異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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迷宮都市ヘカテクライオ、秘めたる記憶と誘う手編

18.魂の色

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「リオルっ、お婆ちゃんから人形借りて来た!!」
「早ッ、ツカサちゃんひとたらし能力パねえな!?」

 いや、これは俺の能力の賜物たまものではない。
 どっちかっていうと、この宿のお婆ちゃんのちからだ。

 宿のお婆ちゃんの家に戻ったら、ちょうどお婆ちゃんが居て……人形を買いに行くむねを話すと「ヒマな時に趣味で作っていたけど、増やし過ぎて置き場にこまった人形」をさんゆずってくれたのだ。
 どれも、丸い顔に糸やボタンで表情が縫い付けられていて可愛い。……が、なごんでいる場合ではない。コレをどうしたらいいんだと問うと、リオルは説明しだした。

「よ、よし。まあ、こんなに可愛い必要はないけども……とりあえずツカサちゃん、俺が前に“この体からタマシイを分離できる”って説明したの覚えてる?」
「ん……そういえば、前に聞いたことあるな」

 そう、前にも似たような事があったんだっけ。
 ブラックが肉ばかり食ってたせいで体調を崩して寝込んじゃって、世話をする人手が欲しかったからマーサ爺ちゃんを召喚したんだ。
 その時に、今リオルが行った事に関する説明を受けたんよな。

 そもそも、リオルは【マッサリオル】という魔族の妖精で、農作業や木工などのちから仕事や農業が得意な【マーサ】という妖精の魂と、家事や家の守護などを得意とする【リオル】という魂が合わさった存在だ。
 つまり、今のリオルの体はリオル一人ひとりの物では無い。

 「二心一体」……体の主導権を交代することによってその性質を変える、妖精の中でも特異な「二つの魂を持つ妖精」なのだ。

 で、そんな性質だからか、実は片割れの魂を分離したりも出来る。
 完全に分断は出来ないけど、人形などに魂を一次的に預けてその場所を監視するという芸当が出来たりするのだ。

 しかも、肉体とのリンクは切れてないので、人形側の魂が、肉体に宿るもう片方の魂にリアルタイムで状況を報告する事も出来る。
 この世界にいてはかなりスパイ向きの特殊能力なんだよな。

 ……まあ、それはそれとして……。
 それが今の状況と、どう関係するんだろう。

「そのタマシイってのは……そうだな、特殊な気の固まりみたいなモンなんだ。ヒト族のカラダをジッと見ると、タマシイのうま……まあ、色んな事が分かるんだ。……魔族にとっては、ソレを見分けるのが出来てトーゼンってカンジ」
「なるほど、魔族もモンスターもヒトの気や肉体を好んで食べるから、獣人族よりも明確に好みの魂が識別できるってことか」

 リオルは「うまそう」と言う事を躊躇ためらっていたみたいだが、まあ……魔族ってそんな感じの設定よくあるもんなぁ。そもそも、リオル自身初めて会った時になんかよくある魔族ムーブしてたし……。

 だから、魔族が基本的に人間を餌食えじきにするってのは気にしてない。
 けれども俺のその態度が不思議だったようで、リオルは虚を突かれたような表情で俺をマジマジと見ていた。

「……そんなに俺達の危険性分かってるのに、美味そうって言われてもツカサちゃん平気なんだ……?」
今更いまさらじゃん。それに、リオル達は最初からそんなことしてないだろ」

 綺麗な海辺の街……ベイシェールで出会った時も、リオルは厄介な「カップル別れさせ妖精」と化してたけど、だからって誰かを襲ったり食べたわけじゃない。
 マーサ爺ちゃんと一緒に、自分の居場所やメスの女の人を守ろうとしてたんだ。
 まあ……やりすぎな所はあったけど、それは人間でもよくある事だもんな。

 だから、別にリオルが「美味そう」とか言っても怖く思えない。
 そんな気持ちを込めた言葉に、リオルは何故か感じ入ったように目を輝かせて、空涙をぐすんと指でぬぐっていた。

「ううっ……ツカサちゃんマジ俺の特別だわ……」
「大げさだなぁ……」
「へへ、まあともかく……俺達は体の中のタマシイを“視る”事が出来るってワケだな。とはいえ、体内のタマシイは、こう……胸の所で色んな色の光でポワッとしてるだけで、明確にとらえてるわけじゃないんだけど」
「ほう……?」

 話が主題に戻ったかと思ったが、また分からなくなってきた。 
 それが、ブラックの魂を探す事とどう関係があるのか。
 もっとびしっと核心を教えて欲しい。俺は、恥ずかしながら赤点ギリギリ常習犯なのだ。回りくどいと頭がパンクして全部忘れるぞ。頼むからもう少し簡単に説明してくれ頼むから。

「だから、ハッキリとタマシイが見えるようになるのは、何かの拍子にタマシイが体の外に出た時だけ。……ってことで……ツカサちゃんに、今から俺達の“目”を貸してあげようと思うんだ。旦那のタマシイを見つけるためにな」
「目、って……それ、俺に貸して大丈夫なの……?」

 確かに、探すならブラックの魂が見えた方が良い。
 というか、そうでもなければ俺には探し出せない可能性がある。

 しかし、いくら能力とはいえ五感の一つを差し出すのは大丈夫なのだろうか。
 二人に負担がかかるのではと心配になると、リオルは笑ってウインクをした。

「へーきへーき、従僕しもべの魔族の能力を借りるのは主人の特権だもん。ツカサちゃんと俺は【隷属印】で結ばれてるだろ? だから、俺の能力は多少写せるんだよ」

 【隷属印】ってのは、二人と契約した時に相手の手の甲に刻まれた紋様だ。
 確か……細かな模様が入った、竜の刻印っぽいものが刻まれていたっけ。しめす必要が無い時は隠しておくこともできるんだよな。

 ……で、俺とリオルは一応ご主人様となので、俺はリオルの力を借りる事が出来る……と……。

「それって、マーサ爺ちゃんやリオルに負担とか無いのか?」
「だいじょぶだいじょぶ。むしろ負担ある方が嬉しいって! じゃあ、とりあえず転写してみようか。ツカサちゃん、椅子に座って。百聞ひゃくぶん一見いっけんにしかずだぜ」
「う、うん……」

 リオルがガタガタと椅子を持ってきて、俺を座らせる。
 すると、真正面にテーブルを置きつつ人形を並べ、そそくさと俺の背後に回った。背後にリオルの気配を感じるが、何をするつもりなのだろう。

 怖くはないが、謎のフォーメーションだ。
 そう思っていると――リオルが、少し腰をかがめて俺の耳元に顔を近付けてきた。

「ちぃっとビックリするかもだけど……。ツカサちゃん、今からやる儀式で……俺のこと嫌いにならないでね?」
「へ? 嫌いって、何を……っ!?」

 するつもりだ、と言いきる前に、手で目をおおわれる。
 驚いてしまったが、これは“魔族の目”を転写するのだから仕方ないだろうな。

 こんなので驚いてたら心臓が持たないよ。
 そう思いながら「平気です」と言わんばかりに大人しくしていると、リオルはホッとしたように息を吐いて、再び耳の近くでささやいてきた。

「…………目ぇ閉じてて」

 その言葉に小さくうなずくと、俺のまぶたおおっていた手が離れていく。
 目を閉じていても、瞼越しに暗さが変わるのが分かる。
 でも、目を閉じさせて「嫌いにならないで」って何をするつもりなのか。

 ……も、もしかしてちょっと痛い事か。
 …………目に魔族の紋章を刻むとか?

 わ……わぁ……。
 ヤバい、それはちょっと。あの、せめて麻酔とか用意できませんかね。
 痛いのはちょっと我慢できないかも知れな……あ、後ろからリオルが歩いてきた、真正面に居る気配がする。待て、ちょっと心の準備が……――――

「我が愛しきあるじに、いやしき魔族の目を捧げる……。情欲と渇望を元に契約せしあるじへとおのごうさらせ……」

 ささやくような詠唱が、近付いてきた。
 今まで聞いた事のない呪文と、最近は聞かなくなったリオルの低くひそめたような声に、体が無意識に緊張する。

 そして、気配がすぐそばに在ると感じた時……。
 俺のまぶたに、熱くて柔らかい物が、触れた。

「…………」

 一度触れて、もう片方のまぶたにも同じ感覚がもたらされる。
 ……これは……なんだ。指じゃ無いような気がするぞ。

 あ……また、なんか触れてる……。
 柔らかくて、温かくて、そう言えば息がヤケに近いような……。

 …………あれ……これ、もしかしてリオルの唇……。

「……もう、目ぇ開けて良いよツカサちゃん。人形の方を見て」
「う……お……おう……」

 気配が遠のいて行く。
 ……リオルは何も言わないけど、これは……触れない方が良いだろうか。

 嫌いにならないでって言ってたけど、こういう事か。
 そりゃ、確かに……こ、恋人でもないヤツに顔にキスされたら、びっくりするし、俺は……まあ……イケメンに憎しみを抱いているので、リオルがそう言うのも無理はないと思うけど……今のは必要な事だったわけだから、別に……。

 い、いや、まあ触れないでおこう。
 ヤブヘビになりそうだし、だからリオルも何も言わなかったんだよな?

 だったらここは、知らないふりをしておこう。
 そう決心した俺は、なんだかジンジンしてきたまぶたをゆっくりと開いてみた。

 と……目の前の人形が、なんだかおかしくて……思わずまばたきをしてしまう。

「あれ……? リオル、なんか真ん中の人形が変なんだけど」
「どんな風に?」
「うーん……? なんか、ブレてるっていうか……」
「……しっかり見てみて」

 背後から、両肩をつかまれる。
 いつも触れてくるブラックやクロウとは違う、指の感覚と力強さ。
 その慣れない触れられ方に変に緊張しながらも、俺は人形に目をらした。

 すると――――ゆっくりとだが、真ん中の人形のブレが揺らめいてきて……小麦色の穏やかな炎のようなものが人形をおおっているのが見え始めた。
 でも、多分これは炎じゃない。つまり……。

「これが……魂の色……?」
「おっ、さっすがツカサちゃん! もうコツをつかんじまったな。その通り、真ん中の人形にはすでにマーサを憑りつかせてあるんだ」

 リオルがそう言うと、人形がオーラをまとったままピョコンと立ち上がる。
 わっ、か、可愛い農夫の少年人形が立った!

 じゃあ、あのおだやかな小麦色のオーラはマーサ爺ちゃんの魂の色なのか……。

「マーサ爺ちゃん、人形に憑りついたままで喋ったり出来る?」
「それは……」

 と、リオルが何か言おうとしたところで、マーサ爺ちゃんの人形が片手を上げた。

「ホッホ、久しぶりじゃのツカサ! やれやれ、リオルがダダをこねるもんだから、ワシもツカサに挨拶あいさつしたいのにこんなに出遅れてしもうたわい」
「バッ……!! おいマーサコラ!!」
「色々と話したいところではあるが、ブラック殿の容体を考えると、そんな場合ではないじゃろうな。……ともかく、ワシらの“目”を使えるようになったら次はブラック殿の体をジッと見つめるんじゃ」
「え……ブラックを……?」

 マーサ爺ちゃんに言われるがまま、俺はベッドに寝かされているブラックを見やる。
 と、なんだかボンヤリした光が見え始めた。
 これは……何だろう。

「見えたかのう。それは、魂の色の残滓ざんしじゃ。まだ時間が立っていないから、よく目をらせばハッキリと色が見えるはずじゃよ」
「や、やってみる」

 目に力を込めるようにして、ブラックの体を見つめる。
 意識を集中させ、ブラックの体をおおう光を認識しようと目を細めて……。

「ヒトであれば、心臓のあたりが強く光っているはずじゃ」

 的確な指示に、光を探してブラックの心臓辺りにピントを合わせる。
 するとそこからユラユラと炎のような光が舞い上がってきて、俺はまばたきをした。

「あ……」
「ツカサちゃん見えたのか!?」
「う、うん……」
「じゃー後は森の中で同じ光を探せばいいんだよ! 魂を連れ帰る方法は、また別に教えるから……ひとまず見るのは終わりだ。やりすぎるとツカサちゃんの貴重な精神力を消耗させちまうからな」

 そう言いながら、リオルは椅子ごと強引に俺の視線を変えさせると、もう見るなとでも言わんばかりに俺とブラックの間に割り込んでくる。
 仕方がないので、俺は“視る”のをやめて目を軽くこすった。

「では、連れ帰る方法を教えるかのう」
「おいっ今度は俺にゆずれよマーサ!」
「何を言っとるんじゃ、散々ワガママを言いおってからに……」

 なんか口喧嘩が始まっちゃったな。いや、ケンカというほどでもないが。
 しっかし、見た目はお爺ちゃんと青年ではあるけど、二人とも同時に生まれたから同い年のハズなのに、やっぱりなんかリオルが子供っぽい感じがするな。
 やっぱ魔族は体に精神が引きずられるんだろうか……?

 って、そんなこと考えてる場合じゃないか。
 今は一刻を争うのだ。ケンカもほどほどにしてもらおう。

「…………」

 二人の間に入ろうと立ち上がって、ベッドの方を見やる。

 …………魂の色、か。
 さっき、俺が見たブラックの魂の色は……不思議な色をしていた。

 それは【グリモア】だからなのか、本質がそうだからなのかは分からない。
 けど、あの色を見た時……なんというか……

 触れてはならないものを、見てしまったような
 そんな感じがした。

 ――――でも、だからってブラックをあきらめたりなんて出来るはずもない。

 まだつかめるなら、死に物狂いでもつかんでやる。
 そう思って、俺は気持ちを切り替えると二人の口喧嘩に介入した。



 ブラックの胸のあたりから湧き上がる――――

 紫の炎をまとった、虚無を思わせるほどに黒い魂の色を思い出しながら。









 森の中を、彷徨さまよっている。

 自分が何を考えているのか分からない。
 何故歩いているのかも分からない。

 だが、何か。
 何かを求めているのだと無意識に感じ取っていた。

 けれど意識は夢の中のように酩酊めいていしていて、自分の考えすら浮かばない。
 何もかもが、ぼんやりとにじみ全てを曖昧あいまいにしていた。

「…………ここは、どこだろう……」

 歩く自分の足を見やる。

 先程は大きく分厚い皮の足だと思っていたが、どうやら自分の足は幼く頼りない形をしていたらしい。だが、まばたきをすれば再び形を変え青年の足になっていた。
 見つめる手すら、揺らいで形が定まらない。

 自分は、どういう存在だったのだろう。

 “なに”で、森の中で“なに”を探しているのだろう。

(…………わから、ない……)

 だが、立ち止まってはいけない気がして、ただ進み続ける。

 そもそも、森の中で地面を踏みしめているのかも怪しい。
 全てが夢の中の出来事のようで、しかし現実のようにも思えた。

 ……ああ、考えが、まとまらない。
 立ち止まり続けていたら深い眠りに落ちてしまうようだった。

 けれどもそれは「駄目だ」と、心の中のどこかが必死に訴えていて。
 だから、進み続けるしかなかった。

(歩けば、どこかに行けるのだろうか……)

 頭の中の自分の声すら、何重にも音が変化している。
 反響して消えていくその音のせいで、意識が溶けていきそうだった。

 そんな、時。

『来て……』
「…………?」

 自分に向けられた声が聞こえる。
 その方向を見ると、深く暗い森の奥から微細びさいな光の粒子が流れてきた。

『帰って、来て……。こっちへ……こっちへ、帰ってきて……』

 声は、自分を呼んでいるのだろうか。
 これほどまでに切ない声で呼ぶのは、どうしてなのだろうか。

「そっちへ、行けばいいのか……?」

 こぼした言葉が、誰に向けたものなのかは自分でも分からない。
 けれど、そちらへ行けば……何かを知ることができるような気がする。

 ふとそう思うと、足が声のする方へと向いた。

(呼ばれている……行った方が、いいかもしれない……)

 “なにか”を探しているのだ。
 ならば……求めているものは、そちらに有るのかも知れない。

 ぼんやりとそう思いながら、何の音もしない足を森の奥の方へ進めた。












※マッサリオルの魂が分離する話は
 漫画の方にて描いてますが
 本編に影響するほどでもないので
 そっちは読まないかな~な方がいらしたら
 「そういうエピがあった」程度の認識で
 流して下さると嬉しいです
 
 
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