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聖獣王国ベーマス、暗雲を食む巨獣の王編
23.仮の王と落ちた王
しおりを挟むまあ、クマミミだし……髪の色もクロウやドービエル爺ちゃんと同じで特殊だし、なによりさっきから「父上」って言ってるんだから、身内で間違いないよな。
だけどそうなるとこの人って……もしかしなくても、クロウの兄弟なのか?
そう思ってクロウを見るが、何故かクロウは顔を背けてカウ……なんとかっていう人を見ようとしていない。それどころか、熊耳を必死に奮い立たせて何かを我慢してるみたいだった。クロウがこんな反応をするなんて、初めてだ。
今度はブラックと顔を見合わせるが、ブラックも片眉を歪めて首を傾げていた。
何だかよく分からないけど、ここは黙っていた方がいいかな。
そう思い、俺はさっきから怒鳴り声が怖い侵入者を見やった。
――赤に山吹色の光の環が薄く浮かぶ髪は、間違いなくクロウの血縁者であると確信できる。その熊耳も、ドービエル爺ちゃんのように荒々しい毛並みで、クロウよりもどこか血気盛んな感じがする。
いや、そう思うのは格好がもう強そうだからなのかな。
だって、このカウなんとかさん、腹筋も胸板も鍛え上げられた体格なんだぜ。
獣人らしく誇らしげにその肉体美を見せる服を着ているし、装飾品とかをギラギラつけてるし、あきらかに強者って感じというか……いや、クロウが王子様なら、この人も王子様って事なんだから、ギラギラしてるのは当然なのかな。
しかしなんだこの状況は……王様と王子様二人って、もう混乱して来たぞ。
「とにかく、理由を説明してもらおうか! この人臭い人族どもと臆病者を神聖な王宮に招き入れた愚行の説明を!!」
「ま、まあまあ落ち着けカウルノス……これには少し込み入った理由が……」
「どうせ人族どもの都合だろうが! 父上はザコに甘すぎる、追放したはずのコイツを再び王宮に上げるなど、本来なら許されぬことだと言うのに……!」
追放したはずの、コイツ?
それって、どう考えても……クロウのことだよな……。
ってことは、クロウは王宮から追放されてたって事なのか。いやいや待て、でもそれだと変な話になっちまうぞ。
クロウが追放されて人族の大陸へ……ってのは分かるけど、だったらドービエル爺ちゃんがクロウを追って来た理由とか気になる感じになってくるし、そもそも隠居した爺ちゃんが元王様なら、そんな人が息子の王子を追って……なんてなると、結構なな問題になるんじゃないのか。
なのに、爺ちゃんは御咎めなしに玉座にいるし、それでもクロウは気まずそうだし、カウなんとかさんは怒鳴り散らしてるし……。
…………獣人の世界じゃどうか知らないけど、追放って普通は二度と戻って来られないヤツだよな。王宮にだって入れないはずなのに、爺ちゃんが簡単にクロウを招き入れられて、側近の象耳お兄さんもソレを半ば黙認してるってことは……うーん……わ、わからん……どういうことなんだ……。
ともかく、クロウの処遇についてカウなんとかさんは不満ってことだよな。
……しかしこの人、王子とは言うが兄か弟かどっちなんだろう。
クロウは兄さんと弟がいると言ってたけど、正直カウなんとかさんもオッサンなので、俺にはどっちが上なのか分からない。
背が高いし顔も怖いので、兄なんじゃないかという気はしてるんだけど。
そんなあてずっぽうな予想をしている俺を余所に、ドービエル爺ちゃんは再びオヨヨな顔になりつつ必死に息子のカウ何某さんと説得しようとする。
「そ、そのことなのだがのうカウルノス……クロウクルワッハは、昔よりも確実に力を付けておるし、なにより将来の嫁まで決めて帰って来たのだ。オスとしての甲斐性をしっかり見せて来たクロウクルワッハは、群れに戻してもいいのではないか?」
「よ、嫁っ!?」
「何言ってんだクソ熊ゴルァア!!」
ななな何言ってんのドービエル爺ちゃん!
あの時はそういうんじゃないって言ったのに、なんで嫁決定!?
ブラックもブチギレてんじゃんか、頼むからこれ以上掻き回さないでくれえ、被害を被るのは俺なんだよおおおお。
「嫁!? この薄汚い人族どもが誇りあるディオケロス・アルクーダの嫁になる!? 父上お戯れもいい加減になさってください、気でも狂ったのですか!」
気持ちは良く分かりますカウルルスさん、いや違うカウルノスさん。
そりゃ男が嫁って信じられませんよね……ってそうじゃねえなこれ、薄汚い人族とか言ってるから人族が嫁ってのがイヤなのか。オトコなのはいいの?
「き、気は狂っておらんぞ。だからのう、カウルノス。お前に挽回の機会が与えられておるように、クロウクルワッハにもその機会が必要だとわしは思うのだよ。……確かに、前回この子は力を示す事が出来なかった。だが、だからと言って次回も同じ結果とは限らんだろう。お前もそうだ。一度の失敗で、人を切り捨てるのは群れの長として狭量と言える。わしはそう思うからこそ、ここにいるのだ」
「…………」
「お前のためでもあるのだよ。……解ってくれるか、カウルノス」
優しく語りかけるドービエル爺ちゃん。
だけど、カウルノスさんは握った拳を震わせながら――爺ちゃんを睨みつけた。
「解りません……こんな、こんな臆病で軟弱な、我ら一族の誇りを穢すような落伍者をっ……俺は……俺は認めない!! 絶対に!!」
その横顔は、怒り狂う獣そのものだ。
思わず目を丸くする俺に、相手は急に視線を合わせてその恐ろしい形相でギッと睨みつけて踵を返す。あまりの迫力に固まってしまったが、相手はそのまま謁見の間から出て行ってしまった。
「…………なんだあのクソ息子は」
「ひ、人の息子を捕まえてクソ呼ばわりはやめてほしいのう……」
「勝手に入って来て怒鳴り散らしまくって幼稚なワガママを曝した挙句に勝手に帰るバカがクソじゃないってのか? 獣人の国ってのは僕達とは礼儀作法の基準が随分違うんだな」
「ぬ、ぬぅう……」
イラついているブラックにそう言われて、ついにドービエル爺ちゃんは耳をぺたんと伏せてしまう。爺ちゃんのイヤーカフの鈴がチリンと鳴ると、横に控えている象耳で眼鏡なお兄さんが「ハァ……」と溜息を吐いてこめかみを抑えた。
「……今回の事は、お詫びいたします。カウルノス殿下は、このアルクーダにおいて最も“武”に長けたお方なのですが……あの通り、苛烈なお心の持ち主でして」
「ディオケロス・アルクーダは熊族に於いて最も勇猛果敢と言われているが、その血がカウルノスには強く出てしまったようでのう……」
「育て方が悪いんじゃないのか?」
「ぬ、ぬぅう……」
また爺ちゃんがオヨヨ顔になってる!
もうブラック、お年寄りをいじめるんじゃない!
つーかこのままだと話が進まないだろうが、いやもう何の話してたんだっけ!?
「あっ、そ……そうだ! あの、爺ちゃん……さっきの話なんだけど、こうなったらもう俺達も早く帰った方が色々収まるきがするんだけどさ、権限が無くて『覇王の座』ってのが開けないんだよね? それってどうすればいいの?」
「おっおおうそうだったな! ああそうだ、先程の話の通り、わしは仮の王で重要な物を動かす権利を持っておらんのだ。なので、今代の王の“武”を何とか認めさせて、早く例の物を受け渡したいのだが……」
そう言って、ドービエル爺ちゃんは少ししょげたように眉を下げる。
雄々しく太い眉だというのに、いまはちょっと情けない感じだ。
そんな爺ちゃんの言葉に、象耳眼鏡お兄さんが深刻そうな声で続けた。
「カウルノス殿下があの状態では、どうなることやら……。弟君のルードルドーナ殿下が王の権利をかけて決闘を申し込めば、陛下が今まで行ってきた政策が全て停滞し台無しになりかねないというのに……」
ま、また別の名前が出てきたぞ。なんでみんな名前が長いんだ覚えきれん。
いやでも殿下ってことは……戦竜殿下と賢竜殿下っていうアレかな。さっきの人が戦竜だろうし、そうなるとドルドルしている名前の方は賢竜って事だよな。
二つ名が凄い人達は兄弟……ってことは……クロウの兄弟と言う事で。
しかも、ルードルドーナって人が弟で「王の権利」の決闘となると。
「……あの……もしかして、今さっきの人が爺ちゃんの次の王様だったの……?」
「うむ……」
「…………えーと……」
「よくあんな頭温泉郷に王を任せたな」
ああまた爺ちゃんがショボン顔に……俺だって何と言ったらいいかって口を噤んだのに、どうしてお前はそうサラッと言っちゃうんだブラックさんよ。
でも本当に王様のことについては問題だよな……要するに、あの人が再び王様にならないと、覇王の座の下の【銹地の書】は渡して貰えないんだろ。
だけど、あの人は俺達人族を心底嫌っているみたいだし、クロウの事とか重なって怒りのボルテージマックス状態だし……あの人が王様になっても、グリモアを渡して貰えないかも知れない。
「爺ちゃんがあの殿下を王様に戻したいっていうのは解るけど、それだと俺達に協力してくれないんじゃないか? あの人、俺達のこと心底嫌がってるし……」
そう問うと、眼鏡お兄さんが沈痛な面持ちで答えてくれた。
「……それは、私達がなんとかします。早く帰らせたいからという方向に持って行けば殿下も納得して下さるでしょう。ともかく……今は、カウルノス殿下の“武”をみなさまに認めて頂くことが先決かと」
「認めさせるって、誰にだよ」
そうだ、そういえばそうだよな。王だと再び認めて貰うって、誰に認めさせたらいいんだろうか。まさか国民全員ってことはないよな……。
どうするのだろうと思っていると、相手は当然のようにブラックに返した。
「臣民……と言いたいところですが、そうではありません。この武神獣王国アルクーダを統べる者は、大陸全土に知られる王となるもの。それゆえに、その獣王たる資質を認めさせるには、主要な“群れ”の王を、納得させる必要があるのです」
「それって……別の国の王様ってことですか」
「人族の認識で言えば、そうなりますね。……王の資質を認めるのは、この国と同じく“最も古き群れ”と呼ばれる他の三つの群れの王です。……彼らに、カウルノス殿下を王として認めて頂ければ、王の権利は復活します」
……なんだかよく分からないが……猛烈に面倒臭いと言う事だけは分かるぞ。
こんだけみんなが悩んでるって事は、生半可な話じゃないんだよな。
だから、さっきの迷惑クマさんもくすぶってイラついているんだろう。でも……。
「…………いつ認めて貰えるんだ? それは」
ブラックも嫌な予感がするのか、口をひきつらせながら問いかける。
その表情に「さもありなん」と言いたげな顔をして、象耳眼鏡お兄さんは疲れた声で再び答えた。
「……カウルノス殿下が怒りを鎮めて、何が王としての資質であるのかということを考えて下さる段階になれば……すぐにでも試練を始める、と、お三方が」
「それは……」
「一生無理なんじゃないのか」
またもや痛い所を突くブラックに、その場の全員が無言になってしまう。
ドービエル爺ちゃんでも、あの怒りまくったオッサンをどうにも出来ないらしい。
しかもあの手のタイプは宥めたら更に怒るタイプだ。今の状態では、王権復活など出来るはずもない。でも、じゃあ、だったらどうしたらいいんだよっ。
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「俺達、一体どうすりゃいいんですかね……」
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「そうさせて貰います……」
俺だけじゃなく、ブラックもクロウも疲れただろうしな……。
なんだかもう色々有って頭が混乱しているから、今日は休ませて貰おう。今は何も良い案が浮かんでこないけど、一息つけばなにか思いつくかもしれないしな。
それに……クロウもずっと黙ったままで心配だし。
……一息ついたら、色々話してくれるかな。
そんなことを思いながら、俺達は謁見の間を後にしたのだった。
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