異世界日帰り漫遊記!

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聖獣王国ベーマス、暗雲を食む巨獣の王編

14.ナワバリと村

 
 
   ◆



 …………どうやら、獣人達には「コイツは俺のモンだ」と周囲に示すための行為が存在するらしい。

 それは“匂いづけ”という行為らしいのだが、なんというか、その……俺からすると、とにかくエグい。もう本当に勘弁してくれってレベルで直球でキツい。

 “匂いづけ”なんて言うんだから、字面だけでもう「ああ、猫ちゃんみたいに体をスリスリしたりするのかな?」なんて予想はしてたんだが、それだけじゃなかった。
 この世界の獣人達が行う“匂いづけ”という行動は……常軌を逸していたのだ。

 …………。
 その……行為の理由自体は、他のオスへの牽制だとか「コイツは俺の物」っていう明確なマーキングになるらしいので、そのあたりは納得できないでもないんだけど。でも……でもさ、マーキングのためにえっちなことするのは何か違くない!?

 普通す、スリスリとか、やってもキス程度じゃないの!?
 なのに、なっ、なんで……。

「なんでみんな人前でイチャコライチャコラと……っ」
「ねー? だから言ったじゃない。他のオスにちょっかいかけられない為に、みーんなキスしたり……も、もっと、ふ、ふへへっ、オスである僕のにおいが、ツカサ君に付着しまくるように、こうやって体をまさぐっておいた方がいいって……」
「いや匂いつけるのに体触ることないだろ!? な、なのになんでみんな……」

 なんで、みんな……その……人前で胸揉んだり、ひっついてイチャイチャできるんです……つーか目のやり場に困るんですけど、困るんですけお!!

 どうして村に到着して早々こんな光景を見なきゃ行けないんだ。いや普通ならメスお姉さんがおっぱい揉まれてアーンみたいな場面は嬉しいんですけど、でも今の俺は背後からブラックに抱き着かれていて非常に恥ずかしいわけでしてね。

 そんなバカップルみたいな状態で村に入ったせいで、ジロジロ見られてるのが本当に居た堪れないわけでしてね!
 ああもう何から受け入れたらいいのか解らない。

 どうして村に入って休もうとするだけでこんなに疲れるのか。
 せっかくの初獣人村だってのに、これじゃ周囲を見る事すらままならないよ。

「あ~らら~、坊ちゃん顔真っ赤ザンスね~。うふふ、そんな顔をすると余計にオスに目ぇつけられちゃうザンスよ! 旦那方にしっかり“匂いづけ”して貰わないとっ」
「そうだぞツカサ。オレも後で存分に“匂いづけ”してやるからな」
「もうみんなおかしい! ここは狂気の世界なんだ!」

 聞いた事があるような台詞をついつい叫んでしまうが、あのスケベなイチャイチャを獣人達は「普通のこと」と思ってやってるってんだから恐ろしい。
 “匂いづけ”の理由は納得出来なくもないけど、でもやっぱり人前でどうどうとエッチな事をしてる他人を見るってのは、その……は、恥ずかしくて……。

 …………つーかなんで俺が照れてんだよ、恥ずかしがってんだよ!
 俺はリア充のイチャつきを見せつけられてるってだけなのにぃいいいいい。

「んじゃ、アタシは馬車の乗り入れを頼みに行ってきます~。獣人の集落は基本的に旅人なんて知ったこっちゃないので、宿なんて無いんザンス。坊ちゃんたちはここで待っていてくださいね~」

 そう言いながら、シーバさんは一足先に村の奥へと行ってしまった。
 ……こういう所は普通に有能なんだけどなあ。どうして旧式ス○オボイスでザンス口調なんだろう。イケメンなのにな……もうここまで来るともどかしいわ……。
 天は本当に二物を与えたり与えなかったりだなと思いながら、俺達はシーバさんが帰ってくるまで何も見ないようにしながら待ち、シーバさんの案内で村の空き地に幌馬車をとめて野宿する事になった。

「にしても……まさか宿も無いなんてシケた村だなあ」
「こ、こらブラックっ」

 いくら空き地で村人の家から少し離れているとはいえ、ここは村の中だぞ。
 家の物と同じレンガできちっと防壁を作った中にある空き地なんだから、外で寝るよりはずっとマシだろう。今更何が不満なのか。
 ……いやまあ、俺も実は宿は無いのかとちょっとションボリしたが、にしたってソレを言っちゃうのは正直すぎだ。村の人に聞かれたらどうすんだよと慌てて口を塞ごうとするが、その話にクロウが乗って来てしまう。

「人族の文化とオレ達の文化は少し違うからな。それは仕方がない」
「客人をもてなす文化が無いなんて野蛮にもほどが無いか?」
「そこは認識の違いだろう。獣人は『己が認めて連れて来たもの』しか客人としての礼を尽くさない。勝手にやって来たものは獲物でしかないと考える種族も居るし、己の利益になれば歓待する種族も居るが……基本的に、自分達の土地に入った者は敵か味方だ。アルクーダ国内の獣人は、商人の行き来も有ってそのような考え方の種族も旅人にある程度寛容だが……この国から出れば、これより酷いぞ」

 馬車の車輪が動かないように留め具をしっかり噛ませながら、クロウは言う。
 俺はてっきり「あまり旅人が来ないから受け入れ方が分からず戸惑っている」的な平和な理由かと思ってたんだが……どうやらここも「弱肉強食」らしい。

 ……まあ、野盗がホイホイ出るような世紀末大陸なんだもんな……そりゃ旅人って存在が信用出来るはずもないし、ナワバリ意識があるなら認めた人間以外は敷地内に入れたくないと思うだろう。わりとソコは動物的な考えだな。
 あまり考えた事が無かったけど……獣人って結構排他的なもんなんだな。

「それだけじゃないザンスよ。獣人族は、基本的に旅をしませんからねえ。狩りに出るとかの用事が無い限りは極力集落を出る者も限ってますし」

 いち早く焚き火の用意をしてくれているシーバさんが、続けて言う。

「街や大きな集落は比較的人族寄りの考え方ですが、こうして好き好んで荒野の村に住んでる人達は昔からの暮らしを続けてますからねえ。だから、人を受け入れる事は有ってもこういう空地とかにしか滞在させてくれないんザンス」

 なるほど……俺達の世界で言う「ヨソモノは村の敷居をまたぐな!」状態なんだな。
 古い慣習が肌に合うから、荒野の村で暮らしてるって事なのか。
 あの“匂いづけ”を堂々とやる人ばっかりだったのも、昔の価値観では見せつけるのが当然の事って感じだったのかなぁ。
 ……だったら、街に入りさえすれば目のやり場に困ることはないと信じたい。

 つーか、この村のように大らかな環境でなかったらもうなんでもいいぞ。
 シーバさんが俊足なおかげで、明後日の夜くらいには王都に到着できるらしいし、今日は帰りたい心を押さえこんで空き地に滞在させて貰おう。

 旅人を歓迎してないってことは、村の人も近付いて来ないだろうし……夜になれば周囲も暗くなって何も分からなくなるはずだ。
 ブラックだって必要以上に人前で接触してこようとはしないはず。ってかもう離せ、いつまで俺に覆い被さってんだお前はっ。

「ああん、ツカサ君の意地悪ぅ」
「シーバさんとクロウにばっかり用意させてんなよ! ったくもう……俺は食事の準備をするから、アンタは座るとこ作って」
「はぁ~い」

 不満げに口を尖らせながら言う無精髭のオッサン。
 いてこましたろか、とネイティブ民でもないのに言ってしまいそうになるが、そんな事をしても俺が返り討ちになるだけなので堪えて食材を取り出す。

 ……一応、警戒して、幌を降ろした真っ暗な馬車の中に上半身を突っ込み、そこで【リオート・リング】から取り出すようにしておこう。
 村の人を盗人扱いしてるんじゃなくて、これは自衛の練習だ。

 【リオート・リング】は俺にしか扱えない妖精王の贈り物だけど、見た目は金の腕輪だし金目の物ではあるからな。野盗が出るんだから、用心に越したことはない。

 【サービニア号】の調理人さん達から貰ったお肉とか調味料を取り出し、ついでに俺が食べたかった果物も取り出しておこう。

 真っ暗な幌馬車の中だけど、リングの中の氷の部屋はいつも薄ら光っているから、何がどこにあるかと迷わなくて安心なんだよな。……いやホント、普通に俺の世界の冷凍冷蔵庫みたいで、妖精王の爺ちゃんには感謝してもしきれない。

 だんだん日が暮れてきたとはいえまだ熱いこの時間帯では、冷気も有りがたい。
 ほんと情けは人の為ならずだなぁ……としみじみ思いつつ、俺はバザーで買ったでっかい籐のような植物の籠に食材を入れると、馬車から体を出した。

「よいしょっ、と……」
「あっ、肉だ! 今日は肉焼くの? ねえ肉焼くのツカサ君」

 もう自分のする事が終わったらしいブラックが、すぐに駆け寄ってくる。
 ニコニコと嬉しそうに言いながらも、相手はいつの間にか俺が持っていた重い籠を奪い取っている。なんだその早業はと思ったが、恩着せがましくすることもなく、ただ当然のように籠を持ったブラックに、何だかじわじわ顔の熱が上がってしまう。

 そ、そういうのって、普通俺が女の子にやるやつ……っ。

 っていうかズルい、ズルくない!?
 何でこういう時ばっかり普通に紳士的になるんだよアンタはっ!

 別に重くなかったし、お、俺一人でも持てたんだぞ。まあえっちらおっちら歩いてて危ないように見えたから持ってくれたのかも知れないけど、でもその、そう当然のように荷物を引き受けられると……その……。

「ツカサくぅ~ん、ねえねえ、僕のお肉一番分厚くしてね! 果物も美味しくて大きいのでいいよ!」
「お前さらっと暴君みたいなこと言うんじゃないよ」
「だって僕ツカサ君の恋人だも~ん。船ではいっぱい頑張ったしさ、ねっ。だから、旅の間はい~っぱい甘えさせてよぉ。……ね?」

 言いながら、でっかい図体で擦り寄って来るブラック。
 クロウのみならずシーバさんも居るし、なんなら誰か見ているかも知れないってのに、何故にコイツは人の目なんぞ一ミリも気にせず甘えられるのだろうか。
 さっき荷物を持って貰ってドキッとした自分を殴りたい。
 いやしてない。ドキっとなんて絶対してない。

 …………と、ともかく!
 本当なんでこのオッサンは、どこでもこんな風に欲望丸出しでいられるのか。

 まあ、確かに船ではクロウと一緒に我慢してたし、色々あって心配ではあるけど。
 しかしアンタ昨日は酒飲んでハメ外しまくって発散してただろうがっ!

 なーにが旅の最中はいっぱい甘えさせてだ。

「ね~……ツカサ君……。ツカサ君は、僕といちゃいちゃするの、いや?」
「…………」
「せっかく、前みたいに少人数で旅してるんだからさ……また、いつもみたいに色んな所で“いちゃいちゃ”しようよ……ね、ツカサ君……」

 焚き火の前に座ると、ブラックは籠を置いて横から俺の肩を抱いて来る。
 ブラックの大きな手の暖かさと指が肩に触れる感触がやけに生々しくて、俺の胸は無意識にぎゅうっとなってしまった。

 それだけでもドキドキして苦しいのに、ブラックは耳元に口を寄せて来て。

「恋人……ううん、婚約者なんだから、いいじゃない。船の中で離れ離れになってた時間を取り戻そうよ。……僕、ホントに寂しかったんだから……だからさ。いーっぱいイチャイチャしよ……? “匂いづけ”とかもいっぱいしなきゃダメだしさ。ね?」

 そう言われると……何も、言えなくなる。
 ブラックは俺のことをずっと大事に思ってくれているし、寂しいとは言いつつも俺が二つの世界を行き来する事を認めてくれているんだ。俺が逆の立場だったら、相手に対してこんな風にお伺いを立てることも出来ずにワガママを言ってるかも知れない。

 それに……サービニア号では、ブラックの体もヘンになってたし……。
 …………もしかしたら、不安だからこんな風にずっとひっついてくるのかな。

 だとしたら……――――

「…………人族の大陸に帰るまで、だからな……」

 正直、人前でイチャつくなんて恥ずかし過ぎてやりたくない。
 でも俺がブラックのモノであるのだと獣人に理解して貰えて、面倒事が減ると言うのなら、しない理由も無い。いつヘンな事に巻き込まれるか分からないんだし、またいつ獣人の大陸に来られるかも分からないんだから……だったら、恥ずかしいけど、ブラックに守って貰うのが一番だよな……。

 だ、抱き着かれるくらいなら……我慢出来るし。
 みんな気にしないっていうなら、普通だってんなら、そりゃ、まあ。

 ……それに……いやって、わけじゃない、し……。

 ………………ドキドキして、そんなことになる自分がキモくて恥ずかしいから、人の前でしたくないって、だけで……う、ううう……。

「わはーっ! やったー、ツカサ君すきっ、大好き~!」
「うわっぷ! ちょっ、た、たき火の前、危ないから!」

 なんでこれだけでブラックは喜べるんだろう。
 いっつもひっついてるのに、それが人前でも出来るってだけなのに。

 そうは思うけど顔が熱くて耐え切れず、俺は何とか引き剥がそうとブラックの太い腕に手を回して、体を掴む手を引き剥がそうとする。
 だけど、その左手に琥珀色の指輪が撒き付いているのが見えて、余計に顔の熱と鼓動が激しくなってしまって。

「あは……つ、ツカサ君も期待してくれてるのぉっ。う、うふっ、嬉しいよぉおっ、こんな顔真っ赤にしちゃって……ああもう僕ご飯食べる前に耐え切れなくなりそうっ」
「な、何考えてんだよお前は! やめろっ、メシの支度するんだからな! もう今日は昨日みたいなのは、しっ……しないんだからにゃ!」
「照れて噛んじゃうツカサ君可愛すぎ……っ、はぁっ、はぁあっ」
「興奮すんなぁあああ!!」

 必死にブラックを引き剥がそうとするが、運動音痴の俺がデカブツのオッサンから逃げられるはずもない。
 だけど、もう昨日みたいなのはこりごりだ。
 “匂いづけ”ったって、そんなえっちなことまでしなくていいはずだ。

 しないぞ、俺はしないからな!!












※眠気が凄くて11時に起きて青ざめながら更新作業してました
 :(´◦ω◦`):さ、最近疲れてるのか眠くて…遅れて申し訳ない…
 遅れたりする時は基本的にツイッターでお知らせしてますので
 作者の絵やくだらんツイート平気だよって方はフォローして下さると
 嬉しいです!いやほんとくだらないので…

 
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