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聖獣王国ベーマス、暗雲を食む巨獣の王編
24.似た者同士だからこそ
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王都・アーカディアにある王宮【ペリディェーザ】は、巨大なオアシスの上にある唯一の大地の上に立つ煌びやかな宮殿だ。
役人達と王様が「まつりごと」を行う宮廷と、分厚い街壁の向こうに砂漠を見据える王族の寝所……王宮の二つの区域で成り立っており、これらをごっちゃにして人々は「王宮」と呼んでいる。
まあでも、王様は基本的に王宮【ペリディェーザ】から出て来る事はあまりないし、外の人に「実は王宮だけじゃなくてね……」なんて言っても仕方がない。
そもそも獣人はあまり細かい事を気にしないらしいので、宮廷もなしくずしに王宮の名を使っちゃっているのだそうだ。
とはいえ……この豪奢な宮殿を見ていると、もうどっちも王宮みたいなモンで良いと思っちゃうんだよなぁ。ホント、どこもかしこもアラビアンなお城みたいに、細かい装飾や綺麗な装飾で飾られてて華やかだし、中庭や窓の外も瑞々しい植物や花で溢れていてオアシスの宮殿そのままって感じだし……。
童話の絵本とか、マンガやアニメで見たイメージそのままというのだろうか。
中庭に噴水が有ったり植物が柱に絡まったり、なんならその植物に美味しそうな実とかが生っていて楽園とはこの事かと言いたくなってしまう。
宮廷の客室でこんな庭付きの風景が見られるのだから、王宮の方はどんだけ凄い事になってるのやら。アレかな、ハーレムとかあるのかな……。
……って、そんな事を考えてる場合じゃないか。
豪華な部屋に案内して貰って一息ついたとはいえ、今はノホホンと建物見物をしている場合じゃないんだ。ちゃんと状況を把握しないとな……。
「ふえぇ~ん、ツカサくぅううんっもう僕疲れたよぉおおお」
「だーもう頼むから気合入れた直後に絡んで来くるな!」
怒る気力も湧かない俺に、マントも上着も脱いでシャツとズボンだけのラフな格好になったブラックは、構ってと言わんばかりのタックルをかましてくる。
そのまま広い絨毯の上に押し倒されながら、俺はやめんかともじゃもじゃの赤頭を手で押しやった。無駄だと解っていてもやらなきゃいけない時があるんだっ。
しかし、オッサンは海に打ち上げられたトドのごとく絨毯に寝転んだまま、俺の腰に縋りついて離れようとしない。
それどころか、壁際のいっぱいクッションがあるところに追い詰めようとしやがる。
こ、こいつ、寝技に持ち込もうとしてやがるな。
「ねーねーもうゴロゴロしてようよぉ。僕達が出来る事なんてもうタダメシ喰らって時を待つくらいなんだから、ツカサ君もそうしようよ~ねぇ~」
「いや色々やる事あるだろ!? 今までの話の整理とか、どうやって早く【銹地の書】を貰って帰るのかとかさ!」
アンタだって早く帰りたいとか言ってたでしょーが。
なしくずしにクッションの海に連れて来られてしまったが、それでもブラックの緩んだ顔を睨むと、相手はますます表情をだらけさせてその場に倒れ込んだ。
ぬう……暑い国の絨毯の上というのに、なんて心地いいんだ……。
でも本当に解放感が有って気持ちが良い部屋なんだよな、ここ。
俺達がいま居るのは、大広間のように開け放たれた部屋だ。扉のないいくつかの入口の向こうに緑溢れる庭園を眺める部屋は、実に涼しくて居心地がいい。
磨かれた象牙色の床はつるつるだし、緑が薄ら映ってて綺麗だ。
そんな部屋の壁際にある、多彩なクッションがいくつも置かれた大きな絨毯の上で俺達は寝転がっているわけで……ほんとにどっかのアラビアンナイトだ。
これで俺がマハラジャで美女が侍ってたら最高だったんだけど……現実はオッサンに抱き着かれてるだけなんだよなぁ……はぁ。
ともかく、この甘えたな中年をどうにか説得しないとな。
クロウは、ドービエル爺ちゃんと少し話をするって謁見の間で別れて来ちゃったし。今の内に、俺達だけでもキチンとしておかないと。
……しかし、このオッサンは全然やる気がないようで。
「はぁー……。話の整理ったって、どこから整理するんだい? もう僕、お貴族連中の身内争いってだけで何も関わりたくなくなっちゃうんだけど……」
「でも、このままだといつまでココにお世話になるか分かんなくなるだろ。だから、まず何をすればいいのか話そうよ。な?」
「ん~……」
ブラックが「貴族」とか「王族」とかが嫌いなのはわかるけど、そんなのが盛り沢山な場所に居る方がイヤなんじゃ無かろうかと思うし……それに、クロウの事も心配だ。
早く人族の大陸に戻れるんなら、それに越したことはない。
俺達が出来ることは無いかも知れないけど、何か薄くでも指針が無いと、変な行動とかしちゃってまたヤバい事態になりかねないし……。
そんな俺の意図は組んでくれたのか、ブラックは少しむくれた顔でクッションが山のようになっている場所を指さして俺を座らせると、その膝の上に頭を乗せて来た。
……膝枕か……まあ普通に話を聞いてくれるなら良い。
「それで……まず、何からやったほうがいいかな」
俺を見上げて来るオッサンの顔を覗き込むと、相手は「ん~」と唸る。
「クソ熊どものお家騒動は置いとくとして……僕らの目的である【銹地の書】の取得は結局のところ、あの赤クソ熊を王位に戻すしかないんじゃないかな」
「やっぱそうなる……?」
「だって、熊公の親は国王で居続ける気はないんだろう? だったら、後腐れないよう次代に譲り直したほうが荒れずに済む。そもそも、背後に王様より強力な存在がいるんなら、国政はそいつらがどうとでも動かせるワケだしね。そうなるんなら、あの親熊を信頼している奴も納得するだろう」
そ、それって、堂々と王様を傀儡にするってことじゃないの……。
でもそこまで俺達が考えるのもな。それに……正直、俺もあのカウルノスって人より爺ちゃんが王様を続けた方がいいかなって思っちゃうし……傀儡政権って奴になるんなら、それはそれで仕方がない事なのかも知れない。
外聞は悪いし、爺ちゃんは多分御意見番みたいにしかやらないと思うけど、あんな怒りんぼうよりマシな政治をしてくれそうだと思うと、一般市民的な思考としてはつい「それでいいか」と考えてしまう……ホントはダメなんだけどな。
だって、良い政治をしてたってそれはちゃんとした政治じゃないわけだろ?
そんなの許してたら、いつか本当に悪い奴に傀儡にされちゃいそうじゃん。例外をずっと許してたら、ソコを悪人に付け込まれた時に怖いもんな。
まあ、それは爺ちゃんも分かってるだろうから、何とかカウルノスって人を再び王座に乗せようとしてるんだろうけど……。
「ともかく……あの人を王様にしなきゃダメってことか……。確か“最も古い群れ”とか言うグループの内の、三人の王様に認められなくちゃいけないんだよな?」
「まあ、冒険者になる試験みたいな物だろうね。でも親熊が難しいって顔をしてたから今のままだと望み薄だろうなぁ」
呆れたように目を細めるブラックは、俺の片手を勝手に持って来て強引に頭を撫でさせようとして来る。仕方なく頭を撫でてやりながら、俺は息を吐いた。
「それじゃ、俺達に出来る事って……」
「なにもないよ。何もないからね! ツカサ君もお節介を焼いて王座挽回を手伝ってやろうとか絶対に思わないでよね!? ただでさえ熊公が王子だ何だってもうごちゃごちゃして来てるってのに!」
「わ、わかってるよ! 解ってるけど……その……クロウ、やっぱこのままだとここに居づらいんじゃないかなって思って……」
王座云々は置いておくにしても、爺ちゃん以外の人達のクロウに対する態度は、何と言うか……ちょっと、冷たすぎるような気がする。
カウルノスって人は兄弟なのにクロウの事を軟弱者だなんだと虐めるし、あの象耳眼鏡お兄さんも冷ややかな感じだった。それに、王宮に滞在して欲しくないって感じの物言いだったし……それだけじゃなく、俺達がこの部屋に来るまでに廊下ですれ違った獣人達も、獣人らしく人族の俺達をジロジロみて見下したように見て来るし。
ドービエル爺ちゃん以外の人は、みんなそんな感じだ。
これじゃ実家に帰って来たってのに、クロウは全然安らげないよ。まさか、こんなにギスギスした帰省なんて初めてだ。
普通、両親の実家に帰るってなったらさ、ワクワクするもんだよな。
俺の母方の爺ちゃんと婆ちゃんなら大歓迎してくれるし、いつも遊びに行っていた父方の婆ちゃんも行くたびに俺の事をいっぱい可愛がってくれた。
どっちの婆ちゃんたちも、嫌な顔なんて全然しなかったんだ。
……そういう家ばっかりじゃないってのは分かってるけど……でも、やっぱり、自分の仲間が歓迎されていない雰囲気を感じると、凄くイヤな気持ちになる。
クロウは本当に良い奴で、凄い奴で、俺達の事を大事に思ってくれてるのに。
そんな仲間が冷たくされるのは、我慢がならなかった。
でも、俺達がどれだけ「クロウは強くて格好いい、頼れる獣人だ」と言っても、ここの人達は耳を貸してくれないだろう。
あの兄弟……カウルノスというヤツだって、嘘だと決めつけるに違いない。
それが分かっているからこそ、もどかしくて悔しい。
自分じゃ何も出来ないんだと思うと、クロウに申し訳なくて仕方が無かった。
「つーかーさーくん。また僕以外の男のこと考えてるでしょ」
「クロウの事だし良いだろ別に……」
そう言うと、ブラックはハァと溜息を吐いた。
「……駄熊が何も話さなかったのは、そうやって心配されたくなかったからだと思うよ。ツカサ君だって、弱い部分を見せたくないって思うでしょ? オトコなんだから」
「そりゃ……うん……」
オトコ、と強調されるのが何か気になるが、まあ確かにそうだ。
弱い部分を他人に見せて「可哀想だ」なんて思われるくらいなら、誰も居ない場所でジタバタするほうが良い。誰にも、見苦しい所なんて見せたくなかった。
男だったら、そんなもんだ。情けなくたって意地を張ってしまうものなのだ。
だから、ブラックにそう言われたら頷くしかない。
クロウの気持ちが痛いほど分かるからこそ、自分から「どうしたの」なんて聞く事は出来なかった。……話すのにも、覚悟ってのがいるもんな……。
そんな事を考えていたら、ブラックが急にお腹に顔をくっつけるようにしがみついてきた。ぎゅうっと鼻をへそに押し付けられて、ちょっとビクッとしてしまう。
だけどブラックはそれ以上の事はせず、俺のお腹にぐりぐりと顔を押し付けた。
「…………今日だけは、別々に寝てやる」
「え? なんか言った?」
くぐもっていて、よく聞こえなかった。
何を言ったのだろうと問いかけると、ブラックは顔を離して実に不満げな表情で俺を見上げた。わー……また大人げなくほっぺを膨らませてる……。
「撫でてくんなきゃヤダ」
「えぇ……なに急に……」
「やだやだやだーっ、明日は絶対一日中イチャイチャするんだからね! ツカサ君の恋人なのは僕なんだからねー!!」
「わっわぁ!? ちょっ、な、何急に! 叫ぶなっておバカ!」
どうしてそんな急に興奮するんだよ!?
俺なんかした!?
っていうか膨れたまんまで腹に突撃して来るなっ、ふぐみたいで無精髭がチクチクするんだよやめろっ、やめんかー!
→
※ツイッターで言うてた通りちと遅れました
(;´∀`)スミマセン
クロウ×ツカサのパラレル番外編は次々回の更新から
始めます~!乞うご期待…!
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