別に弱くはない

ぷんすけ

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1章 シーム村

#3 変わったよ

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「ビリーどうしたの?急に」
 ビリーはここ1週間ほど剣の素振りを毎日毎日、俺よりも多く素振りをしていた。
 隣で一緒に素振りをしようとすると少し嫌な顔をされるので見ているだけにしている。
 ここ最近では遅くまで1人で素振りを止めないビリーをいつも遅くならない内に止めている。

「ねぇ?一緒に練習しようよ」
「.........」
 それでもビリーは返事をせず素振りを続けている。

「何か俺した?ほらっ魔法とかなら俺教えられるし素振りだって一緒に」

「別に?ただ強くなりたいだけ」
 やっと返事が帰って来たと思ったら最初の質問に戻る。
 けど、俺は素振りをしている理由じゃ無くて、ここ最近怒っている理由が知りたいのに。

「強く?」
「双子のなのに兄弟だからって弟の方が弱いって……それが嫌なだけだよ」
 
「だからって急に……俺何か嫌な事した?」
「別に」

「なら一緒に!」
「俺と勝負してよ。剣術で」

「模擬戦って事?もちろん」
 たった1週間素振りを頑張っただけじゃ流石に強くなれない。
 俺が強くしてやるから。

「うしっ!ちょっと待ってね」
 軽く準備運動をして木剣を構える。

「じゃあかかって来てイイよー」
「わぁーー!!!」
 ビリーは木剣を上に構え襲いかかって来る。
 隙の大きな構えからの剣技だった。

 俺は木剣を構え、ビリーが剣を振り降ろす前にお腹目掛けて剣を切りかける。
 もちろん痛みの無いように軽く当てる程度に。

「上から振り下ろすのがバレバレだよ」
 後ろに倒れかかったビリーの方へ振り返り、また木剣を向ける
「まだまだ」
 ビリーは直ぐに立ち上がり向かってくる。

 今度は両手で構え向かってくる。
 ギリギリまで自分の振りかぶる動作を見せず向かってくる。
 ボッ!
 そんなビリーが放ったのは突きだった。

 ビリーの突きを自分の木剣の樋で防ぎ押し倒す。
 ビリーは後ろに倒れるが直ぐに立ち上がり木剣を振る。

 倒れては直ぐに立ち上がり向かってくる。
 直ぐに立ち上がる。

 直ぐに。

 何度も何度も。

 向かってくる。

 気が付けばビリーの姿はボロボロに。
「……まだ、来るの?」

 最初はアドバイスこそしたが、ビリーの顔を、目を見るとどうしても怯んでしまう。
 それでもビリーは向かってくる。

 降り掛かって来た木剣を防ぎ隙のできたお腹に蹴りを入れる。
「ゔぇっ!!」
「ご、ごめん!」
 みぞおちに入ってしまいビリーはすぐには立ち上がれずに蹲る。
 何度も立ち上がるビリーを少し止めるつもりが初めてビリーに暴力を振るってしまった。

「ビリーは、ビリーは俺の事が嫌いなの?」
 倒れているビリーに向けて。

 この時、いやこれまでビリビはビリーが見下されているという事に気付いていない。
 ビリビはまだ7歳の子供なのだから。
 人生経験の少ない、挫折のした事の無い、嫉妬のした事の無い、常に兄に比べられて生きている子の気持ちを知る事なんてまだできないのだから。

「もう帰ろう」
 俺はビリーが立ち上がるの待つ。
 けど、ビリーは時間を掛けて立ち上がったと思ったらまた木剣を構える。

「もうお腹も減ったし流石に疲れたよ」
 フラつきながらもビリーは向かってくる。
 手に力が全然入っていない事が直ぐに分かる。

 そこまでして俺に当たりたいのか?
 そこまでして俺が。
 持っていた木剣を下に落とす。

 ビリーが振りかぶるのを辞める。
 木剣を落とすのが早かったのか?
 それとも木剣を構えて突っ立っていれば良かったのか?

 多分心の底でビリーを舐めているのかもしれない。
 それがずっとバレていたのかもしれない。
 そして今、哀れんだのがバレて自分が馬鹿にされたと思ってしまったのかもしれない。

 ビリーはフラフラしながらも俺の後ろを通って家に帰って行った。

 変わったよビリー。
 この前の学校での模擬戦の時の方が強かった。
 素振りは沢山してたみたいだけど動き方がまるで素人だった。

 けど知らない内に変わってたのは俺かもしれない。
 いつの間にかビリーの事を俺が俺がって考える様になっていたんだな。

 俺は少し夜の風に当たる。

 ビリーと一緒にならない様にゆっくり帰った。

なかったな」
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