異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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迷宮都市ヘカテクライオ、秘めたる記憶と誘う手編

22.幸福の魔女

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「…………だ、れ……?」

 たどたどしい、透き通るような綺麗な声。
 まるで空気に溶けてしまいそうなほど、透明感がある美少女……というのは、妙な言い方のような気がするが、けれど彼女の細く頼りない姿は無意識にそんな想像を頭の中に浮かべさせた。

 いや、俺も何を言ってんだかな……。
 ともかく、彼女は不思議な美少女だった。

 だって、こんな森の奥深くだというのに、白いワンピースの黒髪の美少女なんて……夢かと思うくらいだ。

 その髪も彼女の膝裏まであってかなり長いし、そもそもライクネスって黒髪の人間は珍しいんじゃなかったっけ。
 あと、森の開けた場所にこんな立派なテーブルセットがポツンとあるのも変だし、そう言えば彼女は裸足はだしだし、それに……この子の向かいに座っている……存在。

 彼女は平然としているけど、明らかに異質だった。

「…………お客、さん……?」

 ……あっ、と、とりあえず言葉を返さないと。
 彼女がどんな存在なのかはつかれないけど、ともかく第一印象ってのは凄く大事だからな。ちゃんと言葉を返さないと。

「あ、いえ……実は、人を探していてここに迷い込んで……もしかして、ここは貴方の家の敷地でしたか? 勝手に入ってきてすみません」

 もしかしたら普通に謎の存在とお茶を飲んでただけかもだし、謝らねば。
 そう思い軽く腰を折ると、彼女は小さく首をかしげた。

「森は……みんなの、もの……。あやまら、ない、で」
「は、はい……」

 この領域がどんな物なのか想像もつかないけど……でも、少なくともこの子は俺達に敵意を抱いているワケじゃなさそうだ。

 と言っているが、この領域もそう言う認識で良いんだろうか。

「その……つかぬことをうかがうが、おぬしは魔女なのかの?」

 ずっと気になっていたのか、マーサ爺ちゃんが問いかける。
 あっ……そ、そうだ。俺達は“魔術の光”を見て飛び込んできたんだ。

 だとしたら、この中に居るのは魔女ってことだよな。

 じゃあ、この綺麗な女の子が魔女なんだろうか。
 俺達も彼女を見やると、相手はゆっくりとまばたきをした。

「ま、じょ…………。ああ…………え、ぇ……」

 なんだか、返事が曖昧あいまいだ。
 というか彼女自身、自分が何なのかも解っていないみたいに見える。

 もしかして、記憶喪失なんだろうか。
 それとも本当に魔女とは別の存在なのかな。

 どう声を掛けたものかと迷ってしまったが、そんな俺達を余所よそに、彼女はある事に気が付いたのか再びテーブルの向かい側に座る“何か”を見た。

「…………私は……帰って、きた…………そう、帰って、きた……恋人、を……今、おもて、なし……してたの……」
「恋人……」

 俺達が目を向けた、彼女の真向かいに座る存在。
 それは、改めて見ても異質としか言いようが無かった。

「ソレが、恋人……なのかの……」

 マーサ爺ちゃんが少し声のトーンを落とすのも無理はない。
 だってその“恋人”は……ヒトの形をしようと必死にたもたれている、一見してヒトとは思えない“何か”だったのだから。

「クゥウ……」

 ペコリア達がおびえるのは、きっとその“恋人”が大きくて、人と同じような姿勢で座っているにも関わらず、常にドロドロと溶けているからだ。
 黒一色だから奇妙だなくらいの気持ちにしかならないけど、これが完全にヒトの姿だったら、かなり目を背けたくなる光景だったに違いない。

 それに……この“恋人”は、ヒトではありえない様相になってしまっている。

 目が、一か所に定まっていない。
 二つの眼球らしきものが顔のあたりをうごめいているが、本来のヒトの目の位置に固定されず、顔の範囲を彷徨さまよっているのだ。

 ……俺はだいぶ怖いと思ったのだが、でも相手は大人しいみたいなので、オバケだとは騒がないでおく……。
 というか、ここまでで俺は卒倒してもおかしくないのだが、何故平気なんだろう。

 自分でも不思議だけど、その“恋人”に関しては、不思議と恐怖が無かった。

 目の位置以外でも、人の形から急に変わってスライムっぽくなったり、かと思えば巨大すぎる狼男?みたいなモノの影になったり、とにかく形が定まっていない。
 ずっと影みたいな色をしているけど、彼……いや彼女……ともかく“恋人”は、特定の形をたもち続ける事が出来ていないみたいだった。

 うーん……スライムの亜種……もしくは特別な種族とかなのかな。
 モンスターって人を襲うのが基本だけど、俺のロクショウ達みたいに友好的な種族も居るから……もしかすると、彼女は不定型な存在が好みのタイプなのか。

 それにしても恋人にしたいほど好きとは、絶対的な愛だな。
 ……いや待てよ、もしかして“呪い”にかかっているとか……?

 魔女の薬もそうだが、この世界には失われた技術ってのが存在する。
 実は“呪い”もその一つで、強力な術らしいのだが、現在では失われた技術と化して使える人が存在しないらしく、発動方法も謎になっているのだそうだ。

 だから、もしかするとこの“恋人”さんは呪いに掛かってるのかも……。

「……まだ、なにか、用……? 私……この人と、ゆっくりしたい、の、だけれど」
「あっ……えっと、お、俺達、人を探してて……! いや人って言うか、正確には俺の大事な人の“魂”が抜けて……それを探しているんですが……」

 何か知りませんか、と、黒髪の美少女に問う。
 彼女が魔女かどうかは分からないけど、訊かないワケにはいかないよな。

 今は少しでも手がかりが欲しいのだ。
 彼女達が関係ないという確証を得るためにも、聞いておかないと。

 そう思って咄嗟とっさに目的をしゃべったのだが、意外にも彼女は興味深そうにこちらを再度見直してくれて、少し驚いたのかわずかに目を見開いた。
 綺麗な、赤い色の瞳を。

「たま、しい……? そのひと……魔女、なの……?」
「え……いやえっと、オスの男で曜術師なんです」
「……そう……? じゃあ……魔女、に……魂を、とられた、のね……」

 な、なんだと。美少女が会話に乗ってきてくれた……!?
 しかも、彼女の口ぶりでは魔女について詳しいみたいだ。

 ってことは……もしかしたら、この森の魔女について知ってるかも!
 でなくても、ブラックの魂を探す方法を教えてくれる可能性も有るぞコレは!

 最初はお邪魔しちゃったかなと思ったが、勢いに乗ってこの領域に入ってきて本当に良かった。魔女についての情報を持っている人がこんな所に居たなんて。
 これで、手探り状態から脱出できるかもしれない。

「お嬢さん、なにか探す知恵は無いかのう。その魂の持ち主は、ツカサ……この子にとって大事な存在なのじゃよ」
「まっ、マーサ爺ちゃん……」

 そ……そりゃまあ、そうなんだけど、ハッキリ言われると恥ずかしくなる。
 いや関係が恥ずかしいってわけじゃなくて、その、俺が変に意識しちゃうせいなんだけど……とにかくここは沈黙だ。余計な事は言わないでおこう。

 下手に会話に割り入って変なことになるのは悪手だ。
 ブラックを早く助けるためにも、俺の感情は抑えておかないと……。

「そう……あなたも……大事な、ひとを……見失ったのね……」

 美少女はそう言うと、ゆっくり席を立つ。
 白いワンピースのすそを風になびかせて、まっすぐで黒く艶やかな長い髪をふわりと浮かせながら、俺の方へ近付いてきた。

「あ……」
「……あなたは……私、と……おなじね……。だったら……きて……」

 そう言って、彼女は俺の手を取った。
 ――――とても、冷たい手。

 だけど死人の手というよりも、なんだか冷たい自然物のような感覚だ。
 恐ろしいと言うより、人間とはかけ離れた存在なのだと思わせる温度だった。

 ……彼女は……普通のヒトじゃないのかな……?

 つい考えてしまうが、手を引かれて俺の足が勝手に動き出す。

「あっ、えっ……」
「私の……しごと、だから……」
「しごと……?」

 森のさらに奥へといざなう彼女に、座っていた“恋人”も立ち上がった――――ようには見えないが、ともかく身長を高くして椅子を乗り越えると、こちらに付いてくる。

 そんな謎の“恋人”を見つめていると、彼女は俺の鸚鵡おうむがえしに答えた。

「私、は……人を……幸福にする、のが……使命……」

 ――――え……。
 今、彼女は……なんて言った……?

「幸福にするのが、使命……?」

 それって。
 まさか、お婆ちゃんから聞いた言い伝えの……。

 じゃあやっぱり、このはかなげな美少女がそうなのか。
 俺が出会うべきか避けるべきかと考えていた、魔女だっていうのか?

 目を見開いて思わず凝視ぎょうししてしまった俺に対して、彼女は無表情な美しい顔を少しも歪めずに、小さくうなずいて俺を見返した。

「私、は……フェリーチア……。幸福を、与える……この森の、魔女……です……」

 ルビーのように深く輝く、赤い瞳。
 長い睫毛まつげふちどられたその綺麗な瞳の色を見つめながら、俺は何故か異様なほどの胸騒ぎを覚えて、ただ息を呑むしかなかった。













 
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