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碧に溶かして 本編
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家に帰った途端、俺は早速仔犬に水と食糧を与えた。
初めは躊躇していたものの、腹の虫を鳴らせた後勢いよく食いついた。見事な食いっぷりに思わず微笑を零していると、仔犬はふと視線を此方に向けたと同時にキョロキョロと辺りを見渡し、状況の把握に取り掛かった。
自分がどうしてこんな所に居るのか今更考えているのか、仔犬は目をパチクリさせている。
「お前の家は今日から此処だよ。俺が責任を持って世話をするから安心しろ」
仔犬はジッと此方を伺う様に見つめてくる。ボロボロで汚い身なりで自分より小さい存在なのに、どうしてこんなに存在感を感じさせるのだろうか。やはりあのオッドアイだろうか。澄んだ緑と金が俺の胸の内を覗いているみたいで少し緊張する。
「疑ってるのか?お前を飼う理由はきちんとあるぞ。お前の目を見た途端、側に置きたくなって…後はまぁ、寂し…」
自分の口から勝手に言葉が零れかけ、思わずグッと押し黙る。柄にも無い弱音を犬相手に吐きそうになる。そろそろ重症だな、と短い溜息を代わりに吐き、「これから宜しくな」と仔犬の背中を撫でてあげる。泥まみれのままの姿の仔犬をボーッと見ていたら、不意にぺろぺろと手の甲を舐めてくる。ポカンとした後、ケラケラ笑いながら「慰めてくれているのか」と撫で続ける。まさか本当に俺の言葉が分かるとか…まぁそんな事はあり得ないか。
所詮動物だ。
人間の言葉なんて分かりやしない。自嘲した笑みを浮かべた後「風呂に行くか」と仔犬を脇に抱えて立ち上がる。真っ黒でボロボロだった仔犬は本当に賢くて、洗っている最中に暴れる様な事は一切しなかった。しっかり汚れを洗い流し、ドライヤーで綺麗にセットして本来の姿を見て驚愕する。
ふわふわの栗色の毛並み。
短い両手足。
くりくりの大きな瞳。
此方をジッと覗く深緑と金のオッドアイ。
綺麗にして改めて見ると、仔犬というより何処かの貴族の様に思えた。何となく悔しさを感じ、ぐりぐりと撫でてやりながら皮肉めいた言葉を言う。
「お前、本当に綺麗だな。聞き分けも良いし、落ち着きもあるのに何で前の飼い主はお前を捨てたんだ?」
ソファに座り、高い高いをしながら天井に掲げた仔犬に問う。当然犬は首を傾げるだけで何も言わない。やっぱり俺の言葉が分かるのかなと失笑しながら「愚問だったな」と身体を起こす。
「折角だし名前も決めないとな。えーと…名前、名前は…」
太陽みたいに眩く、陽だまりの様に暖かい毛並み。撫でながらジーッと観察して「ヨウ」と呟いてみる。太陽の「陽」を取ってヨウ。
我ながら単純だが呼びやすいし良さげだ。仔犬は大きな目を更に大きくさせながら、ワンと一声吠えた。初めて聞いた元気そうな声はまるで賛同してくれるかの様に素直であった。可愛くて思わずギューッと強く抱き締めてしまう。
「じゃあヨウ。俺が今日からお前の主人だからな。宜しく」
仔犬はもう一声吠えると勢いよく胸の中に飛び込んできた。喜んでくれているのだろうか。胸の中がどんどん暖かくなる、初めての感情だ。
こうして、俺は仔犬と共同生活を始める事に決めた。まさかこの小さな毛玉みたいな動物が自分のこの先の人生を大きく変える原因になるとは知らずに。
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初めは躊躇していたものの、腹の虫を鳴らせた後勢いよく食いついた。見事な食いっぷりに思わず微笑を零していると、仔犬はふと視線を此方に向けたと同時にキョロキョロと辺りを見渡し、状況の把握に取り掛かった。
自分がどうしてこんな所に居るのか今更考えているのか、仔犬は目をパチクリさせている。
「お前の家は今日から此処だよ。俺が責任を持って世話をするから安心しろ」
仔犬はジッと此方を伺う様に見つめてくる。ボロボロで汚い身なりで自分より小さい存在なのに、どうしてこんなに存在感を感じさせるのだろうか。やはりあのオッドアイだろうか。澄んだ緑と金が俺の胸の内を覗いているみたいで少し緊張する。
「疑ってるのか?お前を飼う理由はきちんとあるぞ。お前の目を見た途端、側に置きたくなって…後はまぁ、寂し…」
自分の口から勝手に言葉が零れかけ、思わずグッと押し黙る。柄にも無い弱音を犬相手に吐きそうになる。そろそろ重症だな、と短い溜息を代わりに吐き、「これから宜しくな」と仔犬の背中を撫でてあげる。泥まみれのままの姿の仔犬をボーッと見ていたら、不意にぺろぺろと手の甲を舐めてくる。ポカンとした後、ケラケラ笑いながら「慰めてくれているのか」と撫で続ける。まさか本当に俺の言葉が分かるとか…まぁそんな事はあり得ないか。
所詮動物だ。
人間の言葉なんて分かりやしない。自嘲した笑みを浮かべた後「風呂に行くか」と仔犬を脇に抱えて立ち上がる。真っ黒でボロボロだった仔犬は本当に賢くて、洗っている最中に暴れる様な事は一切しなかった。しっかり汚れを洗い流し、ドライヤーで綺麗にセットして本来の姿を見て驚愕する。
ふわふわの栗色の毛並み。
短い両手足。
くりくりの大きな瞳。
此方をジッと覗く深緑と金のオッドアイ。
綺麗にして改めて見ると、仔犬というより何処かの貴族の様に思えた。何となく悔しさを感じ、ぐりぐりと撫でてやりながら皮肉めいた言葉を言う。
「お前、本当に綺麗だな。聞き分けも良いし、落ち着きもあるのに何で前の飼い主はお前を捨てたんだ?」
ソファに座り、高い高いをしながら天井に掲げた仔犬に問う。当然犬は首を傾げるだけで何も言わない。やっぱり俺の言葉が分かるのかなと失笑しながら「愚問だったな」と身体を起こす。
「折角だし名前も決めないとな。えーと…名前、名前は…」
太陽みたいに眩く、陽だまりの様に暖かい毛並み。撫でながらジーッと観察して「ヨウ」と呟いてみる。太陽の「陽」を取ってヨウ。
我ながら単純だが呼びやすいし良さげだ。仔犬は大きな目を更に大きくさせながら、ワンと一声吠えた。初めて聞いた元気そうな声はまるで賛同してくれるかの様に素直であった。可愛くて思わずギューッと強く抱き締めてしまう。
「じゃあヨウ。俺が今日からお前の主人だからな。宜しく」
仔犬はもう一声吠えると勢いよく胸の中に飛び込んできた。喜んでくれているのだろうか。胸の中がどんどん暖かくなる、初めての感情だ。
こうして、俺は仔犬と共同生活を始める事に決めた。まさかこの小さな毛玉みたいな動物が自分のこの先の人生を大きく変える原因になるとは知らずに。
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