<本編完結>転生巫女は腹黒宰相と狂い咲く

汐瀬うに

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巫女として

21.ただ1つの願い

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 嗚呼、さすがにやりすぎたか。

 意識は若干残っているものの、あぅ…ふぅ…と言葉にならない声を出しながら、いまだにヒクヒクと軽く痙攣している。齢15ほどの見た目の娘に、一回りほども違う自分がこんなにも心を乱され、苛め抜いてしまった。

 今更、本心から少し可哀そうになり、全身へ浄化の魔法をかけてやったあと、シーツでくるんでベッドへと運んだ。

 程よく鍛えられた腕の中で、シルクの柔らかなシーツに包まれた彼女は、ベッドの上についてもなぜか腕をほどかない。

 どうしたんだ、と声をかけると、巫女からは予想外の質問が返ってきた。

「ハイデル、様…っ私は、私が、こうして…巫女のお仕事をこなせば、貴方に捨てられることは、ありませんか…?」

 夕闇色の瞳から、真珠のように光る大粒の涙をぼろぼろと流しながら、自分を運んだ腕に縋ってくる。

 巫女の契約はほとんど永遠で、教皇と皇帝の立会いの下に解除を赦されたときにはじめて終わる。個人の判断で、巫女を捨てるなんて出来るはずがないというのに、この娘は何を不安がっているのだろう。

「この契約は、簡単に解除できるものじゃない。

 今は、お前だけが我々の巫女だ。」

 あまり執着のなかった自分を、ここまで変えたこの娘を簡単に手放すわけがないし、心外だという気持ちもあったが、彼女の右手を取って、信じて欲しいとばかりに、手の甲へ軽くキスを落とした。

 零した涙を両手で何度もぬぐったマリから、わかりました…と小さな声がする。

「もし、ハイデル様にとって、私の存在が邪魔になったり、誰か守るべき方ができたりしたら…その時は、どうか隠さずに、契約を解除すると、約束していただけませんか。」

 これから長く巫女を続けることになるのであれば、長く付き合っていた翔太に裏切られたのと同じように、一方的に終わるのだけは避けたかった。

 契約した流れが少し強引だったのは否めないが、この職に就いたのは自分だ。やると決めたからにはちゃんと全うする。はいつもそうだった。

 ただ、自分が誰かの代わりにされたり、二者択一で捨てられたりするのだけは嫌だった。せめて、自分の意志で離れたいと思った。

「いいだろう。巫女からの願いを聞き入れないわけにはいかない。

 その時は速やかに手配すると約束しよう。」

 なぜか別れに怯え、お願いをしてくるこの小動物が、彼にはもうたまらなく可愛く、庇護欲をそそられていた。
 その時が二人に訪れないように、今から少しずつ手をまわしておこうなどという考えを浮かべつつ、しなやかに伸びる髪の上から頭を軽く撫でると、もう休め、と声をかけてベッドを離れた。


 約束しようと言ってくれた。
 巫女として契約している間は、彼に身体を発かれるしかない自分でも、別れる条件をつけられたことにほっとした途端、急激な眠気に襲われた。

 泉のゴブレットの中では、ぽこぽこぽこ…と泡が出た後、ぐるぐると水が渦を巻き、魔力の指標とされた水位をほんの少しあげていた。




 一方、ハイデルはレオンの公室へとまたもや足を運んでいた。

「ハイデル。朝と晩と、お前に2度も会えるなんて珍しい。どうしたんだ」

 ジャケットの前のボタンは外され、ソファに座って紅茶を飲み、ずいぶんと寛いでいる様子だ。もうそろそろ自室へと戻るつもりだったのだろう。

「兄上、急な頼みで申し訳ないのですが、皇帝と巫女の謁見の場を、一刻も早く設けたいのです。

 お力添えをいただけませんか。」

 向かいに座る兄へ、体を前のめりにしながら話しかける。

「あぁ、そのことなら、明日の会議で話し合うつもりだが…どうした、お前らしくないな。

 もう巫女に惚れたか。」

 本気で女を好きになったことなどないと、時々金と引き換えに適当な相手を嬲るくらいがちょうどいいと言っていたのはどの口だったか。

「どうでしょう、割と気に入ってはいますがね。」

 まさかの返答に、ははっと声を出して笑ったレオンをよそに、ハイデルはメイドの淹れた紅茶を一口飲んで、言葉を続ける。

「謁見を早めたら、すぐに次の一般参賀の日程を決めて布令を出してください。

 巫女をお披露目することで国民の信仰心が高まれば、巫女が生み出す魔力も増えるようなので、早ければ早いほど、水量が安定します。」

 頭を軽く下げると、スッと立ち上がり退席する。

「あぁ、覚えておこう。」

 要件が済んだら、それでお終い。それ以上用事がないなら去れと言わんばかりに、手をひらひらと動かす仕草は兄弟の癖だったようで、ハイデルはその仕草を見てすぐ部屋を出た。
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