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亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編
23.考えることも戦うこと
「……まあ、サービニア号にアレだけ傭兵や冒険者が乗船してるってのもおかしな話だとは思ってたが、最初から織り込み済みだったってワケか」
「ま、待ってくれ。俺達は雇われたが、詳しい事は知らなかったんだよ! ……ギルドの規定があるから、悪事には加担しないように気を付けてたつもりだったんだが……何がどうなったのか、いつの間にかこういう事になってて……」
自分でも混乱しているのか、傭兵のおじさんは目を泳がせて軽く俯く。
ブラックは相手の答えをある程度予想してたみたいで驚きはしなかったけど、この態度には変な感じがしているのか、片眉を寄せて腕を組んでいる。
パッと見、居丈高なオッサンにしか見えないけど……っていうかまあそうなんだが、ブラックは基本的に疑ってかかるタイプだからな。
おじさんの混乱した様子にも、冷静な目を向けているようだった。
「言い訳するなら、もっとマシな理由を考えたらどうだ? ギルドの規定を気にする奴が『いつの間にかこうなった』なんて低脳曝して恥ずかしくないのか。今時、子供でも言わない言い訳だぞ? ああ、低脳で恥ずかしくないからこんな無様な姿になってるんだったな。傭兵は噂通り『金で動く木偶の坊』ってことか」
「煩い……ッ!! 遺物泥棒の貴様らにだけは言われたくないわ!!」
「そうだそうだ、脱法遺跡荒らし!!」
「金の亡者ッ、誇りを捨てた浮浪者どもめ!」
「そういう台詞は僕とサシで戦って勝ってから言えよザコどもが」
あっ、みんな「グヌヌ」とか言いながら口を噤ん……こらブラック! 戦いの後もゼルさんに揉みに揉まれた人達を更に叩きのめすんじゃないよ!
そりゃまあ、デカいモンスターすら敵じゃないアンタからしてみれば、この傭兵達ですらザコなんだろうけど……にしても、もうちょい言い方ってもんがあるだろ。
我ながら情けないが、さすがにこの人達の方が俺より倍以上強いワケだし。
それをザコと言われたら俺の立場が無いんだが……ともかく、このままだと永遠に話が進まない。ここは俺が仲を取り持ってやらねば。
この中では俺が一番穏やかに話せそうだからな。ふふん。
「こらブラック、今は喧嘩売ってる場合じゃないだろ! あの……つまるところ、貴方達は雇い主が何をしようとしているかは知らないってことなんですね?」
ブラックをどうどうと抑えつつ問うと、傭兵のおじさんは俺を見返して不思議そうな顔でこくりと頷いた。
「ん……あ、ああ……。君はええと……船を動かしてくれた少年……?」
「うぎっ……いや、ええとそれは置いといて……雇われた時に、詳しい話は聞かなかったんですか? 普通、その時に教えてくれたりします……よね?」
傭兵のおじさん達は「こんな事になるなんて」と言ってはいたが、彼らだって依頼を受ける時は説明くらい受けるよな。
だとしたら、今の発言がやっぱり嘘っぽいことになるんだけど……。
そこんとこはどうなのかと窺うと、相手はバツが悪そうに口をモゴモゴ動かした。
「う、うむ……。そうなんだが……情けねえ話、俺らは金がなくてな……それもこれも、そこにいるクソみてえな脱法泥棒……いや、嬢ちゃんも冒険者だったっけな。ともかくマトモな兵士を使わず冒険者に依頼する人間が多くて、どっかのお抱えでも無きゃあ俺らは食うや食わずの日常なんだ。そこんとこに破格の金額で大量雇用するって話が来たもんで……」
この異世界でも傭兵という職業が有るってのは知ってたけど、そんな厳しい状況に立たされているとは知らなかった。
てっきり、商人や富豪の護衛何かをしてるとばかり思ってたんだが、まあでも考えてみればそういう金持ちって俺の世界より少ないだろうしなあ。
それに、傭兵のおじさんの口ぶりでは、どうやら護衛も冒険者の方がお安く雇えるらしい。……確か、冒険者ギルドって人族大陸にある各国の富豪とか大商会が出資してるんだっけ?
だから、彼らが望む【空白の国】(どこの国の領地でも無い、歴史から忘れ去られた文明の遺跡がある地域のこと。大陸にたくさん散らばっている)の遺物を持ち帰る事を目的とした職業が作られたんだよな。それが、冒険者だ。
……なのでまあ、その冒険者を使って手広く「廉価な何でも屋」をやらせるってのは、いかにも商人っぽい感じで納得できるんだけど……それが結果的に傭兵の仕事を奪うことになるとは。やっぱこの世界でも安いのは好まれちゃうんだなぁ。
そこを考えると、冒険者の端くれとしては申し訳ない気持ちになってしまったけど、今回の場合はそうも言っていられない。
ここは心を鬼にして、俺は会話を続けた。
「切羽詰まってたのは解かるけど……さすがに軽く説明は受けたはずですよね。その時は、こういう怪しい事をさせる感じじゃ無かったんですか? ……というかそもそもの話、誰からこの依頼を受けたんですかみなさん」
さすがにそこは覚えてるよな、と顔を見るが。
「……いや、それが……フードを被った細身の男……? ってくらいしか、覚えてなくてな……俺達もこうなって初めて気が付いたんだが、依頼主の事を思い出そうとしても全然思い出せねえんだよ。なんかこう、頭にモヤがかかったみたいに……」
傭兵のおじさんの言葉に、後ろに居た傭兵たちもそうそうと頷く。
どうやら、みんな同じ感じらしい。
「いや本当に覚えてないんだよ。オレもぼんやり程度だし……」
「でもさ、あの黒犬の隣に居たデカい奴とは違うよな? なんか……細身の男って事しか、全然わかんねんだけど……」
「けど前金はしっかり貰ったし、サービニア号に乗ってあのデカ男と落ち合えってのは覚えてるぜ。でなきゃ俺んとこのかかぁが船に乗らせてくれるはずもねえ」
どうやら、依頼を受けたのは確かなようだ。
でも、相手の事を覚えてないってのは……なんだか、イヤな感じがするな。
それってまるで幻覚を使われたか、薬でも嗅がされてたみたいな……。
「……ブラック、これって……」
「…………裏の奴らなら、証拠隠滅の為にやるかもしれないね。でも、トルベールは何も言わなかったワケだし、ジャハナムは関わってないんじゃないかな」
「そっか……そうだよな。でも、裏の人達じゃないんなら……どういうこと……?」
こういうヤバい人の使い方をするのは、いかにも裏社会の人がやりそうなことだ。
でも、その裏社会……ジャハナムを管理する者の一人で、俺達をサービニア号に乗せてくれた男……元祖チャラ男のトルベールは何も言ってなかったから、きっと裏は関与してないてことなんだよな。
ブラックが言う通り、身内が危険な事をしてるとしたら、トルベールは真っ先に俺達に教えてくれるに決まっている。アイツは義理堅いヤツなんだ、間違いない。
けど……だとしたら、どういうことだ?
手引きした人は、ただの仲介役?
それとも【黒い犬の群れ】の仲間なんだろうか?
うーん……なんだか段々ワケが分からなくなってきたぞ……。
「あの……依頼の内容とかも覚えてないんですか?」
「依頼は……なんだっけかな……でも、獣人の大陸で仕事が有るって話だってのは覚えてる。迎えが来るから待てとも言われたが……それ以外は、あの大柄なローブの男に付いて行って、変な隠れ家みてえなとこで待機させられて、後は『谷で指示を待て』ってな感じで配置されたくらいで……」
「その指示も『攻撃してくるヤツを討て』くらいだったしな」
「あの黒い犬説明不足なんだよマジで」
……嘘を言っているようには見えないな。
でも、傭兵って結構シビアな感じの人達だよな。こんな簡単に不審なローブ男の後を付いて行ったり、説明不足なのを気にせず行動したりするもんだろうか。
なんか……何て言うか、上手く言えないけど……変な感じがする。
まるで、誰かに頭をバカにされて動かされてるように見えるって言うか……。
「…………ブラック、ちょっと耳貸して」
「えっ? こう? こうこう?」
だーっ、嬉しそうにキャピキャピするんじゃないよっ。
真剣な話なんだからな、と傭兵達から少し離れると、俺はブラックの袖を引っ張って少し屈ませると耳打ちをした。
「なあ、あの傭兵達……幻惑術とかそういう類の術で操られてたりしてない? ガチの奴じゃなくて、思考能力が働かなくなる感じの術っていうか……」
ブラックは、金と炎の術を使える【月の曜術師】であり【紫月のグリモア】だが、その特殊な能力は【幻術】という、質量をもつ幻覚を出現させられるものだ。
そのせいか、大地の気を使って発動する【付加術】の中の一つである【幻惑術】とかの、人の刺客を惑わす術に関してもかなり造詣が深い。
そんなブラックから見て、傭兵達はどう見えたのか。
有識者からの意見を聞かせて欲しくて問いかけた俺に、ブラックは先程のゆるゆるな表情から一転した真面目な表情を見せると、俺に同じように耳打ちして来た。
「どうだろうね……浅い【幻惑術】のようにも見えるけど、そういう“人を惑わす術”ってのは、難しいし常用しにくい欠点が多いんだ。思考能力を鈍らせることは出来なくもないけど……その場合、術は解け易くなるんだ。浅い暗示みたいなものだから」
「……だとすると、術で操られてた可能性って、低い?」
低い声を直接耳に吹きかけられて、ちょっとゾクゾクしてしまったが、真面目な話の時は興奮する暇も無くて相手に問いを返す。
すると、ブラックは少し難しそうな顔をして、顎に手を当てた。
「うーん……どうだろうね。世の中には、幻惑術を極める変人もいるだろうし……その使い手が居ないとは言い切れないよ。ただ、そこまでやってどうして完全に支配する事をしなかった……そこが疑問だね。使い捨ての駒なら、自我なんて残してても厄介なダケなのに」
自我のない言いなりの兵士って、ロボット兵士ってこと?
お、恐ろしい事をサラッというなお前は……。
けど、ブラックの言う通りその方が扱いやすいか。
もし彼らの思考能力低下が何らかの術師による策略なら、そうせず自我を残してた理由もナゾだ。余計にナゾが増えてしまった。
「やっぱ、薬とか……それか暑さで参っちゃってたとか……」
「そういう簡単な理由なら良いんだけどねえ。……まあ、覚えてないんなら仕方ないさ。そこは、冒険者組が詳しいかも知れないし……ともかく僕らは潜入することを第一に考えよう。推測を組み立てるのは、もっと内情を知ってからでいい」
「うん……そうだな……」
何だか煮え切らないが、これ以上考えていても仕方が無い。
傭兵のおじさん達がそれ以上なにも知らないのなら、もっと内部まで潜ってどういう事が行われていたのかを知るしかない。
外から見てわからない組織は、やっぱり潜入して暴くしかないのだ。
ってなワケで、俺達は尋問もそこそこにして本題に入る事にした。
また彼らの元に戻ると、傭兵のおじさんは俺を見上げて目を瞬かせる。
「どうした?」
「あ、いや……実は、俺達……その【黒い犬の群れ】に潜入したくてですね。もし潜入を手伝って貰えるなら、気付かれずに潜入できる方法が知りたいんですけど」
隠していても仕方が無いので、サラッと目的を言う。
すると、傭兵のおじさん達は顔を見合わせて、意外な答えを返してきた。
「なんだ、それなら早く言えよ」
「え?」
「楽に入れる方法、あるぜ? あの赤い砂漠の街に俺らとは別部隊がいただろ。その中に、鎧でも着て潜り込みゃいい。黒い犬どもは人族の人数なんて把握しちゃいねえから簡単に紛れ込めるんじゃねえのか?」
傭兵のおじさんの言葉に、仲間達が次々と頷く。
えっ、そんな簡単な方法で良いんですか。
「それで本当に大丈夫なんです……?」
「やってみりゃいい。アイツらマジで俺達の顔や姿形すら気にしてねえんだから」
俺とブラックは、顔を見合わせる。
…………これは……やっぱり、何らかの術で思考能力が低下してるんだろうか。
人族は見分けにくい……なんて熊の王族達が言っていたけど、さすがにそこまでは無いだろう。相手も怪しがると思うんだが……。
でも、彼らは切り捨てられたも同然なんだから、ヘンでもないのかな。
ここまで粗雑に兵士を扱うんだから、ありえることなんだろうか。
「…………イチかバチか、やってみるか」
「まあ……それしかないよな」
ブラックの呆れたような言葉に、俺も頷く。
これで失敗したら強行突入になっちゃう気もするけど、もう仕方ない。
とにかくやってみて、ダメだったらその時はその時だ。
あまり時間もかけてられないんだから、まず行動してみよう。
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