27 / 111
変化とお披露目
27.名前なんていらないから
しおりを挟む
太陽が出るより少し早く目を覚ますと、まだすやすやと眠るマリの頬に口付け、また来ると呟いて寝屋を後にした。
朝のうちに細かい仕事を終わらせ、謁見に間に合うように式典用の大礼服に着替えて寝屋へとやってきた頃には、マリの髪はシンプルに丸くカールし、ハーフアップ状態にセットされており、準備も大詰めに差し掛かっていた。
カタリナだけがマリをお世話できるため、あえて寝屋の二、三歩手前で歩みを止め、壁にもたれかかって様子を伺う。
謁見とお披露目に合わせたドレスが必要だとはいえ、既製品を持っているわけでもなく、仕立屋にマリを見せるわけにもいかず…仕方なくカタリナに必要な部分のサイズを測らせた。
サイズ表を元に、体のラインがわかるように作らせたオートクチュールのドレスは、たっぷりのチュールで包まれた、淡いシルバーのオフショルダーデザインだ。
胸元には銀糸で花の刺繍が縫い込まれ、オフショルダーの先にはふわっと広がったチュールたっぷりのティアドロップ型の袖。パニエを使わず、チュールの自然な膨らみだけで広がるスカートは、品よくふわりと風にそよぎ、妖精ニンフの再来をイメージさせるようだった。
巫女として付けられているチョーカーは、真っ白なフリルが案外ドレスに合っていたので、そのままつけておくことにした。
全てをセットし終えたカタリナは、マリの赤らめた耳を見て彼が迎えに来たのだと悟り、後ろを振り向く。
そのまま軽く会釈をして、そっと部屋を出た。
「それをつけていく判断をしたのか。いい子だ。」
「ふふっ、可愛くて気に入ってるんですよ、私。」
契約後すぐ、自分のものだと言わんばかりに鍵をかけたチョーカーを、外したがる素振りもなく過ごす巫女の、愛しさたるや。
ドレッサーに腰掛けていたマリの後ろから、いつもの3倍、いや5倍は麗しい宰相様がゆっくりと側へ寄る。
普段のジャケットよりも濃い、ほとんど黒に近いネイビーの礼服は、いつもと同じPコートのような形だが、肩には金のフリンジ、ウエストには同色のベルトが締められていて、胸元にいくつかの勲章らしき飾りも光っている。
「ハイデル様…あの、とてもお似合いです。」
「ふっ、それは僕が君に伝えるべき言葉だろう。」
ゆっくりと椅子をずらし、正面へ回った彼は、左手で頭をなでると、そのままその手を首筋へやり。
そのまま体をかがめて、マリの唇へ軽く口付けた。
まさか唇にキスされるなんて思ってもみなかったマリは、それに応えることもできず、真ん丸な瞳をさらに丸くしている。
「…………え?!」
彼女の、動揺が声に出てしまった、どうしよう!どうしたらいいの!という焦った顔。
東方の「鳩が豆鉄砲食らう」という言葉は、きっとこの状態だな、などと思いながら、つい、くっくっく…と笑いがこぼれる。
「こういう時は…え、じゃないだろう?」
ニヤリと笑みをこぼした宰相様は、口先で確認をしながらも、返答など待たない。
「…とても似合っていて、可愛いよ。」
2度目は軽いキスから、だんだんと唇をはむように、お互いの舌をとろりと絡め、ここで全てを食らってしまわんとばかりに、互いの熱を吸い取るような最高に猥らでいやらしいキス。
何度も角度を変え、どちらのものかもわからない唾液を交わし合う間に、ぐちゅ、ぐちゅ、と柔らかな水音が響く。
二人の仲には《巫女と契約者》という名の関係しかなかったはずが、何度もお互いを求め、応え合ううちに生まれた《別の感情》を、探り、確かめるように深く、長く、口付けていた。
まだ、名付けられていないけれど確かに芽生え始めたその感情を、二人は大事にしたいと思っていた。
同時に、まだ正式な言葉には、せずにいようとも思っていた。
今の二人の関係に別の名前がつけば、それを阻止しようとする人も、応援しようとする人も、きっといろいろ現れる。
長い口付けから唇が自然と離れると、厚い胸へゆっくりと抱き寄せられた。
耳元で、どっどっどっど…と早くなった自分の拍動が聞こえる。彼の腕の中で、胸に顔を寄せれば、彼の拍動も同じように早く脈打っていた。
マリは、ハイデルはきっとゴブレッドに魔力が満ちてこの国に巫女が必要なくなるまで、そういう面倒なことが起こるのは避けたいだろうな…それまでは、まずは巫女と契約者として、うまくやっていけたらいいななどと思いながら、彼の腰へ腕を回した。
実際のハイデルは、純粋に二人の関係を邪魔されるのが嫌だという気持ちで、二人を守るためならむしろなんだってするような性格なのだと、マリはこの日のうちに知ることになる。
朝のうちに細かい仕事を終わらせ、謁見に間に合うように式典用の大礼服に着替えて寝屋へとやってきた頃には、マリの髪はシンプルに丸くカールし、ハーフアップ状態にセットされており、準備も大詰めに差し掛かっていた。
カタリナだけがマリをお世話できるため、あえて寝屋の二、三歩手前で歩みを止め、壁にもたれかかって様子を伺う。
謁見とお披露目に合わせたドレスが必要だとはいえ、既製品を持っているわけでもなく、仕立屋にマリを見せるわけにもいかず…仕方なくカタリナに必要な部分のサイズを測らせた。
サイズ表を元に、体のラインがわかるように作らせたオートクチュールのドレスは、たっぷりのチュールで包まれた、淡いシルバーのオフショルダーデザインだ。
胸元には銀糸で花の刺繍が縫い込まれ、オフショルダーの先にはふわっと広がったチュールたっぷりのティアドロップ型の袖。パニエを使わず、チュールの自然な膨らみだけで広がるスカートは、品よくふわりと風にそよぎ、妖精ニンフの再来をイメージさせるようだった。
巫女として付けられているチョーカーは、真っ白なフリルが案外ドレスに合っていたので、そのままつけておくことにした。
全てをセットし終えたカタリナは、マリの赤らめた耳を見て彼が迎えに来たのだと悟り、後ろを振り向く。
そのまま軽く会釈をして、そっと部屋を出た。
「それをつけていく判断をしたのか。いい子だ。」
「ふふっ、可愛くて気に入ってるんですよ、私。」
契約後すぐ、自分のものだと言わんばかりに鍵をかけたチョーカーを、外したがる素振りもなく過ごす巫女の、愛しさたるや。
ドレッサーに腰掛けていたマリの後ろから、いつもの3倍、いや5倍は麗しい宰相様がゆっくりと側へ寄る。
普段のジャケットよりも濃い、ほとんど黒に近いネイビーの礼服は、いつもと同じPコートのような形だが、肩には金のフリンジ、ウエストには同色のベルトが締められていて、胸元にいくつかの勲章らしき飾りも光っている。
「ハイデル様…あの、とてもお似合いです。」
「ふっ、それは僕が君に伝えるべき言葉だろう。」
ゆっくりと椅子をずらし、正面へ回った彼は、左手で頭をなでると、そのままその手を首筋へやり。
そのまま体をかがめて、マリの唇へ軽く口付けた。
まさか唇にキスされるなんて思ってもみなかったマリは、それに応えることもできず、真ん丸な瞳をさらに丸くしている。
「…………え?!」
彼女の、動揺が声に出てしまった、どうしよう!どうしたらいいの!という焦った顔。
東方の「鳩が豆鉄砲食らう」という言葉は、きっとこの状態だな、などと思いながら、つい、くっくっく…と笑いがこぼれる。
「こういう時は…え、じゃないだろう?」
ニヤリと笑みをこぼした宰相様は、口先で確認をしながらも、返答など待たない。
「…とても似合っていて、可愛いよ。」
2度目は軽いキスから、だんだんと唇をはむように、お互いの舌をとろりと絡め、ここで全てを食らってしまわんとばかりに、互いの熱を吸い取るような最高に猥らでいやらしいキス。
何度も角度を変え、どちらのものかもわからない唾液を交わし合う間に、ぐちゅ、ぐちゅ、と柔らかな水音が響く。
二人の仲には《巫女と契約者》という名の関係しかなかったはずが、何度もお互いを求め、応え合ううちに生まれた《別の感情》を、探り、確かめるように深く、長く、口付けていた。
まだ、名付けられていないけれど確かに芽生え始めたその感情を、二人は大事にしたいと思っていた。
同時に、まだ正式な言葉には、せずにいようとも思っていた。
今の二人の関係に別の名前がつけば、それを阻止しようとする人も、応援しようとする人も、きっといろいろ現れる。
長い口付けから唇が自然と離れると、厚い胸へゆっくりと抱き寄せられた。
耳元で、どっどっどっど…と早くなった自分の拍動が聞こえる。彼の腕の中で、胸に顔を寄せれば、彼の拍動も同じように早く脈打っていた。
マリは、ハイデルはきっとゴブレッドに魔力が満ちてこの国に巫女が必要なくなるまで、そういう面倒なことが起こるのは避けたいだろうな…それまでは、まずは巫女と契約者として、うまくやっていけたらいいななどと思いながら、彼の腰へ腕を回した。
実際のハイデルは、純粋に二人の関係を邪魔されるのが嫌だという気持ちで、二人を守るためならむしろなんだってするような性格なのだと、マリはこの日のうちに知ることになる。
10
あなたにおすすめの小説
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
肩越しの青空
蒲公英
恋愛
「結婚しない? 絶対気が合うし、楽しいと思うよ」つきあってもいない男に、そんなこと言われましても。
身長差38センチ、体重はほぼ倍。食えない熊との攻防戦、あたしの明日はどっちだ。
思い込みの恋
秋月朔夕
恋愛
サッカー部のエースである葉山くんに告白された。けれどこれは罰ゲームでしょう。だって彼の友達二人が植え込みでコッチをニヤニヤしながら見ているのだから。
ムーンライトノベル にも掲載中。
おかげさまでムーンライトノベル では
2020年3月14日、2020年3月15日、日間ランキング1位。
2020年3月18日、週間ランキング1位。
2020年3月19日、週間ランキング1位。
一目惚れは、嘘でした?
谷川ざくろ
恋愛
代打で参加したお見合いで、「一目惚れです」とまさかのプロポーズをされた下級女官のシエラ・ハウエル。
相手は美しい公爵、アルフレッド・ベルーフィア。
疑わしく思いつつも、病気がちな弟の治療と領地への援助を提示され、婚約を結んだ。
一目惚れと言っていた通り溺愛されて相思相愛となり、幸せな結婚生活を送るシエラだったが、ある夜、夫となったアルフレッドの本音を聞いてしまう。
*ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
女公爵になるはずが、なぜこうなった?
薄荷ニキ
恋愛
「ご挨拶申し上げます。わたくしフェルマー公爵の長女、アメリアと申します」
男性優位が常識のラッセル王国で、女でありながら次期当主になる為に日々頑張るアメリア。
最近は可愛い妹カトレアを思い、彼女と王太子の仲を取り持とうと奮闘するが……
あれ? 夢に見た恋愛ゲームと何か違う?
ーーーーーーーーーーーーーー
※主人公は転生者ではありません。
完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。
にじくす まさしよ
恋愛
R18。合わないと思われた方はバックお願いします
結婚して3年。「子供はまだいいよね」と、夫と仲睦まじく暮らしていた。
ふたり以上の夫を持つこの国で、「愛する夫だけがいい」と、ふたり目以降の夫を持たなかった主人公。そんなある日、夫から外聞が悪いから新たな夫を迎えるよう説得され、父たちの命もあり、渋々二度目の結婚をすることに。
その3ヶ月後、一番目の夫からいきなり離婚を突きつけられ、着の身着のまま家を出された。
これは、愛する夫から裏切られ、幾ばくかの慰謝料もなく持参金も返してもらえなかった無一文ポジティブ主人公の、自由で気ままな物語。
俯瞰視点あり。
仕返しあり。シリアスはありますがヒロインが切り替えが早く前向きなので、あまり落ち込まないかと。ハッピーエンド。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる