【弐】バケモノの供物

よんど

文字の大きさ
上 下
4 / 63
一ノ巻

頁1

しおりを挟む
【レオside】

現世の冥永神社には、守り神である山神に仕える二匹の白狐の像が向かい合う様に置かれてある。その狐の片割れが自分である。
冥永神社は訪れる人々を幸福にするという迷信で人気スポットとなっている。つまりは「恋愛運向上スポット」とやらだ。山神は、元々自然豊かな街が好きな為この神社を祀っているだけなのに、いつの間にかこんな迷信が流れていたのだ。


『阿呆だよな、人間は。私達はなぁんにもしてないのに期待だけ勝手にして』


ポリポリとお供物として置かれてあったお煎餅に手を伸ばし、神様に仕える守り神としてはあるまじき体勢で貪る様に食べる。片方の白狐、ミオは困った様に笑いながら『自然なら豊かになっているんじゃがな…』と返す。
街を脅かす存在である悪霊は、山神が全て祓った為、腐っていた空気はいつの間にか浄化していた。確かに住み易くはなった。だが…


『私達は人間の色恋沙汰なんて興味無いのに』
『そう言いながら人間の置いていった菓子には手を伸ばすんじゃな』


不意に凛とした声が辺りに響き、ハッと神経を振るわせる。振り返ると、そこには豪華な着物を身に纏い、宙に浮いた状態の山神が居た。相変わらず顔は布で覆い隠されていて全く見えない。


『レオ。お前の言い分もよく分かる。だが、現世の治安を守るのも私達妖の役目でもあるんじゃぞ』


そう…現世と呼ばれた人間の住むこの世界は、妖の住む世界である隠世との重要な「繋がり」だ。その為自分達は人間に危害を加えるつもりは全く無いし、そんな意地悪な奴はここ何十年も見ていない。


『そもそもお前達は幸福を運ぶ白虎じゃないか。ミオは良いとして、レオ…お前は一体何がそんなに不満なんだ』


呆れた様にそう言う神様に、自分は言うまいか言わまいか躊躇う。
いくら幸福を運ぶ白狐だからといって、本来は狐だ。その上、自分達は十数年単位で成長している為、まだまだ子供。この時期なのもあって、相手が困った顔を見るのが成長した狐より大変好きな悪戯狐なのだ。……なんて言える訳も無く、自分は沈黙する。


『……まぁ良い。これからも宜しく頼んだぞ、お前達』


何も聞かずにフッと煙と一緒に消えた山神。
ミオは『御意』と両腕を前に出しながら頭を下げる。自分も同じ様に俯いた後、パッと顔を上げ、さっさと菓子を口に頬張り、神社の外に出る。『何処に行くんじゃ?』と聞いてくるミオ。真っ赤な鳥居をくぐった後、彼の方へ振り返り手を振る。


『隠世に行ってくる』


____________
_____

隠世と現世には、境界線がある。その境界線を跨ぐ間、慣れていない者は呼吸困難に陥り、最悪の場合死に至る事もあるのだが、自分は何十年も行き来している為、子供ながらすっかり慣れていた。
山の中を一人歩き、目印の鳥居を潜った所で階段が現れる。鼻歌を歌いながら、久々に帰る我が家の様子を思い描く。暫く帰っていなかったが、此方側の世界はどうなっているんだろうと。そんな何気無い事を思い描いていたのだが…
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【本編完結】ポケットのなかの空

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:31

俺様王様の世話係

BL / 連載中 24h.ポイント:369pt お気に入り:26

拗れた大人たちの饗宴

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:14

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:125

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:226

【R18】🌔 闇夜の龍は銀月と戯れる

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:7

【壱】バケモノの供物

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:308

処理中です...