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変化とお披露目
29.皇帝レオンはいつも豪快
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謁見の間は城内でも大きく作られた広間の一つで、皇帝の座は床よりも少し高い位置にある。
床、壁、天井とシャンデリア、そして玉座までが魔力の結晶でできており、外壁と同じように青白い光に包まれ、水中にいるかのように錯覚させる作りになっていた。
入口から皇帝の座までは赤いカーペットが一直線に敷かれ、これから謁見に来るものの道を示している。
入り口側から各地の城主、辺境伯、選帝侯、と順に爵位が上がり、皇帝の傍にいるのはレオンの妻のソフィアだ。
普段ならばその位置に近いところでスタンバイしているハイデル様が、今日は見当たらない。巫女の侯爵への謁見とだけ伝えられて集まった貴族たちは、謁見の間が開いた瞬間にハイデルが女性をエスコートしていることに驚き、大きなざわめきが生まれた。
「まさかハイデル様が契約者様なのか…」
「守護者が契約を交わしたなんて…聞いたことがない…」
「お二人はそういう関係だということか…」
「下世話な話をするな、これは伝統だ…」
沢山の雑音の中、侍従長が二人の名を読み上げると、ざわついていた貴族たちは静まり、カーペットの道へ向かって深々とカーテシーを行った。
「シュベルト帝国、宰相にして神殿の契約者、
ハイデル・ルイス・グリンデンベルグ公爵!
並びに、水の精霊の巫女、マリ殿!」
大丈夫と語りかけるように、右腕に添えられたマリの左手に、ハイデルの左手がぽん、と触れる。
カタリナに教わった通り、ハイデルの礼に合わせて最上位のカーテシーを深々と行う。ここからは、一歩ずつゆっくり進めばいい。
ドレスを踏まないように、彼のテンポに遅れないように、背筋を伸ばして、顎は引いて、肩を落として、後ろ重心で。聞いていたポイントを何度も頭の中で復唱しながら歩くカーペットは、実際はほんの数分だったというのに、二人で話しながら城まで歩いてきた階段よりも、とても長く感じられた。
皇帝陛下の顔を直視しないよう、改めて二人で深々と礼をすると、頭上からハイデルによく似た低く響く声が聞こえる。
「ハイデル、巫女殿、よく参った。二人も皆も、楽にしてよい。」
レオンが豪快にハハッと笑い声を上げた後、自分たちの背後で左右に並ぶ人々が、ゆっくりと面を上げたのがわかった。ハイデルの身体が動いたのを感じて、マリもゆっくりとお辞儀を解いた。
[皇帝陛下より先に話してはいけない、
言葉をさえぎってもいけない。
でも、返事をしないのも良くないんです!]
カタリナが人差し指を立てて、予備校の先生みたいに「マリ様、いいですか~!」と話していたのを思い出し、どうしよう…と焦っていると、隣でハイデルが退屈そうな顔で話し始める。
「カイザーレオン陛下に置かれましては、ますますご健勝のことと…「今日はそういうのはいい。ハイデル、早く彼女を紹介してくれ。」
折角、形式ぶった言葉を述べているというのに、豪快な兄は自分の言葉を遮るほど、マリのほうに興味津々だった。数週間かけて、自分がこんなにも育てたのだ、魅力的なのは仕方ないが…と思いながら、マリの背中に右手をあて、話してごらんと顔を向けて頷いた。
「っ…ひと月ほど前に、ハイデル様と契約を交わし、精霊の神殿にて、シュベルト帝国の巫女として、務めさせていただいております、マリと申します。」
ぺこりと改めて会釈をすると、レオンは口元にうっすらと映えた顎髭を触りながら話し出す。
「…なるほど、お前が、ハイデルが珍しく執心していた巫女か。
この国の為、我々国民の為、よろしく頼むよ。……あぁ、もちろん愚弟についてもな。」
もしもこれが漫画の一コマなら、あっはっは!という言葉が上に大きく書かれるような、見事なまでの笑い声。ハイデル様と顔の作りは似ているのに、こんなにも性格が違うのかと、フフッと少し笑みがこぼれる。
「私を前にしても怖気づくこともなく、笑みをこぼす余裕すらもある、か…。
気に入ったぞハイデル、よくやった。遅くなってしまったが、この場で我々はマリが巫女であることを承認し、歓迎しよう。
ようこそ、シュベルト帝国の中心、水晶城へ。」
定型文なのだろうか、さっきよりも少し硬い言葉で歓迎を宣言されると、ファンファーレが響き、大きな歓声と拍手が貴族たちから上がった。
床、壁、天井とシャンデリア、そして玉座までが魔力の結晶でできており、外壁と同じように青白い光に包まれ、水中にいるかのように錯覚させる作りになっていた。
入口から皇帝の座までは赤いカーペットが一直線に敷かれ、これから謁見に来るものの道を示している。
入り口側から各地の城主、辺境伯、選帝侯、と順に爵位が上がり、皇帝の傍にいるのはレオンの妻のソフィアだ。
普段ならばその位置に近いところでスタンバイしているハイデル様が、今日は見当たらない。巫女の侯爵への謁見とだけ伝えられて集まった貴族たちは、謁見の間が開いた瞬間にハイデルが女性をエスコートしていることに驚き、大きなざわめきが生まれた。
「まさかハイデル様が契約者様なのか…」
「守護者が契約を交わしたなんて…聞いたことがない…」
「お二人はそういう関係だということか…」
「下世話な話をするな、これは伝統だ…」
沢山の雑音の中、侍従長が二人の名を読み上げると、ざわついていた貴族たちは静まり、カーペットの道へ向かって深々とカーテシーを行った。
「シュベルト帝国、宰相にして神殿の契約者、
ハイデル・ルイス・グリンデンベルグ公爵!
並びに、水の精霊の巫女、マリ殿!」
大丈夫と語りかけるように、右腕に添えられたマリの左手に、ハイデルの左手がぽん、と触れる。
カタリナに教わった通り、ハイデルの礼に合わせて最上位のカーテシーを深々と行う。ここからは、一歩ずつゆっくり進めばいい。
ドレスを踏まないように、彼のテンポに遅れないように、背筋を伸ばして、顎は引いて、肩を落として、後ろ重心で。聞いていたポイントを何度も頭の中で復唱しながら歩くカーペットは、実際はほんの数分だったというのに、二人で話しながら城まで歩いてきた階段よりも、とても長く感じられた。
皇帝陛下の顔を直視しないよう、改めて二人で深々と礼をすると、頭上からハイデルによく似た低く響く声が聞こえる。
「ハイデル、巫女殿、よく参った。二人も皆も、楽にしてよい。」
レオンが豪快にハハッと笑い声を上げた後、自分たちの背後で左右に並ぶ人々が、ゆっくりと面を上げたのがわかった。ハイデルの身体が動いたのを感じて、マリもゆっくりとお辞儀を解いた。
[皇帝陛下より先に話してはいけない、
言葉をさえぎってもいけない。
でも、返事をしないのも良くないんです!]
カタリナが人差し指を立てて、予備校の先生みたいに「マリ様、いいですか~!」と話していたのを思い出し、どうしよう…と焦っていると、隣でハイデルが退屈そうな顔で話し始める。
「カイザーレオン陛下に置かれましては、ますますご健勝のことと…「今日はそういうのはいい。ハイデル、早く彼女を紹介してくれ。」
折角、形式ぶった言葉を述べているというのに、豪快な兄は自分の言葉を遮るほど、マリのほうに興味津々だった。数週間かけて、自分がこんなにも育てたのだ、魅力的なのは仕方ないが…と思いながら、マリの背中に右手をあて、話してごらんと顔を向けて頷いた。
「っ…ひと月ほど前に、ハイデル様と契約を交わし、精霊の神殿にて、シュベルト帝国の巫女として、務めさせていただいております、マリと申します。」
ぺこりと改めて会釈をすると、レオンは口元にうっすらと映えた顎髭を触りながら話し出す。
「…なるほど、お前が、ハイデルが珍しく執心していた巫女か。
この国の為、我々国民の為、よろしく頼むよ。……あぁ、もちろん愚弟についてもな。」
もしもこれが漫画の一コマなら、あっはっは!という言葉が上に大きく書かれるような、見事なまでの笑い声。ハイデル様と顔の作りは似ているのに、こんなにも性格が違うのかと、フフッと少し笑みがこぼれる。
「私を前にしても怖気づくこともなく、笑みをこぼす余裕すらもある、か…。
気に入ったぞハイデル、よくやった。遅くなってしまったが、この場で我々はマリが巫女であることを承認し、歓迎しよう。
ようこそ、シュベルト帝国の中心、水晶城へ。」
定型文なのだろうか、さっきよりも少し硬い言葉で歓迎を宣言されると、ファンファーレが響き、大きな歓声と拍手が貴族たちから上がった。
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