異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編

36.砂に消える陰謀

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   ◆



 慌ただしい準備が終わり、俺達は翌日の早朝に出発する事となった。

 ……昨日の今日でなんの用意をせいっちゅーんじゃい、とチャラ牛王に文句の一つも言いたくなったが、考える暇もなく出発できたのはある意味幸運だったのかも知れない。だって、長引けば長引くほど……怒りんぼ殿下やルードさんが何を考えてるのかって考えこんで鬱々としちゃってただろうしな。

 でも、良い事も有ったぞ。
 この急な決定には流石に他の人達も同情してくれたみたいで、ドービエル爺ちゃんの計らいで荷物を運ぶ馬車……のようなモノを用意してくれるという話になったし、王族の食べ物が保管されている宝物庫を管理している王族の一人……ジャルバ・ナーランディカさんにも、好き放題食料を分けて貰えた。

 おかげで当分食料の心配はしなくてもよさそうだ。
 ……まあ、大喰いのオッサンが三人いる時点で怪しい所だけど……ともかく、街に到着するまでは大丈夫と言う事だろう。王族ってなことでお餞別もたんまり貰ってるので、なんとかなるに違いない。

 これも国民の血税……と思うと悪い気もしたが、王様にバカなことをさせないための費用だと思って許して欲しい。クロウにいつ仕掛けて来るのか解らない以上、俺達も気を張って無きゃいけないし……そんな状況で暢気に手分けして食料を探すとか出来そうにないからな。

 食料はありがたく使わせて貰う事として、あとは寝袋やなんかだ。
 それらもナーランディカさんが手配してくれる……ということだったのだが。

「えーと……あの……これは?」

 朝方の冷たい空気が、丁度和らいで涼しい感じになってきた王都の外。
 高く堅牢な都市の壁を背にして立っている俺達の前で、黒髪オールバックで立派な紳士のヒゲを蓄えたジャルバさんはニッコリと笑った。

「ああそうか、貴方がたが畜獣をご覧になるのは初めてでしたね」

 ニコッと微笑むジャルバさんは、相変わらずのジェントルメンな感じだ。
 男の俺でもその大人な魅力にドキッとしてしまったが、俺がドキッとしたのはどちらかというと、そんなダンディなおじさんに垂れ気味のもふっとした熊耳がついている所なのかもしれない。それが恋などであるハズがないので、俺はすぐ心を落ち着けてジャルバさんに問う。

「この動ぶ……いや、モンスターって、畜獣って言うんですか?」

 初歩的な俺の問いに、目の前のでっかい謎の存在は「ブフゥ」とデカい鼻息を吐く。
 そんな巨体に俺のベストの中に隠れている可愛いロクショウは怖がっているが、俺はというと……実は、不思議と怖くなかった。

「ああ、畜獣というのは我々の中での“家畜化したモンスター”の総称だよ。とはいえ、数も少ないのであまり使用しないけどね。コレは、私達の言葉で【アティカール】……つまり、古代ネズミという騎獣だ。主に荷運びや移動に使用するんだよ」

 俺に対しては気安く答えてくれるジャルバさんに、俺は目を見開く。

「あ、アティカール……!」
「皆はピロピロと呼んでいるけどね」
「ピロピロ!?」

 なんだその愛称はと思ってしまうが、しかし、目の前の二階建てのビルくらいはあるでっかい生物の前では……そんなことなどどうでも良くなってしまう。
 むしろ可愛いと思ってしまうのは――――このでっかい動物が、カピバラさんに凄く似ていたからなのだろうか。

「ぴ、ぴろっぴろ」
「あっツカサ君がまた気持ち悪い興奮の仕方してる……」
「また変な挙動をするのか」

 ええいうるさい背後のオッサンども。
 こんなでっかいカピバラさんを目にして興奮しない動物好きなんておるまいよ。
 だって、思う存分モフれるかもしれないんだぞ。しかも騎獣、巨大なカピバラさんと一緒に旅が出来るんだぞ。これが興奮しなくてどうするんだ!

 でもこのカピバラ……いや【アティカール】というモンスターは、俺の世界のカピバラさんとはだいぶん違う。大まかなフォルムは一緒だけど、ピンと立つ耳の下にはクワガタみたいな立派な捻じ曲がった角が一対で生えてるし、額には前へ突き出す一角を備えている。それに、カピバラさんより首から下の毛足が長い。

 足もずんぐりしていて、砂漠を踏む足は太く、蹄の部分がかなり広く大きかった。
 これは砂地を歩くための進化ってヤツなのかな。なんにせよ可愛い。

「あ、あ、あの、ジャルバさんっ、このピロピロちゃんは触っても……!?」
「ちゃん? ああ、まあ、モンスターにあるまじい大人しい性質だから、人族が触っても問題はないとは思うけども……」

 言うが早いか、俺はもう駆け出しアティカール……いや、ピロピロちゃんにタックルをかましていた。ああっ、表面は固い毛だけど埋もれると柔らかいぃっ!

「グル?」

 大きなくぐもった声が上から聞こえて来て、凄い風が俺の髪を乱す。
 見上げると、ピロピロちゃんの大きなお顔がすぐ近くにあった。どうやら、自分の足にタックルしてきた変なヤツが気になったらしい。えへへ、か、かわいい。

 吐息のカホリはやっぱりケモノって感じだけど、野生生物はそうでなくちゃな。
 俺は改めてピロピロちゃんに挨拶した。

「これからよろしく頼むよ」

 そう言って鼻の頭を撫でると、ピロピロちゃんは「ごごごご」と喉を鳴らす。
 これは……よ、喜んでると言っても良いのかな?

「ほう、人族はモンスターを【守護獣】などとして扱うと聞いていたが……やはり畜獣の扱いも手慣れているんだね」
「あ、いえ、それはこのピロピロちゃんが優しいからですよ。なっ!」
「グルルゥ」

 俺が凄いのではない。俺のロクショウが唯一無二の可愛さであるように、ピロピロちゃんもまた特別に可愛く賢いピロピロちゃんなのだ。
 ゆえに俺に懐いてくれたのではなく、ピロピロちゃんがご厚意に寄って俺と仲良くしようとしてくれているのである。俺は欲望のままに抱き着いたに過ぎない。

 そこを間違って貰っては困ると硬くお褒めの言葉を固辞した俺に、ジャルバさんは少々ヒいてしまったようだが、真実だから仕方ないな。うむ。

「ツカサ君そんなんだから変態って言われるんだよ」
「その十分の一でもいいからオレ達も常に可愛がって欲しいのだが」
「じゃかあしい! オッサンは大人らしくしとれ!」

 誰が変態だ誰が!!
 アンタらの方がよっぽどヤバい奴だろうがと威嚇する。が、そんな俺達を呆れたように見ていた怒りんぼ殿下が、ハァと息を吐いて口を挟んできた。

「どうでもいいからさっさと車に乗せろ。もうすぐ熱が上がって来るだろうが。俺は先に行くぞ。さっさと馬車を動かせ」

 相変わらずイライラしている殿下だが、今回は口数が少ない。
 俺達を睨むだけで、さっさとピロピロちゃんが牽く予定のでっかい獣車に乗り込んでしまった。一回睨むだけなんて、なんだか珍しいな。

 不思議に思っていると、お見送りに来てくれていたカーラさんが心配そうに殿下の方を見て、困り眉でふわふわしている猿耳を動かしていた。
 そんな様子に、ジャルバさんも困り顔で息を吐く。

「……あの子も困ったものだね……。いや、見送る者が私達しかいないのであれば、不機嫌になっても当然なのかも知れないが……」
「けどそれは、みんなで見送ったら“試練”の事がバレかねないし、それにドービ……代理の国王陛下もルードさんも王宮から出るワケにはいかないからで……」

 だから、そこに関しては仕方が無いんじゃないのか。
 そう言うが、ジャルバさんは少し悲しそうな顔をして首を振る。

「理解はしていても、感情と言う物は抑えきれないものさ。なにより、あの子……殿下は、今、本来の力を失っていて非常に精神が不安定だからね。……本人が思うより心に負荷が掛かっているかもしれない。……なにせ……我々“二角神熊族”は、常に上に立つ事を強いられた存在だ。……高みに居続けるのは、大変なんだよ」

 ――――なんだか……寂しそうな顔だ。

 だが、その表情はどこか硬くて……まるで、張り付いているようにも見える。
 何故そう思うのか自分でも分からないけど、どうしてか――――

「……ん? どうかしたかな、ツカサ君」
「あ、い、いえ……。その……それじゃ、行ってきます」
「よろしく頼むよ。君達だけが頼りだ。……しっかり……務めて来てくれ」

 その言葉に、俺は頷いてブラック達の所へとすぐに戻る。
 カーラさんが心配そうに見ている対象が、いつの間にか俺に変わっていたが、彼女の心からの表情の意味は、今の俺には解らない。

 解らないけど……。

「どうしたのツカサ君」
「朝の寒さが堪えるのか」

 心配してくれる二人を見上げて、俺は首を振った。
 こんな漠然とした不安で、ブラックとクロウを混乱させたくなかったから。

「ううん。なんでもない。……さ、行こう」

 そうだ。今、妙な違和感を感じたからって震えているワケにはいかない。
 俺達はこれから、仲間を殺そうとする相手と共に旅をしなきゃ行けないんだ。

 クロウを守るためにも、気をしっかりもって挑まなきゃ。


 でないと――――大事な存在を、失ってしまうかも知れないんだから。

 







 砂塵の舞う黄土に、ただ一人の存在が立っている。
 黒く雄々しい耳は天を指すように立ち、その居姿はかつて神たる聖獣【ベーマス】の神殿を守っていた祖先の姿を思い起こさせる。

 毛艶の良い鞭のような黒い尾は、ただ静かにおさまっていて、長い毛を持たないにも関わらず砂をものともしない黒く雄々しい耳は靡きもしない。
 ただ、その耳を持つ巨躯の主の意のままに制止していた。

「……はぁ……よくこんな場所見つけやしたね。こりゃ誰も近寄れませんわ」

 ――――背後から、褪せた稲色の外套を目深に被る男が近付いて来る。
 筋肉がしっかりとついた黒耳の守護者に対して、相手はひょろ長く細い。外灯からちらりと見える爬虫類のような顔立ちと妙に似合う、得体のしれない男だった。

 だが、黒耳の守護者は動じる事が無い。
 ただ砂の地平線を見つめて腕を組んだまま、石像のように固まっている。
 そんな相手に、爬虫類のような細身の男は言葉を続けた。

「それで……わざわざ俺達を雇ったのは、なにをさせる気なんですかい? いい加減教えてくれたっていいんじゃないですかね。……何の説明も無く、こんな見知らぬ地の辺境まで連れて来られたから、ヤツらも我慢の限界っすよ」

 その言葉に、ようやく黒耳の守護者は動いた。
 組んでいた腕を解き、少しだけ男の方を向く。

「メスは用意してある。“それ”でも抱いて落ち着かせろ」
「……まいったな、俺はあいつらの首領じゃねえんですけどね……。それに、こちとら獣人みたいに豪快じゃねえんだ。獣人のメスに勝手に手ぇ出して返り討ちに遭ったら戦力が減りますぜ」
「…………わかった。時期尚早かと思ったが……そう言われたら仕方が無い」

 掠れが強く残る、中性的な声。
 振り返った黒耳の守護者は、女性と見まごうような美しい顔立ちだ。
 眦に引いた古代の化粧が目を強調しており、美形な事も相まって睨みつけるような目つきは、普通にしていても相手に畏怖を感じさせた。

 そんな存在に、爬虫類に似た男は頭を軽く下げる。

「頼みますよ。アンタが先頭を走ってくれなきゃ、俺達はどうにもなんねえんだから」

 男のその言葉に、黒耳の守護者は数秒沈黙したが。
 やがて何かを睨んだような強い表情のまま、再び歩き出した。

「解かっている。……私がやらねば……誰も、動きはしない。……誰も」

 長くすらりとした足は、筋肉の筋が浮かび硬い野生の獣の足になっている。
 腕も、体も、全ては“望み”を叶えるための道具にすぎなかった。

「そのために……私は、奪う。あの国の全てをな……」

 厳しさしか感じられない、掠れた声。
 その呟きは、誰の耳にも届かず砂塵の中に消えて行った。










※次は新章

 
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