<本編完結>転生巫女は腹黒宰相と狂い咲く

汐瀬うに

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壮途に就く

102.進む者の足跡は必ず残る

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 この要求は、2人で今朝がた話し合って決めたものだった。

 ハイデルからは「彼らは退位だって軽いくらいだけれど。」と言われたが、マリの心は今すぐ退位して欲しいと願っていたわけじゃなく、うまく言葉にするのには少々時間がかかった。

 この国での奴隷や身分に対する考え、扱い方が嫌だと思ったこと、自分の居た国には世界で唯一軍隊がなかったこと、貴族や平民という考えはなく個々が己の好む道に進めること…。美しいテラスでハイデルとの朝食の間に色々と話しているうちにまとまった要求が、軍制度の撤廃と奴隷制度の廃止だった。

 クリストバルは終始苦笑いをしていたが、その苦笑いにハイデルがまた怒りを溜めているのに気付いたのか、別れのタイミングでは「鋭意行います。」と誓っていた。立場が逆転しているようでなんだか少し面白くも感じられた。それでも彼らを許す気は到底なかったけれど。


 馬車でハイデルの過去の話が出た時に、思い出はどうやって保存するのかと聞いたら、貴族の場合は肖像画や風景画を描いてもらうと聞いたので、マリは写真の話をそっと胸にしまっておくことにした。

 馬車で半日かけてシュベルトへ向かう道の間、ふたりはこの三年間の時間を埋めるように話をし続けた。時折車酔いのように疲れて外を見たり、ほんの少しうとうとしたりもしたけれど、明るい時間は外の景色を見ながら話すのがとても楽しかった。

「そういえばハイド様。
 どうして髪、切られたんですか?頑張って髪紐作ったのに。」

 冗談交じりに頬を膨らませると、親指と人差し指で頬を押しつぶされる。

「君を思い出すために使ったんだ、許しておくれ。
 髪なんてすぐにまた伸びるさ。」

 申し訳なさそうに俯き、さっぱりとした襟足を触って確かめるハイデルが可愛く思える。

「思い出すため…?
 私を忘れちゃってるのに、私を思い出すために使ったんですか?」

 どうやったらそういう状況になるのか、全く想像ができない。むむむと悩んでいると、向かいに座っていたハイデルはそっとマリ横へ座り直して、抱きしめるように腕の中に包み込むと、ポツリと話し出した。

「君を忘れてからしばらくして…エカードへ行く日程が決まってからだったかな。紺色の長い髪の少女が出てくる夢を見るようになったんだ。

 しかも、夢の中でははっきりと君の名前を呼んだり、出かけたりするのに、目覚めると大抵すべてを忘れてしまっていて、記憶に靄がかかったように、何も思い出せない。それは明らかに怪しいはずなのに、何者かに操作されているように、その夢の記憶だけが曖昧になるんだ。

 それがあまりに不思議で、カタリナとその話をしたらカタリナまで同じ夢を見ているというから、さらに不審に思ってね。どこかに答えがないかと、城中の書物や棚、絵画、いろんなものを見て回った。

 そして、精霊の神殿で、君と僕の名前を見つけたんだ。ゴブレットに名前が刻まれるのは、正式に契約をした時だけだ。それなのに、僕の記憶にマリという娘はいなかった。

 直感的に、絶対にこれだと思ったよ。

 それからは簡単で、泉の水はゴブレットを通じて流れる分、魔力を孕んでいるから、この魔力と僕の魔力を練り上げれば君の事を知れるんじゃないかと思って…泉に僕の髪を束ごと喰わせて、建物と泉に残る君の記憶を全て吸い上げた。」

 今君の髪が真っ白なのも、もしかしたらニンフに関係があるかもね、と笑いながら、ハイデルはマリの美しい髪を掬って月に透かし、さらりと流した。

「だからもう、僕は何も迷わない。
 あの最初の日からの、全ての瞬間の君を覚えている。
 君のいない日々に比べたら、僕の髪なんてちっとも惜しくない。」

 エカードで再会してからもう何度も彼に触れ、抱きしめられているのに、それでもふとした瞬間にキスしたり、抱きしめたりしたくなるのは、どうしてだろう。肩に寄せるようにして頭を撫でられると、心が落ち着くし、とても安心する。ハイデルの腕の中こそが自分の居場所そのものなんだと思えた。
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