異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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幻実混処ユーダイモ、かつて祈りを唱えし者編

  どうしてそんな顔をするんだ2

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 しかし、逃げるにしたってどこをどう走ればいいんだろう。

 下草が丁度ちょうどい短さになっている明るい森を進みながら、俺は考える。
 これほど走るのに都合つごうがいい森も珍しいが、きっとこれはチアさんの領域だから、こんな風に夢の中の森みたいな整った感じになっているんだろう。

 魔女の力ってのは本当に凄いな……まあ、なんにせよ俺には好都合だ。
 チアさんが味方で良かったと思いつつ、再び「どう逃げるか」を思案した。

 うーん……とにかく一度少し離れて、Uターンするような感じにするべきか?
 それとも、扇形おうぎがたみたいに結構迂回うかいした方が良いんだろうか。

 でも、俺達の場合だと、時間をければけるほどアイツの植物に捕まる可能性も高くなるよな。それに、家からあまり離れた場所まで行くと、方向感覚を失う可能性も有る。俺達は、この森に詳しいわけじゃないからな。

 ペコリア達がサポートしてくれるとはいえ、油断は絶対に出来ないだろう。
 ……それに、いくらチアさんの森であろうと、ここに存在する植物はアイツに乗っ取られない……って保証もない。

 あの男は【アルスノートリア】なんだ。
 俺達が想像もしえない“デタラメ”を使ってくる可能性があるんだから。

「くそっ……もう、とりあえず少し離れるしかないか……!」

 たぶんチアさんとブラックは、この目が描かれた呪符で、俺達がいる位置を把握はあくしてくれているはずだ。きっと、こちらの状況は伝わっているだろう。
 だったら、多少離れても、迷っても……どうにかなるかもしれない。

 とにかく俺達はアイツを振り切って逃げる事が第一目標だ。
 なら、準備は早めにしておいた方が良いよな。

「っ……疾風はやてちからを我が足に与えよ……【ラピッド】……!」

 足に“大地の気”を集中させるようなイメージを強く持ち、手で触れる。
 すると、俺の足に金色の光がともり、一気に速度が増した。

 よし……このくらいの付加術ふかじゅつなら、今の精神状態でも出せる。
 曜術師は冷静さ……というか、心のバランスをくずしたら術が出せないからな。

 ブラックほどのヤツになると心の制御は完璧なんだろうが、生憎あいにく俺はまだ初心者の領域を出ていないのだ。出来る事は早めにやっとかないとな……!

「クゥッ、クウックゥ!」
「っ!?」

 先行していたペコリアが、俺に合図をして咄嗟とっさに右の方向へ進路を変える。
 それにあわてて付いて行くと、途端とたん先程さきほどまでの進行方向の先につるかべが出現した。

「……!!」

 思わず「うわっ」と言いそうになってくちつぐむ。
 やばい、アイツ俺達の行きたい方向を分かってやがった。って事は、俺達の気配や声……何が原因かはよくわからないけど、ともかくこっちの事を把握はあくしているんだ。

 そうなると、声を一つ上げるだけでもヤバい。
 歩いている音も聞かれている可能性があるが、俺達を直接捕まようとしたワケじゃないってことは、こちらの位置を正確に認識してるわけじゃないのか?

 くそ、よく分かんねえ……ともかく、逃げるしかない。
 だが相手は俺達の行く手をさえぎろうとして、次々につるかべを繰り出してくる。

 右に左にと逃げているが……なんだか、誘導されているような気がしてならない。
 こういうのも漫画で見たことあるぞ。
 俺達の動きをつかれずにニアミスしてると見せかけて、それは敵を自分の方へと誘い込んで有利に戦うための戦略だった……!みたいなヤツだ。

 ……あの【翠華すいか】がそういう事を企んでいるのかどうかは謎だけど、考えられない事じゃ無い。変に遠回しな牽制けんせいをして来るんだ、可能性が高いよな。

 でも、どうすれば良いのか……草木をぶつけてみるのも考えたけど、万が一こっちの曜気を悟られたらゲームオーバーだし、そもそも俺が操った植物の支配権を簡単に奪われる可能性も有る。

 俺のぺーぺーな初心者曜術じゃ、アイツにはかなわないだろう。
 【黒曜の使者】のちからを使ったとしても、負ける未来の方が見える。

 負の自信がありすぎて自分でもやんなるが、こういうのは慎重しんちょうすぎるに越したことはないよな。でも、何とかしないと戻ることも出来ないぞ。

「っ……」

 ああ、また進行方向をさえぎられた!

 チクショウ、どの道モタモタしてたら捕まっちまう。
 相手は、やっぱり大まかに俺達を把握はあくしているみたいだ。

 だとしたら、曜気を使ったら完全に居場所がバレるはず……。
 けど、だったら……逆に曜気を放出してしまえば、その強い光に目を取られるんじゃないか? 曜術師って、同属性の曜気の光だけは見えるから……俺が曜術を使ったとわかれば、その発生源を確実に狙ってくるはず。

 なら、俺が広範囲に曜気をばらまけば、くらましになるんじゃないか。
 その後に、音がまぎれるような何かを使えば……!

 ……上手くいく保証はないけど……やってみるしかない。

 “ペコリア達”にも協力して貰う事になるが、大丈夫だろうか。
 そう思って先導してくれる三匹を見やると、それぞれ俺に「大丈夫だよ!」とでも言ってくれるように、耳をピコピコ動かして自信満々の顔を見せてくれた。

 よ、よし……このままだと俺の息も切れそうだし、とにかく実行だ!

 相手のつるの発動を見て避けた後、俺は立ち止まって――――
 木の曜気を周囲に広げるように強く放出するイメージを思い描いた。

 すると、俺を中心にして一気に緑色の光が広がる。
 俺はその状態を維持いじし、さらに広げながら、立っている場所から家とは反対側の方へと少し移動した。……これなら、曜気は広がっているけど俺の位置はバレない。

 そのまま広げつつ、俺はバッグから薄桃色の召喚珠しょうかんじゅを取り出した。

「ごめんみんな、頼む……!」

 今出せるありったけの気を込めて、召喚珠しょうかんじゅにぎった、と、次の瞬間。
 あたりにボウンという大きな音と、盛大な白煙が一気に広がって……数えきれないくらいのペコリア達が現れたかと思うと、一斉いっせいにその場から駆け出した!

 ――――そう。
 これは、俺達がどこへ向かうのかと言う足音を消すためだ。

 いくら俺の足音がペコリアと違ったとしても、数十匹ものペコリア達が一気に動くとなれば俺一人の足音なんてまぎれてしまうし、低木ていぼくも少ないこの明るい森ではしげみを移動する音も無い。それに、白煙も上手く手伝ってくらましには最適だ。

 この間に逃げればなんとかなる……はず……!

 ともかく、急いでこの場から離れよう。
 俺は最初の三匹と一緒にチアさんの家の方へ駆けだした。

 ……よし、つるは前にも後ろにも出て来た気配が無い。
 このままいけば、きっと逃げ切れ――――

「う゛っ!?」

 ――ぐん、と、いきなり誰かに足首をつかまれたような感覚があって、走っていた足が急に停止する。そのいきおいで俺は思いっきり前のめりになってしまった。
 その認識を覚えて咄嗟とっさに受け身を取ろうと手を伸ばした、のだが。

「くきゃーっ!?」
「うわぁあっ!!」

 両方の手首に、太いつるが……絡まっている。
 思わず振りほどこうとしたが、つるみずから地面に戻って長さを調整すると、俺をその場にきつくいましめた。足も、いつのまにか両方とも拘束されてしまっている。

 そんな俺を見て、ペコリア達がつるを噛み切ろうとカジカジしてくれるが、何度かじっても即座に再生してしまい、まったく歯が立たないようだった。

「無駄だ。……歯が使い物にならなくなる前に、そいつらを戻してやれ」
「っ……!」

 この声は……っ。

 思わず、聞こえた方向――――真正面を、向く。

 まだうすぼんやりと白い煙が周囲にただよい、視界が悪い森。
 そんな中を、青鼠あおねずみ色のローブを着た背の高い男が歩いてくる。

 …………残念だが、見間違えられるような姿じゃない。

 その姿はまぎれも無く…………【翠華すいか】の男だった。

「……痛めつけられたいのか」
「お前っ……! ペコリア達に何かするつもりか!?」

 そんなことしやがったら、絶対にただじゃおかないからな。
 俺は良いが、こんなに小さくて可愛いペコリアを傷付けるというのなら、俺だってアンタには絶対に容赦しないぞ。

 あまりに非道な事をしようとする相手をにらむと、【翠華すいか】は少し不機嫌そうに片眉を寄せながら、俺をジッと見つめた。

「嫌だと思うなら、戻しておけ。さもないと……」
「っ……分かったよ……!」
「クゥウ~!」

 だめだめ、とペコリア達は首を振るように体を動かすが、今は従ってやれない。
 俺はある意味不死身だけど、ペコリアはそうじゃないんだ。
 コイツがどんな酷い事をするのかは知らないけど……ペコリア達が死ぬような怪我を負わされるとしたら、そんなの我慢できない。

 それに、俺は今人質みたいなものだ。
 俺の失態で、ペコリア達を傷付けたくない。

 ……守護獣だって言っても、今度ばかりは守って貰えないよ。
 だって、目の前にいるのは……【グリモア】以上に、危険なヤツなんだから。

「…………」

 俺は、ダメダメと首を振るペコリア達に申し訳ないと心で伝えながら、強引に召喚をいた。初めてやったけど、念じるだけである程度ていどは自由になるらしい。
 今度も白い煙が周囲を包んだが……目の前の男の姿はかすんでくれなかった。

 …………くそ……どうしよう……。

「ようやく静かになった」
「…………」

 なった、じゃないよ。アンタがそうさせたんだろ。
 反論してやりたかったが、ヘタな事は出来なくてただくちつぐむ。

 そんな俺にさらに近付いて、【翠華すいか】は――――不機嫌そうな声で、思っても見ない事を言い出した。

「修行が足りんな。……そもそも、私はお前の気ならば見間違えることなど無い。おのれの従僕である獣に足音を消させるのはいい案だが、未熟者のさくでは穴だらけだ」

 は……ハァッ!?

 なんでアンタにそんな品評されなきゃいけないんだよ。
 俺はなあ、自分で言うのもなんだが、元からナイ頭をしぼって必死に考えたんだぞ。それに、あの緊張感のある逃走中に思いついたんだ。
 緊迫感しかないそんな状況じゃ、上出来の策だろう。

 そもそも、それが今の俺に出来る精一杯だったんだよ。
 アンタにドンピシャで見つけられるなんて思っても居なかったってのに。

 なのに、どうして「なら見間違えることがない」なんて事になってるんだ。

 俺が【黒曜の使者】だからか。
 それとも、スイと名乗った時に俺の薬の調合を手伝ったから?

 クソッ……返す返すも接触したのがやまれる。
 仕方なかったとはいえ、コイツが敵だと知ってたら近付かなかったのに……!

「…………そう、にらむな」
にらまないワケないだろ!! 俺をどうするつもりだよ……!」

 ……正直、今の俺なら相手は出来てしまうだろう。
 だけど、その恐怖をさとられたくない。

 そう思って精一杯の虚勢を張った俺を、【翠華すいか】は……何故か、少し悲しそうな目で見やり、だが冷静な顔をたもちながら、指を軽く動かした。

「うわっ!?」

 つるさらに俺の足に絡みつき、軽く伸びる。
 すると、俺の体は簡単に宙に浮いた。不安定な体を支えるように、腹の部分に新たなつるが巻きつく。こうなると、もう……逃げられない。

 視線の高さが、【翠華すいか】と同じになる。
 だけど、その整いすぎた冷静な顔は、今見たいものではなかった。

「ツカサ、その未熟な手で……何故私にいどもうとした」
「未熟未熟って……知ったようなくちを……!」

 そりゃ、事実だけどさ。
 でも、アンタみたいなやつには一番技術がどうのと言われたくない。

 俺は、正しい薬師としての心構えをカーデ師匠に習ったんだ。
 こんな風に、悪い事もしてない人を捕まえるような術を習ったんじゃない。修行も、やっと人族の大陸に戻って来たから再開しようと思ってたんだ。

 アンタが単純に未熟だと言う俺にだって、プライドはある。
 少なくとも……アンタみたいな奴に、分かったようなくちを聞いてほしくない!

「…………」

 嫌悪を隠しもせずに、威嚇いかくするかのような表情を向ける。
 それが、俺にとっての唯一の抵抗だったから。

 だけど……――――

 何故か、【翠華すいか】は……また、少し悲しそうな顔をして……。


 …………なんで。
 何だよ、何なんだよアンタ。

 敵なのに、どうしてそんな顔をするんだよ。
 アンタと俺は、昨日会ったのが初めてなのに。

「ツカサ……」

 手が、伸びてくる。
 何をするか分からないのが怖くて無意識に体を強張らせた俺に、【翠華すいか】は、またも切なそうに目を細めながら……俺のほおに、触れた。













 
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