みを調整して食べる、黄土色のバナナっぽい形の……えーと……恐らくは、瓜。
いかにも砂漠や荒野の植物っぽいサボテンのような果物は、切り開いてみたら中が硬めのゼリーみたいなぷるぷるが入っていて、食べさせて貰うと砂糖水のような単純な甘さが嬉しい。市場に出されている取れたての果物は、まさに南国と言った感じのワクワクするようなもので満ち溢れていた。
しかし、俺は一つ気が付いた事がある。
それは…………――――
「食堂なくね……? 酒場だけ……?」
そう。
ナルラトさんと一通りバザーを回って見て分かったのだが、この街には食堂が全く存在していなかったのである。人族用の食堂は有るだろうと思ったが、それもなし。
思い返してみると、そういえば……市場には、香辛料の類も無かった。
それがあまりにも奇妙、というか俺からすれば不思議だったので、果物を買い食いしながらナルラトさんに問いかけると、こんな答えが返ってきたのである。
「そりゃ当然だ。獣人族は基本的に煮たり焼いたりってだけの簡単な食事しかしねえからな。俺みたいな獣人の料理人なんて、王宮や首領が雇うくらいなんだぜ」
「えっ、な、何故……」
「素材で既にうめーのに加工する必要ねえだろってことだな。……まあ、獣人は基本なんでも喰うし、戦いの方に比重を置くからな。美味いに越した事はないが、料理に時間を取るくらいなら、その時間で他種族を襲って肉を得る方が効率がいいと考えるモンなんだよ。だから、料理っつうとあんまり良い顔はされねえんだ」
なるほど、獣人達からすると「料理は無駄な物」という認識なのか。
確かに、好戦的で他種族の獣も襲っちゃうくらいの獰猛さだったら、料理でいろんな時間を無駄にするよりかは……と思うのも仕方がないのかも知れないな。
そもそも、果物がこんな風に生食できるほど美味しいワケだし、獣人からすれば血が滴る生肉は最高の御馳走とも言えるワケだし、そら時間を掛けて調理する理由が見つからないよな。生肉が食える体質なんだから。
いや、ここは異世界だし、曜気とかそういうモノに関する理由も有るのかも。
人族に属する俺からすればビックリな考え方だけど、獣人からすれば合理的な主義主張がある訳だし、それを頭ごなしに否定する事はしたくないな。
料理で無双……なんて一瞬考えてしまったけど、アレはお話だからみんなが満足してスッキリ楽しく読めるのであって、現実でやったらただの上から目線の文化侵略でしかない。ここの人族達もそう思って食堂を敢えてつくらなかったんだろうから、俺も「ええ~」とか思っちゃいけないのかも。うむ、ここは自重しよう。
まあそもそも、俺みたいな適当料理しか出来ない一般人が無双とか無理だし、今はブラックやクロウやロクショウ達が喜んでくれるならそれだけで充分だ。
俺が料理を作りたいと思うのだって、ブラック達が喜んでくれるからで…………ご、ゴホンゴホン。いや、うん。とにかく、郷に入っては郷に従えだ。
俺達は俺達でひっそり美味しくご飯を料理する事にしようってなワケで、俺はロクをベストのポケットに入れて、ナルラトさんと欲しかった食材を買い漁ったのだった。
……いや、こういう時に本当便利だな【リオート・リング】は。
冷蔵冷凍庫ってなわけで、肉を保存するのにうってつけだし腕輪が繋がっている氷の部屋はすっごくデカくて広いから、入れられないモノなんて滅多にないし。
これをくれた妖精王のじいちゃんには本当感謝だぜ。
果物も一応入れてみたけど、もしかしたら冷やす事でダメになっちゃうかもしれない物もあるかもだから注意しておかないとな。
南国の果物って冷やすと逆に良くないモノもあるみたいだし。
俺の世界と同じかどうかは分からないけど、そういうところはキチンとせねば。俺の可愛いロクやペコリア達、ついでにオッサン二人にダメになったものなんて食べさせたくないし。恥をかきたくないし。
ともかく、これである程度の買い出しは出来ただろう。
つい調子に乗って夕方まで街を練り歩いてしまったが、オッサン達は今頃高級宿の酒場でデロデロになっているだろうから構わないだろう。あ、でも食べ物は最低限の調理しかしてないものばっかりなんだっけ。
帰ったら何か作らされる事ぐらいは覚悟しておかなければ。
そう思いつつ、俺は夕暮れでオレンジ色に染まった街をナルラトさんと歩きながら、さきほど購入したものが入っている籠を漁っていた。
買い忘れは無いかと思ってつい集中していたのだが……そんな俺の肩を、不意にナルラトさんが掴んで足を止める。どうしたのかと顔を見上げると、相手は何故か険しい顔をして、右の方をじっと見つめていた。
「ナルラトさん?」
「……すまんツカサ。どこかの店に入って、待っとってくれるか。用事が出来た。でもすぐに戻るけん」
「は、はい……あっ、じゃあ俺最初に入った道具屋にいますよ」
そう言うと、ナルラトさんは少し申し訳なさそうな顔をすると「じゃあ、それで頼む」と言って先程見た方向へ走って行ってしまった。
「…………? どうしたんだろう……?」
「キュ~」
ロクと顔を見合わせて頭上にハテナマークを浮かべるが、答えは出てこない。
考えていても仕方がないので、俺達はすぐ先に見えている道具屋に入った。一人で出歩くのはやめろとナルラトさんが言っていたので、ここで待とうではないか。
そう思い、店内をざっと見て……――――いや、俺はブラシの所はみてない。見てなんてないぞ。最初に目が行ったりしてないんだからな。
べ、別に……あっ、いや、そうだよペコリアや藍鉄のブラシを選べばいいんだよ!
そうそう! そういう感じだからおかしくない。俺は可愛い守護獣のみんなにもっと快適になって貰いたいだけで、あっそうだ柘榴やロクのための何かも有るかもしれんワケだし、その、だからその……。
「………………」
とかなんとか言ってたのに、気が付けば俺は店員さんに話を聞いてブラシやら油を選んで貰い……数種類の体用オイルとブラシを籠……ではなく、こっそり隠せる金属の小さい箱にまとめて入れて貰い、店の前でぼーっと座っていた。
………………。
ふ、ふふ、買ってしまった。しかも日用品の安いのじゃなくて、高いやつ。
ロクや守護獣たちに対しては当然良いモノをと思っていたので後悔など微塵も無いのだが……問題は、この…………熊用の、艶出しふわふわブラシだな……。
「クロウの毛ってクマらしく固めの毛だけど、こ、これがあればふわふわ感も出るとか言われて……つい……ああっ、つい買っちゃったー! もー!! 何やってんだよ俺は、オッサンの毛梳きとか普通やんないだろー!?」
頭を抱えてしまうが、でもでもだって仕方ないじゃないか。
例え相手がブラックと同等のスケベな熊耳のオッサンでも、獣の姿の時は大きくて可愛い熊さんなワケで、そう思ったら買わないワケにはいかない。
クロウの事が嫌いなんじゃないし、普通の意味で言えば好きではあるんだ。なら、プレゼントしたいなと思っても仕方ないだろう。そもそも俺、ブラックにはチート能力がついてるバンダナをプレゼントしたけどクロウにはそういうのあげてないし、だから、ちょっとばっかり気になってたりしたわけで……。
「…………でも、ブラシって……ブラシって……!」
だけどさ、人間の姿をしてるのがフツーなオッサンにコレ買ってどうすんだよ。俺が自分から「ブラッシングしたいからケモノの姿になって」とかハートマークを付けながら言うのか? いやいやいやない、無いでしょ絶対ない、恥ずかしいからイヤだ!!
勘付かれる時点で俺はもう恥ずかしいんだよ、天元突破しちゃうんだよ!
なのになんで俺はブラシ買っちゃうかなー!
熊の姿可愛いから好きだけど、相手オッサンだから! 男だから!!
女の子におねだりするならまだしも同性はいやだ、ねだりとうない! なのになんで俺はクロウが喜ぶかなとか女々しい事を考えてこんな高級なブラシをぉおお……。
「キュ~」
「ううう……ごめんなロク、うるさいよな……」
金属の箱が入った布袋を膝に抱えつつ唸る俺に、ロクはちっちゃな可愛いトカゲのお手手で俺の頬をぺちぺちと優しく撫でてくれる。ぐうう目じゃなくて鼻から熱い何かが出そう。可愛すぎるだろう俺の相棒は。いやそうでなく慰めてくれてるんだってば、いい加減落ち着け俺……。
「キュキュッ、キュッキュー」
「え……なんでそんなに恥ずかしがるのかって? いつもしてるのに?」
ロクショウは、獣の姿と人間の姿をどちらも変わらない物だとおもっているようだ。
……まあ、そうだよな。ロクにとっては準飛竜の姿も黒いトカゲ人の姿もこの姿も、全部ロクなのだ。そこに人族みたいなめんどくさい思考など何もない。
今のこの姿も、俺と一緒に旅をしたいから一生懸命元のダハの姿に近付けたという可愛さの証……うう、涙が出て来ちまう……。
だから、俺がクロウの姿のことで恥ずかしがってるのが不思議なんだよな。
……まあ俺だって「どっちも同じじゃん」と思わないでもないんだけど……でも、いま俺がやろうとしていることは、その……なんていうか……クロウが欲しがっているとかじゃなくて、俺が買いたいからって勝手に買っちゃったモンだし。
それを、自分から「梳きたい」って言い出すってのは、その……。
…………う、うぐぐ……ブラックに対してだって恥ずかしくなるのに、なんでこう俺はこういう事をスパッと出来ないんだろう。
こんなの、普通に「手入れしてやりたいから」って言えばクロウだって優しいんだしすぐやらせてくれるのに、それが言えないんだよな……。
「やっぱ俺…………あの二人に対してだけ気持ち悪くなってるよなぁ……」
「ウキュー?」
何かしたいと思ってモジモジして悶えてる男なんて、傍目から見ても気持ちが悪いとしか言いようがないだろう。でも恥ずかしいんだから仕方ない。
なんでこう、あのオッサン二人にだけこんな風になるんだろうな……。
…………答えは解かっているような気もするけど、なんか考えたくない。
「おーい! すまんな一人にして……」
自分の何とも言えない内情に苦い顔をしていると、ナルラトさんが駆け寄ってきた。慌てて布袋をバッグにつっこんで隠し、俺は立ち上がる。
こちらの慌てた様子にナルラトさんは不思議そうな顔をしていたが、何も言わずに「宿に帰ろう」と言ってくれた。うう、すみません奇行しまくって。
「ツカサ、申し訳ないが……ちょっと用事が出来て、俺は明日から別行動をとらにゃならなくなった。王都へ行くための繋ぎはしっかりするからよ、何日ここに滞在するかは手紙の到着次第だが……宿にもそう言い含めとくから」
「そうですか……。あの、じゃあもう合流とか出来ないんですか」
ちょっと寂しくなって言うと、相手は苦笑して俺の肩をポンと軽く叩く。
「まあ……アルクーダに居れば会うこともあるさ。…………正直、仕事としては会いたくねえけどな……」
「え……」
し、仕事ってなんですか。
いやでも聞かない方が良いんだろうな……。
「ともかく、宿までは送る。明日改めて挨拶するから、お前はもう外に出るなよ。夜はこの街でも危ねえんだ。攫われたくなけりゃオッサン達と一緒にいるんだぞ」
「う、うん……」
危ないって何が危ないのかちょっと気になってしまったが、ナルラトさんが言うなら出ない方が良いよな、絶対。俺としてもピンチになるのはごめんだ。
そもそも、獣人の国だとマジで食欲的な意味でパクーっといかれそうだし。街中でそんなスプラッタな目には遭いたくない。
肝に銘じておきますと素直に頷くと、ナルラトさんは苦笑のような、どこかつらそうな、なんともいえない顔で笑った。
「……あの二人をしっかり守ってやんな。心を乱すってのは、この獣人の国では一番マズいことだからな」
→
※ツイッターで言うてましたがガッツリ遅れましたね…(;´Д`)
次回はぐだぐだ酒回ですはい セクハラしまくってるのでご注意を
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