<本編完結>転生巫女は腹黒宰相と狂い咲く

汐瀬うに

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物流拠点ノイブラの旅

55.道中も二人で

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 まるで可愛い妹をあやすかのように、丁寧に歩くアキレスのおかげで、マリは4半刻(約30分)ほどで常歩の乗り方をほぼ完璧に覚えた。感謝を伝えるたびに、鼻息をたて、ドヤ顔のように軽くこちらを振り返って目を細めるアキレスが、今は素敵な王子様に見えて仕方ない。

「ハイド様、アキレスって本当に賢いんですね。」
「あぁ、こいつはうちの城にいる馬の中でも、飛び抜けて賢いし、いい根性をしている。
 記憶力もかなり高いから、もうマリのことを忘れたりはしないだろうな。」

 たてがみの横をポンポンと叩くと、その通りです。と言いたげに、アキレスの足は少し駆け足のようになった。そのまま、速足はやあしとよばれる乗り方も、ハイデルに教えてもらう。

 お尻をベタっとつけるのではなく、背筋を伸ばして少し前傾姿勢になり、アキレスの右前脚が出た時に膝を伸ばして軽く立ち、左前脚が出た時にお尻の先─坐骨の一部─をほんの少しアキレスの背中に乗せるように座る、というのが速歩での乗り方らしい。

 1、2、1、2、とリズムを刻むと、それに合わせてアキレスが歩く。顔をピンと前にあげて、どうよとばかりに右足、左足、右足、と歩く姿は少しコミカルにも見える。

「アキレスって、ほんと素敵な馬ですね。私、大好き。」
「お役目交代のタイミングで、ニンジンやりながらでも直接言ってやってくれ。
きっと喜ぶぞ。」

 低木に囲まれた細い砂利道を、アキレスの速歩でさくさくと進む。ほとんど障害物のないこの道は、予想よりもはるかに早く目的地まで運んでくれた。道の少し先が二股になっており、木製の立て看板が立っている。「●騎士団宿舎・馬宿前」と書かれた板の下に、左を指した板が打ち付けられていて、「この先直進 ノイブラ」と書かれていた。

 立て看板から30mほど離れた先に、騎士団宿舎という言葉の厳つさに似合わない、白い塗り壁にレンガ屋根、壁にツタの這った可愛らしい建物が二軒並んで建てられているのが見える。

「ヴェルヌを守っている騎士団の拠点だ。アキレスとはここで別れて、別の馬に乗り換える。」
「ずいぶんと、可愛らしい建物なんですね。」
「ん?あぁ、ここはもともと騎士団の建物として建てられたものではなくてな。
 たまたま馬屋のある民家が空き家になったんで、それを国で買い取って騎士団で修繕しながら使っているんだ。
 まあ、家屋だけじゃない。この国は工芸品や…家具なんかもそうだ。少しずつ形を変えながら使われて、壊れるまでの間には何度も持ち主が変わる。

大切にするとは、そういうものだろう。」

 日本でいうところの古民家再生的な、そういうプロジェクトなんだろうかと思ったけれど、そうではないみたい。日本では、ファストファッションが流行ったりして、そういう文化って最近発達してきたものというイメージだったけれど、この国ではこれが当たり前なんだなと痛感する。

 一つのものを大切にするという気持ちは、ここに来るまで自分から少し遠ざかっていたような気がして、なんだか恥ずかしくなって心の中で反省をした。

 会話をしながら先に馬を降りたハイデルに手を差し出され、マリもすぐにアキレスの背中から降ろされた。

「アキレス、貴方って本当に素敵。
ここまでこんなに早く連れてきてくれて、どうもありがとう。」

 耳を立てているアキレスにゆっくりと近付いて、手の甲を鼻先にあてる。マリの匂いで、ここまで運んできた子だと直ぐに理解し、アキレスは耳を横に倒し、目を細めた。首元に優しく触れ、ハイデルのカバンから取り出したニンジンを取り出すと、嬉しそうにかじりつく。

 舌が指に触れてくすぐったく、思わず肩をすくめてふふふと笑ってしまった。

「マリ、すぐに鞍を載せ替えてまた移動する。少し休憩して水を取るといい。」

 すぐそこだから、と井戸を案内され、冷たい水で手を洗う。季節はまだ2月、日差しは暖かいが水はとても冷たい。手と口をゆすぎ、ハンカチで拭う。新しく水を汲んだ釣瓶から水をすくって飲むと、日差しで暖かくなった身体に染み渡るような冷たさだった。

 今度の馬は、ハルジオンという雌馬だった。アキレスと同じくらいの背格好だけれど、お尻がしっかりとした栗毛の馬で、黒いまつげがぱっちりと長く、黒い鬣をなびかせている。手の甲を鼻の先に近付け、初めましてと挨拶をすると、ブルルン!と鼻息を立て、鬣を大きく振った。

「だいぶやる気になっているようだな。早速だけど、よろしく頼むよ。」

 ハイデルが首元を撫で、背中をトントンとした後、それぞれ背中に乗せてもらう。騎士団の宿舎で休んでいた数人の騎士たちに手を振られ、最初は常歩で、すぐに速歩になって、先を急いだ。

「これ以上飛ばすと君の体力も削られていくし、案外早く着きそうだから、しばらくはこのペースで進もう。」

 彼の気遣いが嬉しくて、はい!と答えると、ハルジオンもヒヒン!と返事をする。二人は時々景色や天気の話をしながら、次の衛兵詰所まで約1刻半の距離を駆けて行った。
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