異世界日帰り漫遊記!

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亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編

  王宮への帰還2

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「――――なるほど……我が愛しのマハの都が、そんなことになっているとは」

 俺達と謁見して一通りの話を聞いたドービエル爺ちゃんは、深刻そうに呟く。

 以前見た時は巨人族か三階建てビルかってくらいのデカさだった爺ちゃんは、愛妾さん達とのふれあい(ベッドの上でのアレだ)のおかげか、身長が三メートルくらいに縮んでいる。良かったなと思う反面、羨ましいやら何やら複雑な気持ちになるが……そ、それは置いといて。

 ともかく、爺ちゃんは眉間のシワに指を当てながら息を吐いた。

「本来ならあと一日は遅れただろう報告だ。早く知れてよかった……感謝する」
「いえ、そんな……」
「しかし陛下、第一王妃のご報告通りであれば、賊どもが動く前に我々も戦の準備をせねばなりません。そうなると……」

 ドービエル爺ちゃんの横に控えていた、象耳がでっかい大人しめの顔立ちの獣人眼鏡文官・アンノーネさんが少し思わしげに怒りんぼ殿下を見やる。
 その視線には爺ちゃんも気が付いていたのか、ウムと軽く頷いた。

「わしが頭ではいかんな。一度王位を退いた獣では、王権を発動する事は出来ん。わし自ら出ることは可能だが、保留とは言え王権は依然としてカウルノス……お前に在る。となれば、一刻も早くお前の復権を成さねばならんということだ」
「……はい……」

 久しぶりに自分の父親と話しているというのに、何故か怒りんぼ殿下の返答は沈みがちだ。なんというか、落ちこんでいる感じがする。
 前の俺なら何とも思わなかったけど……この人の本音を聞いた今だと、なんとなく――今の自分の状況に恥じているんだろうなって感じる事が出来た。

 不機嫌な顔はいつも通りだけど、たぶんこの人もクロウと一緒で色々有ってそういう顔が“普通の表情”になっちゃったんだろうな。

「王権、というのは文字通りの意味ですか?」

 一応謁見の場だからか、不躾ながらも敬語で質問をするブラック。
 もちろん気にしていない爺ちゃんは、睨むアンノーネさんを無視して頷いた。

「指摘の通り、二つ意味が有る。一つは文字通り。もう一つは……なんというか、これは我々がモンスターの血を受け継ぐが故に持つ“後付けの特殊技能”みたいなものなのだ。それを、わしらは“王権”と呼んでおる」

 ――――詳しい説明をすると、こういう事らしい。

 【王権】というのは、獣人族が作る“群れ”のリーダーが後天的に持つ“統率能力”の上位版の技能らしい。しかも【王権】は“統率能力”と同じく「群れの人間に“群れ全体に及ぶ危機”を伝達する力」や、もっと強くなると「部下の闘争心を強くする力」などを発動でき、しかもそれがより強力になるらしい。

 しかも、部下の能力を底上げするバフ(能力向上)を発動出来るし、熟練者になると一定範囲の部下の目を借りて状況を把握することも可能なのだそうだ。

 まさに【王権】……。

 この場合は「権威」を意味するのかも知れないが、それでも王としてのデタラメな力であることには変わりないだろう。
 敵に回すと恐ろしい能力だが、それを考えると確かに【王権】は必要になるな。

 相手の能力や強さ、規模が分からない以上、備えは必要だ。
 だけど……そうは言っても、あと二つも試練があるわけだしなぁ。

 間に合うんだろうかと心配になってしまったが、そんな俺の余所に、ドービエル爺ちゃんは急に優しい顔をしてこちらに笑いかけて来た。
 ……いや、この笑顔を向けたのは……――

「こんな……急かすような事態になってしまったが、しかし……よく試練を頑張ったな、カウルノス。やはり、お前は王たる素質があるという事だ」
「父上……」
「クロウクルワッハも、よく頑張った。カウルノスと競ったようだが……昔よりも確実に強くなったようだな……。二人とも、認められた“しるし”を刻んで帰って来たこと、わしは誇りに思うぞ」

 穏やかな、父親の笑み。
 いつもの偉大な存在としての勝気な笑みとは違う、自分の子供達を心から慈しんでいる父親の顔そのもので、肉親でない俺ですら少し心が動いてしまう。

 やっぱり、爺ちゃんにとっては怒りんぼ殿下もクロウも大事な息子なんだな。今ここに居ない、末弟のルードルドーナも。
 そう思うと「暗殺計画」なんかの事を考えて少し胸が痛んだが……横で目を潤ませながら父親を見上げている兄弟を見て、考えるのをやめた。

 ……今は、素直に父親からの賛辞に喜ぶ二人を祝福してあげたい。
 クロウや殿下が「求めていたこと」の内には、きっとこういう父親からの言葉も入っていたんだろうから。

「出来ればルードにも受けさせてやりたかったものだがな……」
「賢竜殿下は謙虚な方です。カウルノス殿下を王にと推しておられる」
「うむ……。よし、体もなんとかここまで縮んだし、あとでわしが三人を風呂に入れてやろう! 何十年ぶりの親子の触れ合いだ、背中を洗ってやるぞ!」
「いえ、父上それは……」
「お、オレも……その……」

 良い事を思いついた、と言わんばかりにポンと手を打つドービエル爺ちゃんだが、熊兄弟はめちゃくちゃ微妙そうな顔をしている。

 まあそうだよな……さすがにオッサン三人が自分の父親と和気藹々でお風呂って、なんか凄い恥ずかしいし。一対一ならまだしも全員て、それはちょっと。
 横を見たらブラックもドンビキした顔をしてるし……。

「なんだ、遠慮しなくてもいいんだぞ?」
「へ……陛下、今はとにかく対策を……」
「おっと、そうだったな。とりあえずは、対策か……。やむを得ん、五候を招集し対策を練るしかなかろう」

 ホッ……アンノーネさん、ないすアシスト。
 しかし五候って……たしか、クロウの親戚達だよな。

 【二角神熊族】こと【ディオケロス・アルクーダ】は五つの家に分かれていて、そこの家の中から王が選出されたりするって話だったような気がする。
 なので、基本的に王の家族の次に偉いのは五候……五つの家の頭首だ。

 クロウの苗字であるメイガナーダもその家の一つ。
 三兄弟の苗字が違っているのは、その五候の家の三家から嫁を貰ったからなんだよな。にしても、王様の名前じゃなくて実家の苗字を王子が名乗るのは珍しい。

 それだけ五候ってのは格が有るという事なのかも知れないが……ともかく、そんな人達がやってくるなんて、本当にヤバいんだな今の状況。

 どうするんだろうかと二人の話を静かに聞いていると、アンノーネさんが手元にある書類みたいな物を見ながら続ける。

「ナーランディカ卿が代理としてご滞在ですが、如何しましょう」
「……我が愛しの妻が危機を察したのだ。ナーランディカ卿が有能であるとは言え、やはり頭首を呼ばねばならん話だろう。とはいえ、アルカドアの状況を含めた触れを出すと、あの体力馬……義弟は、まっさきにマハの所に行くだろうし難しいな……」

 いまバカって言おうとした? 言おうとしたよな?
 体力馬鹿って、爺ちゃんがゲンナリするくらいヤバい人なんだろうか。

 つーか、マハさんには弟がいたんだな。爺ちゃんがこんなになるってことは、義弟とやらはかなりの姉コンなのか。
 いや、たぶん家族愛が深いだけなんだろうけど、ドービエル爺ちゃんの深い溜息を見てしまうと、なんだかちょっとイヤな予感がしてしまうな。

 テンプレ溺愛弟じゃないことを祈ろう。

「アーティカヤはルードルドーナが頭首であるから良いとして、あと四家か。問題は、メイガナーダが間に合うかだな……」
「オレが行きます」

 自分の家の名を出されたからか、クロウが積極的に言う。
 だがドービエル爺ちゃんは首を振った。

「いや、お前達にはこのまま“三王の試練”を続けて貰いたい。一刻も早く王としての力を取り戻さねばならん。……クロウクルワッハ、ツカサ、ブラック殿、そのためには、お主達の力が必要なのだ。ワガママを言うようだが、カウルノスを支えて欲しい」
「爺ちゃん……」
「そもそも……今回の事は、わしらの問題であろう。獣人の争いに、何の責めも無い人族が巻き込まれるのはいかん。……それを禁止する人族との契約もあるしな」

 あ、そっか。人族と交流する時に、相手とそう言う条約っぽいモノを取り付けていても変じゃないよな。つーかそれが普通か。
 だから爺ちゃんは極力俺達を戦に参加させないようにしているんだな。

 でも、手伝わなくて本当に大丈夫だろうか。
 五候を集めるって言っても、他の街だって襲われないとも限らないんだし……今は全然敵のことが掴めてないんだし、集めたら逆に危険じゃないのかな。

 獣人の世界って、トップの人に近付くほど強いっていう社会なんだぞ。
 だったら、その土地を守る主戦力がいなくなるのは普通にヤバいんじゃないか?

 でも、そうも言っていられない緊急事態が今なんだし……――

「ほほう、困っているようだな」
「ッ!?」

 頭の中で真剣に考えている途中に、ここでは聞いた事が無い声が聞こえて思わず体がビクッとなる。ちょっ、な、なんだ。誰だこの声。
 俺達でもないし、爺ちゃんやアンノーネさんのものでも無いぞ。

 っていうか、どっから聞こえたんだ。
 そう思い焦って首を回すと――――背後から、カツカツと靴音が近付いてきた。

「海征神牛王陛下!」

 うわっ、出た、チートな俺よりチートっぽいチャラ牛王!!
 俺この人苦手なんだよな……でもそんな事言ってる場合じゃないか。

 何をしに来たんだろうと行き先を目で追っていると、チャラ牛王はニヤニヤと何かを企むように笑いつつ、俺達に背を向けドービエル爺ちゃんに相対した。

「だいぶ武力が戻ったようだな、ドービエル」
「はっ……玉座に座ったままで失礼いたしております」
「良い良い、国王はふんぞり返っていろ。……で、話は聞かせて貰ったが、なにやら緊急事態のようだな? 俺が協力してやっても良いぞ。四人程度なら、すぐにこの場に呼んでやることもできる」
「で、ですが……陛下に叶えて頂くならば、対価が必要では……」

 えっ、そうだったっけ。
 わりと何でも出来そうなチート黒牛お兄さんだと思ってたけど、そういう制約なんてあったっけ。いや、このチャラ牛王のことだ、オッサンには有料とかそう言う姑息な手を使っているのかも知れない。
 やっぱりイケメンは有罪だな。鼻にオッサンの靴下詰めんぞコラ。

「対価か。そうだったな。ならば……ツカサにうまいものでも作って貰うかな」
「え゛っ!?」

 俺!?
 なんで俺がチャラ牛王に料理を……。

「そんなことでよろしければ喜んで! ではさっそく作って貰いましょう」

 おいゾウさん、なんでアンタがオッケーしてんだ。俺返事してないんですけど!?
 俺は全然喜んでとか言ってないんですけど!!

「ちょっと待てお前ら……」
「まあ……これだけでは対価に釣り合わんな。ついでに次の“三王”の元へお前達を送ってやろう。帰りも心配しなくて良いぞ? 運が良ければ日帰りだ」
「え……」

 ブラックが反論しようとしたところに、チャラ牛王が口を挟んで制止させる。
 それどころか俺達にも都合のいい提案を持ちかけて来て、ブラックと俺は驚いて目を丸くしてしまった。日帰りって、それならありがたいけど……何か怪しいな。

 信用して大丈夫だろうか。
 疑うような目を向けると、チャラ牛王は目を細めて笑った。

「なんだ、怪しく思えるか?」
「そ、そりゃ……俺の料理一つでそんなバカスカ叶えられると……」

 俺だって料理は嫌いじゃないけど、さすがにそんな価値は無いよ。
 そう思い顎を引いたのだが、チャラ牛王はこちらに近付いて来て、俺の顎を強引に指で引っ張った。

「お前は価値を生む」
「え……」

 チャラ牛王の稀有で艶やかな黒い瞳が、じっとこちらの目を見る。
 何も出来ず固まる俺に、相手は口角を上げて笑んだ。

「お前自身が価値を見い出せなくても、お前は価値を生むのだ。運命が違えば、俺の妃に据えたいところだったが……まあ、こういうのも面白い」
「あ、あの」
「何故そう言われるか不思議か? お前以外は理解しているのに妙な話だな。だが、だからこそお前には価値が有る。だから俺は、お前の料理を喰らうのだ」

 今ここで最も価値が有るものが、お前の“それ”だと理解しているから。

 ――――そう言って、海征神牛王は悪魔のようにニヤリと笑った。

「おい……」
「さて、今ここで話を続けていても仕方が無かろう? ドービエル、アンノーネ、さっさと四家を呼んで来てやろう。ツカサ達は、もうすこし待て」

 それだけ言うと、チャラ牛王……っていうか海征神牛王は、さっさと謁見の間を出て行ってしまった。

「……ツカサ君、キスとかされてないよね。大丈夫だよね?」
「さ、されるかぁっ!!」

 さすがに二度目は絶対にヤだ。
 そんなヘマはおかしてないとブラックを睨むと、相手はあからさまにホッとしたように息を吐いて、俺の肩を横からがっつりと掴んでくる。

 こんな場所でひっつくんじゃない……と言いたかったが、さっきのチャラ牛王の言葉が何だか変に背筋をざわつかせていて、何も言えなくなってしまった。









 
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