異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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七鳴鐘楼モンペルク、月蝕は混沌の影を呼び編

13.たまにはこんな所でも

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   ◆



 ブラックの様子が気になりつつも食事を終えた俺は、再び食堂を出て案内のままに街を歩くことになった。

「ツカサ君、どうだった? 美味しかった?」
「う……うん……」

 隣で俺を見つめてくるブラックは、さっきからずっとこの調子だ。
 ギーノスコーの話が終わってからというもの、延々えんえん俺を凝視ぎょうししてくるのである。

 ……な、なんで今日に限ってこんなに見つめてくるんだろう。

 食事はブラックの言うとおり、ライクネスの一般的な料理と大きく異なる美味しさだったし、謎肉も美味しかったんだけどさ……なんというか、ブラックが至近距離でじーっと観察してくるから、食べた気がしなかったんだよ。

 俺が肉を咀嚼そしゃくしている間もニコニコしながら見てくるし、水を飲んでもじっとのどを観察してくるし、その視線にたまれなくなって目を合わせると、俺と視線が合った事が嬉しいのか……その……し、幸せそうに笑うし……。

 …………ぐ……ぐうう……。
 とっ、ともかく! そのせいで、せっかく美味しい料理だったのに感想が「うまいにくだった」という雑なモノしか出てこないんだよ!

 美味しい店だと誘ってくれたんだし、俺だって自分の語彙力ごいりょくを駆使してブラックに「良い店だった」と伝えてやりたかったんだけど!
 でも、あんな風にずっと見られてたら無理だって。人に見つめられてるだけでも少々気まずいってのに、至近距離で意味ありげにニコニコされてたら、そりゃ……。

 …………。
 だ、だから、その……なんか、折角せっかく美味しかったのに、ちょっと罪悪感があって。
 いや悪いのはブラックのような気もするんだけど、それでも気になっちまったのは俺の方だし……気にならなかったらちゃんと味わえてたと思うし……。

 ……俺が一々いちいち気になるから悪いんだろうか。
 でもさ、黙ってたら美形でしかないヤツに食事する所をずーっと凝視ぎょうしされてたら、誰だって気になって仕方なくなるだろ。いや誰だろうと気になるんだけどさ!

 それに、さっき何か意味深なことを耳元でささやかれたし……。
 あ……アレって一体なんだったんだろう。

「ツカサ君?」
「わあっ、な、何でもない何でもない美味かったってば! なんかあの……四角い肉っていうかそういうヤツ!!」

 や、ヤバい。
 変なこと考えてたらまた心を読まれてしまう。

 慌てて距離を取ると、ブラックはキョトンとしたような顔をしたが、すぐに隙間すきまめて顔をのぞんできた。だーもー、だからそういうのがダメなんだって!
 ああもう、なんか今日は変だ。
 ブラックが久しぶりにでっ、デートとか言うから……っ。

「ああ、ダリョウの肉だね! じゃあ今度、大きい川があったら僕が獲ってきてあげるから、ツカサ君が料理してねっ!」
「料理って……またあの食堂で食べればよくないか? 美味しかったんだし」

 味は詳しく解らなかったけど、それでも大満足だったのは確かだ。
 食堂の人にも悪いし、今度来た時は充分に味わって美味しさをしっかり記憶に刻みたい。そう思ってブラックに言い返すが、相手は子供がねたようにくちとがらせる。

「え~? 僕、ツカサ君の料理の方が食べたいんだけど……」
「あの食堂、アンタのお気に入りじゃなかったの?」

 オススメだって連れてきてくれたんだから、間違いなくお気に入りだろう。
 そう思ったんだが、ブラックは「んー」とうなりながらほおく。

「まあ一人の時はありがたかったけど……せっかく僕のために頑張って美味しい料理を作ってくれる恋人がいるんだから、やっぱりそっちの料理の方がいいなーって」
「な゛っ……」

 思わず立ち止まってしまうが、ブラックは機嫌良さそうに笑いながら手を伸ばし、俺の手首にそっと指を絡めてきた。
 リストバンド越しにつかんでくる感触が分かって、思わず息をのむ。
 だが相手はそんな俺に満足げな笑みを見せたまま、ゆっくり歩き始めた。

 思わずつられて歩く俺に、ブラックはさらに言葉をたたけてくる。

「ツカサ君の手料理を毎日食べられるのは、恋人で婚約者の僕だけだもんね。そう、恋人であり婚約者でもある僕の特権! ……だから、つい欲しくなっちゃうんだよ」
「う……いや、特権って、ワケでもないと思うけど……」

 つーか何故二度言う。
 他の奴だって食べてるし、クロウも一緒に旅してる時は同じ食事だったじゃん。
 俺の料理にそんな特別性は無いと返すが、ブラックは首を振る。

 ……っていうか、その、どこに向かってるんだ。
 話している間も迷路みたいに路地をくねくね曲がってて、今はどこを歩いてるのか分からなくなってきちゃったんだが!?

 まだ居住区っぽいけど、周囲の雰囲気は何だか妙に薄暗い感じで不安だ。
 なんというか……ちょっとアヤシイというか、娼館とかありそうだなっていう感じの、子供が入って来られなさそうな雰囲気というか……。

「ふふ……ツカサ君は解ってないなぁ。ずぅっと一緒にいられて、誰よりもたくさん好きな物を作って貰えるんだよ? それが恋人の特権ってヤツじゃない」
「そ……そういうモン……?」

 食べたいものを作ってやるのって、普通の事なんじゃないのか?
 俺の母さんや婆ちゃんだって「何が食べたい?」って聞いてくれるし、出来る限りは要望にこたえてくれるし……まあ、毎日ってワケじゃないけどさ。

 だから、要望を聞くのは普通の事のひとつだと思ってたんだが、ブラック的には特権と言えるような権利に分類されるらしい。
 恋人同士って、そういう事も特別に思えるものなのかな……?

「そうだよ、そういうモンなの。だから僕は、ツカサ君の手料理が一番好きなんだ。どんなお店の上手い料理よりも……ね!」
「ぐ……」

 お、お前またそんな俺をかぶったような事を……っ。
 流石さすがにそれは欲目が行き過ぎだろうと思ったけど、でも「好き」と言ってくれるのを否定するのも何か違うし……嬉しくない、わけじゃないし……。

 でもこうっ、や、やっぱいざそう言われると恥ずかしいんだよ!
 ああもう、なんでこう、ブラックにこんなことを言われると逃げ出したくなるんだろうか。恥ずかしいのなんて、自分が一々反応してしまうからなのに、それでも顔を真正面から見られない。

 こういう時に「だろ?」なんて言えちゃうイケてる大人になりたいのに、どうして俺はめられて気持ち悪く照れてしまうんだろう。
 ちくしょう、こんなんだからモテないのに……。

「ツカサ君、可愛い……」
「う、だ、だからそういうこと言うなって……!」
「そういうツカサ君だから、僕はツカサ君の料理が食べたくなるんだよ」
「なに、それ……」

 どういう俺を見て料理を食べたくなってるんだよお前は。
 それって料理と関係あるのか、なんて思ってたら、ブラックは一言ひとこと付け加えた。

「まあ食べる事に関しては、ツカサ君の体を食べるのが一番好きなんだけど」
「だーっ、下ネタ禁止!! 外で変なコト言うなよ!」
「大丈夫大丈夫、だってもうこの辺りは子供なんて来ないもの」
「……え?」

 急に下ネタを振られて過剰反応でツッコミを入れてしまったが、ブラックは全くかいしていないような言葉をほうり、俺の手首を引いて再び横に立たせる。
 俺は先程さきほどの「大丈夫」が何を表しているのか知りたくて、周囲を見やった。
 と――――。

「目的地はもうすぐそこだよツカサ君」

 再び、引かれて歩く。
 だけど今度は手首じゃない。

 ブラックは周囲の雰囲気が変わった事で、露骨に手をにぎってきた。
 しかも、こちらの指の間に太い指をみしっかり固定してしまうにぎり方で。

「っ……」
「ね……ツカサ君は、ココがどんなところか分かる……?」

 意味ありげに、楽しそうに聞いてくるブラック。
 さっきは無邪気に手料理がなんだのどうだのって話をしていたのに、急にうすわらいを浮かべて街並みをよく観察させようと問いかけてくる。

 その笑みに嫌な予感がしたが、しかし手をつながれていては逃げ出す事も出来ず、俺はとにかく周囲を観察してみる事にした。

 左右を固める家屋は特に変わりがないが、そういえば空中に渡された縄には何ともなまめかしい下着や、何かを宣伝するような文字が描かれた布が吊られている。
 薄暗い雰囲気に思えたのは、どうやらこれらが日の光を遮っていたからのようだ。……っていうか、そう言えば家がちょっとデカい気がするな。

 大家族が住む家とかアパートってワケでもないだろうし……そうすると、あれらは宿という感じだろうか。

 でも、旅人があまり来ない所なのに、いくつも宿を作るかな?
 しかし娼館が集まった歓楽街にしては、商売っ気がないように思えるし……。
 うーん、結局どういうところか分からんぞ。でも、ブラックがニヤついてるとなると、まともなデートスポットでは無い事だけは確かだな。

「…………とりあえず、真面目な場所じゃないって事はわかる」

 そう答えると、ブラックは下卑げびた山賊みたいな笑みをニタリと深めて、再び俺を引っ張るようにして歩き出した。

「ふっ、ふふ、ツカサ君も中々いいトコをくねぇ。……ああ、あそこに入ろうか」

 まだ外が明るい時間帯だというのに、何故か数件の家屋は外灯をけている。
 古めかしいランプの中で燃える蝋燭ろうそく勿体もったいいの一言だったが、ブラックはそれを気にする事も無く民家の扉を勝手に開き、当然のようにお邪魔してしまった。

 えっ、い、いきなりお宅訪問!?
 良いのかよそんな。

 連れ込まれて驚いた俺だったが、入ってすぐにその動揺どうようは別の物に変わった。

「いらっしゃい。……おや、旅人さんだね」
「一部屋借りたいんだけど、空いてる?」

 ちょっとデカいだけの普通の家だと思っていた家屋の中は、まるで宿屋のように、質素しっそなカウンターをそなえたせまい玄関になっている。
 その作りは特殊で、入ってすぐの正面に恰幅かっぷくの良いおばちゃんの座るカウンターがあるが、その受付の左右にひとつずつ階段だけがあって部屋が無かった。

 いや、恐らくおばちゃんの背後の壁にある扉から部屋に行けるんだろうけど、どうも従業員専用のフロアになっているみたいだ。
 ……娼館でもあんまり見ない造りのような気がする。

 と言っても、俺は自分を拾ってくれた娼館の内部しかよく知らないのだが、こんな風にシンプルで飾り気のないせまい受付は滅多にないだろう。
 だから多分、娼館ではないと思うんだけど……でも宿でもないよな、多分。

 一部屋借りたいって、俺達はすでに宿を決めているのに、ブラックはどうするつもりなんだろうか。体が二つ無いと宿泊できないぞこんなの。
 不可解だ、と眉間にしわを寄せる俺を蚊帳かやそとにして、カウンターのおばちゃんは何やら台帳のようなものを取り出し、ぺらぺらとめくった。

「いくつかあるけど、どういうのがお好みで?」
せまくても良いから……」

 ん?
 せまくていいから何だって?

 急に声をひそめるもんだから、ブラックの話が全然聞こえない。
 何を注文しているんだろうかと思ったら、おばちゃんがニヤリとニヒルな微笑みを見せつつ台帳に何か書いた。

「なるほどねえ……だったら、丁度ちょうどいい部屋があるよ。銀貨二枚で三刻だ。ベッドだけは高級品を使ってるから安心しな」
「願っても無いね。良かったらイロを付けるよ」
「へっへっへ、そりゃありがたい! 昨日からみんなお偉いさんに萎縮いしゅくしちまって、ココを使いに来る奴らが減っちまってたからねえ!」

 マダムにしては豪快過ぎる笑い方で、こちらに鍵を渡してくるおばちゃん。
 そのカギに吊り下げられたふだには、部屋番号が書いてあるらしい。それを確認すると、ブラックは「ありがとう」と言うように軽く腕を上げて、再び俺を引っ張った。

「さ、行こうか。二階の部屋だよツカサ君」
「えっ……え、えぇ……?」

 古そうな木製の階段をギシギシと登りながら、ブラックは俺に言う。
 相変わらずガッチリ手をにぎって離してくれないので、俺はブラックにみちびかれるまま付いて行くしかないのだが……一体、どういう宿なんだろうかここは。

 二階に上がったけど、やっぱり普通の宿と一緒で部屋のドアが並んでいるだけだし、特に変わった所は無い。質素だが掃除が行き届いている普通の宿だ。
 宿泊するつもりがないんなら、どうしてこんなところに。

 そう思いつつ、手を引かれて指定された部屋に入る。
 と……そこは、ちょっとおかしな部屋だった。

「……ベッドだけの部屋……?」

 いや、そう言うのは語弊ごへいがあるかも知れない。
 だけど、入ってすぐ目に入ったのが、せまい部屋にぎっちりまった大きめのベッドだったもんで、ついそう思ってしまったのだ。

 開け放たれた窓の下に置かれたベッドは、どうやってこの部屋に置いたのだろうと疑問に思うほど、部屋の幅にぴったりフィットしてしまっている。狭い部屋には明らかに不釣り合いのデカいベッドだ。

 シンプルで質素な木板の壁の宿なのに、妙に高級そうなベッド。
 しかも、家具はそれだけ。
 いや、もうわけ程度ていどにラグや衣装掛けなんかは置いてあるが、人がくつろぐための家具や長く滞在するための設備が無いように思えた。

 一応、体を綺麗にするための風呂代わりのデカい木桶きおけと、お湯がたっぷり入ったつぼが置かれているが、雑に部屋のすみに置かれているので、何だかミスマッチだった。

 …………この部屋は……なん……何だろう……。
 なんか凄く違和感があるんだけど……本当に宿なのか?

 ベッドだけの部屋ってことは、ビジネスホテルか何かってことなんだろうか……。

「ツカサ君の世界には、こういう分かりやすい宿って無いんだ? いや、っても、今まで相手もいなかったツカサ君は入れなかったかもだけど」
「えっ、な、なに。どういうこと? ホントこれどういう宿なんだよオイ」

 説明してくれとブラックにうながすと、相手は俺の混乱するさまを楽しそうに見つつ、肩を抱いて俺をベッドの方へと誘導した。
 と――――何か、小さく声が聞こえてきて俺は立ち止まる。

「ん? どうしたの?」
「いや……なんか、声が……」

 女性の声が一瞬聞こえたような気がしたが、気のせいかな。
 そう思って壁の方を見た俺の両肩を、ブラックは優しく包んできた。

「なにか聞こえた? じゃあ……壁に近付いてみよっか」
「……?」

 えっ、なになに。聞いていいの?
 もしかしてココって、噂話を聞くための宿なのか。いやどんな宿だよそれは。
 でも……ブラックが「俺が気に入る場所」とか言って連れて来たんだから、多分俺が喜ぶような仕掛けがある宿のはず。

 だとしたら、ちょっとしたサプライズがあるはずだ。
 とりあえずブラックの言うとおりにしてみようと思い、背後霊のように肩をつかんで俺の後ろに居るブラックにしたがい、壁に近付いてそっと耳を欹てる。すると。

「っ……ぁ……あっ、ぁあ……っ」

 ……なんか、物凄く甲高くて切羽詰まった女の人の声だぞ?
 あの、その……この声って……ちょっと悪いコトして見ちゃった、えっちな動画のサンプルで聞いちゃった声……みたいな感じ……なんですけど……。

 まさか、壁の向こうではえっちなことが行われてるってのか。
 これが「俺が喜ぶスポット」なのか。
 つまり、女子のえっちな声が聴けるスポット……ってコト!?

 確かにコレは嬉しいけど、でも背後にオッサンがいたら素直に喜べねえよ!
 せっかくの生の声なのにシコる事すら許されないこの状況で、どう反応すればいいんだよ。俺は他の奴がいたらオナれない繊細な心の持ち主なんだぞ。

 っていうか、凄く嬉しいけど何でこんな所に連れて来たんだアンタは。
 興奮と嬉しさがある反面、疑問と動揺が湧き上がり、素直にはしゃげなくなってしまった俺は、微妙な表情を浮かべながらブラックを振り返ろうとする。

 が、相手は急に俺を羽交はがめにして、有無を言わさず俺の右耳を壁に押し付けるようにして密着してきたのだ。

「っ……!? なっ、ブラック、なにを……」

 ぎゅっと壁に詰め寄られて、視界に影が掛かる。
 視界には壁とブラックの体しか見えなくなってしまい息苦しさがこみ上げてきたが、それでも何とか体をねじって顔を見上げた。
 しかし、そんな俺の行動を相手はいやらしい笑顔で見下ろすばかりで。

 何故こんな事をするのかと混乱している俺を見て、楽しんでいるみたいだった。
 ぐ、ぐうう、やっぱり性格が悪いっ。さては俺を悶々もんもんとさせるだけさせてからかうためにココに連れてきたんじゃないのかお前。

 なんて酷い奴なんだとにらみたくなってしまったが、しかしブラックはそんな俺すらも面白いと思っているのか、満足げな猫のように目を笑みに細めて呟いた。

「ホントツカサ君ってば、自分のことすぐに忘れちゃうよねえ」
「な……なんだよそれ。どういう意味……?」

 俺は何も忘れた覚えがないんだが。
 そう思いながら相手を見上げると、ブラックは壁についていない方の俺の耳に唇を寄せて、またも低い声でささやいてきた。

 俺が逃げられないように抱きしめたまま、熱を流し込むように。

「ほら、忘れてるじゃないか。ツカサ君も、この壁の向こうのメス女みたいに、僕にぐちゃぐちゃに犯されて甲高い声であえぎまくる淫乱なメスだってこと……」
「ッ――――……!?」

 あまりにも直接的な単語ばかりの言葉に、思わず体が硬くなる。
 だけど、ブラックはかまわずに俺の耳に舌を這わせてきた。

「ぅ……や……っ」
「この宿はねぇ、街の人達が使う“連れ込み宿”なんだよ……。不慣れなツカサ君にも分かりやすいように言うと、セックスするためだけの宿ってこと」
「ぅえっ!? そ、それって……つまり……」
「ふっ、ふふ……こんなに壁の薄い変態宿は初めてかな? ツカサ君の声って可愛いワリに一生懸命あえいじゃうから、結構大きいんだよねえ……もしかしたら、ツカサ君も恥ずかしい事になっちゃうかもね?」

 壁の薄い、変態宿。
 俺も恥ずかしいことになる、って……。
 ……待ってそれ、つまり俺の声も隣に聞えちまうってこと……!?

 ちょ、ちょっと待って。そんな宿でコイツは俺に腰を押し付けてんのか。
 いやいやおい何か硬いんですけど、もうなんか興奮されてるんですけど!?

「ま、待ってブラック。俺ちょっとここでは……っ」
「待たない。どうせあの宿に帰ったら何かと理由を付けてセックス出来ない雰囲気ふんいきに持ち込むつもりでしょ。そんなの許さないからね……だから、セックスのためだけの宿で、思う存分あえごうねぇ……!」
あえごうねえ、じゃねーんだよバカー!!」

 そんなの聞いてない。
 つーかなんちゅう宿に連れて来てんだお前はー!!

 いや確かにちょっと嬉しかったけど、でもこっちも今からえっちするってなったら話が違うんだよ。俺は人に声を聴かれて喜ぶ趣味はねえええええ。

「ほらほらぁ、相手のメスの声を聴いたんだから、ツカサ君もお礼としてたっぷり声を上げて感謝のあえぎ声を出してあげないと。こういうのは相互の思いやりが大事なんだよぉ。こっちもセックスしてますって聞かせて安心させないと」
「押しつけの間違いじゃねーのか!?」

 相手は隣の部屋でおっぱじめても何とも思わないと思いますけど!?
 ていうか俺の喘ぎ声なんて絶対聞きたくないだろチクショー!!

 頼むからやめろ、と言いたかったが、もうこうなるとブラックは止められない。
 でも、今回はどうしても嫌だ。だって、向こう側には人が居るのに……それなのに、恥ずかしい声を出すなんて、精神が耐えられそうにない。

「時間はたっぷり取ったから、いっぱい楽しもうね……ツカサ君」

 舌で耳の起伏をなぞりながら、ブラックが嬉しそうに言う。
 その言葉に、俺はゾクゾクとした悪寒のようなものを感じずにはいられなかった。











 
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