菱形の陽暉楼(女探偵キラサとあやかしの鬼神)

南逆賊

文字の大きさ
1 / 13

第一話 グルメ殺人事件

しおりを挟む
 車窓の風景が、鬱蒼とした住宅街から…徐々に自然が広がってゆき、停車区間が長くなる頃…向かい合わせの電車の座席には、かすかな香水の匂いを漂わせ…死者の書を、読み耽る銀髪の女性…彼女は、反対側に座る助手の、大人しそうなスーツ姿の青年に、語りかける…
 「あら…おかしいわね…降りる駅…過ぎてる…」
 「し…しまった、キラサさん…これ…急行ですよ…」
 「そ…降りるわよ…」
次の瞬間…ドレス姿の彼女は、窓に脚をかける…
 「は…またっすか…」
 「アンタも来んのよ…」
バサッ!
(僕の名前は、篠山ユズキ…このカワイイって言ったら殴られるな…美人探偵の西院キラサの助手兼、ボディガードだ…
 で今、依頼者のいる駅を通り過ぎちゃったんで…この人は、窓から飛び降りたってわけ…僕も巻き添えくって、下敷きさ…)
ガラガラガラ…ドッシャ~ン!
 「おろ…ユズキ…ドコ?」
 「下…下…」
(や…柔らかい…)
キラサの尻の下に引かれる、助手の姿があった…
 パシンッ!
 頬に赤い手形を付けて、不服そうに古都の道を歩かされるユズキ…
 「裏路で…良かったわ…」
 「イキナリ殴ったのは…アナタでしよ…まったく…状況を、考えずに…」
 近所の子供達の噂声が、聞こえる…
 「今…鬼がいたぞ…」
 「何言ってんだ…そんなもんいるわけねーだろ」
 「キラサさん…」
 「ゴメンて…」
 
 ふたりを待つ、依頼者が立っていたのは…歴史がありそうな古本屋で、その奥には小洒落たカフェが設置されていた…そのミスフィッツ感に戸惑いながら、長身のモデル体型のキラサと、小柄な青年ユズキは席に座る…
 「フフ…足つかないんだ…」
 「うるせ…」
少し高い椅子に、足をブラブラさせる彼を、そこにあった本を読みながら…嘲笑する、意地の悪い美女…
 「ウチの店主なんですが…」
そう言いながら、やって来た…依頼者の30歳くらいの、落ち着いた感じの女性の話によると…この店の主人は、原因不明の病に侵されており…その前後に、怪事件が続出しているのだそうだ… 
 「で…そのおかしな事って…なにかしら…フフ…」
半笑いで興味津々のキラサと、不安そうなユズキ…
 「出るんですよ…妖怪が…」
 「マジマジ…」
 「おい…」
前のめりの探偵を、たしなめる助手に…依頼者は続ける…
 「この店は、毎晩10時に閉店するんですが…鍵をかけた後…黒い影が現れて…それを見た店員は、皆…」
 「透明な糸と八本の脚を…見たって、言うのよね…」
 「どうして…それを…」
察しのいいキラサに、相手は戸惑う…
 「分かるわよ…ここでさっき読んだ本に、書いてあったもの…」
 「頼もしいです…で、報酬の話ですが…」
 「えっとね…本を、何冊か頂けるだけでいいわ…この世界の謎を解くカギが…ここには、あるの…」
 「確かに…すごい蔵書ですね…まるで図書館だ…」
手の届かない、上の方まで積まれた…古い曰く付きの書物を、見上げるユズキ…
 「これなんて…スゴイ…」
一冊の魔導書を手に取り、読み始めるキラサ…
 「お気をつけ下さい…本を読む事に集中し過ぎると、現実との境界線が…曖昧になりますよ…フフ…」
意味ありげな事を言う女性…

 夕方になり…先程の依頼者の用意した料理を口にする二人…
 「変わった…味ですね…いえ、美味しいんですが…」
 「ふだんカップ麺ばっか食ってるバカ舌には…分かんないでしょうね…コレ、何の肉かしら…」
(テメーも、知らないんじゃね~か…この高飛車女め…)
と思いつつも、ビビって口に出せないユズキ…
 「主人は…とってもグルメでして…この世界の料理では、満足出来ないんですよ…」
 「それって…しまった…吐き出しなさい…ユズ…」
キラサが、何かに気づいた時には…女の姿は無く…嗚咽する助手を横目に、厨房へ向かう探偵…
 「キラサさん…」
少し時間をおいて、入ってくる助手…
 「見ない方がいいわ…」
 「こ、コレって…」
 「この店の主人…立花源造…だったもの…」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...