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その2
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そしてその日の夜。
「場所はここであってるよね?」
スマホ片手に指定された雑居ビルの前に一人佇むリホ。
大勢の人で賑わう繁華街から少し路地を入ったところに立つ雑居ビル。
以前はライブハウスだったのだろうか。今は看板も無く、地下に続く薄暗い階段だけがあり、少し不気味な雰囲気ではある。
「ここでこうしててもしょうがないし、とりあえず行ってみよう」
恐る恐る階段を進むリホ。降りた先には防音仕様なのだろう、重厚な扉があった。
「こんばんは……」
扉の先にあった受付は無人である。
「失礼します……」
恐る恐る声をかけると奥からバタバタと番組ADと思われる男性がやってきた。
「お待たせしてすみません……今日ご協力いただけるエキストラの方ですよね?」
ボサボサの長髪に度のきつい眼鏡、そして帽子を目深にかむり、マスクをしたAD。
その声もガラガラのしわがれ声。
「すみません。風邪にかかってしまいまして……聞き取りにくかったらおっしゃって下さい。早速ですが台本には目を通していただいてますか?」
「はい。収録の流れは概ね把握してます」
「よかった。それでは手短に。この先の部屋で撮影を行います。部屋の中は通常のカラオケボックスの様な形になっております。モニターから番組のキャラクターが話しかけてきますので、簡単に会話をお願いします」
「わっ……わかりました」
「撮影は無人の固定カメラで行います。入室されたシーンから撮影しますので、よろしくお願いします」
時間が惜しいのか、矢継ぎ早に説明をされる。しかしながら事前にメールで送られてきた台本に詳細が書いてあったため、何とか話を理解するリホ。
「そうそう、こちらの出演許諾書にサインをお願いします」
手渡された書類にサインしいよいよ本番。
「では準備はいいでしょうか?」
「はい!頑張ります!」
「カラオケチャレンジ ヘ ヨウコソ!」
部屋に入ると番組のマスコットキャラであろう、CGキャラが合成音声で親しげに話しかけてきた。
「こんにちは……」
少し緊張した面持ちで挨拶をするリホ。
「オネーサン ハ フダンナニヤッテルノ?」
「えっと……学生です」
「ガクセイサンカー カラオケ ハ ヨクイクノ?」
「友達とたまに……」
そんな些細なやり取りを挟んでいよいよチャレンジが始まる。
「ソレデハ チャレンジ スタート!」
イントロが流れ、マイクを持つ手に力が入る。
「貴方が~♪」
アイドルを思わす可愛い歌声が室内に響き渡る。
最も得意な曲で挑戦したが、普段とは違う緊張感で若干ミスが出たかもしれない。
しかし全力で最後まで歌い切ったリホ。
モニターに表示される採点結果を待つ。
「タダイマノ トクテンハ?」
92点!
「オシカッタ デスネ」
「はい でも楽しかったです!」
「オネーサン ジョウズダシ カワイイカラ トクベツ ルールデ チャレンジ シマセンカ?」
「えっと……」
台本には無い突然の展開に戸惑いの表情を浮かべるリホ。
新ルールはこうだ。
1、ジャンルはJPOPだが曲はランダム
1、クリア点数は90点
1、賞金は90万円
1、1曲毎にクリア点数は10点下がる
1、1曲毎に賞金は10万円下がる
1、曲中に妨害あり
1、クリアするまで帰れません
最後の2つが気になるが、知らない曲でどんなに下手に歌っても50点は取れそうなので50万円は獲得出来そうである。
「はい チャレンジします!」
「ワカリマシタ ソレデハ シンルールデ チャレンジ サイカイデス」
イントロが流れ曲名が表示される。
「良かった!歌った事ある!」
少し昔に流行ったアイドルソングだ。
先程は92点。得意曲では無いが比較的簡単な曲なので上手くいけばクリア出来るかもしれない。
緊張もほぐれ順調に歌い進める。そんな最中……
「プシュー」
「ひゃん!」
突然うなじに息を吹きかけたれた感覚が走り、音程を外してしまったリホ。振り向くと壁からパイプのようなものが出ており、そこからうなじ目掛けて空気が噴出しているらしい。
(これが妨害って話ね……)
「プシュー…………プシュー」
姿勢を変えても的確にうなじを狙ってくる。しかも絶妙なタイミングで。
それでもなんとか落ち着きを取り戻し、なんとか歌い進める。
「プシュッ!」
「んんっ……」
今度は耳元に吹きかけられる。うなじは意識していたが、予想外の方向から吹きかけられた風に、またもやミスをしてしまった。
(こ……このぉ……)
その後も執拗に、そして絶妙なタイミングで吹きかけられる妨害に苦戦しながら、なんとか歌い終わる。
「デハ サイテンデス……87テン! マタモヤ オシイ」
「あはは……」
何とも言えない表情と乾いた笑いで対応するリホ。
「場所はここであってるよね?」
スマホ片手に指定された雑居ビルの前に一人佇むリホ。
大勢の人で賑わう繁華街から少し路地を入ったところに立つ雑居ビル。
以前はライブハウスだったのだろうか。今は看板も無く、地下に続く薄暗い階段だけがあり、少し不気味な雰囲気ではある。
「ここでこうしててもしょうがないし、とりあえず行ってみよう」
恐る恐る階段を進むリホ。降りた先には防音仕様なのだろう、重厚な扉があった。
「こんばんは……」
扉の先にあった受付は無人である。
「失礼します……」
恐る恐る声をかけると奥からバタバタと番組ADと思われる男性がやってきた。
「お待たせしてすみません……今日ご協力いただけるエキストラの方ですよね?」
ボサボサの長髪に度のきつい眼鏡、そして帽子を目深にかむり、マスクをしたAD。
その声もガラガラのしわがれ声。
「すみません。風邪にかかってしまいまして……聞き取りにくかったらおっしゃって下さい。早速ですが台本には目を通していただいてますか?」
「はい。収録の流れは概ね把握してます」
「よかった。それでは手短に。この先の部屋で撮影を行います。部屋の中は通常のカラオケボックスの様な形になっております。モニターから番組のキャラクターが話しかけてきますので、簡単に会話をお願いします」
「わっ……わかりました」
「撮影は無人の固定カメラで行います。入室されたシーンから撮影しますので、よろしくお願いします」
時間が惜しいのか、矢継ぎ早に説明をされる。しかしながら事前にメールで送られてきた台本に詳細が書いてあったため、何とか話を理解するリホ。
「そうそう、こちらの出演許諾書にサインをお願いします」
手渡された書類にサインしいよいよ本番。
「では準備はいいでしょうか?」
「はい!頑張ります!」
「カラオケチャレンジ ヘ ヨウコソ!」
部屋に入ると番組のマスコットキャラであろう、CGキャラが合成音声で親しげに話しかけてきた。
「こんにちは……」
少し緊張した面持ちで挨拶をするリホ。
「オネーサン ハ フダンナニヤッテルノ?」
「えっと……学生です」
「ガクセイサンカー カラオケ ハ ヨクイクノ?」
「友達とたまに……」
そんな些細なやり取りを挟んでいよいよチャレンジが始まる。
「ソレデハ チャレンジ スタート!」
イントロが流れ、マイクを持つ手に力が入る。
「貴方が~♪」
アイドルを思わす可愛い歌声が室内に響き渡る。
最も得意な曲で挑戦したが、普段とは違う緊張感で若干ミスが出たかもしれない。
しかし全力で最後まで歌い切ったリホ。
モニターに表示される採点結果を待つ。
「タダイマノ トクテンハ?」
92点!
「オシカッタ デスネ」
「はい でも楽しかったです!」
「オネーサン ジョウズダシ カワイイカラ トクベツ ルールデ チャレンジ シマセンカ?」
「えっと……」
台本には無い突然の展開に戸惑いの表情を浮かべるリホ。
新ルールはこうだ。
1、ジャンルはJPOPだが曲はランダム
1、クリア点数は90点
1、賞金は90万円
1、1曲毎にクリア点数は10点下がる
1、1曲毎に賞金は10万円下がる
1、曲中に妨害あり
1、クリアするまで帰れません
最後の2つが気になるが、知らない曲でどんなに下手に歌っても50点は取れそうなので50万円は獲得出来そうである。
「はい チャレンジします!」
「ワカリマシタ ソレデハ シンルールデ チャレンジ サイカイデス」
イントロが流れ曲名が表示される。
「良かった!歌った事ある!」
少し昔に流行ったアイドルソングだ。
先程は92点。得意曲では無いが比較的簡単な曲なので上手くいけばクリア出来るかもしれない。
緊張もほぐれ順調に歌い進める。そんな最中……
「プシュー」
「ひゃん!」
突然うなじに息を吹きかけたれた感覚が走り、音程を外してしまったリホ。振り向くと壁からパイプのようなものが出ており、そこからうなじ目掛けて空気が噴出しているらしい。
(これが妨害って話ね……)
「プシュー…………プシュー」
姿勢を変えても的確にうなじを狙ってくる。しかも絶妙なタイミングで。
それでもなんとか落ち着きを取り戻し、なんとか歌い進める。
「プシュッ!」
「んんっ……」
今度は耳元に吹きかけられる。うなじは意識していたが、予想外の方向から吹きかけられた風に、またもやミスをしてしまった。
(こ……このぉ……)
その後も執拗に、そして絶妙なタイミングで吹きかけられる妨害に苦戦しながら、なんとか歌い終わる。
「デハ サイテンデス……87テン! マタモヤ オシイ」
「あはは……」
何とも言えない表情と乾いた笑いで対応するリホ。
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