別に弱くはない

1章 シーム村

#4 お兄ちゃん

「ビリビ！」
　バシッ！
　とっくに日の沈んだ夜、家に帰るとその日初めてお母さんに叩かれた。

「痛っ」
　まさか叩かれると思わなかった。
　けど、直ぐに理由なら分かった。

　別に帰りが遅くなった事じゃ無い。
　多分ビリーがボロボロで帰って来たのに対して俺1人で何も変わらずに帰って来てからだろう。

「何してたの！アナタお兄ちゃんなんだからビリーを守ってあげなきゃ」
　守ってあげなきゃ？
　双子なのに、ほんの少し早く生まれただけなのに……何でこうも違うんだろう。

　俺が弟だったらビリーがしっかりしていて、お兄ちゃんだから剣術を頑張って魔力だってビリーの方が多くて色々な魔法も使って。

　そしたら今のビリーの気持ちが分かるんじゃ無いかな？

「ごめん、なさい……」
　謝る事しか出来なかった。
　多分ビリーに謝っても嫌われるだけだ。
　だから代わりにお母さんに謝罪するしかなかった。

「ビ、ビリビ？ごめんなさい話も聞かずに。何かあったのよね？」
　何が、どっから、どうすれば良かったかなんて分かんない。
「分かんないよ」

「2人が喧嘩したと思い込んじゃったのビリビがビリーに手を出すなんて、喧嘩だってした事ないのに」
　喧嘩なんてする理由が無かったから。
　おやつだって2人で十分だし2人なら遊びにも困らない。

　ビリーがただ俺の言う事を聞いてくれてただけ。
　ビリーがただ聞き分けが良かっただけ。

「きっと学校で何かあったのよね？ビリビはあの子を助けようとしてくれたのよね？」
「違うよ」

「じゃあビリーが村から出たのねそれで魔物に襲われたのね？」
「俺がやったんだよ」

「………」
「それに流石に魔物が出たら俺だって何にもできないよ」

「………」
「ごめん。どうしたら良いか分かんない」
　少しでも歳が離れてたら違ったのかな？
　今後どうすれば良いかなんて。

「だからお前は王都で魔法を学べば良いんだ」
　現れたのはお父さんだった。

「お前はアイツとは違う！お前には才能があるんだ！」
「なんだよそれ！ビリーは──」
「今まで気付いて無かったのはお前だけだぞ。あいつはずっとお前を妬んで嫉妬してたんだ。
　あいつはこの村に残って才能の無さを受け入れさせれば良い」

　お父さんはずっと分かってたんだ。ビリーが俺を嫌っていた事を。
　それなのに俺はずっと憧れてくれてるって思ってた。慕われてるんだって思い込んで。
　自慢のお兄ちゃんだって思ってたのに。

「俺は別に才能なんて……勇者なんかじゃ」
「今年この村で転生者が誕生すると予言が出ている」

「だったら今年生まれて来る子なんじゃ」
「言ったろ？『今年シーム村のとある才能ある子供に力が宿る』とこの村で才能のある子はお前だけだ」

　才能才能そればかり言われ続けて来た。
　そしていつもビリーの事を下に扱う。
　それがいつも嫌だった。
　褒められると同時にいつも皆はビリーを馬鹿にする。

「俺はビリーと一緒にいない方が良いの？」
「アイツを思うなら離れた方がお互いの為だ」
　お互いってただ俺の事ダシに使い自分の地位を上げるためだけの道具のクセに。

「俺は……俺は」
　今すぐに答えが出ない。
　お母さんの方に向く。

「俺は家族がバラバラになるのは嫌だよ」
「ビリビ……」
　けどお母さんからの答えも出てこない。

「いい加減言う事を聞いらどうだ。お前のわがままを貫くかアイツの為に王都へ行くかだ」
「あんたには聞いてない！ビリーの名前も言わないくせに！俺を手段にしか考えていない人の言う事なんか！」

「直ぐに答えを出す必要は無いと思うの。ゆっくり考えてビリビ」
　落ち着かせる様にお母さんが俺を優しく抱きしめてくれる。
「うん……ごめん考えるね」

　今までお母さんに助けられた。
　ビリーと離れたくなかった俺の味方をいつもしてくれてた。

　だからビリーは耐えかねなくなったのかな。