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幻実混処ユーダイモ、かつて祈りを唱えし者編
11.どうしてそんな顔をするんだ1
しおりを挟む「爺ちゃん、俺とペコリア達がアイツの気を引くから……その間に離れてくれ」
「あい分かった」
「ブラック、家の中で良いから牽制するのを手伝って」
「僕も出て行かなくていいの?」
ブラックが言うのに、俺は頷く。
いくらブラックでも、魂の状態だと敵に容易く捕まってしまう可能性がある。
だけど遠距離から影を操ってくれるのなら居場所も正確には解らないだろうし、家の中のどこに潜んでいるかもハッキリしないはず。
俺達がこの森に来た目的は、ブラックの魂を取り戻すためだ。
決して【アルスノートリア】と戦うためじゃないし、ハナから倒そうなんて考えてもいない。ブラックにこんな事をしたのはアイツだけど、構う暇なんてないもんな。
早く元のブラックに戻してやりたい。
……こんな、いつ死ぬかも分からない状態のアンタはイヤだよ。
だから、今はブラックが最優先だ。
マーサ爺ちゃんが札を貼りつけてくれるまで、なんとか持たせなきゃ。
「……ペコリア、準備は良いか?」
俺の言葉に、三匹の可愛いペコリア達は「クゥー!」と小さなお手手を上げて万端だと答えてくれる。マーサ爺ちゃんも、札を入れたポケットの部分を手で押さえて、俺にコクリと頷いた。……ともかく、やるしかない!
「あまり気は進まないけど、あの“魔女の影”が出したように影を擬態させながら攻めてみるよ。アイツだって、さすがに影の種類なんて分からないだろうし」
「おうっ! ……じゃあ、いくぞ……!」
ブラックのアシストに「任せた」と言わんばかりに首を縦に振って、そっとドアを開ける。……そこには、再び四つん這いの蛙のようになった影と睨み合う、スイ……いや、【翠華】の姿が有った。
彼の周りには、無数の蔓が蛇のようにうねうねと動きながら集っている。
……かなりの数だ。俺でもあの量を出したまま待機していられるかは怪しい。
もちろん、チート能力を使えば可能だろうけども、俺だって素の能力でもソコソコ褒められた曜術師だ。木と水の曜術だけは自信があるが、しかしそれにしたって俺では多くても数十本が限界だろう。
他人から手放しで褒められるレベルでも、この程度なのだ。
カーデ師匠やアドニスなら、ワンチャン可能かもしれないが……ともかく、一般人レベルでは蔓をダハの群れのように何百も従えるのは不可能だった。
それを、あの男は容易く行っている。
やっぱり【翠華】の力も侮れない。
【アルスノートリア】は【グリモア】と違って、その能力に制限が無く、デタラメな威力の術まで簡単に使用できてしまうのだと言う。
月の曜術師に対応する【菫望】は人を蘇らせる術を使い、金の曜術師に対応する【皓珠】は、巨大な船のコントロールを奪うほどの支配力を以ってなお余力を残していた。土の【礪國】も同じだ。
成りたての【グリモア】では完封できないほどの術を連発して見せたのだ。
…………それを考えると、アイツらと真正面から戦うのがどれほど無謀な事なのかを改めて考えてしまって、気分が重くなる。
でも、ここで退いてちゃ男が廃る。
す……好きなヤツひとり守ってやれないで、何が男だ。
俺は気合いを入れると、体勢を低くして【翠華】の動きを窺った。
まだ、こちらに気が付いていない。それほど影に気を取られているんだろう。
……なんでアイツがそこまで影にいきり立っているのかは知らないが、このまま俺が爺ちゃんとは正反対の方向から攻撃すれば、アイツも流石に見逃すはず。
それに、俺達がチアさんの影と共闘していると勘違いするかも!
こっちは二対一って錯覚させてやるのだ。時にはハッタリも必要だよな!
「よ、よし、いくぞ……!」
息を吐くくらいの微かな声でペコリア達に告げると、俺達は屈んだまま音を立てずに移動を開始した。
その間に、家に居た時は聞こえていなかった【翠華】の声が聞こえてくる。
「お前がもし“食った”というなら……哀れな魔女と言えど容赦はせん……!」
「……?」
あれ……あいつ、影がチアさん……つまり魔女だと気が付いてる……?!
魔女なんて単語、この世界じゃもう失われて久しい物のはずだよな。
なのに、なんで……もしかして、【アルスノートリア】も知ってるって言うのか。
知ってて何かしようとしている? まさか殺す気か!?
いや、でも、あの【翠華】は何でか怒っているみたいだ。
魔女を狙ってやって来たワケじゃないのか。それとも、何かをするつもりで来て、チアさんの影に返り討ちにされたから怒ってる……のか?
チクショウ、よくわからん。
でも、俺がやることは一つだ。
アイツが気を取られて周りが見えていないなら好都合、利用してやるしかない。
ペコリア達と慎重に動く間も、【翠華】は何やら喚く。
「返せ……。さもなければ、お前を殺す……!」
影の真後ろまで来て、ようやくマーサ爺ちゃんが向かう方向と反対側に到達したと、同時――――憎々しげに顔を歪める【翠華】の周囲の蔓が、鎌首をもたげた。
一斉に、しかしそれぞれが違う動きで、影に向く。
……やっぱり、あんなの普通じゃない。
まるでそれぞれの植物が本当に意志を持っているみたいだ。あんな風にバラバラに動かすなんて、【黒曜の使者】の力を使った俺でも出来ない芸当だよ。
アイツと正面から戦うのは、無謀すぎる。
だから……。
「返せと言っているだろうがァッ!!」
「今だ!!」
【翠華】の野郎が、蔓を動かすのに意識を集中させる。
そのタイミングを見計らって――俺は、こっそりと用意していた水の曜気を、一気に掌に集めて【翠華】の方へと向けた!
「我が道を遮るものを飲み込め、【アクア】!!」
一気に体を青の綺麗な光が包み込み、それらが【翠華】の頭上へと飛んで行く、と、俺の声にようやく相手が気が付いた。
「ッ……――!?」
えっ……なに、その、とてつもなく驚いたような表情。
なんで俺を見て、予想外のオバケでも見たような顔をするんだ?
そう、俺が一瞬気を取られた刹那、俺を凝視する【翠華】の頭上から、思いっきり滝のような水が落ちた。
「ぐっ……!!」
轟音を立てて流れる水に、敵の姿が隠れる。
その隙に目配せをしたマーサ爺ちゃんが森の方へと走り出す。……と、俺が頭の中で認識する間に、その小さな姿は既に遠くへ消え去っていた。
さすがは魔族の妖精だ、この調子なら【翠華】にも見つからないだろう。
そう俺が安心したと同時、水を勢いよく弾くような音が聞こえた。
うわっ……ヤバい、蔓で水をムリヤリ弾かれた!!
「くきゃー!!」
「きゃふっ、きゃふー!!」
ペコリア達が一斉に威嚇して体毛を膨らませている。
だが非常に可愛い過ぎるせいなのか【翠華】にはその強さを理解して貰えないようで、相手は俺を凝視するだけでペコリアには目もくれなかった。
いや、ペコリア達が攻撃されないならそれでいい。
ともかく、俺達の目的は【翠華】にマーサ爺ちゃんの行動を悟らせないことだ。
こちらに注目してくれるならそれでいい。
そう思って俺は相手を睨み返したのだが。
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「え……」
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俺に対して、そんな顔をするんだよ。
そう思って、足が一歩後ろに下がりそうになった。と。
「ぐっ……!!」
【翠華】と俺を遮るように、地面から影の触手が無数に出現する。
と思ったら、それらが一斉に相手へと襲い掛かってきた。
突然のことに【翠華】は驚いたようだが、しかし相手も蔓で応戦し、攻撃とまではいかないようだった。一瞬、チアさんかと思ったが……アレは、ブラックの影だ。
そ、そうだ。そうだよな。
作戦通りに、俺が近距離で、ブラックが遠距離で牽制するんだ。
マーサ爺ちゃんが宿に戻るまで、なんとか踏ん張らないと。だけど、ヤツに見つかった以上どうすべきか。相手は一筋縄じゃ行かないぞ。
それに森の中にいては、絶対に力で押し負ける……。
攻めあぐねて拳を握っていると、チアさんの声が聞こえてきた。
「ツカサさん、そのまま森の奥へ逃げて下さい! ここは、私達の森……それに、こちらは相手に見えていないので、何とかなります……!」
――――そう言えば、アイツは何故か「家」には全く関心を示していなかったな。
影の方ばかり見て不思議だと思ってたんだけど……もしかして、チアさんの魔女の力で、何か仕掛けをしているんだろうか。
だから【翠華】には家が見えていない……とかなのか……?
なら、俺も一度森の中に逃げた方が良いのかも知れない。
それに、ここはチアさんの領域だ。
もしかしたら、何か……俺達にも恩恵が有るかも知れない。
ブラックの影が【翠華】の視界を遮っている間に一度森に逃げて、それから迂回して家のほうへ戻ってくれば、アイツも俺を見失ってくれるかも。
……とはいえ、相手は植物の支配者だ。
そう簡単に逃がしてくれるとは思わないが……。
どのみち、このままだと俺達だけじゃジリ貧になるかも知れない。
動き回っていた方が良いかも知れないな。
「よし、逃げるぞみんな!」
「それと、これを……!」
俺達が踵を返したところに、なにか紙が飛んでくる。
チアさんの言葉と共に、操られているかのようにスイッと俺の目の前に滑り込んできたその紙……いや、呪符には、何か目のようなものが書かれていた。
これは……もしかして、俺達を見ていてくれるという札なんだろうか?
だとしたら心強い。
もし【翠華】に見つかったとしても、この呪符があれば、ブラック達も俺らがどこに居るのかが分かるだろうからな。
「ありがとうございます!」
お礼を言って、俺とペコリアは森の中に逃げ込む。
明るくてキラキラした、新緑の森よりも明るい光に満ちた森。
今の所、邪悪な気配はないけど……とにかく、アイツと出くわさないように森の中に隠れながら、なんとか逃げ切って家に戻らないと……!
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