異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
489 / 1,124
聖獣王国ベーマス、暗雲を食む巨獣の王編

  おおかみぐるまで昼と夜2

しおりを挟む
 
 
 シーバさん曰く、武神獣王国・アルクーダは、草がまばらに生える荒野のその先にある、ゴツゴツした岩だらけの荒野――――彼らが【風葬の荒野】と呼んでいる岩石砂漠地帯を越えたその先の“砂漠のオアシス”に存在しているらしい。

 ……なんだか砂漠って単語が二つも続いててややこしいが、どうやらベーマス大陸には、いくつか別の種類の砂漠が存在しているらしい。

 話によると、南極に近付くと歩く事すら躊躇われるほどの熱砂で覆われた乾燥地帯があるらしく、そこは獣人ですら滅多に近寄らないとかなんとか。最初に話を聞いた時にも思ったけど、やっぱしこの世界は南極も寒いってわけではないようだ。
 どういう理屈なのかは分からないけど……太陽の位置的なモノとかが違うのかな。でも、こういうのっていろんな要因があるらしいし……うーん……科学はよくわからんのでチンプンカンプンだが、とにかくこの世界は異世界ってことだろう。

 ともかく、ベーマスは本当に過酷な土地なんだな。
 アルクーダ国の首都に行くにしても、どのルートを通ろうが必ず“岩石砂漠”という場所にぶち当たるって話だし、こんな世界じゃそりゃ弱肉強食になっても仕方がないような気もして来る。だって、穀物もまともに育たない土地ばっかなんだもの。
 そりゃ戦わなければ生き残れないよな。獣のサガが強くなるワケだ。

 共食い的なものを感じてつい暗澹たる気持ちになってしまうが、唯一救いがあるとすれば、それは彼らが獣人だって事だろう。
 例え穀物や果物が豊富でなくても、獣としての道理が存在するから、他種族を獣として襲って食べる事が出来るんだ。それは俺が想像する共食いするみたいな話じゃなくて、獣同士が争って命を繋ぐ真っ当な食物連鎖なんだ。他者と戦い喰らうことが出来るからこそ、獣人達はこんな所でも立派に生きて行けるのだろう。

 ……俺には理解が難しい感覚だけど、でもそうやって彼らは生きてきたわけだし、人族が足を踏み込んでいい話じゃないよな。
 そもそも、俺達は「姿形が違うだけでみんな獣人」と思っているけど、獣人としては「他種族は同じ存在ではないから捕食対象」だって思ってるのかも知んないし。

 うーむ……。あらゆる理由から人肉がタブーになっている世界の住人である俺には、獣人族の倫理観は完全には理解出来ないものなのかもなあ。
 理解はしたいけど、実際見て耐えられるかどうかは別モンだし。

 とりあえず、出来るだけ他種族モグモグする光景は見たくないな……。
 旅の間は出来るだけそういう場面に出くわさないように気を付けよう。

 閑話休題。
 しかし、あの【ゼリバン・グェン】では果物もバザー……人族で言う市場に、たくさん並んでたよな。もしかしたら、他種族を食べなくても豊富な果物で生きていけるんじゃないのか。でも、考えてみればあの果物は顔に紋様の化粧をしていた獣人さんしか売っていなかったような気がするし……地域限定って感じなのかな。
 特定の場所でしか果物が採れなかったら、ソレを主食にする訳にもいかないか。

 せめて、何がドコって分かればもうちょい俺も納得できるんだろうけど……ベーマス大陸の地図は売って無かったし、全貌が良く分からないのが歯がゆいなあ。
 久しぶりに手さぐりって感じだ。
 でも、こういうのってちょっとワクワクするよな。行く先が分からないまま案内されると言うのも、なんだか冒険感が有ってちょっと楽しい。

 道も無い荒野を馬車……いや狼車で走るなんて、まさにワイルドだ。
 衝撃を和らげるサスペンション的な物が無いので、ガタガタ揺れまくって思いっきり酔ってしまいそうだったが、それもまた旅っぽい。

「うーん……これもロマンだな、ロマン!」
「またツカサ君がおかしなこと言ってる……振動のせいで頭バカになっちゃった?」
「なってねーよ! ったくもう……」

 でえいチクショウ、せっかく人が旅の気分を盛り上げてテンション高く行こうと思っていたってのに、なんでこうブラックは一々水を差して来るんだ。
 黙っていると酔いそうだから、気合を入れるくらい許せっちゅうに。
 やることも無くダラダラしているオッサン達を睨んで、俺は避難だと言わんばかりに御者台へと移動した。薄暗い幌の中にいるよりはナンボかマシだ。

「キューッ」
「ん、そうだなロク~。ずーっと荒野だな」

 誰も居ない御者台に座り、シーバさんが向かう先を見ると、水平線までずっと荒野が広がっていて大きな変化はない。遠くに集落のような物が見えたけど、それすらも幻なんじゃないかってくらいに広くて荒涼としていた。

 そんな景色がロクショウには物珍しいらしく、俺の肩に乗ったまま、キョロキョロと頭を動かして周囲を興味深げに観察していた。
 ああ~、ロクに癒されるぅ……。
 肩に軽い重みを感じる幸せをかみしめていると、俺達の会話を聞き取ったのか、狼耳をこちらに動かしながらシーバさんが話しかけて来た。

「おや坊ちゃんどうしたザンス? まだ日差しが強いですから、中に居た方が涼しいと思いますよ」
「なんていうか、馬車の中は色んな理由で蒸すから……風が気持ち良いし、しばらく御者台に居させてよ」
「坊ちゃんがいいなら。それにしても、今日は野盗と遭遇しないから、この分だと早く【風葬の荒野】に行けそうですね~。幸先がいいってもんですよ」
「えっ……や、やっぱいるんですね野盗……」

 まあいないワケがなかろうが、しかし獣人の野盗となると倍恐ろしい気がする。
 生きたまま食われたりしないよなと余計な事を考えて青ざめていると、シーバさんは「ハハハ」と朗らかに笑って狼の耳を動かして見せた。

「心配は無用ザンス! アタシがいますし、なによりクロウクルワッハ様がいますからねぇ! そこらの野盗なんて敵じゃーありませんよ」
「ほーう、随分な自信じゃないか」

 あっ、ブラック。
 おいおい隣に座って来るんじゃない。御者台が狭くなるだろうが。っていうか、またお前はクロウを置いて来たのか。オッサン同士仲良くしろよホントにもう。

「そんなにここらへんの野盗はよわっちいってことなのか?」

 こらこら、またそんな捻くれた言い方をして。
 ブラックだってクロウの実力は内心認めてるんだから、元部下のシーバさんも強いということぐらい理解しているだろうに。

 しかしこのブラックの発言に、大人なシーバさんは律儀に答えてくれる。

「それもありますが、砂漠の凶暴なヤツらと比べるとってのもありますねえ。ここいらは集落がありますから、野盗もあんまり飢えてないんザンス」
「つまり飢えてると凶暴になると」
「アタシらも半分はモンスターですから。そりゃ飢えたら凶暴になるザンス。だけど、武人ですからアタシらは無暗に襲いませんよ」

 そういう問題なのだろうか。
 いやまあもうこれは文化の違い……ていうか深く考えない方がいいのかも。
 一々気にしていたら疲れてしまいそうだ。

「じゃあ集落に泊まってもそういうヤツが出てくるってことだな? そんな所で休めとは、獣人ってのは随分と無茶な事を言う」
「またまた、ブラックの旦那なら軽くいなせちゃうくせに~。とはいえ……坊ちゃんは、そうもいかないザンスねえ。今日は集落に泊まりますが、警戒しておいた方がいいかもしれないザンス」

 ええとそれは……集落でも気を抜けないって事なんでしょうか。
 この際俺が弱そうに見られてるとかは置いておくとしても、集落に到着しても安心出来ないなんてそれは本当に大丈夫なんだろうか。

 ナルラトさんも「人族の居留地から出たらもう危ないゾ」なんて忠告してくれていたが、シーバさんのあっけらかんとした言葉を聞いていると、それが当たり前のように言われ過ぎて逆に恐ろしくなってくる。
 当たり前に襲われる世界ってなに。勘弁して下さい。

「ええ……じゃあど、どうしよう……。普通に泊まって大丈夫なんスかそれ……」

 現状、ブラック達と常に一緒に行動するしかないんだろうか。しかし、それはそれで金魚のフン状態みたいになっててちょっと情けないな……。
 どうにかして自衛できる方法は無いだろうか。

 正直イヤだけど、こうなったら獣人族の慣習に則って、お触り禁止と言われている服を着込んで肌を隠したメスの変装をするしかないかな。
 周りは獣人だらけなんだから、警戒するに越したことはないだろうし……って、何か獣人を所かまわず襲うマンみたいに言っちゃってるのもヤダなぁ。

 警戒しなけりゃ自業自得とはいえ、獣人全員を敵として見てるみたいで何とも己が恥ずかしい。強かったらこんな事を考えなくてもいいんだろうけど、悲しいかな俺の腕はブラックと比べてヒョロッヒョロのヒョロだしな……はぁ……。

 やはりメスの変装が一番手堅いかな……などと考えていると、シーバさんは俺の想像もしていない事を言い出した。

「大丈夫ザンスよ! ブラックの旦那とクロウクルワッハ様がいらっしゃるんですから、坊ちゃんはお二人にたっぷり“匂いづけ”して貰えばいいんザンス」
「ん?」
「口付け程度じゃ収まらないヤツもいるかもしれませんから、雄汁でたっぷりニオイを付けて貰うのもいいと思いますよ! 明確なオスのニオイがついてれば、他のオスも警戒すると思うザンス!」

 …………んん?
 なに、なんて?

 ちょ、ちょっと聞こえなかったな。耳が眠ってたなあ。
 なんだっけ、シーバさん今とんでもないことを……

「ふっ、ふへっ、だ、だってよぉおツカサ君んんん! “匂いづけ”は重要みたいだねっ、に、匂いづけとして今日も僕がたっぷりツカサ君にせ、精液をほほほ」
「何言ってんだお前なに言ってんだうわー! 近寄るなー!!」

 ものすんごく気味の悪い笑い声を漏らしながら俺に抱き着いて来ようとするブラックを、必死の思いで避けながら逃げようとする。が、相手の大きな体が俺のことを逃すはずもなく、簡単に腕の中に捕えられてしまう。

 人前、っていうかロクの前で何をするんだと顔を上げると、強引に口を塞がれた。

「ん゛ーっ! んんんーっ!!」
「わはー、口吸いっすね、今やってますね! ああ見たいザンス~!」

 こらやめろ、見世物じゃないんです、っていうか見たがらないでシーバさん。あんた何が楽しくて見ようとしてるんですか。お願いだから前を向いて走って。
 つーかなにこれ、匂い付けってなに、今何が起こってるの。

 頼むから誰か説明してくれ、つーかもう人前でキスすんなブラックのばかあああ!










※ツカサは匂い付けの事を知らない
 
しおりを挟む
感想 1,249

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

処理中です...