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変化とお披露目
27.名前なんていらないから
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太陽が出るより少し早く目を覚ますと、まだすやすやと眠るマリの頬に口付け、また来ると呟いて寝屋を後にした。
朝のうちに細かい仕事を終わらせ、謁見に間に合うように式典用の大礼服に着替えて寝屋へとやってきた頃には、マリの髪はシンプルに丸くカールし、ハーフアップ状態にセットされており、準備も大詰めに差し掛かっていた。
カタリナだけがマリをお世話できるため、あえて寝屋の二、三歩手前で歩みを止め、壁にもたれかかって様子を伺う。
謁見とお披露目に合わせたドレスが必要だとはいえ、既製品を持っているわけでもなく、仕立屋にマリを見せるわけにもいかず…仕方なくカタリナに必要な部分のサイズを測らせた。
サイズ表を元に、体のラインがわかるように作らせたオートクチュールのドレスは、たっぷりのチュールで包まれた、淡いシルバーのオフショルダーデザインだ。
胸元には銀糸で花の刺繍が縫い込まれ、オフショルダーの先にはふわっと広がったチュールたっぷりのティアドロップ型の袖。パニエを使わず、チュールの自然な膨らみだけで広がるスカートは、品よくふわりと風にそよぎ、妖精ニンフの再来をイメージさせるようだった。
巫女として付けられているチョーカーは、真っ白なフリルが案外ドレスに合っていたので、そのままつけておくことにした。
全てをセットし終えたカタリナは、マリの赤らめた耳を見て彼が迎えに来たのだと悟り、後ろを振り向く。
そのまま軽く会釈をして、そっと部屋を出た。
「それをつけていく判断をしたのか。いい子だ。」
「ふふっ、可愛くて気に入ってるんですよ、私。」
契約後すぐ、自分のものだと言わんばかりに鍵をかけたチョーカーを、外したがる素振りもなく過ごす巫女の、愛しさたるや。
ドレッサーに腰掛けていたマリの後ろから、いつもの3倍、いや5倍は麗しい宰相様がゆっくりと側へ寄る。
普段のジャケットよりも濃い、ほとんど黒に近いネイビーの礼服は、いつもと同じPコートのような形だが、肩には金のフリンジ、ウエストには同色のベルトが締められていて、胸元にいくつかの勲章らしき飾りも光っている。
「ハイデル様…あの、とてもお似合いです。」
「ふっ、それは僕が君に伝えるべき言葉だろう。」
ゆっくりと椅子をずらし、正面へ回った彼は、左手で頭をなでると、そのままその手を首筋へやり。
そのまま体をかがめて、マリの唇へ軽く口付けた。
まさか唇にキスされるなんて思ってもみなかったマリは、それに応えることもできず、真ん丸な瞳をさらに丸くしている。
「…………え?!」
彼女の、動揺が声に出てしまった、どうしよう!どうしたらいいの!という焦った顔。
東方の「鳩が豆鉄砲食らう」という言葉は、きっとこの状態だな、などと思いながら、つい、くっくっく…と笑いがこぼれる。
「こういう時は…え、じゃないだろう?」
ニヤリと笑みをこぼした宰相様は、口先で確認をしながらも、返答など待たない。
「…とても似合っていて、可愛いよ。」
2度目は軽いキスから、だんだんと唇をはむように、お互いの舌をとろりと絡め、ここで全てを食らってしまわんとばかりに、互いの熱を吸い取るような最高に猥らでいやらしいキス。
何度も角度を変え、どちらのものかもわからない唾液を交わし合う間に、ぐちゅ、ぐちゅ、と柔らかな水音が響く。
二人の仲には《巫女と契約者》という名の関係しかなかったはずが、何度もお互いを求め、応え合ううちに生まれた《別の感情》を、探り、確かめるように深く、長く、口付けていた。
まだ、名付けられていないけれど確かに芽生え始めたその感情を、二人は大事にしたいと思っていた。
同時に、まだ正式な言葉には、せずにいようとも思っていた。
今の二人の関係に別の名前がつけば、それを阻止しようとする人も、応援しようとする人も、きっといろいろ現れる。
長い口付けから唇が自然と離れると、厚い胸へゆっくりと抱き寄せられた。
耳元で、どっどっどっど…と早くなった自分の拍動が聞こえる。彼の腕の中で、胸に顔を寄せれば、彼の拍動も同じように早く脈打っていた。
マリは、ハイデルはきっとゴブレッドに魔力が満ちてこの国に巫女が必要なくなるまで、そういう面倒なことが起こるのは避けたいだろうな…それまでは、まずは巫女と契約者として、うまくやっていけたらいいななどと思いながら、彼の腰へ腕を回した。
実際のハイデルは、純粋に二人の関係を邪魔されるのが嫌だという気持ちで、二人を守るためならむしろなんだってするような性格なのだと、マリはこの日のうちに知ることになる。
朝のうちに細かい仕事を終わらせ、謁見に間に合うように式典用の大礼服に着替えて寝屋へとやってきた頃には、マリの髪はシンプルに丸くカールし、ハーフアップ状態にセットされており、準備も大詰めに差し掛かっていた。
カタリナだけがマリをお世話できるため、あえて寝屋の二、三歩手前で歩みを止め、壁にもたれかかって様子を伺う。
謁見とお披露目に合わせたドレスが必要だとはいえ、既製品を持っているわけでもなく、仕立屋にマリを見せるわけにもいかず…仕方なくカタリナに必要な部分のサイズを測らせた。
サイズ表を元に、体のラインがわかるように作らせたオートクチュールのドレスは、たっぷりのチュールで包まれた、淡いシルバーのオフショルダーデザインだ。
胸元には銀糸で花の刺繍が縫い込まれ、オフショルダーの先にはふわっと広がったチュールたっぷりのティアドロップ型の袖。パニエを使わず、チュールの自然な膨らみだけで広がるスカートは、品よくふわりと風にそよぎ、妖精ニンフの再来をイメージさせるようだった。
巫女として付けられているチョーカーは、真っ白なフリルが案外ドレスに合っていたので、そのままつけておくことにした。
全てをセットし終えたカタリナは、マリの赤らめた耳を見て彼が迎えに来たのだと悟り、後ろを振り向く。
そのまま軽く会釈をして、そっと部屋を出た。
「それをつけていく判断をしたのか。いい子だ。」
「ふふっ、可愛くて気に入ってるんですよ、私。」
契約後すぐ、自分のものだと言わんばかりに鍵をかけたチョーカーを、外したがる素振りもなく過ごす巫女の、愛しさたるや。
ドレッサーに腰掛けていたマリの後ろから、いつもの3倍、いや5倍は麗しい宰相様がゆっくりと側へ寄る。
普段のジャケットよりも濃い、ほとんど黒に近いネイビーの礼服は、いつもと同じPコートのような形だが、肩には金のフリンジ、ウエストには同色のベルトが締められていて、胸元にいくつかの勲章らしき飾りも光っている。
「ハイデル様…あの、とてもお似合いです。」
「ふっ、それは僕が君に伝えるべき言葉だろう。」
ゆっくりと椅子をずらし、正面へ回った彼は、左手で頭をなでると、そのままその手を首筋へやり。
そのまま体をかがめて、マリの唇へ軽く口付けた。
まさか唇にキスされるなんて思ってもみなかったマリは、それに応えることもできず、真ん丸な瞳をさらに丸くしている。
「…………え?!」
彼女の、動揺が声に出てしまった、どうしよう!どうしたらいいの!という焦った顔。
東方の「鳩が豆鉄砲食らう」という言葉は、きっとこの状態だな、などと思いながら、つい、くっくっく…と笑いがこぼれる。
「こういう時は…え、じゃないだろう?」
ニヤリと笑みをこぼした宰相様は、口先で確認をしながらも、返答など待たない。
「…とても似合っていて、可愛いよ。」
2度目は軽いキスから、だんだんと唇をはむように、お互いの舌をとろりと絡め、ここで全てを食らってしまわんとばかりに、互いの熱を吸い取るような最高に猥らでいやらしいキス。
何度も角度を変え、どちらのものかもわからない唾液を交わし合う間に、ぐちゅ、ぐちゅ、と柔らかな水音が響く。
二人の仲には《巫女と契約者》という名の関係しかなかったはずが、何度もお互いを求め、応え合ううちに生まれた《別の感情》を、探り、確かめるように深く、長く、口付けていた。
まだ、名付けられていないけれど確かに芽生え始めたその感情を、二人は大事にしたいと思っていた。
同時に、まだ正式な言葉には、せずにいようとも思っていた。
今の二人の関係に別の名前がつけば、それを阻止しようとする人も、応援しようとする人も、きっといろいろ現れる。
長い口付けから唇が自然と離れると、厚い胸へゆっくりと抱き寄せられた。
耳元で、どっどっどっど…と早くなった自分の拍動が聞こえる。彼の腕の中で、胸に顔を寄せれば、彼の拍動も同じように早く脈打っていた。
マリは、ハイデルはきっとゴブレッドに魔力が満ちてこの国に巫女が必要なくなるまで、そういう面倒なことが起こるのは避けたいだろうな…それまでは、まずは巫女と契約者として、うまくやっていけたらいいななどと思いながら、彼の腰へ腕を回した。
実際のハイデルは、純粋に二人の関係を邪魔されるのが嫌だという気持ちで、二人を守るためならむしろなんだってするような性格なのだと、マリはこの日のうちに知ることになる。
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